ルシアン・グレンジUMG会長、生成AIについて語る 「アーティストの声を無断で使用するモデルにライセンス供与はしない」

ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)のルシアン・グレンジ会長兼CEOは10月13日、生成AIに関する取り組みの進捗を伝える文書を従業員に送付した。入手した文書を基に、Music Business Worldwide(MBW)などが伝えた。
同氏は「拡大するAI企業との契約ポートフォリオ」「自社アーティストがAIの機会に参加する方法」「責任あるAI開発に関する公共政策の提言」といった3つの核心領域に言及。根幹には「アーティスト、ソングライター、音楽会社、テクノロジー企業が共に繁栄できる健全な商業AIエコシステムを育むことができるという信念」がある。
自社が「AIの巨大な可能性を育む先駆的な役割を果たして」おり、「AI音楽の領域を劇的に拡大する可能性を秘めた重要な新製品・サービス計画について、十数社に及ぶさまざまな企業と非常に積極的に連携している」と説明。一方、アーティストの声を無断で使用するモデル、あるいは既存楽曲を無断で組み込んだ新曲を自動生成するモデルについては、一切ライセンスを供与しない」と表明した。
生成AI、中でもエージェント型AIは「ファンが音楽と関わり発見する方法に革命をもたらす可能性を秘めて」おり、「われわれは責任ある方法で訓練されたモデルに基づくAI製品のみを発展させることを検討する」と強調。著作権者の同意・補償なしのAI訓練の合法化など「一連の誤った提案」は、アーティストの権利と財産を「無断(かつ違法)に搾取する行為に他ならない」と述べた。
「人間の芸術性を尊重し高める商用AIモデルをコミュニティーとして積極的に受け入れる姿勢を示すことで、イノベーションを促進する市場ベースの解決策こそが答えであることを証明すると確信している」と主張している。
(文:坂本 泉)
榎本編集長
「ユニバーサルミュージックのグレンジCEOが従業員に送ったAIに関する指針が報道されている。詳細は記事本文に譲って、ピンポイントを選ぶと「AI企業との契約ポートフォリオ」と「アーティストがAIを活用して収益を得る方法」そして「エージェント型AIの可能性」になる。「AI企業との契約ポートフォリオ」はコンテンツ企業の戦略として現実的。コンテンツ企業がAIを開発したり投資するのは限界がある一方、コンテンツを武器にAI企業とのパートナーシップを増やしていくのを経営資産として捉える戦略だ。既にGoogle、Spotify、KDDI、StableDiffusionほか様々なテック企業とAIで提携しており、問題となっているSunoやUdioともライセンス交渉を進め、「アーティストがAIを活用して収益を得る方法」を確立しようとしている。そうした交渉のなかでグレンジCEOが最も可能性を感じているのが、音楽ファンが音楽生活を豊かにしていく「エージェント型AI」の開発だ。エージェント型AIは、おすすめ曲を自動で流す既存のレコメンデーションエンジンやChatGPTのような対話型AIの範疇を超えて、音楽リスナーの環境や感情を的確に把握するだけでなく、アーティストのSNSコメントや、リリース、ライブの情報をファンの心に響く形で届けたり、音楽イベントに合わせた旅行計画や休日のプランを提案・手配するなど、音楽サービスの外部のAIも活用した様々なアイデアが想定できる。グレンジCEOはヨーロッパのトップであった時代に「不可能」とされていたSpotifyのサービスインを強力にサポートして世界の音楽産業を変えた実績を持っている。私の新潮の連載でそんな彼のユニークな過去(高校中退で芸能スカウトから身を起こして音楽産業の頂点に立った)と、AIを「次の大物」として初期から積極的に扱ってきたことを扱っているのでお読みいただければ幸いだ(AIと音楽の王が手を携える日「AIが音楽を変える日」)」ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。
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