エルトン・ジョンら英クリエイター、首相に著作権保護を要求 米との技術協定締結に先立ち

トランプ米大統領の訪英を前に、英国の著名クリエイターおよびクリエイティブ団体70以上が9月15日に共同で公開書簡を発表。英政府に、国際人権基準を順守することでAI企業から英国著作権者の権利を保護するよう求めた。
ミック・ジャガー、ポール・マッカートニー、スティング、ケイト・ブッシュといった大物アーティストに加え、ニュースメディア協会(NMA)、UKミュージック、ゲッティ・イメージズといったクリエイティブ団体も署名している。
書簡では、6月に可決されたAI企業による著作物の無断使用を可能とする「データ(使用とアクセス)法案」を巡り、AI企業に使用した著作権のある素材の開示を義務付ける案を政府が拒否したことで「芸術家の基本的権利を擁護できなかった」と主張。英国の創造的経済の支配権と国民の権利を海外の利害関係者に委ねかねないと警鐘を鳴らした。
エルトン・ジョンは「著作権管理は透明性を保ち、アーティストの完全な許可を得ている必要がある。この2つの原則こそがわれわれの業界の基盤であり、世界をリードする英国のクリエイティブ人材が次世代に生き残るための要だ」と述べた。
英政府は9月16日、AIなどの分野を網羅した英米間の技術協定に合意したと発表。英紙ガーディアンは「著作権保護などの協力推進よりも、むしろ米国テクノロジー企業からの投資促進を目的とした取引のように見える」と評価した。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「アメリカ、イギリスでクリエイターの許可なく作品をAIに学習させても合法になるよう著作権法改正の動きがあるが、IT側からすると改正であってもクリエイター側からするとたまったものではなく、イギリスではトランプ大統領の訪英前にエルトン・ジョン、ミック・ジャガー、ポール・マッカートニーなど大御所たちが共同署名で英首相に公開書簡を送り、反対の旨を伝えた。何度か書いているがAIは将来の軍事力、経済力、国力を決める要となっており、ディープシーク・ショック以来、政府とIT企業の危機感がこの法改正へ動く動機となっており、そこに音楽産業も巻き込まれている状態だ。コンテンツ側の朗報としては学習材料を追跡する技術も登場しつつあること、AI企業とメジャーレーベルでライセンス交渉が進んでいること、裁判でAI側に天文学的賠償額の可能性が出てきて交渉が進みそうなことなどがある。生成AIはネットの登場、スマホの普及に匹敵する技術革新のため、私もこうなるという見立てはまだ断言できない。しかしファイル共有でも同様の大騒動があったものの結局、音楽産業側が聴き放題のサブスクを進める決意を固め、その後、登場したSpotifyを支援したことで政府の干渉を避け、解決に至った歴史がある。」
ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。
関連リンク
- 公開書簡
- DMN:UK Creators Demand Prime Minister Recognize Creators’ Human Rights and Protect Copyright
- The Guardian:Top UK artists urge Starmer to protect their work on eve of Trump visit
- The Guardian: What is new in UK-US tech deal and what will it mean for the British economy?
- CPU:Open letter from UK creators to Prime Minister Keir Starmer on AI
- The Guardian: The UK’s £31bn tech deal with the US might sound great – but the government has to answer these questions
- 英政府のAI著作権法案、両院が真っ向から対立 クリエイター支持の風潮高まる
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