「ヒット曲」の概念は時代遅れ? 音楽消費の断片化が影響

2025年上半期(1〜6月)にリリースされたヒット曲は、前年同期の49曲に対して23曲にとどまり、明確な「この夏の代表曲」もないーー。ヒット曲の支配力が低下し、「音楽消費の断片化」が進む中、音楽データ分析ツールを手がけるChartmetricが「ヒット」の定義を再考している。
同社は、サブカルチャーが多様化し、あらゆるレベルのアーティストがファンとつながる新しい方法を見つける中、普遍的なヒット曲という考え方は時代遅れに感じられ始めていると指摘。「未来のヒット作が真のインパクトを与えるには、ストリームを通じたリーチ以上のものが必要」だと分析している。
組織行動学の専門家で、元音楽業界研究者のノア・アスキン氏は「どうアイデンティティーを確立し、ファンと真の関係を築くのか。つながりたいという欲求を見い出すためには、物理的な空間が必要」との見方を示した。
英国の音楽専門コンサルティング・ファームのMIDiAは、ストリーミングプラットフォームが受動的なリスニングスペースとして機能し続ける一方で、ソーシャルアプリはますます能動的な音楽発見とファンダムのための遊び場になると予測。特定のアーティストやニッチなマイクロジャンルに熱狂が集中することで、小規模ながら活発なオンライン・ファン・コミュニティーが形成されているという。
ニュースレターやSubstackのようなプラットフォームを使用してファンダムを形成するアーティストもおり、ローラ・マーリングが創作プロセスなどを綴るニュースレターは約2万人の購読者がいる。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「日本のSpotifyチャートは昨年からMrs. GREENAPPLEやback numberの楽曲が多数、席巻しており今夏からHANAがそれに続くかという感じで、チャートの中身の入れ替わりが減ってきている印象があると思うが、これは世界的にも起きている。著名な音楽データ会社Chartmetrics社の調べによると、SpotifyのグローバルTOP50は今年上半期、同時期に発表された新曲はわずか23曲で、昨年の49曲から大幅に減っており、昨年のCharli xcx「Brat」、一昨年のサントラ「Barbie The Album」のような明確な「夏のヒットアルバム」が出ていないことも大きい。2004年に「ロングテール」という言葉が流行してから久しいが、音楽趣味の細分化はSpotifyなど聴き放題とTikTokなど短尺SNSが普及してからそれは加速化した。一方で多くの人に何十度も再生される神アルバムがチャートを長らく占めるようになるというのは、私もSpotifyの日本上陸当時から予測して語っていたが世界ではドレイク、エド・シーランなどで先行して起こり、日本でも昨年からそれは決定的になっており(それはそれで素晴らしいことだと個人的には思う)、ストリーミング時代のロングテールとショートヘッドの構図がここに極まった印象だ。音楽産業100年の歴史を本にした著者として言わせてもらうと、こうした状態が静止的に続くと次のイノヴェーションが胎動し始めるという経験則がある」
ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。
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