シンクパワー vs ソケッツ / レコチョク、あの裁判の行方は?〜シンクパワー代表 冨田雅和氏に聞く

インタビュー スペシャルインタビュー

シンクパワー 代表取締役社長 冨田雅和氏

シンクパワーが、同期歌詞データの不正取得と同期歌詞表示プログラムの侵害について、レコチョクとソケッツに対し損害賠償等を求め提訴した裁判について、2021年3月にインタビューを行ってから3年が経った。その後、時間が経過したこともあり、「本件はすでに解決済なのでは?」という声も耳にするようになったが、この裁判はまだ続いているのだろうか? 原告のシンクパワー 代表取締役社長 冨田雅和氏に再び話を聞いた。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也)

――ソケッツとレコチョクに対する裁判はまだ続いているのですか?

冨田:はい、続いています。

――どうしてこんなに時間がかかっているのでしょうか?

冨田:前回のインタビューでも触れましたが、この裁判には、2つの要素があります。1つは、当社の保有する同期歌詞データの不正取得についてであり、もう1つは、同期歌詞表示プログラム(以下 SDK「Software Development Kit」)という営業秘密の侵害について、つまり歌詞データのみならず、同期歌詞表示機能のプログラムまで不正に流用されているという訴えを行っており、訴状を提出したのは、2020年末でしたが、その後、2022年夏ごろまでの約2年間は、歌詞データ関連の審理、その後審理はSDK関連に移り、約1年半が経過したところです。

――争点は、2つあるということですね。まず歌詞データ関連では、どのような経緯となったのでしょうか?

冨田:裁判のきっかけとなった証拠としては、大きく分けて、1. 誤字や当社独自の判断で調整した表記、2. 歌詞表記の一部をアーティストとのコラボによりアーティストのメッセージとした表記、これらが当社作成データと、レコチョクサービス内で全く同じ表記になっていたもの、そして3. 一定期間は当社と全く同じ表記だったデータが、短期間の間に、不自然な表記に修正されたケース、と3つのパターンがありますが、どれも当社内での証拠としてのデータ整理には膨大な時間がかかりました。

――それぞれの証拠に対し、被告側から反論はあったのでしょうか?

冨田:ソケッツの主張は、同社は、世界中の歌詞サイトをクロールする仕組みを使った同期歌詞データの自動生成システムを完成させたので、そのシステムが、1. については、中国などのサイトに当社と同様の表記があったとの反論がありました。次に2. については、自作自演が可能な中華サイトに同様の表記があったという反論をしたものが一部ありましたが、最終的に全く反論できずじまいのものもあります。3. については、自動生成システムが常に最適化のための修正を行っているという苦し紛れの反論がありましたが、このシステムについてのソケッツの主張の矛盾点を数多く指摘してきました。

――ソケッツの自動生成システムというのは、Musicmanが2018年に行ったインタビューでも説明は受けたものの、完全には理解ができませんでした。実際に稼働しているのでしょうか?

冨田:ソケッツは、2018年に自社サイトにて、同システムの完成についてのリリースを行いました。このシステムの不自然さについては、一連の裁判の中でも多くの問題点を指摘しましたが、今日はその中でもわかりやすい次の2点について説明します。

まずは、リリース文に記載のフロー中の左側に世界中の歌詞サイトをクロールする説明があるのですが、その時点で機械学習の補正が行われるとの説明があります。仮に当社特有の表記や誤字がこの段階で混じったとしても、機械学習に使われる他社の正しい表記の方が圧倒的に多いのですから、普通に考えると、当社特有の表記がこの段階で残る可能性は限りなく低くなります。さらに、フローの右側の生成最終段階では、「正規購入した歌詞データを使って正規化」、つまり、クロールで不自然な表記が混じったとしても、最終的には、ここで正規化されるのであれば、当社特有の表記やアーティストの表記がそのまま残ることはありません。そもそも、正規歌詞データがあるのであれば、テキスト歌詞をクロールして収集すら必要性はないはずです。

次に、同資料に記載の「自社生成ツールによる画像」についてです。この画像は、「自社生成ツール」とありますが、市販のAudionamix社のTRAX3という製品の画像と、アップル社の画像とを合成したものであることは、既に裁判の中で明らかにしました。次の1番目の写真が市販のTRAX3の画像、そして2番目の①の部分を削除し、②の部分にアップル社のLogic Proの画像の一部を合成すると、リリース文にある3番目の画像を再現することができます。

Audionamix社のTRAX3の画像

製品のロゴの入った① 、②の部分を削除し、②の上にLogic Proの画像を合成すると…

ソケッツのリリース文にある、「自社生成ツール」が再現できる。

――この指摘に対する反論はあったのでしょうか?

冨田:ソケッツの反論は、「自社システムには画面表示がないため、あくまでこの画像はイメージを示したもの」とのことです。リリース文では明確に「自社生成ツール」との記載や、「本システムの国内外のプロバイダーへの提供を検討してまいります」との記載もありますから、大いに矛盾した説明であり、上場会社としての正式リリースであったにも関わらず、未だに他社の画像である旨の修正記事すら出していません。

――証拠のもう1つのパターンである、「不自然な修正作業の証拠」というのは、どういう内容なのでしょうか?

冨田:まず、次の資料をご覧ください。

文字が細かく見づらいかもしれませんが、まず左端は当社アプリ「プチリリ」での表示です。真ん中の画面は、1月23日時点でのレコチョクPlayPassの画面ですが、この時点では、赤枠部分は、全く同じ表示となっていますが、4日後には、「?」マークが半角から全角に修正され、改行位置の修正が入り、カッコ内の表記が削除されています。

次の資料は「!」マークが、やはり半角から全角表示に修正、そして一部の行では改行位置の変更がされています。

――良くもまあこのような証拠を見つけましたね。これらに似た例は他にもあるのですか? また、これらの指摘に対する反論はあったのでしょうか?

冨田:この証拠資料作りは大変な作業でした。2018年1月というのは、まだ当社はレコチョクとの契約が残っている中、段階的にサービスが切り替わっていた時期で、まだ当社としても、今回のような問題が起きている確信はなく、レコチョクに多少の疑義を伝えた段階でしたが、全ての曲の動画を記録することは不可能でしたので、当社は、一定ルールを作って特徴のある曲に絞り、楽曲再生における同期歌詞表示画面のキャプチャー作業を進めました。

その作業の中で、数日の間に書き換えが起こっていることに気づき、この種の内容だけで100件以上の証拠資料を裁判で提出しました。ソケッツからの反論は、「自動生成システムは、より良い表記のために、常に修正作業を行っている」という内容でしたが、「!」「?」は必ずしも全角に統一されたわけでもなく、また次の資料のように、修正により不自然な表記になったものもあり、改善ではなく、改悪の結果になっています。これらの変更は、「自動で改良として」行われたというのではなく、人為的な証拠隠滅作業の結果としか考えられません。これらの作業が、当社が最初にレコチョクに疑義を伝えた2018年1月後半に大量に行われていることがわかっています。

――3年前の朝日新聞の記事では、流用の根拠になった歌詞データは40数件という記載がありましたが、実際には、何曲くらいの検証作業を行ったのでしょうか?

冨田:各種特徴のあるものを中心として、5千件を超えました。ただ、裁判の対象となっている同期歌詞データの数は約30万件ですので、5千件という数はそれでも少ないと感じるかもしれませんが、約30万件全てのデータを確認することが不可能な中、当社独自のルールで作成したもの、後になって誤字や権利者の依頼等で修正が行われた記録のあるもの等、特徴のあるデータに絞り込んで調査した結果、それぞれの特徴が確認できました。そもそも、歌詞データ自体が権利物であって、表記上の特徴を出すのは難しいという性質のものでありますから、特徴あるものを選択しての調査は、統計的なサンプリング手法という観点からしても有効であり、説得力のあるものと考えています。

――そもそも、歌詞データの不正取得は、どのように行われたと考えているのですか?

冨田:当社の同期歌詞データは、厳格に管理はしていますが、B2Cサービスも行っており悪意をもって複数のユーザーになりすます方法によれば不正取得は可能なのです。ソケッツは、同期歌詞自動生成システムの中で、世界中の歌詞サイトのクロール手法を取り入れているとのことで、数テラにも上る、世界中の歌詞データを自社サーバーに保管していると裁判の中で説明をしています。当社も同期歌詞サービスとは別に、歌詞の検索サイトを運営していますが、一般的に、特定のIPアドレスからの複数回にわたるアクセスに対しては、競合他社によるスクレイピングの可能性があるため、一定量以上のクロールがかかった場合、アクセスを遮断します。したがって、ソケッツが世界中の歌詞データをクロールし、自社サーバーに保管しているというのは、ソケッツが日常的に利用しているというクロール手法そのものが、不正取得の方法であると考えています。

――もう一つの疑念、SDKの審議の現状は?

冨田:約1年半前から、審議の焦点は、ソケッツによる当社SDKプログラムの翻案の審理に移っており、ソケッツのプログラムが、当社プログラムの翻案なしにはあり得ない、という指摘を続けています。ソケッツは「偶然」とか「誰が作っても同様の内容になる」といった反論をしていますが、内容的には、かなり技術的な内容に踏み込んでの議論となっているため、裁判所としても専門家の力を借りることになり、5月には、専門家も交えた期日が設定されました。当社開発者の意見としては、開発者目線を持った技術の専門家であれば、当社主張が如何に正しいか理解いただけると確信をしています。

――結審までには、まだまだ時間がかかるのでしょうか?

冨田:軽々に断定はできませんが、技術の専門家を交えての協議をもって審議自体は最終段階であると思います。

――改めて、裁判というものは大変な時間と労力がかかるものなんだと思い知らされました。最後に、これまでの裁判を通しての今の気持ちをお聞かせください。

冨田:長く続いた裁判を通じて、多くの疑念がすべて確信に変わりました。以前のインタビューでもコメントしましたが、デジタルデータの不正利用という問題は、デジタルデータ自体が簡単に複製、また修正可能という性質を持っているため、今後も悪意による事件が起きる可能性は非常に高いと考えています。今回の裁判の結果次第では、そういった問題のいわゆる判例にもなる事件だと考えていますので、絶対に負けるわけにはいきません。

今回の裁判には、データの不正取得、改竄、そして証拠としての統計的サンプリング手法という要素が含まれており、今後のデジタルデータの不正取得抑止という意味合いでも、裁判所における公正な判断に期待したいと思っています。


※Musicmanはこの裁判を裁く立場にはなく、証人として関与しているわけでもありません。今回は原告であるシンクパワー冨田氏の主張を掲載しましたが、内容に対して異論、反論がございましたら進んで取材、掲載をいたしますのでご連絡ください。

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