初年度4億円の損失!それでも、執念とパッションでつなぐ“茨城のフェス文化”〜LuckyFes総合プロデューサー/グロービス 代表取締役 堀義人氏インタビュー

インタビュー フォーカス

LuckyFes総合プロデューサー/グロービス 代表取締役 堀義人氏

ROCK IN JAPAN FESTIVALの千葉移転をきっかけとして、「茨城のフェス文化の灯を消すな!」を合言葉に2022年7月23日・24日の2日間、茨城・国営ひたち海浜公園にて開催されたLuckyFes。音楽業界・フェス業界とは全く無縁の茨城放送 オーナー/グロービス経営大学院 学長堀義人氏が総合プロデューサーを務めたことでも話題になった。

そのLuckyFesが今年も「茨城のフェス文化の灯をつなげ!」を合言葉に7月15日・16日・17日、同地にて開催される。それを記念して、堀氏に準備期間約半年で開催へこぎ着けた初年度を振り返って頂きつつ、3日間にパワーアップされる今年(第2回目)のLuckyFesへの抱負を語ってもらった。

(インタビュアー:畑道纓、屋代卓也、山内千秋)

プロフィール

堀義人(ほり・よしと)


茨城県出身。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル設立。2006年グロービス経営大学院を開学。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年には復興支援プロジェクト「KIBOW」を立ち上げる。2016年に「水戸ど真ん中再生プロジェクト」の座長に就任し、同年茨城ロボッツ、2019年に茨城放送の取締役オーナー就任。いばらき大使、水戸大使。

LuckyFesの初年度を振り返って

ーーまず初年度のLuckyFesについて伺いたいのですが、最終的にはどのくらいの動員になったんですか?

堀:初日の7月23日に13,000人、2日目の24日に7,000人で合計20,000人の来場者でした。フレンズ(註:LuckyFes来場者の総称)のアンケートを見たらすごく満足度が高くて、何と7割以上が茨城の人だったんです。ロッキン時代は茨城の人が2割前後だったんですが、それが7割になったのを見て「茨城のフェス文化の灯を消すな!」という我々のメッセージが届いたんだと感じました。

また、フレンズの世代がかなりバラけていて、もちろん20代・30代が一番多いんですが40代・50代・60代もかなり来場されて、子連れのファミリーや親子3世代という人もすごく多かったです。約半数がファミリーと来たとアンケートで答えていました。あとフェスに初めて来た人や、若い頃はフェスに行っていたけど久しぶりに来たという人が多かったのも印象深いです。そういう意味では、来場者の半分ぐらいは今までのフェスと違う客層が来ていたという印象です。

LuckyFes2022

ーー昨年のLuckyFesは短期間で本当によく開催できたなって思います。

堀:僕も「よくできたな」って思っています。正直言ってとても安堵しています。僕は音楽業界の人間でもフェス業界の人間でもない全くの素人だし、しかもコロナの感染者数が再び増えていた時期で、これからどうなるかというタイミングでしたからね。本当によかったです。

ーーそもそも開催できるのかと思っていた人もたくさんいるでしょうしね。

堀:本当ですよ。ある音楽業界の重鎮から「あなたなに考えているの?」って言われたんですよ。「フェスってのはプロでも1年半かかるんですよ。あなたたち素人でしょう? 半年間でできるわけないじゃないか。やめておきなさい」って。それから「なにがやりたいの?」ときかれたので「茨城のフェス文化の灯を消したくないのです」と答えたら、「茨城?そんなの誰も気にしていないよ」。畳み掛けるように「どういう音楽フェスにするのか」と詰問されて「音楽のクロスオーバー」と言ったら「クロスオーバー! うまくいくわけないでしょ。過去にすべて失敗してきたんだからやめなさい」って言われてね。

全否定されたけど、素人だし反論もできないですし、下手に言って怒らせてもしょうがないから、下を向いて黙っているしかなくて。最後は「貴重なアドバイスありがとうございます」と言って頭を下げて終わりました。

そのときは証明するものがないので仕方なかったです。でも、これって30年前にグロービスを作ったときにも言われたことと一緒なんですよね。「あなた、大学院なんてできるわけないでしょう? なにを考えているの?」って。そのときも証明するものが無いから、反論できなくてね(笑)。

今、思うと双方のアドバイスとも冷静で正しいと思っています。やはり無謀だと思うし、狂っていたんだと思います。でも、使命感に突き動かされて、頑張って何とかやりきっているところです。

ーーまして去年はまだコロナが完全には明けてなかったという、その状況でよくそれだけ集まったなと思います。

堀:2万人ものフレンズが来てくれて、本当にありがたいです。経営学の世界では、外部からの参入者のほうがイノベーションを起こしやすいというのが通説になっています。僕は音楽業界の素人だったから、無謀とも思えることができたのだと思います。実際昨年は音楽業界でタブーと言われたことを5つほどやったんです。

1つが「スポンサー」です。ロックにおいてスポンサーを集めるのはあまり見かけないですが、僕がオーナーをしているBリーグ所属の茨城ロボッツなどのプロスポーツ界では、スペースがあれば全てスポンサー商材にしています。LuckyFesでもそのノウハウを活用して、一生懸命にスポンサーを集めました。

ーー70年代、80年代は「コカ・コーラ・プレゼンツ〜」とかよくあったんですが、段々なくなりましたよね。

堀:ロックフェスでは、そういうコマーシャルイズムを入れないようにしようという風潮なのか分からないんですが、僕たちは素人なので新たな発想で、「レバレジーズ・プレゼンツ」や「JX金属・プレゼンツ」など実施しました。

2つ目が「クロスオーバー」です。音楽のクロスオーバーって絶対に失敗すると言われていたんですが、やってみた結果「やはりクロスオーバーのほうが楽しいよね」と思いました。LuckyFM 茨城放送では、バラエティに富んだ様々なジャンルの音楽番組を流しています。音楽ジャンルを超えて楽しんでいるリスナーが多いので、「音楽のクロスオーバー」は成功すると思っていました。

3つ目が個人協賛者席の設置です。調べたら海外のロックフェスでは普通にやっているのですが、日本ではあまりないですよね。企業協賛ではなくて、個人に協賛をしてもらって快適な空間を用意して、良いフェスを作りたいと思っています。

4つ目が「テーマパーク」という言葉をコンセプトの中に入れたんです。テーマパークってアトラクションに行かなくても楽しめるじゃないですか? 例えば、食事をしたりとか飲んだりとか。音楽を聴きながらも会場で楽しめるような空間にしていこうと、アートやフード等を充実させたのが特徴だと思います。いろいろなフェスに行きましたが、ステージ以外にたくさんのお金をかけているところってあまり無いですよね。

あと5つ目が、「ファミリー」を全面に出して、家族の人たちが来やすいようにしました。

ーー堀さんって盛り上げ方がすごいなと思いますし、周りの人たちも「リーダー(堀さん)を支えていくんだ」みたいな雰囲気になると思うんですよね。そう思わせるのが堀さんの力と言いますか。

堀:特に去年は短期間だし全くのゼロからのスタートだったので、「信じ込ませる力」というのが必要だったんです。「半年間でできるよ」「成功するよ」って(笑)。だから、いつも以上に「成功させようぜ!」と言ってやったんですよね。よく使った言葉は、「悔いが残らないように考えうることは全てやろう」です。

ーーLuckyFes初年度開催できてよかったですね。

堀:言ってみればあの場所でフェスをやるのが3年ぶりで、2年間できなかったわけですから、フェスの音楽が聴こえてきて、涙が出るほどうれしいと感じた人は多かったと思います。本当にやってよかったなと思いますね。

ーーフェスには天候という不確定要素もありますしね。

堀:昨年は初日、雷で中断となって雨が降っちゃったんですが、雨が降る中でのBRAHMANやMAN WITH A MISSIONのライブは幻想的ですごくよかったです。子連れの親子が、帰り際に雨の中びしょ濡れになりながらも、楽しそうにしていたのがとても印象的でした。

ーー次回はどの程度の規模で考えていますか?

堀:今年は3日間で6万人を目指します。6万人動員できるかどうかわからないですが、個人的に思っているのはゼロから2万人達成したのと、2万人から6万人だと恐らく0から2万人を半年間で達成するほうが難しかったはずなんですよね。ですから、2万人から6万人はできるんじゃないかと思っていて、それができるかどうかはこれからの勝負だなと思っています。

今年も「3日間で6万人できる」「1日2万人でやろうぜ!」って言い続けています。(笑)。ゆくゆくは世界を目指した感じでやりたいなとは思っているので。世界からのアーティストや観客が来るようなフェスにしていきたいんです。

 約4億円の赤字となった初年度とロッキンとの関係

ーー大変失礼ですが、具体的に売り上げはどのくらいだったんですか?

堀:売上は3億4千万円ぐらいですね。まあこれは全部話したほうが面白いと思うんですけど(笑)、3億4千万円に対して経費が7億4千万かかったんですよ。ですから4億円の赤字です。やはり、初年度3ステージの2日間というのは結構無謀だと思っていたんですが(笑)、それでも2万人動員できたし、満足度が高かったから良かったですけどね。

ーーちなみに赤字額に関してはすでに公表しているんですか?

堀:正式な金額は言ってないですね。ここで初めて言いました(笑)。

ーー初年度、赤字になることはある程度予想していたんですか?

堀:そうですね。赤字になるだろうなとは思っていました。もともと6億円の予算だったんですよね。それが7億4千万円に費用が膨れ上がり、期待していたJ-LOD(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金)にも落ちちゃいましたので、政府の補助金は結果的にゼロでした。そうなるとフェスの売上だけでは費用を全く賄いきれなかったです。

フェスってある程度の規模にいかないと儲からないのです。ローコストにすると儲かるんだけど、そうするとショボくなっちゃうんですよね。同じ会場で開催されるのでロッキンさんと比較されるのはわかっていましたから、ロッキン・クオリティでアーティストを呼び、ステージ音響照明LEDをつけて、会場を設営したわけです。いっさい妥協しなかったです。ロッキン・クオリティを意識して妥協せずに費用をかけて、入場者が10倍以上違うのだから「そりゃ赤字になるよね」っていう話ですね。

赤字になっちゃうけど、2万人が5万人、10万人になれば利益が出るはずだからそこまで辛抱しようと考えています。

ーー茨城県からの資金的援助もなく?

堀:県から市からもなにもないですよ。それで4億円の赤字が確定して、がく然となるわけですよね。初年度は半年間の準備期間なので見積もりすら見る暇もなかったのです。お金よりも一番怖かったのが間に合わないこと。周りにも「間に合うように、とりあえず走ってくれ」と言っていたんです。

ーーとにかくフェスを開催することを最優先したと。

堀:そうです。それでフェスが終わった後に、4億円の赤字となったので、見積の詳細を理解したいので、すべての協力会社の方々と直接話をさせてもらいました。舞台監督、制作、ステージ会社、音響や照明やLED、それからテントを設営した会社、人材派遣会社とかほぼ全ての協力会社とお話をしました。そこで初めて、誰が何を作り、どういう役割を果たし、なぜこれだけお金がかかったかということを理解して、どうすれば次回以降に費用を削減できるかが大体わかってきました。

ーーちなみに4億円の赤字はどう処理されたんですか?

堀:最終的に僕個人で損失補填しました。

ーー堀さん個人で補ったんですか・・・(絶句)。

堀:茨城放送には迷惑をかけられないですしね。元々「やるっきゃねーべよ」で始めた時に「損失は僕個人が補填する」と茨城放送には伝えていました。

ーーでも堀さんは明るいですし、前向きですよね。全然へこたれていない。

堀:明るい(笑)。今回の赤字は「人1人が死ぬぐらいのレベルですよ」って言われましたけどね。

ーー書いちゃって大丈夫ですか? 多分、みなさん読むと思いますが(笑)。

堀:いいです、いいです。だって隠す必要ないですしね。僕はベンチャーキャピタルをやっているのでわかるんですが、初年度から黒字ってあまり狙わないんです。初年度はものすごく投資をしていいものを作って認知度を上げて満足度を高めていくということに投資するんです。実はいい事業って2年目にも黒字化しなかったりするんですよね。例えば、アマゾンなんて何年間赤字だったかわからないぐらいの感じですしね。

うちの投資先も2年目で黒字化することよりも、トップラインといって売り上げを伸ばすことを狙うんです。売り上げが伸びて粗利が確保できていれば、いつかは利益が出るんです。そこまでは思いっきり認知度を上げるための告知をしていく。ですからLuckyFesも広告プロモーションに関しては考えられることは全部やったんです。今年も広告プロモーションは考えられる限り全部やっていこうと思っています。そうすると知名度と顧客(フレンズ)満足が来年以降の財産になっていくわけじゃないですか?いつかは利益が出るから、そのあいだは頑張って歯を食いしばりながら(笑)、覚悟を決めてやるしかないんです。

ーーただ、堀さんはベンチャーキャピタルをたくさん見ているから、というのもありますよね。

堀:妻に言われて「そうだな」と思ったのが、「あなたはフェスとか音楽業界では素人かもしれないけど、スタートアップと経営のプロでしょう?」って言われて。確かにそうなんですよね。数多くの事業のスタートアップを自らが行い、200を超えるスタートアップ投資してきたし、経営も経営大学院で教えているレベルだから、音楽業界は素人だけどスタートアップと経営の方はプロなんですよね。そう考えたら「そうだ。フェス事業のスタートアップだと思えばいいんだ!」って思えました(笑)。

ーー今年、想定通り6万人きちんと入ったら黒字になる計算なんですか?

堀:それでもわからないですね(笑)。やはりフェスってお金かかりますね。ステージ造作から始まって、セキュリティもありますしね。コロナが収束すればキャパも大きくできる可能性が高いですが、雷とかのときの避難における人員が必要であったり、あと誘導の人や仕込み段階における安全性の担保とか、とにかくお金がかかります。ですから黒字化できたらいいなと思いますが、黒字化よりもフレンズが多く来られることと満足度が高いフェスにすることを優先したいと思います。

ーーロッキンとの関係はどうなんですか?

堀:実はフェスが終わってから渋谷陽一さんに2回ほど会って頂きました。1回目が昨年11月ぐらいに先方の事務所で、2回目が12月のCOUNTDOWN JAPANのときにお会いしました。そのときに「よく頑張ったね」と褒めてくださってね(笑)。本当に嬉しかったです。渋谷さんから「フェスを成功させるためには赤字はしょうがない。ロッキンだって最初は大変だったんだから」と励まされて、「フェスの成功に必要なのは執念と経営力だ」とおっしゃるわけですよ。

ーー改めて執念と経営の大事さについて言われたと。

堀:「最初から成功すると思わないほうがいいよ。最初はみんな赤字なんだから」とね。傍から見るとロッキンさんと確執があるんじゃないかと思われたりすることもあるんですが、実はそんなことは全くないんです。ずっとコミュニケーションはとってきましたし、尊敬する渋谷さんから「頑張りなさい」と励まされたら、これはもう「執念」で続けるしかないと思ったわけです(笑)。

そういったアドバイスも踏まえて、僕は「執念」を持って、今年は7月15日から17日の3連休で、思い切って6万人の動員を目指そうと決めました。これでいけるかどうかわからないですけど(笑)。歯を食いしばって、経営力で頑張るしかないかなと思っています。

ーーありがたいですね。

堀:当初より、グロービスのベンチャーキャピタル投資で稼いだお金は、全て茨城に還元すると宣言していましたので。例えLuckyFesで赤字を出しても、他で賄えば良いと考えています。ふるさと茨城のフェス文化のために貢献できるのは、むしろありがたいことだと思っています。

LuckyFesを始めたときに、3年以内に3大フェスを目標に掲げていたわけですが、今年6万人いけば、来年は10万人を超える可能性も出てきますから、その方向で今年は思いっきり3日間で勝負しようと進めています。

アンケートで不満があった部分を全て改善

ーー企画やブッキングなどの体制は昨年同様ですか?

堀:去年と同じフォーメーションです。企画プロデューサーがDJ DRAGONで、彼がブッキングを担い、全体の運営を矢澤英樹さんが行う体制は不変です。今年からディスクガレージさんが加わり、去年よりもパワーアップした形で運営しています。ディスクガレージさんもロッキン時代からひたち海浜公園でやっていらっしゃったので、土地勘も含めすごく詳しいんですよね。実は去年もお願いしたんですが、急な話だったこともあり「ちょっと難しい」と言われたんですが、「今年はできる」ということでお願いしています。

とにかく今は鋭意準備中です。昨年のフォーメーションを踏襲しつつ改善を加え、あとはローカルパートナーを増やしています。黒字にこだわるよりも、バライエティに富んだアーティストをブッキングすること、たくさんのフレンズが来てくれて、満足していただける事に集中しようと考えています。

ーー告知はどうされる予定ですか?

堀:去年はなにもないところから始めたので「とりあえず告知だ!」と毎週1本ずつプレスリリースを打っていました。実は去年、プレスリリースを31本打ったんですよね。今年はプレスリリースをそれほど打たずに、出演アーティストの発表のときだけに行うことにしました。そうするとうちのスタッフも落ち着いて仕事できますしね(笑)。

あと去年はクラウドファンディングをやったんですが、今年はそれをやらない代わりに2月1日より「いばチケ」限定で3日間通し券の早割販売しました。

ーー3日間通し券の売れ行きはいかがですか?

堀:最初4時間でもの凄い勢いで売れたんですよね。まだアーティストも発表していないですし、今年のLuckyFesがどんな感じになるのかもわからない中で買ってくれたのです。すでにLuckyFesファンがかなりいるんだなとありがたく思いました。

去年は1日目にレジェンドで固めて、2日目にヒップホップを固めましたが、今年はそういったことをやらずに、3日間あらゆるジャンルが楽しめるようにします。レジェンドもヒップホップも、それから当然ロックやJ-POP、それからアイドルも入れようと思っていますし、あとユーチューバーやアニソンとかすごくクロスオーバーを楽しめる形になる予定です。

ーー会場のレイアウトに関して、大幅に変えない予定ですか?

堀:そうですね。ただ、アンケートの結果で不満があった部分は改善しようと考えています。通信障害、フードエリア、オフィシャルグッズ、テントエリア、前方エリアの5つの改善要望ですね。

通信障害については移動基地局を増やします。フードエリアの混雑については、フードエリアを拡張して去年27店舗あったフードコートを、今年は40店舗ぐらいにしていこうと考えています。次に多かったのがオフィシャルアーティストグッズ販売の列が長すぎるとか、テントエリアが狭い、あとステージ入り口の動線やアーティストグッズの売り場の場所がわかりにくいといった不満です。それらは全て改善しようと思います。

テントエリアに関しては拡張するとともに予約制にする予定です。また、テントエリアを予約する人は荷物をたくさん持ってくる人が多いですから、そういう人たちは早めに入場できるようにゲートオペレーションしていこうかなと考えています。同時に駐車場も拡充して、家族連れがテントを持って来られるような体制を作っていこうと。また、昨年、コロナ対策で作った前方エリアが煩雑になってしまったんですが、今年はコロナも落ち着いていますし、その前方エリアは作らなくても大丈夫かなと思っています。あとLUCKY STAGEが暑かったので、場所を芝生に移動しようと考えています。

ーー致命的なクレームはなかった?

堀:ありがたいことに致命的なものは無かったです。去年の満足度の高さと来た人の声とかを考えると、恐らく1日2万人はいけるんじゃないかと想定しています。もちろんアーティストのブッキングにもよりますが、1日2万人ずつを超えていく形でいけると3日間で6万人いけるんじゃないかなという皮算用をしているんですけどね(笑)。

ーー加えてコロナの状況が去年と今年では違いますしね。

堀:去年は「行きたかったけどコロナで自粛した」みたいな声も多かったですしね。今年の準備をしていて思うのが、去年の経験があるから楽なんですよね。去年はなにもない状況でしたから。そんな状況の中でも出演してくれたアーティストの方々にはすごく感謝していますし、来場してくれたフレンズにも感謝しています。

ーーちなみにアンケートの返送率は良かったんですか?

堀: 3〜4000ぐらいありました。アンケートってなかなか集まらないんですが、恐らく期待感が大きい分、返送率もいいんでしょうね。特に7割の茨城の人たちが熱心に意見を書いてくれて。僕らは、手分けして全てのアンケートに目を通しました。本当にありがたいです。

近場で、ファミリーみんなで楽しめるフェスの確立

ーーちなみに、LuckyFesが目指しているのはどんなフェスですか?

堀:当初はファミリーが近場で楽しめるフェスにしていきながら、着実に音楽コア層に浸透し、最終的には世界を目指せたら良いと思っています。実は、僕が総合プロデューサーになる前後から日本のフェスを20近くお客として視察してきました。

わかったことは、LuckyFesのユニークさは、大都市圏近郊の大規模公園で開催される野外の夏フェスだということです。関東近郊でテントが張れるところってあんまりないですよね。

ーー確かに関東だとあまりないですよね。

堀:結果、LuckyFesはフジロックのような山でテント張るようなフェスと、ロッキン・サマソニの都市型との中間みたいな感じの、近場でファミリーみんなで楽しめるフェスになのかなと思っています。これはこの間、神栖市の会合で聞いた話なんですが、その方のお母様が茨城放送を聴いて「(LuckyFesに)行きたい」と言いだして、ご本人が自分の子どもと3世代で一緒に行ったそうなんですね。その方のお母様が62、3歳ぐらいなんですけど「杏里を観たときに涙していた」っていうんですよ。

ーーその方にとって杏里は青春のシンボリックな音楽なんでしょうね。

堀:もちろんご本人はまた違うものが好きなわけで、子供(孫)もまた別。世代によってアピールするものが違うじゃないですか? でもLuckyFesだったら一緒に来られるというのはすごくいいんじゃないかなと思っているんです。

ーー62歳でおばあさまってお若いと思いますが、そうなると3世代って全然あり得ますよね。

堀:会場には座るところが多いですし、木陰がありますしね。フェスってどこかグシャグシャなイメージがあるじゃないですか? しかも会場まで行くのが大変だったり、年配の方が行きたいと思ってもなかなか一緒に行けないんですよね。でも、LuckyFesは来やすいし、居心地もいいし、年配の方も安心して楽しめるので、そういったフレンズがどんどん増えていったらいいですよね。毎年、楽しみにしてくれて、友だちもどんどん連れてきてくれてね(笑)。

ーー地域のお祭りみたいな雰囲気はありましたよね。来場者の方々をフレンズと呼ぶことにしましたね。

堀:フレンズという呼称にしたのも、ロボッツ(註:水戸のバスケットボールプロチーム。堀氏がオーナーを務める)だったらブースター、茨城放送はリスナーと表現するけど、フェスの場合はそういった呼称がないんですよね。参加者か来場者くらいで。それだったら味けないから、なにか呼称を考えようと思って、それでフレンズという名前をつけたんです。「みなさんと一緒に作るんだよ」という意味を込めてね。

ーー自分たちの地元のフェスだという意識ですね。

堀:そうなんですよね。だから、花火が上がったら「キターーー! 茨城の魂を見せたぜ」とかフレンズが呟いていましたからね(笑)。

ーー花火の様子はいろいろなSNSにすごく上がっていましたね。

堀:花火はすごかったですね。花火も普通の花火とケタが違って、10分間に1000発、音楽とともに上がりましたから。実はスピーカーもあるから野村さんに「音楽と連動させて」って結構直前にお願いしたんですよ(笑)。そうしたら「え、今頃言うんですか?」って(笑)。

ーー(笑)。普通は何ヶ月も前から音楽が決まっていて花火を仕込むはずですからね。

堀:でもあれだけのスピーカーがあるからってお願いして(笑)。それで急遽DJ DRAGONに音楽を作ってもらって。すごく格好良かったですよね。

ーー野村花火工業さん(註:茨城県水戸市を本拠地とし土浦花火競技大会では2022年度も優勝、通算20回の優勝経験を持つ日本一の花火師。LuckyFes開催日の夜に会場で打ち上げられる花火を担当)の花火ですね。

堀:野村さんの花火は本当に美しいです。大音響の音楽と共に、水上から10分間で1000発上がる野村花火ですよ。どのフェスよりもこの花火は段違いで凄いと思います。最後を告げる花火ではなくて、「Lucky Music Star Light Show」と呼んでプログラムに入っています。ハッキリ言って、あの花火を見るだけでも価値があると思います。

ーーもちろん今年も花火は打ち上げるんですか?

堀:今年は3日間やりたいなと思っています。どこでもみんなが同じ共通の体験ができるようにね。

ーー不公平がないように。

堀:まだ完全にすべては決まってはいないんですが、そういう「良いもの」はできるだけ続けたいと思っています。もちろんそれを3日間やるとなったらけっこう体力と資金が必要ですが(笑)、でも楽しいですからね。県もひたちなか市も観光協会も、地元の関係者はみんな喜んでくれましたしね。

LuckyFesを世界へアーティストを発信するプラットフォームにしたい

ーーちなみに先ほど悲観的な予想をしていた音楽業界の重鎮の方は去年のLuckyFesを観てなにかおっしゃっていましたか?

堀:終わったあとに「先日はアドバイスありがとうございます」とお礼の連絡をしたんです。そうしたら「パッションだね」とお褒めの言葉をいただいて、すごくうれしかったです。

ーー(笑)。パッション、すごく大事ですよね。

堀:僕は茨城のフェスの灯を消したくないという想いが一番なんです。そのパッションによって、起業家って可能性を信じることができるんですよね。だからパッションがないと僕はやれないんです。あと、「1年遅らせたらいいんじゃないか」とよく言われたんですが「1年遅らせると意味がないんです」と言って、パッションで半ば強引にやり切った面はあります。

でも、今までいろいろな事業をやりましたがフェスが一番大変でした。なにが一番大変かというと、期限を遅らせられないんですね。普通の事業って「間に合わないからローンチを半年遅らせよう」とかできるわけでね。でもイベントって遅らせられないでしょう?

ーー遅らせられないうえに、遅れるとものすごく目立ってしまう。

堀:そう、失敗した場合は目立つんですよね。あとアーティストにも迷惑をかけてしまいますし、かといって強引にやって集客が少ないと、それはそれで寂しい思いをさせてしまうし本当に難しいなと感じました。

ーーだから怖くて皆さんなかなか踏み切れないんだと思います。

堀:僕は無謀だから(笑)。

ーーでも、堀さんのパッションが茨城の人たちに届いたんだと思います。やはり7割が地元の人ってすごいですよ。音楽って普通いろいろなところへ行ってやるイメージじゃないですか?フェスも東京と大阪でやっていたりとか、そういう展開になると思うんです。でも、LuckyFesは茨城の外に出るつもりはないと言って、地域に根ざしてしっかり結果が出たわけで、ほかの地域で頑張りたいと思っている人が「こういうことができるんだ」と勇気づけられたと思うんですよ。

堀:そうですね。各地方でもっと面白いことができるかもしれないですよね。

ーー実は、昨年の堀さんのインタビューは、ものすごく多くの人たちのアクセスを集めて読んでいただけたんですよ。

堀:「なに狂った人がいるんだろう?」という感じだったのかな(笑)。

ーー(笑)。正直「なんなんだ、この人は」みたいな感じでみんな読んだんだと思います。それであの短い準備期間でフェスをやりきって、4億の赤字を食らっていたのかというのがまたすごいなと(笑)。おまけにまだ明るくピンピンしている!

堀:今回のインタビューは「4億の赤字を乗り越えて、つなげ!」ってことかな(笑)。渋谷陽一さんから「執念だ」と言われて励まされて、またやっているよと(笑)。でも、渋谷さんだけじゃなくてクリエイティブマンの清水(直樹)さんとかも結構仲良くしてくださってね。「なんか知らないけど変な人が来た」「なんかわけわからない人」って思っているんじゃないかな(笑)。

ーー最後になりますが、フェスのプロデューサーである前に、グローバルビジネスに精通している堀さんは日本の音楽業界をどのように見ていますか?

堀:もっと世界へ行く人が出てきて欲しいなと思っています。もちろん国内で満足しているわけではないんでしょうけど、国内だけを意識しているアーティストがまだまだ多いという気はしています。LuckyFesはひとつのプラットフォームですから、今後そこから世界へ発信するような規模になれたらいいなと思っています。韓国のBTSが世界で大成功していますが、日本人アーティストも世界をマーケットにできるよう僕らが少しでもサポートできたらいいなと思っています。順調に行けば、来年には世界からアーティストを呼びたいと思っています。音楽業界ももちろんそうですが、エンタメ業界全体が世界を目指していくような、そういった機運が作れたらいいですよね。

ーーもっと世界を目指そうと。

堀:世界を目指すことをみんなが思い始めるといいなと思います。僕らスタートアップ業界でもみんな世界を目指していますからね。グロービスも世界一を目指して、欧米亜中に拠点を作って世界に拡大しています。世界を目指そうという機運がすべての分野において生まれる必要があるんじゃないでしょうか。

僕らは昨年「3年以内に3大フェス」と言いましたが、やるからには世界一にしたいんですよね。どんなに「無理だ」と言われても、やるからには最低でも日本一、そして目指すは世界一と思ってやっています。僕がやっているものは全部日本一になっているんです。大学院もベンチャーキャピタルも含めて。全員が世界を目指して、日本のアーティストが世界の中で売れ、世界中の人たちに聴かれていくところを僕は見たいです。サッカーなんかは今すごいじゃないですか? 三笘薫選手とか世界中の人を魅了していて。野球でも大谷選手、バスケで八村選手など。

ーーサッカーは世界で活躍するのが当たり前になってきていますよね。

堀:それはJリーグというプラットフォームがあったからできたんだと思います。フェスってそういうプラットフォームだと思うんです。それが発信の段階で世界に向けていけるようなものにしていきたいなと思っています。

ーー音楽も以前に比べて、海外で活躍する日本人アーティストが少しずつ増えてきていますよね。

堀:MAN WITH A MISSIONやワンオク(ONE OK ROCK)とかね。先日、THE LAST ROCKSTARSのライブへ行ったんですが、YOSHIKIさんは「何度も何度も世界へ行って、壁にぶつかり失敗を繰り返して、でもまた行くんだ」って言うんですよね。必要なのはその執念ですよね。彼らは日本で4公演やりますが、最初からニューヨークとLAの3公演が入っていて、全てソールドアウトですからね。そういう世界を意識した動きが刺激となり、日本全体が世界に目を向けるようになると良いなと思っています。

LuckyFesがその一助となるべく、地道に一歩一歩アーティストとフレンズの皆様とともに歩んでいきたいと思います。皆さんと7月15〜17日にLuckyFesでお会いできたら幸いです。

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