レコチョクによる仮処分申立て却下について、シンクパワー 代表取締役社長 冨田雅和氏が経緯を説明

インタビュー スペシャルインタビュー

冨田雅和氏

――まず、10月25日に会社のウェブサイトで「裁判所からの決定が下された」との発表をされましたが、裁判関連で最後に公にされたのが前回インタビュー(7月10日付けMusicmanでの記事)でしたので、その後約4ヶ月経過しています。その間どのような経緯があったのでしょうか?

シンクパワー 代表取締役社長 冨田雅和氏(以下 冨田):このような体験は、私も初めてだったのですが、審尋期日が設定され、裁判所に対して自らの主張と証拠とを提出し、口頭で説明する機会がありました。当社は、先方から5月25日付けで仮処分の申立てを受けましたので、それに対し当社が反論するための第1回目の審尋期日として6月29日が設定され、その後9月19日の最終審尋期日まで4回にわたり審尋の期日が設定され、双方から文書でお互いの主張と反論とを繰り返し、併せて証拠資料を提出しました。7月10日付けのインタビュー記事は、ほぼその第1回目の当社の主張内容です。

――裁判所での口頭でのやりとりは無かったのでしょうか?

冨田:私も裁判というとそういうイメージを持っていたのですが、期日に地裁に出頭した際には、裁判官によって双方から提出された文書の確認があり、その上で、更に追加での反論、主張がありますか? という確認が求められ、第4回目の最終となった回では、双方、これ以上ありません、ということで決定を待つことになりました。裁判所からの質問に対して双方当事者の代理人弁護士が回答することはありましたが、当事者間での口頭でのやりとりは無かったですね。

――つまり双方、主張すべきことはすべて主張した、ということですね?

冨田:はい、裁判官がそれを確認した上で、9月19日に第4回目の審尋は終了しました。

――その間のやりとりの中で、7月10日のインタビュー記事に記載のある、「シンクパワー独自の歌詞表記や誤字が、そのままレコチョクサービスでも表示されている」という指摘については、どのような反論があったのでしょうか? またその内容については、裁判所としてはどのような判断をされたのでしょうか?

冨田:まず、当社独自の歌詞表記や誤字の件ですが、ソケッツの同期歌詞自動生成システムでは、その第2段階でネット上のあらゆるデータを参照するとの説明になっています。ソケッツからは、その際、ネット上に同様の表記が存在した、という証拠資料が提出されました。ただそのほとんどが、中国や台湾のサイトのものであり、利用者自らも修正が可能である歌詞サイトであったり、あるものは歌詞サービスではなく、ファイルの一時お預かりサービスの画像であったため、当社なりにそれぞれのサービスを調べ、自作自演も可能であることを指摘しました。東京地裁の決定は、その点につき、「インターネット上に債務者(シンクパワー)の歌詞データと同様の誤記を含む歌詞テキストが存在したという事実が疎明されているということはできない。また、ソケッツ社は、本件データの作成時には、通常20から30程度のインターネット上の歌詞テキストを参照すると説明しているところ(疎甲19)、インターネット上に存する歌詞テキストの過半数に債務者データと同じ誤記が存在していることは通常想定し難い上、そのような疎明もない。」と判断しました。つまりソケッツの証拠は一切認められなかったのです。

――7月10日のインタビュー記事にある、「ソケッツのリリース文で掲載されている自社生成ツールによる画像が自社画像ではないのではないか?」という指摘については、どのような説明がソケッツからあったのでしょうか?

冨田:ソケッツは、6月5日付けのリリース文の中で明確に「自社生成ツール」と表現していたのですが、裁判上の当社からの指摘に対し、Audionamix社のTRAXというソフトウェアとApple社のロジックプロというソフトウェアのユーザーインタフェイスを一つの画面上に並べて表示したこと、その使用につき、両社の許諾を得てはいないことをはっきりと認めました。その上で、あの画像は、視覚的に分かりやすく説明することを目的としてデモ用に作成したとの説明でした。ということは、リリース文の「自社生成ツール」という表現は正確ではないのですが、未だに一般投資家等に対して「自社生成ツール」という表現を訂正してはおらず、上場会社のリリース内容としては大いに問題があるように思います。

――ソケッツが自動生成システムを有しているとして、そのことと本件の「流用」との間に直接の関係があるのでしょうか?

冨田:レコチョクは、当社歌詞データを流用していないと主張する根拠として、ソケッツによる自動生成システムの完成を挙げたわけですが、そもそも、自動生成システムなるものが完成し、存在しているとしても、それだけで流用の可能性がないとはいえないわけです。そこで、今回の決定文の中では、システムの存在については、記事のリリース、総会後の会社説明会でのデモ、特許出願を行ったことが「一応認められ」とされたにとどまっており、それ以上に、自動生成システムなるものが完成し、存在しているのかどうかについては判断されていません。

――9月19日が最終であれば、決定が出された10月24日まで一ヶ月以上経過した訳ですが、結構時間が掛かりましたね。決定とはどのような内容なのでしょうか?

冨田:今回の仮処分決定は、少々わかりづらいかもしれません。当社がレコチョクに対して仮処分の申立てをしたわけではなく、昨年末にレコチョクによる当社歌詞データの流用の疑惑問題が発覚して以来、本年5月までの約半年間、当社からレコチョクに対し何度も疑惑の解明に向けた申入れをしてきたにもかかわらず、誠意ある対応が無かったために、当社ウェブサイト上でこの間の経緯を公表したところ、それに対し、ウェブサイト上の文章の削除、同様の文書を他に掲載すること、同文章を記載した文書を頒布することを禁止するという仮処分をレコチョクが申し立てた、というものです。今回の決定は、そのようなレコチョクの申立てを全面的に却下する(主文:本件申立てをいずれも却下する)、というものです。したがって、当社のウェブサイト上の上記の文章が虚偽であるとのレコチョクの主張が全面的に排斥された決定内容です。

今回の決定は、「当社のウェブサイト上の文章が虚偽の事実を告知又は流布する」ものであるかどうかという不正競争防止法2条1項15号の規定の適用が争点ですから、東京地裁としては、レコチョクが当社のデータを流用しているという当社の指摘が虚偽であるかどうかについてのみを判断の対象とし、「虚偽であることの疎明はない。」、つまり、レコチョクは虚偽であることの立証に成功しなかった、と結論したのです。

――レコチョク、ソケッツも10月25日付けで今回の決定についてリリースをそれぞれ出していますが、内容的にわかりにくいのは、その点だったのですね。

冨田:はい。ただ、わかりにくいだけならまだしも、それぞれのリリースには、不正確な表記が多々あります。今後の展開を考えると、レコチョクもソケッツも簡単に自ら非を認めるような印象を与えたくない一心であるのは理解できますが、事実と異なる説明をするのはいかがなものかと思います。

――事実と異なる内容というのは、どの部分でしょうか?

冨田:まず、レコチョクのリリース文の3段目に「『シンクパワーの同期歌詞データをレコチョクが流用した』という事実は認められておらず、弊社としては一定の成果があった」と記載しています。これは明らかに間違った認識であり、記載です。

本決定は、「本件データと債務者データとの間には、歌詞テキストの誤記及び表記が共通するにとどまらず、メッセージが表記されるタイミングが共通する楽曲も存することが一応認められるところ、債務者データを用いる以外の方法によって誤記等が偶然一致するとは考え難いから、これらの事実は、債務者データの流用を推認させる事実である」とした上、当事者双方の提出した証拠を検討し、結論として、「債権者から上記推認を覆すに足りるような合理的な説明があるということはできない。」と判断したのです。すなわち、本決定は、レコチョクによる当社データの流用を認定しているのです。本決定の使用する「推認」という用語は、間接事実によって主要事実(本件における「流用」)を認定するという事実認定の手法を意味するものです。したがって、「シンクパワーの同期歌詞データをレコチョクが流用した」という事実は、本決定によって認定されているのです。

また、レコチョクのリリース文の第4段落には、「仮処分の早期審理の性質上、裁判官の面前で自動生成システムの実演をするといった弊社の提案なども認められず、…・・システム自体の検証はできないまま、結審を迎えることになりました。」とありますが、これも不正確な記載です。レコチョクは、自ら意図して疎明という証拠調べの方法のみが許容される仮処分手続を選択し、繰り返し早期に決定を出すよう裁判所に求めていたのであり、審尋期日が4回もあったのに自動生成システムの検証に代わる証拠調べの方法を工夫して提案するようなことは一切しませんでした。

次に、レコチョクは、仮処分の申立て以前に、「シンクパワー側の弁護士または弁理士に対しては説明を行う旨の連絡も致しておりました」と記載していますが、これも事実と異なります。レコチョクの2018年2月2日付け通知文に「貴社がご選任の弁護士のみに対して、…・・開示をさせていただき」とはっきり記載されており、その後もこの態度は変わらず、技術に明るい弁理士に対する説明をするなどという連絡をしてきたことは一切ありません。

――ソケッツが主張するデモの方法では意味がないのでしょうか?

冨田:同期歌詞の自動化については、当社も創業以来、独自の「歌詞制作システム」の研究開発に取り組んできました。「ビジネスでの使用に耐える自動歌詞生成システムが完成した」というために重要なのは、その精度です。すなわち、「短時間で大量かつ正確な同期歌詞データを生成できるシステム」であることが必要になるわけです。歌詞固有の特徴のチェックなどの手順を考慮に入れても現在行っている作業よりも効率的でなければならないのです。つまり、1曲、2曲のデモを行ってみても、意味がないということです。

――そのほかにレコチョクのリリース文の中で不正確と感じる表現はありますか?

冨田:はい。リリース文の第6段落目には、「シンクパワーは、歌詞データの改行位置の一致や、誤字部分の一致、またこれらの一致したデータの修正が行われたこと自体が『確たる証拠』である、と主張しておりました」と記載しています。当社が証拠として提出した資料には、①当社が誤って作成してしまった誤字、②当社独自のルールで作成した表記(文字、改行位置を含む)といった内容に加え、③権利者の許諾を特別に得てイントロ部分にアーティストのメッセージを表示したもの、④歌詞の1番をそっくりアーティストのメッセージに置き換え、2番から正規の歌詞を表示したもの、といった様々な類型の一致を主張し、それを示す膨大な量の証拠を提出しました。東京地裁の決定は、これら誤記、表記、メッセージ及びタイミングをまとめて「誤記等」といい、「債務者データを用いる以外の方法によって誤記等が偶然一致するとは考え難い」として、「これらの事実は、債務者データの流用を推認させる事実である」と判断したのです。つまり当社のデータをレコチョクが流用したことを正式に認める判断をしたのです。しかし、レコチョクのリリース文では、このような東京地裁の決定の重要な判断をあいまいにしています。

――ソケッツのリリース記事についてはいかがでしょうか?

冨田:ソケッツのリリース記事は、全体に東京地裁の決定を正確に紹介したものではありません。明らかな誤りは、「①シンクパワーは、レコチョクがシンクパワーの歌詞データを流用したという具体的な事実の主張及び証明をしておりません。」、「東京地方裁判所は、上記①および④については、これを認めました。」とし、結論として「本件決定は、『レコチョクがシンクパワーの歌詞データを流用した』との事実を認定したものではありません。」と要約している部分です。レコチョクのリリース文について説明したとおり、当社の主張と立証に基づき、東京地裁は、レコチョクの流用を明確に認定しており、それを理由にして、当社のホームページ上のリリース文が「虚偽であることの疎明はない」と結論したのです。

ソケッツのリリース文は、東京地裁の決定内容を正確に理解した上で紹介するものでないため、一般の読者が東京地裁がどのような判断をしたのかを理解するのは困難なものになっています。

――今回の裁判所の判断に対し、レコチョクやソケッツは、抗告といった形での反論はしなかったのでしょうか?

冨田:10月24日に東京地裁よりまず、「今回のレコチョクの申立て却下の決定」が出され、その後11月7日までの2週間、レコチョクは抗告を行わなかったので、「却下決定が確定」となりました。つまり今回の裁判は正式に終了となりました。

――先週9日に、ソケッツから、「同期歌詞システムの件にて訴訟を提起」というリリースがでましたね。この新たな訴訟も含め、今後の展開はどうなるのでしょうか?

冨田:まず、ソケッツからの新たな訴訟については、本日(12日)時点で訴状が届いておりません。また、今回の東京地裁の決定により、レコチョクの不正競争防止法に基づく申立てに理由がないこと、そしてレコチョクによる当社歌詞データの流用ははっきりしましたが、レコチョクは未だにソケッツが提供するという同期歌詞のサービスを継続しています。

当社としては、今回の決定、またこのような状況を総合的に判断して、レコチョクとソケッツとの間の今回の紛争につき、どのように最終的な結着をつけるかの検討をしているところです。


10月24日の東京地方裁判所の決定について、シンクパワー、ソケッツ、レコチョク、当事者3社が出したリリースで、決定主文がレコチョクの申立てを却下するというものであることは理解できた。ただ、その結論に至る道筋について理解するのは難しいものだった。

そこで当該3社それぞれに取材を申し込んだ。

結果としてレコチョクからは、「リリースの内容が全てで、これ以上の取材に応じる予定はない」、ソケッツからは、「様々な視点での検討の結果、このタイミングでの取材には応じかねる」との回答を得た。

その中で唯一シンクパワーからは取材に応じるとの回答を得て、このインタビューとなった。

なお、太字はシンクパワー冨田代表の意向に基づいて入れたものである。

(取材・担当:屋代卓也)

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