レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘

インタビュー フォーカス

冨田雅和氏
2018年7月10日掲載

(取材・担当:屋代卓也)

――前回のインタビューはレコチョクから仮処分の申立てを受けた直後でした。7月4日の貴社公式サイトによれば、今回はその申立てに対して答弁書と証拠を提出し、さらに新たな疑義を指摘したとのことですが。

冨田雅和:はい、今回のレコチョクからの申立ては、当社が当社HP上で指摘した当社の歌詞データの流用疑惑について、事実無根なのでリリース文を削除し、今後も同じリリースを出すな、という内容のものですが、当社としては、その申立てに対し、当社の主張を整理した答弁書とその根拠となる各種証拠書類を提出しました。

当社は、主に次の2つの点を中心に主張を整理し、証拠書類を提出しました。

第1点は、前回のリリース記事では3事例を掲載いただきましたが、今回、当社の歌詞データ流用を示す証拠として、約20事例を証拠として提出しました。特徴的なものを3種類ご紹介します。

図1:当社独自入力の同期歌詞がそのままレコチョク側に残っている事例

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図2:当社ミスタイプの同期歌詞がそのままレコチョク側に残っている事例

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レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘

図3:当社ミスタイプの同期歌詞がそのままレコチョク側に残っている事例

レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘当社ミスタイプの同期歌詞がそのままレコチョク側に残っている事例当社ミスタイプの同期歌詞がそのままレコチョク側に残っている事例

図1は、当社が音源を聞きながら独自の判断で歌詞カードにない「さ」という文字を追加したケース、図2は、当社ミスタイプにより、正しくは、「描くよ」が「猫くよ」となっていたケース、そして図3は、やはり当社のミスタイプにより本来「聞いて」が「間いて」になっていたケース。 どれも、レコチョクが運営するプレイパスプレイヤーの再生画面では、当社が運営する自社アプリでの歌詞表示と全く同じ表記になっています。

第2点は、レコチョクが自らの主張を支える証拠として裁判所にも提出した、6月5日付けのソケッツのリリース記事「同期歌詞情報自動生成システムの開発について」の内容、特に同記事に掲載されている画像と動画資料についての疑義を指摘しました。

――Musicmanでは先日ソケッツの新技術のデモンストレーションを取材、インタビューさせていただきましたが、あの内容に疑義があるということでしょうか?

冨田:はい。ソケッツのインタビュー記事にも掲載されていますが、まず図4についてです。

図4:6月5日付けソケッツからのリリース記事「同期歌詞情報自動生成システムの開発について」より抜粋

レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘

ソケッツは、この画像を「自社生成ツールによる画像」と表示しています。しかし、これは、米国のAudionamix社が開発し、国内では、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下「クリプトン社」)が代理店として販売しているTRAX(以下「トラックス」)という製品のGUIであることが確認されました。

また、画像の下半分は、トラックスとは別の製品のGUIを加工したものであることが確認されました。ソケッツは、このツールを使用し、「音響物理解析→文字化→タイムスタンプ付与」を完全自動で行うことができ、同期歌詞が約1分で生成される、と謳っています。ところが、トラックスは、記事に挙げられている機能の中の「音響物理解析」、つまり楽曲データからボーカル部分と伴奏部分を区分して、ボーカル部分を抽出するという機能は有していますが、「文字化→タイムスタンプ付与」の機能は有していません。その機能も、4分程度の楽曲につき、自動作業に2-3分の時間を要し、その後に細かな手作業が必要で、一曲の分離作業に要する時間は、楽曲の再生時間以上に必要であるということも判明しています。

図5:当社でのトラックスを利用した再現画像 

レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘

図5は、当社でトラックスを購入し、実際に、ソケッツが同社のプレスリリース内で同期歌詞解析と文字化のサンプルとして使用している西野カナの「トリセツ」の音源を読み込み、ボーカル分離機能とドラム音声分離機能を実行した際の画面です。 上半分は見事に再現できました。

更に図6、7をご覧ください。

図6 

レコチョクからの仮処分命令申立てに対しシンクパワーが答弁書と各種証拠書類を提出、新たなる疑義も指摘

図7

当社でのトラックスを利用した再現画像

これもソケッツの6月5日のリリース記事内のリンクから見ることができる「同期歌詞自動生成のデモ」とされる動画の一画面ですが、図5,6のとおり、それぞれ、「えんそう」「しょうやけ」といった、音声データからの抽出とは考えられない文字が自動で抽出されたことになっています。すなわち、「えんそう」というのは、歌唱のない部分であることを意味する表記であり、自動音響物理解析の結果として「えんそう」というテキストが出力されることはありません。また、「しょうやけ」という奇妙な表記は、歌詞テキストの「小焼け」を「しょうやけ」と誤変換したことが明らかであり、これまた自動音響物理解析の結果として出力されることはありません。

レコチョクは、このソケッツのリリース記事と動画を今回の申立書の証拠書類として提出しましたので、当社は、答弁書において、このリリース内容自体に重大な疑義があり、ソケッツが主張する「同期歌詞自動生成システム」というものは存在しないのではないかという指摘をしました。

――先日のソケッツへの取材の際、図6、7は拝見しました。ただ、動きが速くてそのあたりについては何も気づきませんでしたが…。ご指摘の点は、確かに疑問を感じる内容かもしれませんが…。

レコチョクが今回のソケッツのリリース内容を証拠として提出してきた目的は、ソケッツが同期歌詞自動生成ツールを完成させたことにより歌詞データを短時間で量産することが可能になったため、当社データを流用する必要がないと主張するところにあったのですが、むしろこのリリースによって、そのシナリオに無理があったことを証明する結果になったと感じています。

――ただ、ソケッツも株式公開企業です。そこが公式発表したことです。ちょっとにわかには信じかねるのですが…。

レコチョクがソケッツを信頼していたために、ソケッツのいう同期歌詞自動生成ツールを十分に検証せず、同期歌詞の提供を受けることにしたのか、あるいは、ソケッツと完全に一体化して上記のような問題の大きいリリースをすることにしたのか、を明確にしていただきたいと考えています。この点についてのレコチョクの説明は、交渉当初から歯切れの悪いものでした。

レコチョクに対しては、前述の証拠として提出した事例についての釈明も含め、根拠を示してきちんとした説明をするよう求めて行きたいと思います。

――Musicmanとしては裁判の経緯を静かに見守って行きたいと思います。 

この記事の掲載にあたっては、微妙な問題を含んでいるため事前にもう一方の当事者に記事掲載の旨を通告し、どちらか一方の言い分の肩を持つことなく両者から中立的な立場になるべく配慮した。Musicmanは今後ともこの基本方針に基づいて報道する所存である。

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