シンクパワーがレコチョクとソケッツを提訴〜シンクパワー代表 冨田雅和氏に聞く

インタビュー スペシャルインタビュー

シンクパワー 代表取締役社長 冨田雅和氏

3月10日付のシンクパワー、ソケッツ両社のリリース及び朝日新聞朝刊の記事によって、2020年12月25日付でシンクパワーがレコチョクとソケッツに対して総額2億円の損害賠償等を求める裁判を提訴したことが明らかになった。

この件についてはMusicmanでも注目し、節目ごとに報道してきたが、最近では元ソフトバンク社員が転職先の楽天に5Gに関するデータを無断で持ち出し提供したとして逮捕される刑事事件の事案も発生するなど、デジタルデータの権利に関する注目度、重要性がさらに一段と増している状況の中での今回の朝日新聞の報道。

それらを受け、改めてシンクパワー代表の冨田雅和氏に話を聞いた。

ーー昨年12月25日付で、レコチョク、ソケッツを被告とする訴状を提出されたとのことですが、本件は、過去にも何度かインタビューさせて頂いたように、かなり時間も経過していると思います。全体的な概要を改めて説明してもらえますか?

冨田:はい。元々、当社は、レコチョクとの間で2013年12月から2018年3月までの約5年間あまり、契約関係にあり、レコチョクの展開する複数の各種音楽サービスに対し、当社からは同期歌詞データの提供を行っておりましたが、それらの契約終了後も、当社の歌詞データを流用している、という疑念が生じたことが発端です。当初の段階の経緯につきましては、2018年のインタビューの際、詳細をお話ししましたので、まずはそちらを参照いただければと思います。

今回の提訴に至るまでに、既に2度の裁判がレコチョク、そしてソケッツから起こされました。まず、レコチョクから2018年5月に申し立てられた仮処分事件は、レコチョクの請求が却下される形で、同年10月には終了しました。その直後に、ソケッツから、訴訟を提起されました。こちらも、インタビューの内容を記事にしていただいていますので、そちらをご参照下さい。

ーーつまり、シンクパワーは、同期歌詞データを流用された被害者であるという主張をしている立場ながら、今回提訴した被告それぞれから2度にわたって逆に提訴をされてきたということですね。どうして先にシンクパワー側から提訴しなかったのでしょうか?

冨田:一言で申し上げると、膨大な証拠資料の準備と整理とに時間を要した、ということになります。先のインタビュー記事でも引用した、各種ミスタイプの箇所が同じケースや、弊社独自ルールによる表記が同じというケースのみならず、弊社がレーベル社とのタイアップで独占的に歌詞部分にアーティストのメッセージを入れた曲が数曲あるのですが、その表記まで同じ例、等々、大量の資料を準備しました。

以下に示す資料は、先の仮処分事件でも提出し、明確な反論、説明のなかったものです。歌詞の代わりに、レーベル社からご提供いただいたアーティストのコメントが表示される例になります。

新山詩織「絶対」

この通り、当社が独自にレーベル社とのタイアップで、歌詞部分の一部をアーティストのメッセージに置き換えたのですが、レコチョクのサービスでも同様の表示になっています。レーベル社には、当社以外には、同様のタイアップは行っていないことも確認済です。

ーー3月10日付の朝日新聞朝刊の記事では、これらの疑義に対して、被告からの説明として「ソケッツのAIはネット上にある歌詞データを参照して、改行位置などを決める。作業の過程で、歌詞データを掲載していた中国語サイトなどのデータが混入した」という説明があったようですね。この点はどうなのでしょう?

冨田:先の仮処分事件の中でも同様の説明がソケッツからありました。ソケッツからその証拠として提出された複数の引用先の中国、台湾のサイトのURLを当社で調べてみましたところ、比較的簡単にコンテンツを修正できるサイトであったこと、また履歴が確認できるサイトでは、仮処分の申立て前には、そのような誤字は含まれていなかったことが判明しました。また、先ほどの、アーティストのメッセージ入りの歌詞データは、当社の同期歌詞サービスの中でしか使われておらず、この指摘については、中国サイトで見つかったなどという反論や証拠の提出は、一切ありませんでした。

ーー朝日新聞の記事では、シンクパワーとしての流用の根拠となった歌詞データは43件との記載がありますが、証拠の数としては、その程度の数量なのでしょうか?

冨田:基本的に、入力段階で歌詞データの誤字が発生する可能性は、全体的にみれば、それほど高いものではありません。その稀なケースについて、ユーザーからの指摘などで弊社なりに記録として残していたわけですが、そのほとんどのケースが一致したわけです。誤字のケースのみならず、改行位置や、表示方法などについて細かく決めた、当社独自のルールについても一致した事例の資料を大量に収集しています。

更に、今回の訴状の中では、同期歌詞データの流用という問題のみならず、同期歌詞データの表示用プログラムについての営業秘密侵害についても、指摘を行いました。

ーーその「営業秘密侵害」とはいったいどういうことでしょうか? もう少し詳しく教えてください。

冨田:当社は、創業以来、音楽に同期した歌詞を表示させる同期歌詞サービスを展開してきましたが、スマホでの同期歌詞表示を行うためには、一般的に、音楽配信サービス各社が、歌詞の表示部分の開発を個別に行う必要があります。当社は、その開発の手間を省き当社サービスの導入をしやすくすることを目的に、同期歌詞表示部分をSDK(Software Development Kit)として開発し、レコチョクとの契約期間中は、レコチョクにも提供してきました。

当社のSDKは、当社独自開発のプログラムであり、社内的にも厳格に管理し、契約締結先に対してのみ、仕様書と合わせ提供し、契約上も、秘密情報として厳格に管理すべく義務付けを行っています。現在レコチョクが利用しているSDKが当社のSDKに酷似しているということは、不正競争防止法で定められている営業秘密侵害に抵触する、という指摘をしました。

ーー同期歌詞データの流用だけの問題ではなかったということですね。

冨田:はい。この主張の準備と証拠の整理にも多大なる時間を要しました。

ーー歌詞サービスはソケッツがレコチョクのサービスに提供していますが、今回どうして被告がソケッツ1社ではなく、レコチョク含めた2社とされたのでしょうか?

冨田:これには、いくつかの理由があります。まず、流用の疑いのある同期歌詞データを利用したサービスは、レコチョクのサービスであることです。営業秘密侵害の対象となっている、同期歌詞データ表示部分のSDKも、レコチョクサービスとして継続して使われています。

次に、これまでの経緯の中で、随所に2社が連携していると感じる局面があったことです。例えば、2017年3月、レコチョクからは当社との契約を、あと一年で終了する、との連絡があり、その時点では、「同期歌詞サービスは、レコチョクが自社で行う」との説明でした。その後、歌詞データ流用の疑念を持ち始めた2018年1月から2月までの間に、合計4回レコチョク関係者との面談を行いましたが、「ソケッツから歌詞サービスの提供を受けている」との説明があったのは、3回目の面談の時でした。レコチョクが全く関与していないとすれば、どうして早い時点で、ソケッツからサービス提供を受けることになった、という説明ができなかったのでしょうか?

また、ソケッツが単独で同期歌詞データの流用を行っているとすれば、レコチョクはある意味、被害者にも当たるわけですので、その後も、いくつかの証拠を開示し、流用の疑念を晴らすべく、レコチョクに疑念解消に向けての協力を求めましたが、残念ながら、非協力的な対応が続きました。特に、レコチョクにとってもコンプライアンスにも関わることでもあり、相談当初からレコチョク代表の加藤社長との直接面談の要請を行いましたが、一度もお会いできませんでした。

更には、レコチョクが申し立てた仮処分事件において、レコチョクはソケッツと一心同体になって、ソケッツから提供を受けた証拠を提出することを繰り返しました。

もう一点、あまり大きく公表はされていませんが、2社間では、少なくとも当時の時点では、資本関係もあることもわかっています。これらを総合的に判断し、両者間には緊密な関係があると判断し、2社を相手取っての訴訟を提起しました。

ーー改めて、今回の裁判に対する気持ちを教えてください。

冨田:当社は、今年の5月で創業15年目を迎えますが、同期歌詞データは、創業以来、時間とコストをかけて作り上げてきた貴重な資産ですので、不当な方法で流用されること自体、許せない気持ちであることは勿論ですが、デジタル化が進む現代において、デジタルデータ自体は、技術的には簡単に違法コピーができてしまう性質があり、今後も同様の事件が起こる可能性は高いと考えています。

今回の裁判の結果は、今後の同様の事件にも大きな影響を与える可能性も感じていますので、その観点からも、当社として大きな責任も感じます。法的に正当な判断を頂くべく、きっちりと明確な指摘を行っていく義務があると感じています。

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