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【全文掲載】音楽の宣伝に超重要!ストーリーテリングとは何か【榎本幹朗のMusicman大学】

ビジネス 音楽業界

MC Tama: 今日は音楽メディアに関わっていらっしゃる榎本編集長にお話を伺います。まず、海外展開について各社にインタビューされたそうですが、どのような質問をされたのでしょうか?

榎本: TuneCoreの親会社のBelieveのフランス人にもインタビューしたし、TuneCoreのライバルのFugaのアメリカ人、オーストラリア人の偉い方にも聞いたし、Luminateっていう音楽データ会社のアメリカ人とかいろんな外国人に聞いたんですけど、共通することがあります。どういう質問したかっていうと「日本のアーティストが海外に広まるにはどうすればいいですか」っていうのを聞いてもらったんですけど、共通してたことは「ストーリーが大事です」ということでした。

MC Tama: ストーリーが大事、というのは具体的にはどういうことなんでしょうか?

榎本: これって特殊な話じゃなくて、ブランディングのセオリーってあるんですよ。ブランドを作るっていうか、ブランド価値を高めていくって、アーティストってブランドそのものなんです。だからブランドの基本的なセオリーとして、ストーリーを作っていく。その商品っていうか、サービスの持ってるストーリーを伝えていく。どんな風に使われるとか、どんな風な幸せになっていくのかとか、ストーリーを考えてそれに合わせてクリエイティブを置いていく、プロモーションを作っていくっていうのがあるんですけど、この場合、音楽、楽曲にストーリーを感じさせないといけない。

MC Tama: 楽曲にストーリーを感じさせる、ということですね。

榎本: もちろん歌詞として中に入ってますよね。小さな短編小説みたいなものだから、そこやっぱりストーリー入ってますよね。そのストーリーを磨き上げないといけない。一番大事なところですね。それはもうアーティストさんの本分です。ストーリーがつまんなかったら、それは聞かれないでしょう。ストーリーは何のためにあるかっていうと、アーティストさんの世界観を伝えるためですよね。アーティストさんの内面的なものだから、ちゃんとその世界観が伝わるようなことを考えてもらいたい。

MC Tama: 音楽の世界でストーリーを伝えやすい方法はありますか?

榎本: こういうストーリーっていうのを音楽の世界で一番伝えやすいやり方ってあるんですけど、それがタイアップなんですね。アニメの主題歌とかドラマの主題歌、映画の主題歌。これはすごくやりやすくて、なぜかというとアニメ自体に世界観があってストーリーがあるわけですよ。それに共感してもらうために音楽を付けるわけですけど、そこにアーティストさんの解釈が入ってくるわけですね。こういうストーリー、こういう世界観って、そこでアーティストさんの世界観、映画の世界観、映画のストーリーとくっつくんですよ。そうすると曲の世界観、曲のストーリーっていうのも広まりやすい。

MC Tama: でもタイアップがあれば必ず成功するというわけではないですよね?

榎本: タイアップっていうのはとにかくみんなが聞いてくれるから、うまくいくってもんでもなくて、だって主題歌になったって売れてない曲あるじゃないですか。皆さんちょっと聞くときに、映像作品に合ってるっていうのもあるけど、アーティストさんの世界観とかストーリーともちゃんとつながってることが大事なんですね。

MC Tama: DIYアーティストの場合はどうでしょうか?

榎本: だけど皆さん、DIYのアーティストさんしたら、そんなことできないんだけど、できることっていうのは、その曲自体にちゃんとストーリーがあって、ちゃんと世界観を持ってるみたいなのが大事なんだから、別にそのタイアップじゃなくても広まったアーティストさんっているじゃないですか。さっきも話したけど、藤井風さんの音楽はそうですよね。本当にあの素晴らしいストーリーを感じるし、グッと締めつけられる世界観っていうのがあったから、あんだけ広がった。Creepy Nutsもそうですよね。あの音楽っていうか、あのライム自体に彼らのストーリーっていうか人生みたいな生き様みたいなのが出てたから。もちろんその曲のなんていうのかな、ものすごいキャッチーっていうか、本能的に響くのもそういう素晴らしさもあったけど、やっぱストーリーがあって、世界観が伝わってるっていうのがあるんで。

MC Tama: これはDIYアーティストでもできることなんですね。

榎本: これはね、DIYの皆さんだってできることだから、これはやっぱりやらないと。そしたら前回(「機材より宣伝にお金を使いなさい DIYアーティストへのアドバイス」Musicman大学」)のティーザーとかポスト、ドキュメンタリーとか、そんなんでもどうやって伝えていけるかっていうのができるんですよ。どんな映像がそしたらいいかなみたいな、俺たちの世界観伝えるために、俺たちの生き様っていうか、ストーリー伝えるためにはどんな感じの音楽ビデオがいいのかなとか、そうなっていくわけですよ。ただライブをジャカジャカって映したのをポンと乗せただけで、ライブ行きたいって思ってくれるかって言ったら、そんなに簡単な世界じゃないでしょう。だからそういうふうに何か伝わるようにしてあげないといけない。

MC Tama: TikTokでバズることについてはどうお考えですか?

榎本: これってTikTokみたいな流行るんだけど、その曲の一部が流行って消費されて終わっちゃうって、たくさん起こってると思うんだけど、これなんで起こってるかっていうと、その時にアーティストさん、あるいはその曲自体のストーリーとか、曲の世界観がまだ伝わってないから。それも伝わってくれると、そのバズが終わった後もつながってくれるんですよ。その曲自体のファンになる、そのアーティスト自体のファンになるっていうのが起こるんで。だからただ流行らせればいいっていうもんではない。もちろん流行ってくれなきゃ始まらないけど、バズってくれなきゃ始まらないけど、一番大事なのはやっぱりアーティストになりたいって思った最初のきっかけっていうか、それを思い出して、その原点に戻ってどういう世界観、どういうストーリーっていうかね、自分なりのストーリー、あるいは世の中に流れてるストーリーってあるでしょ、時代の流れ、雰囲気っていうか、そういうのとつながっているとか大事なんで、それを考えてほしい。

MC Tama: プレスリリースについてはいかがでしょうか?

榎本: これはね、日々僕らね、Kenta君もアーティストニュース担当だからずっと読んでると思うんですけど、プレスリリース見てるとつまんないプレスリリースばっかりなんですよね。もちろんね、今の時代映像の時代だから、そんな記事で宣伝する時代じゃないっていうので、手抜きになっているのもあるかもしれないけど、そもそも文字に起こしたときに、ちゃんとそのアーティストさんのストーリー、世界観とか個性とか伝わってこなかったら、これ映像にしても面白いわけないじゃんっていう。それを映像の世界に変えていく作業をしてるわけだけど、その指示もできないですよね。どんな風なインフルエンサーさん使えばいいのかとか、どんな映像ディレクターさん使えばいいのかとか、どんなメディアとどうコラボしていくのかっていうのは、ちゃんとストーリーというか、世界観をしっかり持ってなきゃ始まりようがないんで。

MC Tama: プロでもその点がおろそかになっているということですか?

榎本: 意外とだからこれプロの皆さんもおざなりになってるんです。ただリリース情報が載ってるとか、いつライブが始まるとか、ぶっちゃけファン以外関係ないって思っちゃうでしょ。そこに音楽くっつけただけ。でもちゃんとプレスリリースでちゃんとストーリーが伝えられる、こういうキャラなんだとか、こういう流れでイベントやるんだというのが伝わるようになるところまでちゃんと作り込まなきゃいけないっていうのは、これは実はプロじゃなくて、DIYアーティストの皆さんだって作れるんですよ。プレスリリース作るとしたら、こんな感じになるっていう面白かったら、どっかばらまいてれば、プレスリリース自分で作って送ったっていいんですよ。ミュージックマンに送ったって面白い話だったら、どっかに引っかかるから、そしたらどっか載るし、面白かったら、ちゃんとそれ広まるからね。プレスリリースっていうか、文章に落とすっていう形でチェックしていくっていうのも大事です。

MC Tama: ストーリーや世界観というのは抽象的で分かりにくいという声もありそうですが。

榎本: ここまで話したんだけど、ストーリーとかね、世界観とか言われてもね、なんか抽象的でよくわからんと。なんで最後にちょっと締めでストーリー作るっていうのはどういうことかっていうのは、ちょっと切り口変えて物販の話してみようと思います。

MC Tama: 物販とストーリー、どういう関係があるんでしょうか?

榎本: これもね、うちが取り上げた記事なんですけど、「アーティストグッズが売れない?物販成功の5つのヒント アーティスト400万組利用のリバーブネーションがアドバイス」っていう、アーティストグッズ作ったけど売れないと、ライブでそこで稼ぐつもりだったのにと。それはさっきの音楽をとりあえずSpotifyで聴けるようにしたら聴いてくれるのかって言ったら、そういうわけじゃないじゃんっていう、ちょっと待て、やることやってるのかっていう話なんですよ。例えばTシャツ作りました、ロゴが載ってます、売ってます、以上。これは売れないって。

MC Tama: でも売れるアーティストもいますよね?

榎本: それはライブでよく見てほしいんですけど、売れる理由があるんですよ。一体感が感じられるから、そういうのとか、あるいはね、そのアーティストさんがライブ中着てるとかね、あるいはその着てるアーティストさんのポップが置いてあるとか、そういう一体感ですよ。そういうことをやってるんですよ。さっき言ったように、そういうことをやらなくても、Tシャツ着てくれるのは、やっぱりみんなで盛り上げよう、ファンクラブ運営的なところでちゃんとやってるんですよ。ただTシャツ入荷したから買って!これじゃダメなんです。

MC Tama: ここでもストーリーが重要になってくるんですね。

榎本: ここでストーリーが大事なんですよ。例えばあるアーティストさんはTシャツにストーリーをつけるんですよ。売るときにXとかね、あるいはライブ中とかでも喋っちゃえばいいんだけど「このTシャツは実は俺歌いすぎて、喉潰れて6週間喋れなかった、声が出なかった。もうスタジオで新曲できなかった。やっと声が出せた。その時に着てたのがこのTシャツなんだ。みんなのことを思い出したいから作って頑張ろうと思って着てたら、これで声が出たんだ」っていうのをつけるんですよ。ストーリーを。ファンは推したいから、やっぱり買っちゃいますよね。そうか、ってなるわけですよ。これがストーリーなんです。

MC Tama: なるほど、具体的なエピソードがあることで価値が生まれるんですね。

榎本: 今の、そのまま使うのどうかなと思うんだけど、何らかのストーリーを、ちゃんと考えて添えてあげてください。ロゴって俺こういう風に考えて、なんか閃いてね、あの時こんなこと悩んでたんだけど、その時に作ったんだとか、そのデザイナーさんと一晩かけてずっと喋って、こうでもないって、その時子供の時になんかあったことを思い出してこういう感じかなってなってこれに決めたとか、そんな感じでもいいんですよ。そういうのをインスタ、TikTok、ライブとかで話して伝えていくのが大事なんですね。

MC Tama: ストーリーについて、創作的な要素が入ることについてはどうお考えですか?

榎本: 俺も作家なんで、お笑い芸人の方もよく言うけど、本当のことを伝えるためには、何パーセントか創作が入ってていいっていう。お笑い芸人の方なんかよく言ってますけど、分かりやすく真実が伝わるんだったら、嘘が入ってもいいとは思いますよ。別にそれだって創作なんだから。これはあの、なんだろう、100%本当じゃなかったら騙してるっていうことではないと思う、俺は。だって歌詞とかだってそうでしょ、全部自分のこと書いてるかって言ったら、それじゃ面白くないでしょ。人の経験なんて限られてるんだから、いろんな人の視点を、ちょっと成り変わって書いたりするわけでしょ。じゃあ「お前のこと書いてないんだから偽物だよ」って、「そんなことないだろ」っていう話になるじゃないですか。それと一緒のことだと思うんで、伝わりやすくするために、自分に起こったことを、ちょっとわかりやすくするとか、前後関係をちょっと変えるとか、それくらいは別にやってもいいんじゃないかなって個人的には思います。

MC Tama: 伝わりやすくするためということですね。

榎本: そうそう、自分のストーリーを伝わりやすくするためだからね、悪意じゃなくて。

MC Tama: 今回のお話、すごく勉強になりました。

榎本: 今日も入門編みたいなところなんで、こういうのってね、今の時代だったらAIに聞いてみるっていうのもいいと思いますよ。DIYのアーティストなんだけどいいプロモーションないとか聞くと、つらつらって並ぶんで、プレセーブキャンペーンとかやるといいよとか出てくるんですよ。さっき俺も試してみたんですけど、プレセーブって何?とか聞いてみたら、つらつら答えてくれるんですよ。それでゼロ予算でもできることって何でしょう?とか、いいティーザーって?アーティストのいいティーザーって何?とか聞いたら答えてくれるからね。AIは簡単に嘘ついてくるんで、その後じゃあどうすればいいかみたいなのを、自分でちゃんとその後調べた方がいいんだけど。

僕も作家なんで、たまに見ててね、変な人いるんですよ。読者で「この小説に書いてあることって、先生に本当に起こったことなんですか。書いてあること全部事実ですか」っていう。「いや、これは小説だから」って言ったら怒っちゃう人いるんだけど、それはただの考え違いなんで、気にしなくていいと思いますね。

MC Tama: ミュージックマンの榎本編集長による音楽ニュース、いかがでしたでしょうか。今後も音楽業界のビジネスニュースを超分かりやすく解説してお届けします。それでは次回もぜひお楽しみに。ご視聴ありがとうございました。

プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載。