レーベルビジネスのゼロからの発想と創造を目指す ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長兼CEO 小林和之氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

小林和之氏
小林和之氏

今年4月1日付でワーナーミュージック・ジャパンの代表取締役会長兼CEOに小林和之氏が就任した。小林氏はワーナーミュージック・グループの日本でのレコードビジネス全般を統括し、アジアパシフィック社長のラッキー・ラザフォード氏にレポート。邦楽の新人発掘及び育成、洋楽の活性化、デジタルビジネスの更なる拡大を目指す。代表就任の経緯や、これからのワーナーミュージック・ジャパンについて小林氏にお話を伺った。

 

PROFILE
小林 和之(こばやし・かずゆき)
ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長兼CEO


1956年2月 兵庫県神戸市生まれ。
ミュージシャンとしての活動を経て1982年3月株式会社EPIC・ソニー(現 EPICレコードジャパン)に入社し、ディレクター、プロデューサーとして数々のアーティストを担当する。1992年 EPICソニーレコード本部A&R2部プロデューサー、1996年同本部A&R3部部長を歴任。2002年2月株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの組織改編と共に株式会社エピックレコードジャパンが設立され、A&Rグループ本部長となる。2002年10月株式会社エピックレコードジャパン代表取締役に就任。EPIC在籍中の主な担当アーティストは、鈴木雅之、大沢誉志幸、岡村靖幸、Rats&Star、YUKI、トライセラトップス、T.M.Revolution、アンジェラアキ、Aqua Timez、いきものがかり、2PM、2AM…等幅広い。
2008年3月株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ(レーベルビジネス第2グループ代表)に就任し、株式会社EPICレコードジャパン代表取締役、株式会社デフスターレコーズ代表取締役、株式会社アリオラジャパン代表取締役を兼任。
2013年6月株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブとしてメディアビジネスグループを担当し、同グループ代表を務め株式会社エムオン・エンタテインメント代表取締役社長、株式会社Zeppライブエンタテインメント代表取締役会長、株式会社レーベルゲート取締役、株式会社イープラス代表取締役等を兼任。

 

音楽ビジネスの改革が迫られている中での代表就任

── ワーナーミュージック 代表取締役会長兼CEOに就任されたご感想をお聞かせください。

小林:ワーナーミュージックは邦楽では(山下)達郎さん、(竹内)まりやさんからコブクロ、ウルフルズ、Superfly。FTISLAND やCNBLUEもいれば、時代のアイコンであるきゃりーぱみゅぱみゅ、最近ではゲスの極み乙女。、パスピエ等々の素晴らしいアーティストを擁し、洋楽フロントラインではコールドプレイ、リンキン・パーク、ブルーノ・マーズと日本でも高い人気のアーティストがいます。レーベルとしてもアサイラム、アトランティック、EMIクラシックス(現ワーナー・クラシックス)など、豊富なカタログを持ち、かつミュージックマインドの強い会社だと思います。外資でありながら、音楽自体に真摯に向き合っている印象が、あのエンブレムとともに私の脳裏にあったので、呼んでいただけて光栄です。

── 以前からワーナーミュージックに対して何か特別な想いがあったのでしょうか?

小林:好きなアーティストがワーナーのカタログに多かったですね。CSN&Yやイーグルス、ちょっと遡って、ヤング・ラスカルズも大好きでしたし、更に魅力的なアーティストを輩出できるレーベルにしていきたいですね。

── 今回の就任はどのような経緯だったのでしょうか?

小林:アジア・パシフィック社長のラッキー・ラザフォードに声をかけてただいたことがきっかけです。実は、去年の6月にレーベル事業ではなく、ソニー・ミュージックのメディアビジネスグループという、エムオンやライブ、チケット、moraの統括を任されまして、同じ音楽でもメディアだとこんなに違うのかと、いい意味でものすごくカルチャーショックを受けました。

そこで私なりに勉強もして、面白くなってきたと思っていた11月頃にラッキーから声をかけていただきました。そのときは大変驚きましたが、そこから「またレーベルをやってみようかな」という気持ちになったんです。ただ、私は英語があまり得意ではないので、リレーションシップをどう取ろうか考えていたときに、また別の方から紹介してもらったのが、現COOの内海(代表取締役社長兼COO 内海州史氏)です。彼は英語が堪能ですし、元々同じソニーだったんですが、内海はコーポレーションの方で、プレイステーションを立ち上げたメンバーの一人です。

私はA&Rの統括として邦楽、洋楽、ストラテジック、営業、宣伝に集中させてもらいたかったので、バックオフィスと新規事業、デジタル事業は誰かに任せようと考えていまして、内海なら任せられる、ぜひ一緒にやりたいと思ったので、今回の話を受けさせていただきました。

── 即答というわけではなかったんですね。

小林:色々考えた上で決めたことですね。最終的に決めたのは今年の1月です。

── 今年に入ってから、ユニバーサルの藤倉 尚さんのCEO就任、ソニーミュージックのレーベル再編とCEOに村松俊亮氏が就任、そして小林さんのワーナーCEO就任と業界全体が大きく変化している印象があります。

小林:たまたまそういう時期にお話をいただいただけかもしれませんが、重なったというのは何かあるんじゃないか、という思いはありますね。ただ、もうおわかりだと思いますが、音楽産業はとても厳しい状況に置かれています。業界全体がそれを感じていますし、既存の音源ビジネスの収益構造が崩れようとしている中で、改革を迫られていますので、そういった変化に対応できる組織作りを各メーカーが押し進めているんじゃないかと思います。

ワーナーのサイズ感を生かした軽いフットワークで変化に対応

── 小林さんから見て、ワーナーの強みはどこだと思われますか?

小林:前任の石坂さん(石坂敬一氏)も仰っていましたが、190人という大きくもなく、小さくもないミドルサイズのレーベルであることが強みだと私も思っています。大きな会社は、渋滞した車が徐々に動き出すように、物事が進んで行くのが遅いと思うのですが、このサイズでしたら渋滞の台数も少ないので、改革ののろしを上げたときの伝達も早く、理想的なスピードで動けるんじゃないでしょうか。

── 全体的な組織改革も行ったのでしょうか?

小林:はい。レーベルビジネスの再構築と再強化を目的として、6月1日及び16日付で組織変更を行いました。外資なので、単年で考えないといけないことも多いんですが、全ての制作チーム、宣伝、営業までスタッフ全員がゼロからの発想と創造をしてほしいと思っています。同時に売上を上げていかないといけないので、360度ビジネスを実践するためには、プロダクト&サービスという考えを持ってもらいたいです。サービスというのはサブスクリプションなどのデジタル面での手法、発想も含めてですね。

── 新規ビジネス開発室やデジタルビジネス本部は、サブスクリプションを始めとした配信サービスの強化を見据えて組織されたということでしょうか?

小林:そうですね。ワーナーはタイスケいう連結のプロダクションも持っていますが、今まではプラットフォームを構築してのビジネスや、周辺ビジネスはあまりやっていなくて、単年の売上ベースで運営する方法を取っていました。今後は積極的に新規ビジネスの開発に取り組みたいと考えています。他社さんでは何十年も前から周辺ビジネスをやられているところもありますし、やはり、ドメスティックなところと比べると、外資は動きが取りづらいですが、ワーナーの身の丈に合った新規ビジネスのやり方を考えていきたいと思います。

ちなみに弊社にパスピエというアーティストがいるんですが、彼らは現在レーベルがマネージメントしているんですが、マネージメントについてはレーベルと切り離して、今年中にマネージメント会社として立ち上げる予定です。

パスピエ
パスピエ

── デジタルではまだ具体的な施策は決まっていないんですか?

小林:残念ながら。ただ、デジタルビジネス本部が様々な側面から新しいビジネスモデルを検討しています。もちろん我々がプラットフォームを持つわけではないので、様々なデジタルサービスに対してビジネスとして参加できるのならば、積極的にやろうと思っています。

── 間もなくSpotifyなどの海外のサブスクリプションサービスが始まると言われていますが、アメリカの本社はすでにサブスクリプション・サービスに積極的ですよね?日本での定額制配信サービスの動向についてはどのように思ってらっしゃいますか?

小林:だいぶ前から「なぜ日本はもっと早くサブスクリプション・サービスを強化をしないんだ」と言われています。ダウンロードのときと違って、定額制サービスはフィジカルの売り上げを侵食しないと思います。むしろ音楽への接点が広がる分フィジカルの売り上げにも好影響を与えるのではないでしょうか。

── ということは、日本でのサブスクリプション・サービスの展開については本社も強く後押しするような姿勢なんでしょうか?

小林:既に海外での成功例も多いので、日本に対する期待は大きいと思います。だた、日本独自の文化があることもよくわかっています。アニメやアイドルのマーケットですね。 秋元康さんのすごいところは、楽曲だけじゃなく、握手会や選挙といった新しいサービスをクリエイトしたということだと思うんです。

我々もチームしゃちほこや、LinQなどのアイドルもやっておりますので、今後はもっとオリジナルなサービスを開発していきたいと思っています。ただ、弊社の場合はとてもアーティスティックなアーティストが多いので、そこから生まれるものもあると思うんですよ。きゃりーも最初はサブカルチャーから生まれてきたわけですから。

── 海外での知名度も高いですしね。

小林:そうですね。きゃりーのアドバンテージをA&Rがすごくよく理解した戦略だと思いますね。

 

アーティスト&ヒット曲の創出を全社員と「分かち合う」

ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長兼CEO 小林和之氏

── 本社は日本での洋楽のシェアも上げていきたいと思っているんじゃないでしょうか?

小林:確かに今、洋楽は厳しいですね。

── 素晴らしいカタログをお持ちのワーナーだからこそ、洋楽のブラッシュアップについて何かプランがあるんでしょうか?

小林:手前味噌ではありますが、ワーナーはカタログをセンス良く世に出していくことに関して長けていると思うんです。一番早くハイレゾに対応したのもワーナーです。先日、レッド・ツェッペリンの最新リマスター音源の爆音試聴会をジミー・ペイジを招いて六本木のEXシアターでやったんですが、こういったアーティスト稼動のイベントは本国では難しいですよね。ビッグアーティストほど厳しくプロテクトされていますから。作品やアーティストに相応しい、ファンが喜ぶ企画は積極的にやるべきだと思います。

ちなみに、新進気鋭の洋楽アーティスト、ブルーノ・マーズの次回作はものすごいことになると思いますよ。すごい勢いでバズり始めて、幕張のライブ・チケットはもう争奪戦でした。次はドームでいけるんじゃないかなと思います。私もライブを観てびっくりしました。原点回帰と言いますか、こういう楽しませ方があるんだと。バンドメンバーが全員で踊って、マイケル・ジャクソンとか、プリンスを彷彿とさせますね。

洋楽のアーティストであってもこのブルーノ・マーズのように日本でも売れるポテンシャルのアーティストはいるわけですが、世に知らしめる手法を熟考し実行していかなければ売れないと思います。そのために日本におけるマーケティングの手法をアーティストにも理解してもらわないといけないと思っています。

ブルーノ・マーズ
ブルーノ・マーズ

── 洋楽アーティストも積極的な露出が必要だと。

小林:ええ。レディー・ガガはワイドショーにも出るじゃないですか。 あれは本人もマネージメントも日本での戦略をわかっているからですよね。ジミー・ペイジも朝の情報番組に出ますし、コールドプレイも「ミュージックステーション」に出演しました。

── 既に売れているアーティストも、もう一段上に、一般層に広げないとということですね。そのためにはテレビやSNSも含めて、露出していくと。

小林:SNSのやり方はアメリカが長けていると思います。日本はまだバズらせ方が下手ですよね。「デジタル戦略はプロモーションとディストリビューションとオペレーション」という話を聞いて「なるほどな」と思いました。我々はプロモーションの発想はありますが、もっとオペレーションをしていかないといけないなと考えています。

── それを実践するために入ったのがCOOの内海さんということですね。ゲーム業界という全く違う業界から就任されていますよね。

小林:ゲーム業界は時代の流れに合わせてフェーズを変えていけるんですよ。対して、音楽は歴史がある分、凝り固まっている部分もあります。ゲームはやり方を変えても何も言いませんし、風邪もひきませんからね(笑)。ゲーム会社はモバイルやオンラインなど、どんどん変化させているけれど、なんで音楽は変化させてないの? と内海にはよく聞かれます。彼は当然エンターテイメントのことはわかっていますが、音楽業界にきて相当カルチャーショックを受けていると思いますよ。

── リーダーとしてスタッフの皆さんと共有したいことは何ですか?

小林: 190人の社員全員と「わかり合う」ことはなかなかできないと思うんですが、「分かち合う」ことはできると思うんですよ。何で分かち合うかと言えば、アーティストを創出することであり、ヒットを出すことであり、そこが達成されれば会社全体がいい流れになると思います。それが本当の再構築だと思います。

── ご自身で考えられる、石坂敬一さんの時代と最も変わるであろうという点はなんでしょうか?

小林:基本は音楽ですから、ものすごく変わることはないと思います。「ヒット曲を作る」とか「アーティストを作る」といった大きな目標は同じじゃないですか。でも、私はそこにもう1つ、「どういう風に作っていこうか?」というゼロから作る発想を持ちたいと思います。幸いその成功例の前例としてきゃりーもいますし。ゲスの極み乙女。、パスピエといった期待の新人についても、そういうゼロから作る発想は常に持っていたいですね。

ゲスの極み乙女。
ゲスの極み乙女。

── ゲスの極み乙女。はすでに各方面から注目されていますよね。

小林:ものすごいですよね。これが次の分かち合えるものだと思うんです。聴かせるロックじゃなくて、魅せることができるアーティストと言いますか。スペースシャワーミュージックさんとゼロからやってますが、間違いなくブレイクすると思います。

「レーベルビジネスのゼロからの発想と創造」と「プロダクト&サービスへの転換」というのが、今回の組織変更並びに私の指針です。そして「僕たちの最大の喜びは、お客様が喜んでいる姿」だということですね。それに徹しなくてはいけないと考えています。

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