広告・取材掲載

広告・取材掲載

Downtown Music CEO ピーター・ヴァン・レイン氏インタビュー ~Virgin Music Group統合の真意と、インディペンデント音楽の未来~

インタビュー スペシャルインタビュー

2024年末、ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)は、傘下の「Virgin Music Group(以下VMG) 」がインディペンデント音楽サービス企業Downtown Music Holdingsを7億7500万ドル(約1,100億円)で買収すると発表した。「FUGA」「CD Baby」「Downtown Music Publishing」を擁し、サービスを提供するDowntownは、欧州委員会の審査を経て2026年2月に承認を取得。新たなステージへ進む。

メジャーによるインディペンデント企業の買収は業界内で賛否を呼んだ。当事者たちはどのような思いでこの決断に至ったのか。Musicmanでは統合の渦中にあるDowntown Music CEOであるピーター・ヴァン・レイン氏(また氏は、SPACE SHOWER FUGAの取締役も務めている)にオンラインインタビューを実施、VMGとの統合の背景と真意、インディペンデント音楽産業の進化、日本市場への展望を聞いた。なお、日本においてFUGAとのジョイントベンチャーを設立し、日本独自のビジネススキームを通してFUGAのグローバルサービスを国内展開するSPACE SHOWER FUGA 代表取締役社長の田中聡氏も同席した。

(取材日:2026年2月20日 インタビュアー:Musicman編集長 榎本幹朗)

 

プロフィール

ピーター・ファン・レイン(Pieter van Rijn)


Downtown Music Holdings CEO。オランダ・ロッテルダムのエラスムス大学卒業後、ソニー・ミュージック所属のソングライターとしてキャリアをスタート。その後、企業戦略・M&Aコンサルティングを経て、2014年にFUGA CEOに就任。12名の組織を全世界に約1500のクライアントを持つ業界最大のB2Bディストリビューターに成長させた。2020年のDowntownによるFUGA買収後、Downtown Music President、同CEOを歴任。今回、VMGのCOOに就任することも発表された。Billboardの「Independent and Global power player lists2025」「Billboard’s Power 100 (2026)」にも選出。


株式会社SPACE SHOWER FUGA / 田中聡


株式会社SPACE SHOWER FUGAは、株式会社スペースシャワーネットワークとグローバル音楽ディストリビューション企業FUGAによるジョイントベンチャーとして2021年に設立された。FUGAのテクノロジー基盤とスペースシャワーネットワークが培ってきた国内の業界ネットワークおよび知見を組み合わせ、日本のインディペンデント音楽のグローバル展開を支援している。主なサービスとして、デジタルディストリビューション、ロイヤリティレポーティング、マーケティング支援などを提供し、レーベルやアーティストのビジネス拡大をサポートしている。

代表取締役社長の田中聡氏は、スペースシャワーネットワークにて20年以上にわたり、音楽・映像コンテンツの企画制作、国際事業、経営企画などの分野に従事。事業戦略や海外連携に関わるプロジェクトを担当してきた。2022年7月より株式会社SPACE SHOWER FUGA取締役として参画し、2025年7月1日より同社代表取締役社長に就任。

 

ソニー・ミュージックと契約したアーティスト時代

 

ーーまず自己紹介からお願いします。ピーターさんはアーティスト出身だと伺っています。

ピーター・ヴァン・レイン(以下、ピーター):はい、その通りです。オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学のビジネススクールに通っていたのですが、音楽にとても情熱を持っていて、パフォーマンスや作曲に没頭していました。大学を卒業してすぐ、ソニー・ミュージックから契約のオファーをいただいたんです。

ーーどのようなジャンルの音楽をやっていたのですか?

ピーター:オランダ語のポップミュージックです。ポップフォーク系のジャンルで、ギターを使った音楽でした。2004年頃のことですから、もうだいぶ前の話ですね。当時は業界にとって最良の時期ではありませんでした。まだデジタルが本格的に始まっておらず、音楽産業が転換期を迎えていた頃です。ライブの後に自分たちでCDを手売りして、チャートに入れるかどうか試していたことを今でもよく覚えています。1年半ほど活動して、ラジオでヒットした曲もいくつかありましたが、大きな成功には至りませんでした。ただ、その経験を通じて音楽業界の仕組みを深く知ることができましたし、ビジネスへの関心とエンターテインメント業界を組み合わせていきたいという確信を得ました。

ーーアーティスト出身でいらっしゃるということは、Downtownのサービスを使われる多くの方々に共感や安心感を与えられると思いますので、ぜひ紹介させてください。

ピーター:ありがとうございます。実は今でもあの頃のことを思い出すことがあります。当時はアーティストにとって、今よりもはるかに平等でない世界でした。先日、若い頃に自分が結んだ契約書を見返してみたのですが、今のアーティストなら誰もあんな契約は受け入れないだろうと思います。時代は変わりました。それは素晴らしいことです。今、Downtownのようなディストリビューターやレーベルサービスを通じて、アーティストや起業家、クリエイターの方々の生活をより良くする手助けができていることを誇りに思っています。私たちのサービスをクライアントに押し付けるのではなく、柔軟な形で提供すること、それが私たちの哲学の根幹です。

 

10人から600人へ。FUGAとDowntownの成長の軌跡

 

ーーDowntownグループに参加された経緯を教えてください。

ピーター:私はFUGAという会社のCEOを務めていました。日本ではスペースシャワーと合弁で「SPACE SHOWER FUGA」として展開している、あのFUGAです。2014年にCEOに就任し、FUGAのディストリビューション事業を国際的に大きく成長させました。アムステルダムの小さなオフィスからスタートし、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、サンパウロ、ソウルなど世界各地に拠点を広げていきました。2020年にDowntownがFUGAを買収し、その後2年間FUGAに残って経営を続けました。やがてDowntownの取締役として迎えられ、最終的に取締役会からCEO就任の打診を受けたのです。

ーー資料を拝見すると、最初FUGAはわずか10人で始められたとのことですが、現在は何人ぐらいの組織になっているのですか?

ピーター:こういう買収のような節目を迎えると、少し感傷的になるものです。今まさにアムステルダムのオフィスに座って、運河を眺めながらお話ししているのですが、ここは10人でスタートした時と同じオフィスなんです。それが今ではグローバルで600人の組織になりました。大きく成長しましたし、この旅に参加できたことは本当に素晴らしい経験です。

ーー読者のためにDowntownのサービスについて説明していただけますか。

ピーター:Downtownには大きく3つの柱があります。第一が、ディストリビューション及びアーティスト・レーベルサービスです。これは皆さんがFUGAのサービスとしてご存じのもので、クライアントに代わって音楽を配信し、マーケティングサービス、データアナリティクス、ロイヤリティアカウンティングを提供しています。レーベルクライアントの課題を解消し、音楽のマネタイズとプレゼンスの拡大をサポートするサービスです。

第二が、Downtown Music Publishingです。著作権の徴収を中心に、カタログを保有するパブリッシャーやフロントラインアーティストにサービスを提供しています。例えば、ジョン・レノンのエステートの楽曲を管理していますし、ペソ・プルマのようなフロントラインアーティストも抱えています。さらにパブリッシング部門には「Songtrust」というプラットフォームもあり、クリエイター自身が著作権を管理・徴収できるサービスを展開しています。

そして第三の柱がCD Babyです。TuneCoreのような位置づけのDIYアーティスト向けプラットフォームで、例えば私のような趣味で音楽をやっている人が、手軽に自分の楽曲を世に出すことができるサービスです。

 

VMGを選んだ理由──「インディペンデントの哲学」の一致

 

ーー今回、ユニバーサル ミュージック傘下のVMGと一緒になるということで、皆さん非常に関心を持っています。この決断に至った経緯を教えてください。

ピーター:Downtownの株主は16〜17年にわたって我々を支えてくれた、非常にロイヤルな存在でした。Downtownが成長し、幅広いサービスを提供する企業として市場に認知されるようになると、多くの企業から関心を寄せていただくようになりました。いくつかのお声がけに応じるうちに、より本格的なプロセスとして進めようということになったのです。

最終的にVMGを選んだ理由は、多くの企業と話をした中で、VMGが「インディペンデントとは何か」を理解し、複数のサービスを連携させてクライアントに提供するという私たちの哲学を信じてくれたからです。VMGのCEOであるナット・パスター氏とJT・マイヤーズ氏は、以前「mtheory」という会社を経営していて、FUGAのクライアントでした。つまり、私たちが何をやっているかを本当に理解してくれていたのです。哲学の一致、考え方の一致(meeting of the minds)があったのです。

さらにVMGは統合後もDowntownの各サービスを継続し、投資を続ける姿勢を示してくれました。それは私たちDowntownの取締役やスタッフにとって非常に重要なことでした。これまで築いてきたものが守られるという確信を持てた相手は他にいませんでした。もちろん、株主にとって良い条件でのオファーであったことも重要なファクターでしたが、戦略的な一致と経済的な条件、この両面が揃ったのがVMGだったのです。

 

「ユニバーサルと一緒になるのか?」という誤解を解く

 

ーー日本の音楽業界では、”Virgin”はユニバーサルのレーベルのひとつという認識が強く、VMGがインディペンデントなルーツを持つことはあまり知られていません。「ダウンタウンがユニバーサルと一緒になる」と誤解されている方もいると思いますので、改めて説明していただけますか。

ピーター:Virgin RecordsはかつてUniversal Music Groupの傘下レーベルでしたが、2022年にVirgin Music Groupが設立され、インディペンデント向け音楽サービスに特化した事業として始動しました。これは戦略的な変革です。現在のVMGには、かつてのINGROOVESやCaroline Distributionなど、元々インディペンデント音楽業界で活動してきた事業がVMGブランドのもとに統合されています。そこにFUGAとDowntownも加わったというわけです。VMGとDowntownは完全に独立して運営される組織であり、私自身もそのリーダーシップに深く関与していきます。ユニバーサルが最終的なオーナーではありますが、インディペンデントビジネスに特化した独立した事業体として運営されるという点は非常に重要です。日本ではまだこの構造が十分に認知されていないと思いますので、より丁寧にコミュニケーションしていく必要があると考えています。

ーー少し意地悪な質問ですが、もしユニバーサル・レコードそのものから買収の話があったとしたら、引き受けていましたか?

ピーター:正直、考えたことがありませんでした(笑)。非常に良い質問ですね。ただ、そこまで仮定の話をするのは控えさせてください。私が言えるのは、私たちDowntownとFUGAにとって、新しいパートナーとの合流においては常に「すでにインディペンデントに特化したディストリビューターとの戦略的な一致」を重視してきたということです。インディペンデントは非常に重要で力強いセグメントだと信じているからこそ、VMGとの間に素晴らしい「クリック」が生まれたのです。ユニバーサル・レコードとの合流は、そもそも議論に上がったことすらありませんでした。

ーー今度はDowntownにとって、VMGと一緒になるメリットは何ですか?

ピーター:VMGがFUGAのテクノロジープラットフォームやCD Baby、パブリッシング、ネイバリングライツといった多彩なサービスを活用できる一方、Downtownが得られるメリットも大きいです。VMGもグローバルに展開する企業ですが、私たちと非常に補完的な市場を多く持っています。両社のリソースと専門知識を組み合わせることで、これまで以上に充実したサービスを提供できるようになります。具体的には、クリエイティブマーケティング、オーディエンスマネジメント、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)、フィジカル流通など、Downtownがこれまで手薄だった領域でVMGの知見とリソースを活かせます。加えて、テクノロジーへの投資やクライアントサービスの向上に共同でリソースを投入できるようになることも大きなメリットです。まさにこの組み合わせがもたらす相乗効果こそが、今回の統合の核心です。

田中聡(SPACE SHOWER FUGA CEO):SPACE SHOWER FUGAとしては、FUGAがパートナーであり、その親会社の親会社が変わるということになりますが、SPACE SHOWER FUGAとして提供するサービス自体は変わりません。メリットとして考えられるのは、FUGAやDowntownがVMGのリソースを活用してサービスが強化されるのであれば、それはクライアントにとっても重要な価値と考えています。

 

欧州委員会の審査とインディペンデント産業の変容

 

ーー今回、欧州委員会(EC)が審査に入りました。10年前にソニーがThe Orchardを買収した時にはこのような大事にはなりませんでしたし、昨年のワーナーミュージックによるBelieve買収も結局流れました。今回なぜECが動いたのか、背景を教えてください。

ピーター:買収を発表した時点で、特定の地域で反トラスト法に基づく申請が必要になることは認識していました。欧州委員会はより詳細な審査を行うことを決め、競争力の集中やデータの適切な利用について包括的にレビューしました。率直に言って時間はかかりましたが、1週間前(※取材は2月20日に実施)に承認されました。最終的にはほぼ予想通りの結果でしたが、ECが徹底的なレビューを行ったことは、業界が抱いていた懸念をむしろ和らげることにもなったと思います。客観的な審査が行われ、クリアされたのですから。なお、条件としてロイヤリティアカウンティングソフトウェアの「Curve」を売却する必要があり、現在その手続きを進めています。

ーーECが審査に入った背景には、インディペンデントの世界的なシェアが伸びていること、つまり「インディペンデント」の意味自体が変わってきたことがあるのではないでしょうか。

ピーター:いくつかの要因があると思います。まず、欧州委員会の仕事は、大きな事業体が統合された際に健全な競争環境が維持されるかを確認することです。音楽産業は文化に根ざした産業であり、成長を続けていますから、注目に値する領域だったのでしょう。

インディペンデント産業の進化という点では、デジタル化の後に業界が大きく再編されたことは確かです。世界中どこからでもディストリビューションにアクセスできるようになり、コンテンツの配信やリリース戦略のサポートを受けられる環境が整いました。テクノロジーの結果として業界は劇的に民主化されたのです。そしてこの流れはこれからも続くでしょう。近年特に顕著なのは、プロの投資家や機関投資家が音楽ビジネスに参入していることです。これは音楽産業が持続可能なモデルであり、プロフェッショナルに運営された産業であると彼らが認めた証拠です。こうした潮流もまた、健全なインディペンデントセクターの発展を後押ししています。

ーーCreate Music Groupのような企業に大きな資金が動いたり、アメリカの年金基金が投資証券の形でカタログを購入したりと、「インディーズ」のイメージ自体が大きく変わりましたね。

ピーター:まさにその通りです。インディペンデントセクターが成長を続けている証であり、新たな参入者が市場に入ってきていることは非常にポジティブなことです。かつてFUGAが新参だった頃は、資金調達も難しく、本当にスマートかつ機敏に動いて差別化を図る必要がありました。今ではこの業界が生み出す成功の可視性がはるかに高まり、資金も集まりやすくなっています。さらにAIの登場でプラットフォーム構築の参入障壁もさらに下がっていくでしょう。これらの要素をすべて足し合わせると、業界の未来は本当にエキサイティングです。5年後にこの会話をしたら、また多くの新しい展開が生まれているはずです。

ただし一つ付け加えたいのは、投資を受けて買収や事業拡大をすることと、それを実行に移すことは全く別だということです。顧客に集中し、顧客と共にイノベーションを起こし、明確なサービスを提供し続けること。それがなければ、どんなに資金があっても成功はできません。SPACE SHOWER FUGAにおいても、スペースシャワーやFUGA、Downtownの素晴らしいチームと共に、信頼の構築と日々のサービスの質がクライアントの信頼を勝ち取り、ビジネスを成長させるために不可欠だということを実感してきました。選択は慎重にしなければなりません。

 

ストリーミング、SNS、AI──ディストリビューターの役割はどう変わるか

 

ーー読者のために整理すると、まずSpotifyのようなストリーミングが普及してディストリビューターが台頭し、次にTikTokのようなSNSが普及し、さらにAIが登場しました。テクノロジーの進化に伴い、ディストリビューターも新しい価値を生み出す必要に迫られていると思いますが、いかがでしょうか。

ピーター:素晴らしいフレーミングだと思います。ストリーミングサービスの登場によりアグリゲーターやディストリビューターが必要とされるようになり、そこにソーシャルプラットフォームが加わって従来のストリーミングとの相互作用が生まれました。ソーシャルメディアはディスカバリーとクロスオーバーの源泉になっています。そして次の問いは「AIはここにどう関わるのか」です。

音楽とのインタラクションの変遷を振り返ると、ラジオ時代のパッシブなリスニングから始まり、ストリーミングでプレイリストを自分でカスタマイズできるようになり、SNSでは投稿に好きな音楽を組み込めるようになりました。こうして段階的に、リスナーと音楽の関わりは非常にインタラクティブなものへと進化してきたのです。AIはその次のステップです。リスナーやアーティストが音楽そのものとインタラクティブに関わり、制作やプロモーションの新しいツールとして活用できるようになる。Spotifyなどがすでにさまざまな実験を始めていますが、これは非常にエキサイティングな展開です。

将来、ディストリビューターの役割は「プラットフォームに音楽を配信する」だけではなく、ソーシャルインタラクション、AIを通じたクリエイティブな交流、そしてD2Cを通じてアーティストとオーディエンスのエンゲージメントを高めることへとシフトしていくでしょう。特にD2Cは日本ではクライアント戦略の中核に位置していて、率直に言って欧米よりも進んでいる面があると思います。これは日本の音楽市場の大きな強みです。

ーーグローバルで見て、インディーズやDIYアーティストの市場シェアはどのぐらいのスピードで成長しているのでしょうか?

ピーター:毎年、インディペンデントの市場シェアは拡大しています。業界全体の成長の中で、インディペンデントセクターはメジャーよりも大きな恩恵を受けており、これが成長の牽引力になっています。これは非常にポジティブなことで、業界において多様なオファリングが維持されることを意味します。米国や欧州の一部の市場では成長がやや飽和してきていますが、アジアには遥かに大きな成長の余地があり、私たちもそこに注力しています。加えて、先ほどお話ししたように、消費者の音楽との関わり方がAIなどの新たなプラットフォームの登場で変化しつつある。これがインディペンデント業界にさらなる追い風となる可能性がある一方、もちろんリスクもあります。業界がどう対応していくか、注視していく必要があります。

 

日本は「世界で最も重要なインディペンデント音楽市場のひとつ」

 

ーー日本はグローバルメジャーのシェアが他国より小さく、ローカルメジャーが強いインディーズ大国です。Downtownのような新しい音楽サービス企業がますます貢献できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

ピーター:FUGAはオランダ発の企業で、私がまだFUGAのCEOを務めていた頃にスペースシャワーとのジョイントベンチャーに踏み出しました。日本が巨大で魅力的な市場だったからです。当時から日本の市場がローカル志向であること、またフィジカル中心であることは理解していました。しかし他国での経験から、日本にもインディペンデントなサービスやテクノロジーの選択肢がもっと必要だと考えたのです。特にFUGAが持つ先端的なテクノロジーは、日本のクライアントにも大きな価値を提供できるはずだと確信していました。振り返れば、あの判断は正しかったと思いますし、スペースシャワーという素晴らしいパートナーに出会えました。

私たちは常に、日本が世界で最も重要かつ活気あるインディペンデント音楽市場のひとつだと信じてきました。SPACE SHOWER FUGAへのコミットメントは、その信念の証です。テクノロジーの発展と市場の開放は、日本の音楽産業にも必ず恩恵をもたらすでしょう。そして私たちは、その変化の一端を担えることを心から楽しみにしています。

ーー今回の合併に対するクライアントの反応はいかがでしたか?

ピーター:全体としては非常にポジティブな反応でした。もちろん「サービスは変わるのか」「具体的にどうなるのか」といった質問を持つクライアントもいましたし、インディペンデント業界全体にとってこれが正しい動きなのか疑問を呈する声もありました。しかし丁寧に説明を重ねた結果、今ではほとんどが好意的に受け止めてくれています。この統合によってサービスが増幅され、クライアントがより幅広いリソースにアクセスできるようになるという点を理解していただけたのだと思います。説明には時間がかかりましたが、今では批判よりも期待の声の方がはるかに多く、嬉しく思っています。

 

言葉の壁を超えて──日本の音楽が世界へ出るために

 

ーー日本のアーティストが海外で活動するためのアドバイスを伺いたいのですが、「言葉の壁が問題なのではなく、文化の共有、つまりストーリーテリングが大事だ」というお考えについて、アーティスト出身のピーターさんならではの哲学をお聞かせください

ピーター:私自身がオランダ語のアーティストだった経験から、自国語で歌う限り母国の枠に限定されるという現実はよく分かります。オランダ語が通じるのはオランダ国内だけですから。かつては英語で歌わなければ国際的にブレイクする可能性はほぼゼロでした。オランダ語の楽曲で海外に出ることは、当時はまず不可能だったのです。しかし今は状況が大きく変わっています。

まず、リリースされた音楽はすべてグローバルに聴かれる可能性があります。世界中で配信を解禁できる。これはかつてはあり得なかったことです。次に、デジタル時代がアーティスト間の国際的なコラボレーションを飛躍的に増やしました。例えばエレクトロニックミュージックの世界では、アメリカのロックアーティストがオランダのプロデューサーのサンプルを使うということが日常的に起きています。それだけアクセシビリティが高まり、音楽はローカルなものからグローバルなものへと変貌を遂げたのです。

Bad Bunnyがスーパーボウルで演奏したことは、世界が外国の音楽にオープンになっていることの象徴です。もちろんBad Bunnyはプエルトリコ出身ですが、スペイン語の音楽がアメリカのメインストリームで受け入れられたという事実は、多様な文化がそのまま受け入れられる時代になったことを示しています。K-POPもアジア発のジャンルとしてグローバルで成功しています。日本にも言葉の壁はありますが、それが唯一の壁である必要はありません。他のジャンルが国際的なサウンドやクリエイティブなコラボレーションを取り入れて成功してきたように、そうした文化的な交流が日本の音楽クリエイティブにもっと注入されていけば、日本発の音楽のクロスオーバーは確実に増えていくでしょう。アニメがすでに国際的に大成功を収めていますよね。もちろん音楽とは異なるクリエイティブスタイルですが、音楽も同様に進化していける好例だと思います。

ーーDowntownグループが特に強いジャンルや地域を教えていただけますか?

ピーター:私たちは「ジャンル不問(agnostic)」のディストリビューション企業であり、あらゆるジャンルを扱っています。その中でも近年特に成長が著しいのは、エレクトロニック・ダンスミュージック、クラシック音楽、ムジカ・メヒカーナ(メキシカンミュージック)、そしてインディーポップ・ロックです。いずれも成長と機会を感じているジャンルです。

地域では、フィリピン、インドネシア、ベトナムといった東南アジアの新興市場で目覚ましい成長を遂げています。ブラジルやメキシコでも力強い成長を見せており、私たちにとって非常に重要な市場です。一方、日本や欧州、米国のような大きな音楽市場でも継続的な成長と機会がありますが、そうした成熟市場では、どの領域でどう成長を実現するのか、より戦略的にフォーカスしていく必要があると考えています。

 

日本の音楽業界へのメッセージ

 

ーー最後に、Musicmanの読者である日本の音楽業界の皆様へメッセージをお願いします。

ピーター:まず個人的なことを申し上げると、私は日本の文化にとても敬意を持っています。学生時代に両親が東京に住んでいた時期があり、頻繁に訪問する中で日本の文化に触れることができました。日本がどのように進化してきたかを見てきましたし、今、田中さんやクリスティアン(FUGA President)たちと一緒にSPACE SHOWER FUGAで素晴らしい仕事ができているのは、私にとって日本の文化への温かい再会のようなものです。

読者の皆様にお伝えしたいのは、インディペンデントであることは音楽産業にとって不可欠であり、アーティストのキャリアを育てるために多様な趣味嗜好、文化、起業家精神を確保するうえで極めて重要だということです。DowntownとFUGA、そしてVMGを含め、私たちはそれを支え、増幅させるためにここにいます。

日本は世界で最も重要かつ活気あるインディペンデント音楽市場のひとつだと、私たちは常に信じてきました。SPACE SHOWER FUGAへの揺るぎないコミットメントこそが、日本のインディペンデント音楽市場に対する私たちの期待と情熱の何よりの証です。

ポッドキャスト概要:

Musicman Podcast — 業界の“今”を深掘り

「Musicman大学」は世界の音楽業界の最新トピックスを解説。講師は『音楽が未来を連れてくる』の著者、Musicman編集長・榎本幹朗。「Talk&Songs」は月間500組ものアーティストニュースを担当するKentaが選ぶ、今聴くべき楽曲と業界人必聴のバズった曲を解説。

Spotifyでポッドキャストを聴く

プレイリスト概要:

記事連動セレクション — エピソードと繋がる楽曲たち

月間500のアーティスト記事から厳選した楽曲と、業界人必聴のバズ曲をプレイリストで。最新シーンの決定版!

Spotifyでプレイリストを聴く
@musicman_nusicman