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知らない音楽に出会う場所としてレコード店【連載】街音 vol.1 円盤 Peninsula(ディスク ペニンシュラ)インタビュー

インタビュー 街音

円盤 Peninsula(ディスク ペニンシュラ) 岡凜朗

レコードブームの影響で、大手チェーンとは違ったタイプの新しいレコード屋が増えた。それらの多くは独立資本で運営され、イベントを開催することで地域の音楽シーンに貢献したり、音楽を聴くという体験を提供する場、あるいは常連が集う地域社会のハブとなるなど、単にレコードという「もの」を売る場所だけに収まらない役割を担っている。一方で老舗の店舗も、それぞれの地域で独自の存在感を持ち続けている。この連載では、レコード屋へのインタビューを通じて「街と音」との関係を深掘りしていこうと思う。

栃木県小山市。ライブハウスもクラブもない、音楽カルチャーとの縁が薄いこの街に2021年、ひとりの若者が中古レコード屋を開いた。円盤 Peninsula(ディスク ペニンシュラ)。大学卒業と同時に立ち上げた、小山市で唯一の中古レコード店だ。店主の岡凜朗さんは、就活で一度も内定が出ないまま「諦めをつけるため」にこの店を始めたという。そこから5年、今や小山近隣だけでなく、茨城・群馬・埼玉北部からも客が訪れる場所になった。

レコードブームの真っ只中でオープンし、大手に対抗するよりも「知らない音楽に出会う場所」としてのポジションを静かに作り続けてきた岡さんに、音楽遍歴から開業の経緯、地域性への眼差し、そして10年後のビジョンまで語ってもらった。

レコード店主の音楽遍歴〜B’zからジャパコア、ノイズ、ジャズへ

──まず、今までの音楽遍歴を教えてください。

岡:最初に好きになったのはB’zです。小学校の時に親が聴いていたのがきっかけですね。B’zの楽曲には、往年のハードロックをオマージュしたような曲があるんですよね。YouTubeのコメント欄で「これはツェッペリンやストーンズのパクリだ」と非難している人がいて、本当に似てるのかなと思って元ネタの曲を聴いてみるようになったんです。そこからメタルに少し興味が出ました。

──そこから掘り始めたんですね。

岡:その流れで80年代以降のメタルやハードロックを聴くようになりました。中学生の時はメタルを聴いていて、雑誌の『BURRN!』も買っていましたね。でも冷静に考えてみると、メタルが好きだったというよりも「誰も知らない音楽を聴いている自分がかっこいい」という自意識で聴いていた節がありました(笑)。その後、高校に入った時に音楽好きな友達ができて、彼がプログレ好きで。

──高校生でプログレ好きとはだいぶ渋いですね。

岡:中学生の時にキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」やピンク・フロイドの「狂気」をTSUTAYAで借りて聴いたのですが、当時は全然良さがわからなくて。でも、その友人と出会ってもう一回その辺りを聴くようになり、やっと良さがわかったんです。そこからソフト・マシーンやハットフィールド・アンド・ザ・ノースといったカンタベリー系と言われるプログレや、イギリス以外のフランスやイタリアなどの音楽にも触れるようになりました。

──マグマとかアモン・デュールみたいな。

岡:ドイツもそうですね。そういうイギリス以外のユーロプログレなどを友人の影響で聴くようになった時に、音楽の幅が広がったと思います。その頃にはメタルの呪縛から逃れていて、昔の日本の少しアンダーグラウンドなロックも聴いていました。

──幅広く音楽を聴くようになっていった。

岡:ジャパコアやノイズにも興味が出てきて、あとジャズもカッコつけて聴くようになりました。最初は良さがわからなかったですけど、聴いていくうちにだんだんジャズの魅力もわかってきて。

──そこまでが高校生の時ですね。その後は?

岡:大学進学を機に栃木に引っ越してきて、そこで始めたバイト先に音楽好きの方がいて、CDを貸し借りするようになりました。ディアンジェロやア・トライブ・コールド・クエスト、5lackなど、R&Bやヒップホップ系の作品を貸してくれたんです。当時ヒップホップは全く知らない世界で、自分はいろいろな音楽を聴いている気になっていたけれど、知らないかっこいい音楽がまだまだあるんだと衝撃を受けました。そこから興味の方向がどんどん拡大して、今に至っています。

 

「そもそも働きたくない」からレコード屋を開業

──レコード屋を開業するまでの経緯を教えてください。

岡:大学に入ってからはレコード屋にも足を運ぶようになって、宇都宮にもいくつかあったので自転車で行ける範囲のところへはよく行っていましたし、東京にも出向いていました。いざ就活の時期になって一応活動はしていたんですけど、やりたいことが特にないし、入りたい会社もないし、そもそも働きたくない(笑)。

──(笑)。

岡:そこでふと「レコード屋をやってみようかな」という考えがよぎって。すぐに決断はせず就活も続けていたんですが、結局内定も出ず、どんどん嫌になってしまって。当時はよく宇都宮のレコード屋に遊びに行っていたので、レコード屋をやるって言ったらアドバイスをもらえそうだし、いけるんじゃないかと思っちゃって。

──いけると思っちゃったんですね。

岡:勝手にそう思ってしまいました。あと、一度就職して給料が安定してしまったら、その安定を手放してレコード屋を始めるのは難しいだろうなと思ったんです。でも、やらなかったら「レコード屋をやれば良かった」という後悔がずっと残る気がして。ダメ元でやってみて、失敗したら自分の中で諦めをつけようと。諦めがつけば、納得して就活や就職ができるんじゃないか、という気持ちもありました。

──レコード屋をやると決めて、在学中から準備していたんですか?

岡:そうですね、やると決めてすぐ就活を辞めました。大学4年の6月か7月くらいだったと思います。それから準備して、卒業後に少し準備期間を挟んでオープン、という流れです。

 

開業5年目の現状、印象に残った買取

──今年で開業5年目ですね。開業当時と比べて変わったことはありますか?

岡:やっぱり在庫ですね。量はもちろん質も、今もまだまだですけど。開業当時は今考えたら怖いくらいの量と質で、よくやっていたなと。それでもお客さんが何かしら買ってくれていたのはありがたいですね。それからおかげさまでぼちぼち集まってきたので、当時よりは見応えはあるかなと思います。

──ちなみに今の在庫はどのくらいありますか?

岡:中古レコードはEPとLPを合わせると7,000〜8,000枚くらいはあるのかな。中古CDは3,200枚くらいです。今まで取り扱った新譜の数は100を超えています。

──たくさんの在庫の中で、どのジャンルがよく動きますか?

岡:やっぱりロックですね。ビートルズなど古めのロックは根強い人気があります。

──経営していて大変なことはありますか?

岡:すべてが初めての経験なので、様々なことを自分で考え、進めなければならない点は大変です。例えば店の看板やショッパーのデザインを考えている時の思考と、確定申告をやろうと思っている時の思考のスイッチが違うので、それを切り替えるタイミングは結構疲れたりします。

──反対に楽しいことは?

岡:誰にも咎められないのでプレッシャーを感じないことですね。怒られたり注意されたりすることはありませんから。結局自分にしわ寄せは来るんですけど、ストレスなくできるのは良いところかもしれません。

──近年レコードがブームになり、若い人が興味を持ったり、レコードカフェができたりしています。お店をやっていてレコードブームは感じますか?

岡:オープンした2021年がレコードブーム真っ只中だったので、ブームの状態しか体験していないんですよね。以前と比較ができないのでなんとも言えませんが、若いお客さんがちょこちょこ増えてきたとは思います。その人たちが継続してリピートしてくれるかは別として、これがレコードブームということなのかな、と感じています。

──近年の物価高や仕入れの値上がりの影響はありますか?

岡:仕入れはほぼ買取で行っているので、直接の影響はあまりないですね。レコード会社からの卸メインでやっていれば物価高の影響を感じるかもしれませんが。ただ、仕入れよりも資材の値上がりは感じます。店を始めて5年経つか経たないかですが、資材屋さんから毎年のように値上げのカタログが届きます。

──買取の話が出ましたが、印象に残っている買取のエピソードがあれば教えてください。

岡:始めて1年経ったくらいの時に、昔ヒップホップのDJをやっていたという人から「家にレコードがあるから見に来てよ」と言われて出張買取に行きました。何回か通ううちに、ある日「ここにあるやつ全部売る」と言い始めて。ヒップホップを中心に、元ネタのレアグルーヴやジャズを含めて1,000枚くらいあったんです。

──1,000枚全部ですか。

岡:その方はあまり仕事をされていないようで、精神的に少し弱っている感じでした。その割にはしっかり値段交渉されましたけど(笑)。金額の落としどころがついて納得してもらい、車に運び終えると、部屋の中にびっしりあったレコードが全部なくなってガラーンとして。お金を払って「ありがとうございました」と帰る時、その人が抜け殻のように部屋の中にボーッと座っていて。それとは対照的に、外からは秋の日差しが綺麗に入っていて、そのコントラストがすごく印象に残っています。

──絶対にレコードにまつわる思い出があったはずですもんね。

岡:あったと思います。だから売るとは言っていても、本当は全部売る気はなかったと思うんですよ。引っ越し資金が必要だったり、運ぶのが大変だったりという事情もあったんでしょうけど。その人の儚い姿を見て、「ああ、俺もいつかはこうなるんだ」と。モノに依存している虚しさというか、集める人の行く末を見たような、印象深い買取でした。

──それは自分も含めて、レコードを買う人全員の未来かもしれませんね。

岡:警鐘を鳴らしているわけではないですけどね(笑)。お店をやっている身としては、もっと皆さん集めてくださいって感じです。

──小山という地域ならではの買取の内容はありますか?

岡:小山のご当地ものや、近いので茨城(結城など)のご当地ものの買取はぼちぼちありますね。

──それは民謡ですか?

岡:民謡や、町の町民歌みたいなものです。70年代頃に流行ったんだと思いますが、オリジナルで作って、気合が入っている町は有名な歌手に歌ってもらったりしていました。島倉千代子さんや三橋美智也さんなど、当時すごく売れていた歌手を呼んで。

──その辺りのレコードを掘り下げていくのも面白そうですね。

岡:そうですね。宇都宮には宇都宮の、那須や日光にはそちらのものがあると思いますが、栃木県南・茨城県西エリアの作品はよく入ってきます。

──今ある在庫の中で、この店らしい一枚はありますか?

岡:「この店らしいもの」はあえて作らないようにしているのかもしれません。満遍なくいろいろなものを出したいので。どんな聴き方をしている人にも、何かしら引っかかるような一枚を置いておきたいと思っています。そもそも買取メインでやっているので、特定のこだわりのものだけを仕入れているわけではありません。裏を返せば「ウチらしさ」をあまり打ち出していないということになりますね。

──新譜のレコードやカセットは、なかなか見ない珍しい品揃えだと思います。この店らしさというのは、こういった新譜で出そうという意識ですか?

岡:そうですね。新譜は完全に自分の好きな作品を置いているので、そこでお店のカラーをカバーしている部分はあります。

──国もジャンルも幅広いと思いますが、新譜の仕入れ方について教えてください。

岡:ネットで探して、良いなと思ったらそのレーベルに直接連絡を取っています。海外のレーベルにも、翻訳アプリを使って英語でメールしています。

──新譜は弟さんとお二人で探しているとか。

岡:弟も結構音楽が好きなので、新譜を見つけたりするのは二人で分担しています。「これ連絡しておいて」と頼んだり、SNSのキャプションも手分けして書いたりしています。

──今、どの辺りのジャンルに注目していますか?

岡:二人とも以前からベースミュージックが好きで、しかもちょっと変わったアプローチのものが好きです。これからシーン的にも面白くなると思いますし、自分たちも好きなので今後も取り扱っていくと思います。

──ベースミュージックに限らず、お二人のアンテナに引っかかった面白そうな作品を取り扱っている感じですか?

岡:そうですね。ハードコアパンクも好きですし、前衛的なもの、テクノ寄りなもの、ブラックメタルっぽいものなど様々です。どのジャンルにも良さがあると思うので。あとは「他のお店が仕入れていないもの」というのは少し意識しています。

──ここでしか取り扱っていないことを売りにしている。

岡:売り上げを考えて新譜を入れているわけではないので。新譜だけで売り上げを立てるのは難しいですし、どうせ売れないならどこでも買えるものばかり置くより、振り切って面白いものを取った方がいい。結果的に「うちでしか扱っていない」というのが強みになるかなと思っています。

 

小山の音楽シーンについて

──そもそも、なぜ小山で開業したんですか?

岡:場所を考えた時、栃木県外でやることはあまり考えませんでした。宇都宮のレコード屋の方など、相談に乗ってくれそうな人がいる栃木の方が心強かったので。ただ、宇都宮はすでにレコード屋がたくさんあるので勝てない。栃木の中で2番目に人口が多くて新幹線も停まり、東西南北の道路が交わる交通の要衝でありながら、レコード屋が他にない。それで小山が良いんじゃないかと思いました。

──お店をやっていて、小山という地域性を感じますか?

岡:小山は東京まで一本で行けるので、みんな東京へ遊びに行くんです。自分も行きますし。だから「小山で何かをしよう」という人は少ない気がします。レコード屋に行きたいと思っても小山にはないから東京へ行く。これは若い人に限らず、昔からそうなんだと思います。

──買取をしていてもそれを感じますか?

岡:60代や70代のおじいちゃんが来店して、「こんなお店があったの知らなかったよ。レコードが出てきて、東京に行かないと買い取ってもらえないと思ってた」と言われることがあります。いつもと違うことをするなら東京に行くしかない、東京に行けば大体何でもできる、という意識の人が多いんじゃないかと思います。

──小山で「円盤 Peninsula」はどういう存在だと思いますか?

岡:単純にうちしかないので、今は「小山にとりあえず1軒、専門の中古屋がある」という存在なんじゃないかと思います。ジャンルを絞っていたら意味合いは違ったかもしれませんが、全体的に置くようにしているので、それ以上でも以下でもないかなと。もし小山にもう1店舗レコード屋ができたら、逆にうちのカラーが浮き彫りになっていくのかもしれません。

──現時点では比較対象がないですもんね。

岡:そうですね。比較対象がないし、一見してすぐわかる特色を打ち出しているわけでもないので、まだ特別な意味を付随できる段階ではないと思います。別にそれは悪いことだとは思っていなくて、それでいいと思っています。正直、新しいレコード屋はできないでほしいですけどね(笑)。

──小山の音楽シーンについて教えてください。

岡:音楽シーンって基本的にクラブやライブハウスみたいな場所があって形成されていくと思うんですけど、小山にはクラブがなくて、ライブハウスも一応1軒あるものの、活動が活発かどうかわからない状態で。活動する場所がないんです。

──飲食店でDJイベントをやっているところはありますよね。

岡:レストランやバーにDJブースを置いてイベントをやっているお店はいくつかあります。ただ、店同士が絡み合っている感じはあまりなくて、それぞれ独立してやっている印象です。「小山のシーン」というより、各お店の特色として存在しているという感じです。

──でも、それは悪いことではない。

岡:シーンに発展していないことがダメだとは思いません。ただ、「小山の音楽シーンってどう?」と聞かれたら、個々の店の中にはあるかもしれないけれど、街全体としてはまだないんじゃないかなと思います。

──小山市立文化センターで開催しているイベント「in the offering」について教えてください。始めたきっかけは?

岡:小山でお店を始めたものの、縁もゆかりもない土地だったので知り合いが全くいなくて。お店を始めたら自分と同じくらいの年の友達ができるかと思ったんですが、全然できなくて。今はスマホでいつでも音楽が聴ける時代だから、音楽好きだからといってレコード屋に集まるわけじゃないんだなと。本当に友達がいなかったんです。

──それはつらいですね。

岡:結構つらかったです。マジで友達を作りたいなと思って。ライブハウスがあれば、好きなバンドが来ている時に話しかけたりできると思うんですけど、それもない。だから、自分でイベントを開けば友達ができるかなと思って企画したのがきっかけです。一番の動機は個人的な理由ですね。

──イベントを開催することによって、お店の特色を出したいという意図もありますか?

岡:もちろんあります。イベントをやることがお店のアピールにもなりますし。でも一番の理由を聞かれたら、友達や知り合いを増やしたいからです(笑)。

──今までに2回開催して手応えはありましたか?

岡:手応えはありました。何より自分が楽しかったので、それが一番ですね。

──出演アーティストはどんな基準で選んでいますか?

岡:できるだけ若手のバンドやDJが良いですね。あとは単純に声をかけやすかったり、うちで音源を取り扱っていたり。会場との相性や組み合わせも考えます。何より「自分が見たい」「自分が好きなバンド」を思い浮かべて、そこからできるだけ若い世代に絞って決めています。

──今後どんな感じでイベントを展開していきたいですか?

岡:こういうイベントにあまり興味がない人たちも巻き込んでいきたいです。「なんかやるらしいよ」という感じで、出演者を知らなくてもふらっと来てくれる人が増えてほしい。そこから化学反応が生まれて、この近辺から面白いバンドやDJが出てきたりとか、そういう広がりがあってほしいですね。そして、友達が増えてほしいです(笑)。

──将来に向けて種を蒔いているような。

岡:そんな大層なことは考えていませんが、結果として種を蒔いた形になってくれればいいなと。種を蒔いても実を結ぶかはわからないし、そればかり気にすると負担になってしまうので。とりあえずは「自分が楽しいと思えるイベントをやる」ということを第一に据えて、おまけで色々な人が出てきてくれたら嬉しいな、という気持ちでやっています。

 

知らない音楽に出会う場所

──10年後のビジョンはありますか?

岡:10年後ということは、開業から15年お店を続けているってことですよね。その時は38歳。今やっと「これをやっておいた方がいいな」という課題がなんとなく見えてきたところです。

──今までは目の前のことに必死で、将来のことまで考える余裕がなかったということですか?

岡:必死というか、今まではコツコツと在庫を出して増やして、と黙々とやってきたんですが、そうじゃない部分が少しずつ見えてきました。直接的な売り上げに繋がるわけではないかもしれないけれど、この先を見据えた時に、レコードブームが終わった後や価格が高騰している中で、うちみたいな個人店はどうやって生き残っていくべきか。今のうちに手を打っておくべきことが見えてきたんです。

──やっておいた方がいいこととは、具体的には?

岡:今レコードブームと言われていますが、結局売れるのは人気のある名盤ばかりなんです。ロックの名盤やシティポップなど、よくメディアで取り上げられる作品に人気が集中しています。

──山下達郎とか。

岡:そうですね、最近いくらか落ち着きましたけど。でも、僕は全然知らない音楽に興味を持ってほしいんです。ここは「自分が知っているものを探しに来る場」ではないというか。知っているものを買うだけならネットの方が絶対に早い。自分の知らない音楽に興味を持つ人を増やしたいんです。今までもやってこなかったわけではないですが、例えば値札にコメントを書くというのもその施策の一つでした。

──個人的には、一枚一枚にコメントが書いてあるお店は親切なレコード屋だと思います。

岡:でも、あまり効果がないなとやっとわかってきました。読む人が少ないですし、読んでいてもそのレコード屋を信頼していないとあまり参考にしないと思うんです。僕は有名なDJでもプロデューサーでもないので、信頼度は低いでしょうから。とにかく、人気盤以外の作品にも興味を持ってもらわないと。この先、どれだけ人気盤を仕入れられるかの勝負になってしまったら、地方の弱小個人店が大手に勝てるわけがありません。長く続けていくなら、あまり売れないような商品に注目してもらい、面白がって買ってもらう道しかないと思うんです。

──生き残るための戦略として、いわゆる安盤に価値をつけてゆくというか。

岡:そうですね。

──あまり見向きされていないけれど、実はこのレコードはすごく良いんだよということを伝えていきたい。

岡:分かりやすく言うとそういうことです。騙しているわけではなくて、みんな見過ごしがちですが、素晴らしい作品が山ほどあるんです。僕も「これも、これも」と全部お勧めしたいですが、それはしつこいからできません。でも、そういう作品がたくさんあるし、僕自身がまだ知らない盤も無数にあります。そういう面白さに気づいてもらえるような取り組みをやっていく必要があるなと思っています。

──ご自身で中古レコードを買う時も、そういうスタイルですか?

岡:そうですね。知っている音楽はいつでも検索できるじゃないですか。でも、ここで初めて見るアーティスト名のレコードは、今買い逃したら一生聴かないかもしれない。それなら知らない方を買った方がいい。高額な盤ならまだしも、千円くらいなら失敗しても自己破産するわけじゃありませんし。そっちの方が絶対に面白いと思っているので、その面白さに共感してくれる人を増やしていきたいですね。

──最後に、10年後のレコード文化はどうなっていると思いますか?

岡:あまり明るいことは言えませんが、ビンテージアイテムのようになっているでしょうね。今でもレコードは少し高級品というか、サブスクやCDよりも「上品な音楽の聴き方」のような、神秘性が煽られている気がします。

──レコード屋の商売的な部分に関してはどうですか?

岡:今のレコードブームが終わったとしても、一気に買う人がいなくなることはないと思います。うちみたいなレコード屋が軒並み潰れるかと言われたら、そんなことはないんじゃないかな。そこは絶望していません。どの時代でも一定数買う人はいますから。今は40〜50代のお客さんが多いですが、10年後はその人たちが50〜60代になります。その年代ならまだみんな買っているでしょうし。

──レコードブームで裾野が広がったことで、潜在的なお客さんも増えていると思います。

岡:ブームのおかげで、レコードに縁がなかった人たちも一度は触れましたよね。そういう人たちが増えたことは、レコードの寿命を延ばしたと思います。「昔流行ったよね」「結構高かったりしたよね」と記憶に残った人が増えたことで、価値の付くものとしてまだ保たれていくはずです。ネットもさらに発展して売りやすくなるでしょうし、日本でダメでも世界に向けて売ることもできます。10年後も商売としてまだまだやりようはあると思っています。


円盤 Peninsula (ディスク ペニンシュラ)
栃木県小山市駅東通り3-31-9エムジャパンコーポ102
営業時間:12:30〜20:00
定休日:金曜(祝日の場合は営業)
TEL:080-6015-7161
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