第94回 山田 勝也 氏 株式会社愛印 代表取締役/プロデューサー

インタビュー リレーインタビュー

山田 勝也 氏
山田 勝也 氏

株式会社愛印 代表取締役/プロデューサー

今回の「Musicman’s RELAY」はテイ・トウワさんからのご紹介で、株式会社愛印代表取締役/プロデューサーの山田勝也さんのご登場です。山田さんは、アメリカへ音楽留学し、帰国後CM音楽制作会社サーティースに入社。日本コカ・コーラ「爽健美茶」CMでマライア・キャリーと、日産「ステージア」CMではメイシー・グレイとのコラボレーションを実現するなどCM音楽プロデューサーとして様々な作品を手がけられ、2008年に株式会社愛印を設立されました。愛印設立後は大手企業のCMを中心にCM音楽を制作する一方、アーティストの楽曲プロデュース、映画、DVD、企業Webの音楽プロデュースなど多岐にわたりご活躍されています。今回のインタビューではCMの制作秘話からCM音楽プロデューサーの仕事についても伺いました。

[2011年1月26日 / 港区西麻布 株式会社愛印にて]

プロフィール
山田 勝也(やまだ・かつや)
株式会社愛印 代表取締役/プロデューサー


東京生まれ。アメリカ・ロサンゼルスに音楽留学後、CM音楽制作会社(株)サーティースを経て独立、08年株式会社愛印設立。
04年日本コカ・コーラ「爽健美茶」でマライア・キャリーと、日産「ステージア」ではメイシー・グレイとコラボレーションを実現、モーガン・フィッシャー他国内外における著名作家・アーティストと共に音楽制作を行う。
CM音楽以外でもSMAPのライヴツアーのオープニング曲、夏木マリのアルバムをプロデュース、NHK「グッジョブ!」、テレビ東京系アニメ「HEROMAN」の音楽や映画、DVD、企業Webの音楽プロデュースを手掛けるなど活動範囲を広げている。
2010年からスウェーデンのアーティスト、マイア・ヒラサワのアルバムを協同プロデュースし、2011年1月19日にリリース。

【CM作品】
・KDDI株式会社  iida
・株式会社リクルート ホットペッパー
・株式会社ユニクロ
・大塚製薬 オロナミンC
・日本ハム シャウエッセン
・大塚製薬株式会社 ポカリスエット
・大塚製薬株式会社 カロリーメイト
・花王株式会社 エッセンシャル
・株式会社資生堂 エリクシールシュペリエル
・クラシエフーズ FRISK
・トヨタ自動車株式会社 レクサス
・株式会社エムティーアイ ルナルナ
・サントリーホールディングス株式会社 ニチレイアセロラドリンク
・イケアグループ IKEA MICKE
・カゴメ株式会社 野菜生活
 他


 

    1. たまたま入ったCM音楽の世界
    2. CM音楽プロデューサーの仕事とは?
    3. アーティストに必要なのは技術よりも表現力
    4. 好景気でもアイデアがなければ仕事は来ない
    5. 流れに従いつつ、どう表現するかが重要
    6. CM音楽業界の課題

 

1. たまたま入ったCM音楽の世界

−−前回ご登場いただきましたテイ・トウワさんと出会われたきっかけは何だったのですか?

山田:「iida」というauの携帯ブランドを立ち上げるときに、そのCM音楽をテイさんにお願いしたんです。そのときご一緒したのが縁で今でも色々とお付き合いさせていただいています。ただ、テイさんは覚えていないと思いますが、10年くらい前にサックスプレーヤーの清水靖晃さんがテイさんのアルバムに参加されたときに、僕は清水さんの後について現場へ行って、テイさんとお会いしているんですよ(笑)。

−−そうだったんですか。テイさんに対してはどのような印象をお持ちですか?

山田:アーティストとしても素晴らしいですし、音楽ビジネスの才覚もすごく持っていると思います。常に先を考えていますよね。配信に関してもテイさんは既にご自身でやり始めていますから。

−−MACH(マッハ)ですね。

山田:セレクトショップ的な考え方もすごくいいですよね。試しにダウンロードさせてもらったんですが、全く問題ないです。僕も配信について考えてはいるんですけど、テイさんには常に先を行かれている感じがしてちょっと悔しいですね(笑)。

−−(笑)。ここからは山田さんご自身についてお伺いしたいんですが、山田さんはどのような家庭環境で過ごされたんですか?

山田:出身は東京の三鷹で、父が作・編曲家でした。CM音楽もやっていたそうなんですよ。

−−小さい頃から記憶に残っているお父様の曲はありますか?

山田:なくはないんですが、演歌とか歌謡曲寄りであまり興味がなかったんですよね。

−−ご家庭で流れていた音楽は歌謡曲が中心だったんですか?

山田:いや、洋楽が多かったですね。母が好んで聴いていたのは、ビリー・ジョエルとかボズ・スキャッグス、ビートルズももちろんそうですけど、AORが多く流れていたような気がしますね。

−−その後、ご自身でも音楽を始められたんですか?

山田:そうですね、中学・高校くらいからギターを始めて、もっと深く音楽を学ぶためにアメリカのロサンゼルスにあるMI(Musicians Institute)という学校へ音楽留学しました。

−−アメリカでの生活はその後の人生に大きな影響を与えましたか?

山田:色んな意味で大きかったと思いますね。日本にいる頃は音楽の幅も狭かったので勉強になりましたし、それにみんなすさまじく上手いんですよ。もちろん下手な人もいましたけど、とにかく上手い人が多い。基本的にオールジャンルをやろうと思っている人はいなくて、ブルースだけはめちゃくちゃ上手いとか、好き・嫌いがすごくはっきりしている人が多かった気がします。それと、向こうは「言ったもの勝ち」みたいなとこがあるので、自分で「ミュージシャンだ」と言っても本当のミュージシャンじゃない人が多いんですよ(笑)。

−−自称ミュージシャンが多いんですね(笑)。日本にはいつ頃戻られたんですか?

山田:学校を卒業してすぐですね。日本に戻ってきてからサーティースというCM音楽制作会社に入りました。その頃はCM音楽をやろうとは思っていなくて、何かしら音楽に近いところにいた方がいいだろうということで、とりあえず募集している音楽関係の会社に入ったんです。

−−では、CM音楽の仕事を始めたのはたまたまだったんですか?

山田:たまたまですね。その頃はジャズギタリストの布川俊樹さんの弟子もやっていたので。

−−布川さんの弟子とサーティースでの仕事は同時にやられていたんですか?

山田:そうですね。ジャズを教えてもらいながらサーティースでアルバイトしていました。当時サーティースの社長だった内田さん(内田英樹氏)が僕を買ってくれていたので、「ミュージシャンは諦めたほうがいい。お金にならないから」と言って諭すわけですよ(笑)。当時は社員になりたくなかったんですが、毎日のように「社員になったほうがいいんじゃないのか」と言われ続けて…(笑)。

−−(笑)。ずっと抵抗してたんですか?

山田:抵抗まではしていないですけど、自分のやりたいこともほかにありましたしね。ただ、2〜3年仕事をしているうちに自分の中でCMがすごく面白くなってきたので社員になりました。

 

2. CM音楽プロデューサーの仕事とは?

山田勝也02

−−CM音楽プロデューサーという仕事をひと言でいうならば?

山田:どういう音楽なら映像が引き立つかを解釈した上で、具体的に表現するのがCM音楽プロデューサーの仕事です。クライアントから直接発注を受けることもありますし、CM全体を演出するディレクターと密にやるというというケースもあります。音楽は直感的なものですからCMにおいて非常に重要なポイントなんですよ。

−−映像ディレクターから発注のときに楽曲のイメージを指定されることもあるんですか?

山田:監督によりますね。音楽好きの監督は自分で考えてきますし、逆にまっさらな状態で投げられるときもあります。

−−そして山田さんは、どちらの場合でも面白さを見つけることができたと。

山田:そうですね。CM音楽プロデューサーによって仕掛け方は千差万別ですし、作った作品の色も違うんです。そこに面白さを感じたのと、当時はすごくアーティスティックな仕事に感じたんですよ。CM業界は映像も音楽もクリエーターとして優れている人が多いですから。

−−山田さんがメインのCM音楽プロデューサーとして活動を始めるのは入社してどのくらい経ってからだったんですか?

山田:当時内田さんからは、「CM音楽プロデューサーとして完成するまでには5年かかる」と言われていました。僕は2〜3年でメインをやり始めたんですが、やはり内田さんのおっしゃった通り「なんとなくわかったな」と思えたのが5年目でしたね。自分の経験値が少ないときは、経験値の高い作家さんからできるだけ吸収しようと、例えばモーガン・フィッシャーさんとか、とにかく経験豊富な人と一緒にやって勉強させてもらいました。

−−サーティース時代に手がけられた作品の中で印象に残っている作品はなんですか?

山田:すべて印象に残っていますが、そうですね…最初に手がけたバーバリーのCMは強く印象に残っています。ただ屋上で女の人がカッパを着て踊っているだけの映像なんですが、アフリカのウォータードラムに歌を入れたりして斬新な作品ができたと思います。あとは『ウィ・ウィル・ロック・ユー』というクイーンの曲をケイコ・リーさんに歌ってもらった作品も印象的ですね。

−−CM音楽はレコードと違って頼まれないと作り始めない。でも、発注された瞬間にある程度利益を確保できますし、キャリアは全部自分のものとなって蓄積されていくというなかなかいい仕事だなと…。

山田:本当にクライアントあっての仕事だと思いますね。ただ、CM音楽プロデューサーは割とストイックな人が多くて、ずっとスタジオにこもって働いているのでそれなりに大変ですよ。

−−みなさん勉強家ですよね。新しい音楽に対してもすごい吸収力ですよね。

山田:そうしないといい作品もできませんし、次に繋がっていかないんですよね。

−−ちなみにCDはよく買いますか?

山田:買います。昔はよく「100枚買って自分のアイデアになるものは数曲あるかないか」と言われていたんですが、今はネットで音楽が聴けるのでCDショップでジャケ買いするようなことは少なくなりましたね。

−−ネットは検索もできますし、古い曲から新しい曲まで聴けますからね。

山田:あとネット上には音楽にすごく詳しい方もいるので、逆に勉強になっちゃうんですよ。

−−音楽を聴いてらっしゃる時間は相当長いんですか?

山田:そうですね。常に聴いていると思います。寝ているときも宿題があるとずっと考えちゃうんですよね。

−−あまりオン・オフがない生活ですね…でもお好きなんですよね。

山田:多分、好きじゃないとできないですし、好きじゃない人は上手くいかないかもしれないですね。

 

3. アーティストに必要なのは技術よりも表現力

−−サーティースにはどれくらいいらっしゃってから独立されたんですか?

山田:15年くらいですね。僕はタイミングって必然だと思っていて、自分で決断するのも流れがあると思っているんですが、そのタイミングが来たかなと思って、自分のやりやすい環境をもう一度作り直そうと愛印を作りました。

−−愛印を立ち上げられてどれくらいなんですか?

山田:今年で4年目です。

−−独立にあたって引き留められることはなかったんですか?

山田:なくはなかったですけど、決意は固かったですね。それに内田さんが会長を退任されたのも大きかったと思います。内田さんがいるからやっているようなところもあったので。ただ、独立にはすごいエネルギーを伴うので、独立するのがいいのか、留まるのがいいのかは人それぞれだと思います。

−−独立なさって自分の思い描いていたことは実現していますか?

山田:していると思います。すごく楽しいですし、色んな方々からチャンスを頂いています。ただ、偉そうな言い方になるんですが、ちょっとでも世のためになりたいと常に思っていまして、音楽で何か活性化したり、人に喜んでもらえるためにも、アーティストものは定期的にやろうと思っているんです。

−−山田さんはSMAPのツアーのオープニング曲なんかも手がけられていますよね。

山田:そうですね。一昨年は夏木マリさんのカバーアルバムを出したり、最近はマイア・ヒラサワというスウェーデンと日本のハーフの子がいて彼女とアルバムを一緒に作ったりしています。

−−マイア・ヒラサワさんの作品は共同プロデュースですか?

山田:そうですね。マイアは自分でなんでもやれる才能溢れるアーティストなんですよ。彼女とCMをやった後に「どうしてもアルバムを一緒にやりたい」と思ったんです。ここまで強く思うことってそう何回もあることじゃないので、マイアのいる仙台まで行って話をしました。あと、単発では土岐麻子さんが歌った資生堂のCM曲を長くして『Gift 〜あなたはマドンナ〜』というシングルを作りました。

−−新しい才能と出会うために何かしていることはありますか?

山田:過信しているわけではないんですが、直感というか、嗅ぎ取る力はあると思っていて、ぱっと聴いて「この人すごいかも」と思うとそんなに外れないですね。そのレベルが高ければ高い程、アーティスト性が高いので、CMのオーダーをどうぶつけるかを考えるのもやりがいを感じます。「CMだからこうなんだ」という方法論が、そういった高いレベルのアーティストには通用しなかったりするので。

−−マライア・キャリーなど海外アーティストの作品も作られていますね。

山田:マライアはこだわりがすごく強くて、ピアノの弾き語りの曲だったんですが、自分の歌だけじゃなくて、普通の耳では聴いても分からないようなピアノのちょっとしたタッチのノイズとか、そういった部分にもこだわっていましたね。そのこだわりがあるからこそトップアーティストでいられるんだと思いますね。

 ただ CMってつい細かいところばかりに目がいっちゃって、気がつくと小さく収まっているケースが結構あるんですよ。先ほどお話したマイアは1発録りにこだわるんですが、それはピッチの善し悪しじゃなくて、自分の感情表現や感情移入がどこまでできたかを重要視しているからなんですね。マイアとやるようになって「大切なことを忘れていたな」と僕は反省しました。マライアもそうなんですよね。彼女たちは表現自体にこだわっているんですよ。

−−細かいところにこだわって小さくまとまってしまうケースというのは、最近の音楽全般にも言えることですよね。

山田:特に今のJ-POPはそういうことも多いので、誰でも同じになっちゃうと言いますか、音楽にアーティストの人間性を感じないんです。そういうものって語り継がれる音楽にはなりえないと思うんですよね。

−−では、これからはCMだけにこだわらず色々なプロデュース作品を手がけていきたいと。

山田:そうですね。ただ、CM音楽を聴いて声をかけてもらうこともありますから、CMがあるからこそアーティストものもできると思っています。

 

4. 好景気でもアイデアがなければ仕事は来ない

山田勝也04

−−現在、月に何本くらいのCM音楽を手がけてらっしゃるんですか?

山田:数えてないので正確にはわからないですが、毎日何かしらのレコーディングはしていると思います。

−−社内にはスタジオも2ルーム完備されているそうですが。

山田:2つないと回らないですね。プロデューサーも3人いますし、時間をかけてやる場所と本番を録る場所が必要ですから。

−−フル稼働ですか?

山田:フル稼働ができるように頑張っています。

−−現在CM音楽は広告費削減の影響を受けているんですか?

山田:影響を受けているところもあると思うんですけど、世の中の景気よりもアイデアをどう出していくかが最後には問われるので、アイデアがなかったら不況でなくても仕事は来ませんし、誰の耳にも留まらない音楽になってしまうと思います。

−−俗にCMというとだいたいテレビCMのことですよね。

山田:基本的にはテレビCMなんですが、テレビはメディアとして古くなっていくと思うんですよね。

−−今、WEB広告の比重も大きくなっていると思うんですが、WEB広告の音楽とテレビCMの音楽との違いはどこにあるんですか?

山田:WEBの方が曲を長く使える分、色々な音楽的表現ができるということはありますね。

−−でも予算自体は変わらない?

山田:同じですね。テレビもWEBもあるものはあるし、ないものはないですし。

−−でも音楽に対する費用ってもっと高くてもいい気がしますよね。その最たる例は映画ですが、予算が少なくても映画音楽をやりたい方は多いみたいですね。

山田:やりたいですね。ただ、映画は長いので、好きじゃない映画をやるのはちょっと厳しいと思います(笑)。

−−(笑)。CMの場合でも「これに音楽をつけるのは辛い」と思うような映像ってあるんでしょうか?

山田:映像というよりもスタッフのモチベーションが低いときが一番困りますね。「これでいいよ」って適当に言われちゃうと、こちらのモチベーションもすごく下がるんですよね。そういうことはまれですが、受けないほうがよかったのかなと思ってしまいます。

−−CM音楽は基本的に発注されてから動き出すと思うんですが、自分からこのCMをやらせてくださいと営業することは滅多にないんですか?

山田:できるだけアピールはしますね(笑)。昔はすぐに「やらせてくれ!」と言っていたんですけど、最近は言い方を考えるようになりました(笑)。

−−けっこう強引だったんですね(笑)。

山田:人のことは考えていなかったですね。今は大人になったので失礼にならない程度に…(笑)。ただ、言っている内容は同じだと思います(笑)。

−−今後はどんなCMをやりたいですか?

山田:音楽中心のものは大好きなのでこれまで通りやっていきたいですね。この4年間は愛印という会社のイメージを作ることや、自分の好きなものをできるだけ作ることを意識していたんですが、これからは間逆のものと言いますか、へんてこりんで何も感想が言えないくらいの作品も作ってみたいですね(笑)。そこのセンスってすごく難しいと思うんですが、最近はかっこいい印象の作品が多いので、そうじゃないものを作っていきたいなと思っています。

−−ちなみに他のCM音楽プロデューサーが作ったCM音楽は気になりますか?

山田:いいと思う作品は気になりますね。そして、自分の中で「なぜいいと思ったのか」も含めてシミュレートするようにしています。ただ、先ほども言ったようにCMだけにこだわると間口が狭くなって小さく収まってしまうケースが多いので、今はあまりCMだけにこだわっていないですね。

−−幅広く音楽全体で捉えているんですね。

山田:「気になるものはなにか?」ということだけしか考えていないです。

 

5. 流れに従いつつ、どう表現するかが重要

山田勝也03

−−山田さんは音楽以外の趣味はあるんですか?

山田:あまりないんですよ(笑)。音楽に携われてなかったらどうなっていたのか…といつも思います。

−−でも社内は絵などのアートがたくさんあってアーティスティックな感じがしますね。

山田:何でも気になるものは集めるようにはしていますね。

−−やはりクリエーターのお知り合いは多いんですか?

山田:そうですね。気になると何かしら声をかけることになると思うので。それも結局この立場があって自分の感覚を高めていった結果なので、やはり音楽がなかったらどうなっていたのかわからないです。

−−先ほど映画音楽のお話が少し出ましたが、映画は結構観られるんですか?

山田:映画は大好きですね(笑)。よく観に行きます。ひとつの人生観を擬似的に体験できるので得るものが大きいんですよね。あと、いい作品からはエネルギーをもらえますしね。あと、趣味で思い出しましたが格闘技も好きですね (笑)。

−−もちろん観る方ですよね?(笑)

山田:そうです(笑)。格闘技は個人の戦いじゃないですか。自分が試合するまでの道のりがすごく長くて、自分をどう奮い立たせてギリギリまでやるかというあのストイックさが大好きですね。

−−ご自身の仕事との共通点を格闘技に見出しているんでしょうか?

山田:いや、単純にそういう人が好きなんですよね。勝ち負けよりも、戦っている最中のギリギリのところを観るとすごく感動しちゃうんですよね。

−−ちなみに山田さんはギタープレーヤーとして活動されていないんですか?

山田:最近はめっきりやっていないですね(笑)。

−−自分の作品でギターを弾かれることは?

山田:CM音楽を始めた頃は弾きましたけど、今は新しい人と関わりたいので、できるだけ自分の知らない人にお願いするようにしています。

−−山田さんはCM音楽というちょっと違った角度から音楽業界を見ていると思うんですが、業界に対して何か思うことはありますか?

山田:とにかく今は時代の流れがすごく早いじゃないですか? 1年で色んなことが変わっていきますよね。僕はその流れに従うべきだと思っていて、そこでどう表現していくかが重要だと思います。割と古い体制というか、保守的な姿勢をとっている場所は多分なくなっちゃうと思いますしね。

−−音楽業界は変化したくなくて何かにしがみついているように見える…?

山田:申し訳ないですけど見えますね…。

−−(笑)。

山田:もちろん、そう思ってない人もいっぱいますし、変化している人たちは既に様々な形でアクションを起こしていると思います。ただ、全体的に変化を怖がっているし、企業としては簡単に変化できないから、そのジレンマに陥っている人もいますよね。

−−それは「CDはもう諦めたほうがいい」ということも含めてですか?

山田:CDが、というよりは色んな形があると思うので、みんなで意見を出し合うことで新しい発想が出ると思うんですけど、アーティストとのエクスクルーシブな契約をしていくのはかなり難しくなってくると思います。表現者に対する自由度を高めていかないとアーティスト自身も僕たちも不本意なことが起こってしまいます。

 例えばCMを一緒にやりたいんだけど、条件が多すぎるのでやめよう、ということに最初の時点でなってしまうことが結構あるんですよね。僕はそこがすごく問題だと思います。そもそも大きいシステムの中に音楽ビジネスを置いておくこと自体、限界がきているのかもしれないですね。

−−遅かれ早かれ今のシステムは崩壊していくと。

山田:崩壊というか、新しいものに変わっていくとは思います。それはみんなわかっていることだと思うんですけどね。

 

6. CM音楽業界の課題

−−また、音楽業界としても若い世代の育成は大切になっていきますよね。

山田:当然、若い世代を育てることは課題ですし、やっていかなくてはいけないと思うんですが、どういう志でやるか、今をどうするかということに真剣に向き合うことのほうが重要だと思っていて、そこに年齢はあまり関係ないと思うんですよ。岡本太郎さんみたいに歳をとればとるほどエネルギッシュになっていく人もいるわけですし、どのジャンルでもそうだと思います。

 もちろん若い人には頑張ってもらわなくてはいけないですし、主張も強い方がいいと思うんですが、歳をとったから若い人にスイッチするというよりは、歳をとっているからこそ道を切り開くべきだと思うんです。そうじゃないと若い人たちも場がないんですよね。結局その場を提供するのは上の人たちの責任でもあるわけですから。僕はそういう意味でサーティース時代の内田さんにその場をもらったと今でも感謝しています。

−−今は若いプロデューサーに場を与える立場になられていますね。

山田:そうですね。与えないといけないと思っていますし、常にそのこと考えています。

−−経営者としての仕事とクリエーターとしての仕事を両立させないといけないわけですが、そこに葛藤はないですか?

山田:とりあえずはないですね。

−−それは順調だということなんでしょうね。

山田:たぶんそうなんだと思います。会社として今何か課題があるとしたら若手をどうするかですね。それはうちだけの問題じゃなくて、業界全体の問題だと思います。やっぱり若い人が少ないような気がするんですよね。

−−CM音楽プロデューサーを育てるということもありますが、CM音楽からアーティストがブレイクすることで音楽業界にも力を与えてもらいたいですね。

山田:もちろんそれは常に思っていますね。CMは色んな人を理屈抜きで起用できるところもありますから。

−−このインタビューを読んでいる人の中にも山田さんのようにCM音楽プロデューサーを目指している若者もいると思うんですが、そういった人たちにメッセージはありますか?

山田:今は色んな選択肢がある時代だと思うんですね。その中で音楽を通して自分を表現すると決めたなら、曖昧な姿勢だと駄目になると思います。つまり、自分のやるべきことは何なのかを最初の時点で持ってない人はすごく弱いんです。もちろん、そこから変化をしてもいいと思いますし、方向転換もアリだと思いますが、そのことによって無駄な時間を過ごすことになってはもったいないと思うんですよね。だから、やり遂げるためにもしっかりと自分と向き合ってもらいたいですし、そういう人じゃないと新しい時代を切り開けないんじゃないかなと思いますね。でも、新しい時代を切り開くことができる人は必ず出てくると僕は信じています。

−−本日はお忙しい中ありがとうございました。山田さんの益々のご活躍をお祈りしております。 

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

これまで「Musicman’s RELAY」になぜか登場機会のなかったCM音楽プロデューサーというお仕事ですが、今回山田さんのお話をうかがって、15秒〜1分ほどの映像と音楽の中にアイディアや情熱がたっぷり詰まっていることをあらためて感じました。これまで山田さんが手がけられた作品は記憶に残る素晴らしい作品ばかりでしたが、新境地となるかもしれない「へんてこりん」なCM音楽にも期待しましょう!今後も山田さんの作品をテレビやWEBで拝見できることを楽しみにしています。

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