TAKUROが語る“ファンファースト”から生まれたGLAY公式アプリへの想い、アーティスト定額アプリが音楽産業にもたらす可能性

インタビュー フォーカス

TAKURO氏

メジャーデビュー24周年を迎えたGLAYが、2018年2月1日にサブスクリプション型音楽サービスを開始した。

1994年のデビューから現在までの400曲以上にものぼる楽曲や、100を超えるミュージックビデオ・ライブ映像ほか、様々なコンテンツを聴き放題&見放題で楽しむことができる“GLAYの全てが詰まった”公式アプリとなる。

GLAYのリーダー・TAKURO氏は「GLAYという一番好きなモノ、愛するモノを突き詰めていった」結果、このアプリが生まれたと語る。

GLAYへの並々ならぬ想い、ファンへの絶対的な信頼、アーティストがコンテンツを持つ意味、地方創生といったあらゆる想いが詰め込まれ誕生したこのアプリが、今後の音楽産業にどんな可能性をもたらすのか、話を伺った。

  1. GLAYに合ったやり方で今後の人生を描いていきたい
  2. ただ純粋に「誰が一番GLAYを好きか競争しようぜ!」という気持ち
  3. ファンの人たちの想いがGLAYの全てを支えている
  4. アプリを通してGLAYが伝えたいこと
  5. アプリを使った地方創生の可能性
  6. GLAYという一番好きなモノ、愛するモノを突き詰めていった
  7. まだ見ぬGLAYのファン予備軍とGLAYをマッチングさせたい

 

GLAYに合ったやり方で今後の人生を描いていきたい

――なぜサブスクリプション型音楽配信サービスのローンチに至ったのでしょうか?

TAKURO:アプリの開発を始めたのは2年ほど前からになります。このアプリのローンチに至る流れを考えると、GLAYの音楽業界における在り方というものが根底にあると思うんですよ。

僕らは1994年にデビューして、今年の5月25日に24周年を迎えました。デビューしてから前の事務所に10年間お世話になりましたけど、この10年間に一番感じていたことは「なぜアーティスト自らがプラットフォームを創って、仕事を生み出そうとしないんだろう」ということでした。

それにはいくつかの障害があって、例えばレコード会社や事務所との昔からある関係だったりもするけど…そういった色んな大人の都合で、例えば勝手にベスト盤が出ちゃうとか不本意な活動をさせられる人たちを見てきたなかで、GLAYないしメンバーにはそういう思いだけはさせたくない。僕はGLAYというメンバーの人生を預かるリーダーとして、GLAYに合ったやり方で今後の人生を描いていきたいと思えるようになりました。

そして、10年たった時に今までのGLAYの原盤権、著作権、ファンクラブの権利…GLAYに関わる全ての権利を僕に売ってくれと提案するわけです。2004年に交渉をはじめ、2006年頃には全てを有することが出来ました。

権利の持ち主を明確にすることは、アーティスト自身が新しいことを始めることに必要なプロセスだと思っていましたから後悔はしていません。
 
2006年に僕の個人会社がGLAYの全ての権利を有するに至り、ここからは「今までGLAYがやりたいと思ってたことをおもいっきり出来るぞ!」となって自社レーベルやECサイトを立ち上げる中で、アプリをスタートするのは当然の流れでした。

 

ただ純粋に「誰が一番GLAYを好きか競争しようぜ!」という気持ち

――このアプリは、どのような人たちに向けて作られたのでしょうか?

TAKURO:このアプリがあれば最近GLAYを好きになった人が「もっとGLAYを知りたい!」となった時に、月額980円で音・映像に関してほぼ網羅することが出来ます。

月額料金をコンテンツで割ったら1円にも満たないけど(笑)、その代わりGLAYのことを思いっきり堪能して頂ける。音楽配信サブスクリプションサービスのいち選択肢として、GLAYが好きでGLAYと少しの邦楽と洋楽くらいしか聴かないなら、このアプリは中々魅力的ですよ。

今度はファンにとって何が良いんだろうかと考えて、ある意味見切り発車してしまったのが今年の2月だったんですけど、早速リアクションがあってなるほど…と気付かせてくれるメッセージを頂きました。

「私がGLAYを好きになったのは15歳の時です。ファンになってから24年間経ちましたが仕事で実家を離れ、結婚して…聴きたいと思っても現在手元にありません。この間、久々に帰省して当時のライブビデオを見たくなり、押し入れを1時間くらい探してやっと見つけました。開けたら…入ってないんです。」

これがリアルなんだと思って(笑)。恐らく、その人は探していたライブ映像をもう追わないですよね。なので、アプリに入れば自分たちが一緒に過ごしてきた楽曲、一度離れてしまって知らなかった楽曲が一同に集まっているということが、戻ってきたファンにとってありがたいことだとメッセージを頂いて。

それまではCD・映像作品を全部持っているコアなファンにとって、このサービスは関係ないものだと思っていましたが、新規ファンにとって楽曲は安く、手軽に聴けるというのが魅力なら、昔からGLAYを好きなファンにとっても、手間の掛からない手段で聴けることに価値があるんだと気付かされました。

ユーザーの音楽の聴き方が大きく変わっている時代だからこそ、このアプリによってスマホが全ての人たちにも「GLAYを聴くチャンスを逃したくない」というジレンマが解消されましたね。

――実際にサービスの運用を開始してから、予想もしていなかったことをユーザーから気付かされることはありますよね。

TAKURO:これはアプリを開発していく中で感じたことですが、今後GLAYを10年、20年と続けていくにあたり大切にしなきゃならないものは、突き詰めると2つしかないなと。ユーザーファーストであって、GLAYのメンバーが好きなだけ音楽に没頭できる環境を作りだしキープする。色んなことを言われている音楽業界ですが、この両輪があればGLAYに関しては守りきれると思っています。

巨大企業に対して自分たちの存在はちっぽけだけれども、ことGLAYに関しては博士号を持ってるくらい詳しいし、ファンのことを想う気持ちは誰にも負けない。そこは、町のまんじゅう屋としてアップルやグーグル、アマゾンに勝てるかもしれない。

その発想から全ての情報だけじゃなく、目に見えないものもお互い共有するために、揺るぎない信頼感でもってファンの人たちや音楽の世界に向かっているんだということを、このアプリを長く続けることによって感じて頂きたいです。

もちろん、どの音楽企業ともケンカをしたくなければ、無視もしたくない。ただ純粋に「誰が一番GLAYを好きか競争しようぜ!」という気持ちでやっています(笑)。

 

ファンの人たちの想いがGLAYの全てを支えている

――早い段階から権利関係を明確して、自らプラットフォームを制作していく。これは著作権・知的財産権が価値を持つ今の時代にとても合ったやり方ですよね。こういった権利を自分たちで保有できれば、アーティスト自身も自由な活動をしやすくなると思うのですが…そこのハードルはまだまだ高いような気がします。

TAKURO:良く例えに挙げるんですが、ライセンスというものに関して「メジャーリーガーのエージェントとプレイヤーの考え方」でないといけません。ミュージシャンの原盤を持つということは、お金を出した人というシンプルな考え方になりますよね。

僕たちが一番大事にしているのは、ファンの人たちへの想いです。それは経済的な意味ではなくモチベーションを含めて、ファンを裏切るとGLAYに直接響いてくる。だってその想いが僕たちの全てを支えているから。

もしアーティストが何か自分でやりたいのであれば、それを素直に話して…情熱もって話すだけならお金はかからないし、自分たちの音楽的な欲求が満たされることによってファンが喜ぶということを伝わるまで伝えなきゃいけないですよね。

 

アプリを通してGLAYが伝えたいこと

――ファンへの熱い想いから今回のアプリがリリースされたんですね。

TAKURO:これからも「ファンに楽しんでほしい」というアーティストの欲求の炎は消えないと思います。ただ、それが音楽作りにだけに特化していくと、周りの経済状況に翻弄されすぎて才能自体が死んでしまう。だから、音楽だけでなく言葉と知恵を学ぶ必要があります。GLAYを守らなくちゃいけないと思った中で、それは良い曲を作ることと同じくらい大切なことなんだと実感しました。

僕はメンバーの希有な才能を預かっている身だから、これを世の中に出さなかったら音楽の神様に怒られちゃうよね(笑)。その行き着く先がこのアプリになって…これの何が良いかっていうと、楽曲が再生されたら「それがどの季節の何時に再生された」といったデータが自然に蓄積されていって、今のGLAYのファンがどう考えているか理解することが出来ます。

昔だったらそれはアンケートという形でしたけど、あれは手間の惜しまない一部の方たちが協力してくれているだけで、声なき声は吸い上げられないですよね。

ファンのことをちゃんと理解するには、その声の小さい人たちの想いも聞かないといけない。どの記事が読まれているのか、どの音楽が聴かれているのか、どのPVが見られているのか、どういった人たちがチケットを購入しているのか…これらの情報は、アーティストにとって今までは自分の物ではなかったわけです。

そういうことも含めて、僕らがアプリで伝えたいことは「ファンの信頼に値するバンドになるので、僕らの新しい夢を見守ってて下さい」ということです。

このアプリを通じて知ったこと、見たこと、感じたこと全部をメンバー全員で共有して、「みんなとの豊かな時間を共有するために、より良い音楽環境を作ります」という宣言みたいなものを感じてもらえればと思います。

 

アプリを使った地方創生の可能性

――今後はどのようなコンテンツが展開されるのでしょうか?

TAKURO:電子チケットやキャリア決済、多言語対応なども予定しているなかで、いま一番面白いと感じているのは、街ぐるみでいろいろな店舗と組んでスタンプラリーのようなものを展開することです。

GLAYのカフェやカラオケルーム、プラネタリウムなどで、ひとつひとつ何かを集めて、最終的にはプレゼントや何かしらのアクションが起こせるものが実装できればと思っています。

今まで音楽は聴くか、見るか、ライブを体験するかでしたから、このアプリにはプラスアルファの可能性を感じています。僕らは8月に函館でライブをやるんですけど、もしそれらがうまくいけばGLAYが観光案内をすることが出来ますしね。

――地方創生にも繋がりますね。

TAKURO:例えば、なんてことはない港なんだけど、昔TERUが初恋の人とデートした場所とか(笑)。そういった特別なスポットが用意できればライブの前後も楽しくなる。そうすると、1泊2日で行こうかなと思っていた函館旅行も、今回は色んなイベントがあるから2泊3日、3泊4日にしようとなって地元に貢献することが出来ます。

そもそも函館は宿泊施設がそんなに多くないので、お客さんが一気に来ても受け入れ体制が不十分という課題があるんです。単純に宿泊施設を増やすのも手だけどコストが掛かってしまうので、長く滞在してもらうにはどうすれば良いのかを考える方が効率も良いですよね。

それに函館という街を訪れる理由がGLAYのライブだと言うなら、当然食も何もかも堪能してもらいたい、かつGLAYの歴史も感じてもらいたいです。

――アプリを使うことでよりインタラクティブな体験を提供できますよね。ほかにも、ライブ中にARやVRを使用した演出の可能性も広がりますね。

TAKURO:今は360度カメラで撮影して、最前列を選んだらそこからステージの映像が観れるし、たまには一番後ろから観たいなと思ったらステージ全体も見ることが出来る。現状チケットの席順は自分では選べないわけだから、そういう欲求に応えられますよね。それこそ将来はファン全員がライブ会場でVRのヘッドセットをしているかも知れない(笑)。

ただ、自分たちはスタジオに入ったり、ステージに立ったりするのが好きなので、音楽の根本的な作り方とかライブの仕方は変わらないけど、例えば何らかの理由で会場に来られない方にとって、将来的にかなりリアルなライブ体験を提供できると思います。

 

GLAYという一番好きなモノ、愛するモノを突き詰めていった

――今後はこういったサービスの提供が主流になっていくでしょうね。

TAKURO:手軽にGLAYを楽しみたいという人にはすごく良いアプリだし、GLAYのファンのみならず、これからもっと遊びの要素を加えていって、GLAYの音楽抜きでも楽しんでもらえるのであればいくらでも提供します。

ただ、新聞や本というメディアが無くならないのと同じように、情熱を持ってパッケージやCD、ブックレット、ジャケットを作っていますし、ファンクラブでも年代によっては紙のチケットに思い入れがある方もいます。そういった一つ一つに対してファンの想いをリスペクトしたいので、それも並行してやっていくつもりです。

このアプリがたくさんの人に使ってもらえるようになったら、コストもどんどん下がっていきますし、ライセンスさえクリアできればどのバンドだって出来る可能性はあります。少なくともそのバンドのファンは喜んでくれますよ。

――アーティスト主導で定額制のアプリを作ることは、アーティストの役割としても1つの転換期が来ているように感じます。

TAKURO:2000年以降からの18年は、本当に取り巻く環境が日に日に変わっていきました。インターネットの登場によって人々の生活が激変する中で、あくまでも音楽業界は大きな社会の中の1つなので影響を受けないはずがないんだけど、開発されたものに対して今までの自分たちの立場が脅かされそうになると「ダメだ」となりがちです。

ライセンスはもはや不可侵なものではないし、共同で持ったっていい。その考え方1つでミュージシャンもやる気が出て、スタッフの人たちともうまいこと肩を組んでいける。良いチャンスなのに「できない・やれない・渡せない」の一点張りでミュージシャンのやる気をそぐことが正しいやり方とは思えないですよ。

――アーティストの作ったもの、それに対して対等な報酬を受け取ることはお互いにとってWin-Winな関係でなければいけませんよね。

TAKURO:一企業の中で何か開発をしたとしても、その企業名で世の中に出て行くというのが今の日本だとしたら、もっと開発した人に光を当てるべきだし、同じことが音楽業界でも起きているのかも知れないですね。

結局その会社のやり方に技術者が愛想尽かして海外に…となると国益としてもとても残念なことですし、作ってるものに対して0 or 100ではないその時々のキャリアや貢献度に合わせてパーセンテージを見直すというのも、ミュージシャンと話をするなら必要なことだと思います。

――アーティストは常に進化しようとしているのに、会社の体制が追いつかない現状があるのかも知れないですね。

TAKURO:今は起業するのも昔よりハードルは高くないし、むしろ大企業に入って頑張る人生も素晴らしいと思うけど、自分でも色々とチャレンジしやすい世の中だと思います。例えば、もう「俺はシャワーヘッドに関しては誰にも負けない」って名乗った日から専門家ですからね(笑)。

――(笑)。

TAKURO:僕の場合それがGLAYだったわけですが、GLAYという一番好きなモノ、愛するモノを突き詰めていった時、みんなが見えないと言ってる道が見えた気がして…。ぼんやりしたその道を確固たるものにするために知恵や言葉とか色々必要になりましたけど、それはすぐにできたわけじゃなくて、少なくとも24年はかかってるわけですから。

自分の好きなことを突き詰めて、技術を磨く。人気者は技術に裏打ちされたその人にしかできない仕事をしていますし、目の前にあるやるべきこともしっかりやっています。そういったことをちゃんとクリアしていかないと、アプリというプラットフォームがあったところで、中身がどうしようもないものであれば何の説得力も持ちませんから。

 

まだ見ぬGLAYのファン予備軍とGLAYをマッチングさせたい

――このアプリから、GLAYが描くビジョンはどんなものになるでしょう?

TAKURO:GLAYを結成してもう長いこと経ちますが、自分たちが好きなことをやろうとした時に色んな出来事があって、たぶんメンバーの誰に聞いても充実した音楽人生だと言ってくれると思うんですけど、それは嫌々やったことではなく、好きなことを突き詰めていった結果だと思っています。それによって新しいテクノロジーとの出会いもありましたし、古き良き残すべきものに対しては、最大の敬意を払って一緒に併走するつもりです。

やっぱり函館の高校生が「ただGLAYが好き」というだけで30年近くやっていますが、仕事ってそういうものなんだと思います。自分の中では、好きなことを突き詰めたらお金がついてきたという感覚があるので、もし本当に好きなことがあって将来不安だとしたら、そんな不安なんて明日をも知れない今の世の中なんで、好きなことにトコトン夢中になってほしいです。

それに今は世界中がネットで繋がってて、理解してくれる人が必ずいます。どんなバンドにもどんなアーティストにも、その音楽にハマる人が世界のどこかにいるから、それを結びつけるのは昔ほど難しくないですよ。

僕は結局、まだ見ぬGLAYのファン予備軍とGLAYをマッチングさせたいだけなんです。あとは「どうマッチングさせるか」ということを考えたときに、大変だと言われる音楽業界の中で光が見えました。

――好きなものを突き詰めた結果、誰よりもGLAYファンの気持ちが分かる専門家も出てくるかも知れないですね。

TAKURO:今は僕らが選んだプレイリストを配信していますが、僕たちよりもGLAYに詳しい人がいたら、もしかしたらその人がファンの中で神になれるかもしれない。「TAKUROが作るプレイリストよりもこの人が作るプレイリストが信頼できる」みたいな(笑)。

――(笑)。

TAKURO:そうなったら大成功ですね。チャンスは誰にでもある、そういった可能性があるアプリだと思います。

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