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【VIVANT】千住明と亡き羽田健太郎がヤマハのAIで夢の共演【砂の器】

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928日、日本を代表する作曲家である千住明(64)の40周年記念ガラ・コンサートが東京オペラシティで開催された。アニメ「機動戦士Vガンダム」「鋼の錬金術師」、「アサヒ・スーパードライ」のCMNHK大河ドラマ「風林火山」、最近ではTBSの大ヒットドラマ「VIVANT」等々、ほとんどの人がどこかで耳にしたことのある楽曲がフルオーケストラで演奏された。

中でも今回、開演前から注目されていたのが、2007年に急逝した国民的ピアニスト羽田健太郎との「夢の共演」。ヤマハのAI技術により、ドラマ「砂の器」の「ピアノ協奏曲「宿命」第1楽章」が急逝から18年の時を超えてピアニスト羽田健太郎、指揮者千住明で実現した。

「羽田健太郎さんは、最後に一緒に演奏しようと思っていた音楽会のリハーサルで倒れられたんです。だから、今日はその続き。20年かけて羽田さんが戻ってきたという気持ちです。本当に音が鳴った瞬間にびっくりしました。時間を超えたというか、生の演奏がそこで蘇っているんです。」と千住明本人もその驚きを隠さなかった。

時を超えた共演を実現したヤマハのAIの仕組みは二段階になっている。

 まず「ピアノ採譜AI」にオーディオデータを与え、AIが予測した演奏データ(MIDI)と本来再生される“正解”のデータ(MIDI)の誤差が小さくなるようAIを更新する。これが基本の学習方式となる。そしてAIの精度を上げるため、たくさんの演奏データで学習することで誤差を徐々に減らし、よりリアルな演奏に近づけていく。

こうして学習された「ピアノ採譜AI」に、次の段階では羽田健太郎の演奏(オーディオ)を取り込んでいく。そして「羽田さんだったらこう演奏するだろう」と予測した演奏データをMIDIで生成。この段階では羽田本人が演奏した “正解”のMIDIデータはないので、ここからヤマハで人の手による繊細なチューニングが施される。ガラ・コンサートではこのデータを用い、自動演奏ピアノDisklavier™を通して羽田健太郎の演奏が蘇った。いわば演奏AIとフルオーケストラの共演だ。

「僕自身、本当に感激して、先ほども胸が熱くなりました」とリハーサル直後の千住は語った。「ある種本能的な感動でした。ピアノの世界では色々と日進月歩で技術が開発されていますが、いまヤマハの皆さんとやった技術というのは、特にオーケストラと一緒にコンチェルトをやるというのは多分、世界初じゃないでしょうか。それだけエポックメイキング的なマイルストーンになることなんです。」

その言葉通り、18年の時を超えた共演にわれわれオーディエンスは心を奪われた。羽田健太郎は山口百恵の「秋桜」、沢田研二の「勝手にしやがれ」、中島みゆきの「時代」、谷村新司の「群青」など昭和の人気レコードに欠かせないピアニストであっただけでなく、作曲家としても「交響曲宇宙戦艦ヤマト」「超時空要塞マクロス」「戦国自衛隊」「西部警察 PART-」「渡る世間は鬼ばかり」など数々のサウンドトラックを手掛けた。クラシックとポップスの垣根を超えた作曲家という点でも千住明にとって羽田は貴重な先輩であり、同志であったのだろう。その想いがオペラシティに響き渡るような感動の演奏だった。

「羽田さんは倒れる時にこの曲を練習していたんですよ。リハーサル中だったんですね。それがまだまだ続いていたんだという思いです。テープを回すわけじゃないんですよ。録音を流すわけじゃないんです。生のピアノが鳴るんですね、羽田さんのタッチで。」

エジソンが蓄音機を発明して以来、アーティストは録音に波形というかたちで感性を刻み込み、CDや音楽配信はそれを復元してきた。録音から感性を学習し、時と場所を超えて生演奏を再現するAIは、レコードやCDに続き、アーティストの魂を刻み込む新たなメディアになっていく未来を感じさせる。

コンサートの終盤には40周年を祝うビデオメッセージが大貫妙子、石川さゆり、ゴスペラーズ、杉山清貴、加山雄三から届けられた。

終演後、千住本人によるサインの入ったCDを、コンサートの余韻に浸る観客たちが買い求めていた。924日に発表されたばかりのオリジナル・オーケストラ・アルバム「RE-BORN」のCDだ。来たる118日(土)にはサントリーホールにてオペラ『万葉集』が演奏会形式で上演される。

「『オペラ万葉集』が日本人の心に定着して、“日本の第九”になってほしいと思っています。」と千住は語っている。

(文:作家・Musicman編集長 榎本幹朗)

著者プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。

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