ハイライフ八ヶ岳2021の開催延期を受けてーーアースガーデン代表・鈴木幸一 緊急取材 これからの音楽文化復興への動きと、一貫して提唱しつづける3つの理念とは【後編】

インタビュー フォーカス

ハイライフ八ヶ岳プロデューサー/アースガーデン代表 鈴木幸一氏

山梨県サンメドウズ清里にて2017年から開催されている“絶景音楽フェス”といえば、ハイライフ八ヶ岳。避暑地でもある八ヶ岳のポテンシャルを最大限活かしたキャンプインフェスとして地域との関係性の中、人気を博してきた。例年7月に開催されていたが、昨年はコロナ禍で9月に延期。その間、アースガーデンは多摩あきがわのライブフォレストで配信も交えつつ、何度もコロナ時代の野外フェスのやり方を模索してきた。そして「コロナ時代のフェスのお作法」を提唱、初のキャンプサイト“ソロ”セット券の販売など、柔軟な対応で無事9月の振替公演を終え、軒並み中止が続いていた野外フェスにおいて一筋の希望となった。

昨年の成功もあり、今年も非常に厳しい状況が続く中、ハイライフ八ヶ岳だけはどうにか開催してくれるのではないか、アースガーデンなら何か答えを知っているのではないか、正直そんな希望を託していた人は、関係者・参加者問わず少なくないだろう。しかし9月11日、12日の開催を目前にして「来年への延期」が発表されたのが8月27日。先行き見えない状況で、野外フェスを前向きに開催できる日はくるのだろうか。今後のハイライフ八ヶ岳について、また音楽文化復興への動きであるソラリズムについて代表の鈴木幸一氏に伺った前編に引き続き、後編はアースガーデンがこれまで一貫して大切にしてきたオーガニック・フェスティバル・エコロジーの理念と、その社会的意義について伺った。

取材日:2021年8月28日 取材・文:柴田真希

プロフィール

鈴木幸一(すずき・こういち):ハイライフ八ヶ岳プロデューサー/アースガーデン代表


10代から20代の始めを日本全国と南米への旅と農業で過ごし、90年代はエコロジー&オーガニック・ショップの先駆け「お茶の水GAIA」を仲間たちと立ち上げる。2001年からは「アースデイ東京」をC.W.ニコルさんと有志で立ち上げ、日本随一の市民イベントとして10万人以上を集める場に成長。そのムーブメントの中で音楽フェスの興隆にも深くコミットし「アースガーデン」代表として、フジロック、ap bank fes.、Natural High!、GO OUT CAMP、ハイライフ八ヶ岳、等々の野外フェスを企画制作し、主催もしてきた。エコロジーイベント企画制作の先駆けとして、カルチャー/ライフスタイルと、自然/地球、地域文化を結ぶ活動を続けている。また、「南兵衛」のニックネームでも知られ「南兵衛@鈴木幸一」として著書「フェスティバル・ライフ」なども複数。


 

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ハイライフ八ヶ岳2021の開催延期を受けてーーアースガーデン代表・鈴木幸一 緊急取材 これからの音楽文化復興への動きと、一貫して提唱しつづける3つの理念とは【前編】

 

ある程度の人が集まって、その人たちと体験を共有していくのが自分にとってすごく大事なんです

──先行き見えない中ですが、今後どういったフェスの形が考えられるのでしょうか。

鈴木幸一(以下鈴木):コロナ禍、もしくはウィズコロナ、ポストコロナっていうバランスの中でどういったイベントのやり方が適してるのか、なかなか悩ましいですね。来年の後半、もしくは再来年には落ち着いてると僕は思いますけど、この新型コロナウィルスが変異も含めてどこで落ち着くかなんて誰もはっきりしたことが言えないと思っています。

──今後、アースガーデンとしてはどういう形で続けていきますか。

鈴木:中には「このまま状況が変わらないと思ってやらないと」って真面目な顔して言ってる方々もいるじゃないですか。でも、僕はそれだったら商売替えしようかなと(笑)。アウトドアガイドにでもなった方がいい。結局は一定レベルの大勢の人が集まる社会的な場を作るということに自分の意義を見出してきてるので、それはつまり、フェスっていう形が一番分かりやすかったわけですよ。

©ソラリズム 高橋良平

©ソラリズム 高橋良平

──音楽フェスがやりづらい状況なら、その意義が全うできる他の何かでもよいということですか。

鈴木:そうですね。僕は職業選択として何がやりたいとか、何になりたいとかって感覚を持ったことがなくて、目の前の何か自分が手応えがあるものに対して動き続けた結果が今なんです。振り返ると、ある程度の人が集まって、その人たちと体験を共有していくのが自分にとってすごく大事なんですよね。ただ、別にそれが1,000人じゃなくてもいいんですよ。50人でもいいんです。100人でもいいんです。だからもしかしたら、100人で成立するガーデンライブハウス…アースガーデンならぬライブガーデンみたいなものを作るとかもありえなくはないですね。

──野外の常設ステージの話にも繋がりますね。

鈴木:そうですね。いい場所さえあれば、今持ってるノウハウはほとんどそのまま使えるかもしれないですよね。

自然は素晴らしい、この地球はかけがえがない、そこで生きていくことに向き合っていく情報や技術を伝えたい

──極論商売替えをしてもよいということで、逆にアースガーデンとして発信し続けていきたいことや、実現し続けたいことはどんなことでしょうか。

鈴木:僕は突き詰めて言うと、自然は素晴らしい、この地球はかけがえがない、そこで生きていくことに向き合っていく情報や技術を伝えたい、っていうのが一番根っこにあるんですよ。ハイライフのシンボルマークにはよく見ると「ORGANIC,FESTIVAL,ECOLOGY」って書いてあって、アースガーデンがそういう空気感やコンセプトのもとでイベントをやってるっていうことは伝わってると思うんです。

 

ハイライフ八ヶ岳2021

──ハイライフもそうですけど、主催されているフェスにはトークプログラムが多いですよね。

鈴木:八ヶ岳と向き合えば自ずと分かる、って僕は思ってるんですけど、それだけだと足りないところもあるので、そういう場でも伝えています。素晴らしい場所で素晴らしい音楽をやったらめちゃくちゃいいわけだから是非やりましょう。トークもやりましょう、美味しいものも全部素晴らしい自然から生まれてるわけですから、それも体感しましょう。五感を総動員して、それをさらにブーストしてものすごい体験ができるのが僕はフェスだと思っているので、そういう場として作っている、ということなんですよね。

©ハイライフ八ヶ岳 TANZAWA:丹澤由棋

──それをある程度の人数で一度に体験すると。

鈴木:別に誰かにとっては、たった1人で八ヶ岳に登って、そこでキャンプすることで全然いいんですけど、でも集団で動いた時に、社会が変わっていったり、何かの認識が共有されたり、ということも起こるんです。実際に僕は今、エコロジーや、オーガニックっていう意味では当たり前の話をしてるわけですけど、それを専門としない音楽業界のライターである柴田さんが当たり前の事として聞いてくれるっていうのは、僕はこの20年ぐらいで世の中が変わった結果だと思うんです。

──今お話を伺って思い返してみると、自分がそういった興味を持ち始めたきっかけは昨年のminamo no otoやFestival de FRUEといったイベントでした。

鈴木:僕がフジロックの初期からのスタッフで今こういったことをしている流れもそういう事なんですけど、ある種の哲学が、フェスを通して意味を持って広がっていく。フジロックは豊洲で開催した2年目から、会場内にボランティアによるゴミの分別スポットがあったわけですよ。やがて苗場でそれが大々的になって、僕も最初それを手伝って。一時期はA SEED JAPANの羽仁カンタ※が意識的にボランティアのことを「ピースキーパー」って呼んでたんですね。つまりゴミをただ捨てるだけでも、みんなと一緒にこの場を大事にしようっていう意識が共有されるので、音楽フェスを平和に維持するために必要なことで、単なるボランティアじゃないんだという意識ですよね。

※地球サミットへ向けた国際青年協力キャンペーンの日本窓口としてA SEED JAPAN(国際青年環境団体)を設立、代表を務めた後、理事として青年の活動をバックアップしている。FUJI ROCK FESTIVALを始め、多くの野外フェスをクリーンに保つことにも寄与。その他、環境問題に関する様々な団体等に所属し、NPO/NGOの発展などに貢献。

──フジロックで影響を受けた人たちがそれぞれ色んなことを始めて、さらに広がっていくと流れですね。

鈴木:例えばap bank fesもそうだし、ap bank fesを作った一人の(株式会社FOREST)森(正志)くんがminamo no otoをやるみたいなこともそうですよね。CANDLE JUNEがある種文化人として、キャンドルで平和を伝えるのもそうですね。だから、アースガーデンがやったっていう程大袈裟ではないけど、実際に僕たちはこのアースガーデンとしての名前を使ってもう25年が経って、やり続ける中である程度の成果は上げたのかなと、思っています。SDGsが今、学校の勉強で当たり前の事として教えてもらえるまでになりました。これからも僕たちが音楽フェスや場作りを通して伝えていきたいことは変わらないです。

──ずっと一貫しているんですね。

鈴木:そのために、自然にみんなを連れていく。だから、野外フェスにこだわるんです。

©ソラリズム 高橋良平

©ソラリズム 高橋良平

僕たちが欲しい文化はオーガニックやエコロジーっていう文脈で、より豊かでカラフル、つまり多様性のある文化なんです

鈴木:もう一つは、代々木公園っていう都心の場で、逆に地方にいる仲間から都心の仲間たちに何か伝えてもらえる場を提供していく。その両面でやってきました。

──ハイライフの延期と同時にearth garden “秋”も発表されていましたね。この発表も前向きに捉えました。

鈴木:たまたま同時に出ましたが、結果的にアースガーデンは止まりませんよっていうぐらいの感じも出ましたね。10月の代々木公園でやるearth gardenの方がハイライフよりもやりやすいかもしれないです。代々木公園の場合は「代々木公園でやってるから反対だ」みたいな人たちはまずいないと思うので。

──ただ、出店されるみなさんは、全国から集まってきますよね。

鈴木:そうですね。コロナでまた出店者を集めること自体が大変になっている流れの中で、質がまた変わっていくと思います。2010年前後はフェスブームで、アウトドアメーカーがよりフェス目線の展開をしてきましたよね。例えば、スペアザのライブに行っても、街中のちょっと濃いめの空気感のところに行っても、そこにいる人の雰囲気があんまり変わらない感じが一時期あったと思うんですよ。それが最初のフェスブームを作った文化の典型だったと思うんですよね。アースガーデンの出店者もそういう流れの中で売り上げを伸ばしたんです。

──どんな出店があったんですか?

©earth garden秋 須古恵

©earth garden秋 須古恵

鈴木:石鹸とかシャンプーとか、コスメとかね。モンモリロナイトっていう日本でも採れる粘土があって、その粘土を石鹸の代わりに使うとすごくナチュラルに気持ちいいんですよ。最初はそのモンモリロナイトを輸入して売ってた人が国産のモンモリロナイトを見つけて販売を始めたら、今度、それを材料にして独自の商品を開発する人が出てきたり。家内制手工業的な手作りで売れ筋商品に育てる人が出てくるとか、そういうことが2000年代は沢山あったんですよね。今はウェブ上で手作りの一点ものを販売をするサイトとかが流行ってるじゃないですか。

©earth garden秋 須古恵

©earth garden秋 須古恵

──ウェブでもありますし、ハンドメイドのマルシェとかも人気ですね。

鈴木:そういったものが育っていくベースにearth gardenがなってるんですよ。段階的に社会に余波がじわじわと広がっている。僕たちが欲しい文化はオーガニックやエコロジーっていう文脈で、より豊かでカラフル、つまり多様性のある文化なんです。それはフェスっていう場では一箇所に集約されているわけじゃないですか。これが日常の中に落とし込まれていくと、各街々に良いライブハウスがあったり、ライブバーがあったりするような世界観に繋がっていきます。実際に今各地でクラフトビールの小さい店がめっちゃ増えていることがそういう世界を象徴していると思います。

──昨年、近所にもできました。たしかにすごく多いですよね。

鈴木:一昔前には、弾き語りのフォークの人たちやブルースマンが回ってたような、ライブハウスとも言えないライブバーなのか喫茶店なのかっていうお店が全国に沢山あったんですよ。この10年ぐらいは多分カフェとかがその代役を果たしていて、おおはた雄一とか、その辺ぐるぐる回ってるはずなんですよね。

──先日取材させてもらった北海道のmusica hall caféも、音楽が日常にある空間を実現しているようなライブカフェでした。下北沢の440(four forty)出てるアーティストに興味を持ち始めた流れで辿りついたんですけど、今話されてたようなことは漠然と感じます。

鈴木:それがもしかしたら文化の最先端かもしれない(笑)。おおはた(雄一)くんは元々九州の方でコアなヒッピー連中に揉まれてたはずだし、海の家ライブハウスの元祖、葉山のオアシスからポンとHome Grownみたいな超一流の連中が出てきたりとか、そういうことが時々あるんです。無名でも全国に素晴らしい人たちは沢山いる。豊かな文化が全国に確実に広がってるし、育っていて、一般の人も接点を持てるところに音楽が当たり前にある世界観がもう少し進むと、また別の意味での豊かさになりますね。ソラリズムの動きもそういった世界観に繋がってると思うし、アースガーデンはずっと、そういう世界の入り口を、色んな人に広く見せられたらいいなと思ってきたのかな。

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