ソーシャルディスタンスをポジティブに取り入れた、カヌーアクティビティ&湖上ライブ「minamo no oto –水面の音–」実行委員会インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会
写真左から荒井氏、白鳥氏、森氏 撮影:加藤晴日

2020年、コロナ禍で数々のイベントが中止となり、ここ数年盛り上がっていたリアルイベントの市場規模は縮小するなか、音楽業界は大型フェスからライブハウスに至るまで配信ライブに活路を見出していた。9月中旬、政府の「GOTOキャンペーン」で東京発着の移動も対象となった頃、未だに大型イベントの開催は先行きが不透明、なおかつ人々は配信ライブに飽き始め、生のエンターテインメントに飢えていた。その時期に発表され10月4日に開催、大きなインパクトを残したのが、世界遺産・富士五湖の一つ、本栖湖の湖上が客席のライブイベント「minamo no oto –水面の音–」だった。

ソーシャルディスタンスをポジティブに取り入れた、カヌーアクティビティ&湖上ライブ。初めての試みということで、安全性を考慮し、観客はなんと約35人限定という超プレミアムな新しいかたちの音楽イベントだった。湖畔に立つステージを、観客は自ら漕ぐカヌーの上で体験する。出演したのは、オオヤユウスケ(Polaris)と踊ってばかりの国の2組。終了後には地上波の報道番組でその様子が取り上げられるなど、音楽業界のみならず、コロナ禍で活気を失っていた社会全体が注目することになった。

普段大型フェスの現場に携わりつつも、今回「面白いことをしたい」という強い想いにより採算度外視、並ならぬ努力の結果イベントを成功に導いた水面の音実行委員会の3名に、幸運にもイベントの成功を肌で体験した筆者が話を伺った。

(取材日:2020年10月24日 インタビュアー:柴田真希 撮影:加藤晴日)

プロフィール
オムニ・インターナショナル株式会社 荒井 隆(あらい・りゅう)


オーガナイザーと共に「多くの人々が感動を共有できるイベントの場」を創り上げていくことを事業の柱とし、2000年10月に設立。黎明期よりフジロックフェスティバル、ロックインジャパンフェスティバルの会場全体設計、施工に携わり現在では数多くある、名だたる野外フェスティバルや屋内型イベントの会場計画から施工全般を手掛ける。サマーソニック・SWEET LOVE SHOWER・朝霧JAMほか、年間100件以上また、コンサートイベントに留まらず、ラグビーワールドカップやゴルフツアー選手権などのスポーツイベントに於いても最上級のホスピタリティー空間を設計し、資材調達から施工全般に至るまで提供している。


株式会社ザ・フォレスト 白鳥  藍子(しらとり・あいこ)


2008年〜12年ap bankにてap bank fesを担当。2013年〜 THE FORESTにて、フェス・イベントの企画制作、コンサートの演出・装飾等に携わる。


株式会社ザ・フォレスト 代表取締役 森 正志(もり・まさし)


フェス・イベント・ライヴ企画/制作/運営 rockin’onにて「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」の企画制作を経験。その後、OORONG-SHAにて、小林武史とMr.Childrenの櫻井和寿が代表をつとめ、環境問題や震災の復興支援などをテーマ、目的とした野外音楽フェス「ap bank fes」の企画制作を担当。独立後は「氣志團万博」や「日比谷音楽祭」といった大型フェスの企画制作や、Superflyのアリーナツアーなどのステージ演出を手掛ける。


 

新しいものを生み出したい、それを目的にやってみよう、というところから始まりました

──今回のイベントの実行委員会は、どういった集まりですか。

森:⻑年一緒にフェスを作ってきた仲間ですね。

──何人くらいの方が主に動かれていたのでしょうか。

森:当日の現場に入るまでの打ち合わせや申請は、ほぼこの3人です。度々本栖湖付近に来て役場に行ったりとか、地元の方にお会いしたりとか、現地を見たりとか、カヌーを体験してみたりとかしましたね。

荒井:当日はアーティストも入れて30人くらいです。

白鳥:今回は規模が小さく、収入も少ないので「いる人たちでやり切ろう」ということで、普段は運営をやらないオムニさんの社員の皆さんにも運営を手伝ってもらいました。

森:通常はイベンターさんやアルバイトさんがいるんですけれど、そういう部分も全部自分たちでやり切ろうというのが今回のコンセプトでした。やらざるをえなかった、ということでもありますけれども。

「minamo no oto –水面の音–」

Photograph by NAKANO Yukihide

──カヌーの体験自体にお金がかかりますし、アーティストも2組出演されていて、採算が合わないだろうと思っていました。

荒井:その通りです。

白鳥:そう思っていただけてよかったです。コンサートに行く金額としてはハードルが高いだろうなと思っていたんですよ。※1人8,000円(税込)※カヌーアクティビティ、ライブ鑑賞、駐車場代込み

森:普通のワンマンライブの場合、ライブハウスだったら3,000円代、ホールでも4,000円台とか5,000円台で、8,000円だと外タレとか、アリーナツアーの金額になるので、フェスよりは安くても通常のコンサートと比べると高い金額ですよね。実際はカヌーの一般的なアクティビティ代と変わらないくらいの金額なので、そこにライブがついていると考えるとお得なんです。

──お得ですよね。慈善事業なのかなと思いました(笑)。

一同:(笑)。

──実現まで、相当の苦労があったと思います。

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会

撮影:加藤春日

森:ソーシャルディスタンスが必要と言われ、GOTOキャンペーンが始まるまでは県を跨ぐ移動すらままならない社会でしたよね。週末の楽しみにするエンターテインメントがない状態で、みんなストレスが溜まっていたと思うんです。そういう時にこそエンターテインメントを 作り出す仕事をしている僕らがやれることってどういうことだろう、と考えたところ、新しいものを生み出したい、それを目的にやってみよう、というところから始まりました。

興行として成立しているからやる・やらないではなくて、こんなことが生み出されたら魅力的かもしれない、自分たちも体験してみたいということをやると、きっとそれは一般の人にも響いて、「そういう面白い企画があるなら行ってみたい」と思ってくれるお客さんがいるはずと思っていました。ただ、そのやりたいことをどうにか形にするために、試行錯誤しました。本栖湖のあたりは、普段はコンサートをやっている場所ではないんですよ。

──これまでもフェスなどは開催されていなかったのでしょうか。

森:そうですね。富士山周辺の地域は法律で守られている保護地域で、イベントをやるのが難しい場所なんです。そこで、どのくらいの規模で、どんなコンセプトであれば実現できるのかを探って行った結果が、今回の35人規模で、朝のライブでした。

──ライブの時間は、ほとんど風がなく、水面も穏やかでしたね。

森:地元でカヌーのインストラクターやっている方たちに話を聞いて、タイムテーブルを考えました。11時を過ぎると風が出てくるというお話だったので、それまでにお客さんを陸にあげる、というところから逆算して、本番の時間、その前のリハーサルやチェックの時間、お客さんのカヌーのレクチャーの時間、と割り出していきました。

僕らも色々フェスをやっていますけれども、こんなに朝早いことはなかなかないですね。前日にもリハーサルをしましたが、朝は朝で環境を作ってチェックが必要で、アーティストには前のりしてもらって当日も早朝のチェックやリハを強いる、特殊なパターンでした。

「minamo no oto –水面の音–」

Photograph by NAKANO Yukihide

──カヌーのインストラクターさんが当日レクチャーしてくれたのは、安心感がありました。

森:カヌーをしてライブを見るということは誰も経験がないから、僕らもカヌーに対しては専門性がないんですよね。だからこそ体験して、インストラクターをやっている人だからこそ分かることをちゃんと聞きながら、何人くらいのインストラクターさんと、何人くらいのお客さんであれば安全と言えるのかなど、慎重に準備しました。

お客さんの安全はもちろん、プロが関わっていることで地元の人の安心に繋がるし、我々自身にとっても、きちんとお客さんに向き合うにあたり、大丈夫だと思えるかどうかが重要でしたね。

──カヌーに乗っている時間もちょうどよかったです。もう少し⻑いと寒かったと思いますし、トイレの問題もありますよね。

荒井:緊張感が持続するのは2時間半くらいまでが限界らしくて、寒さを考慮して、これくらいの時間でやるのがいいですよ、とアドバイスをもらいました。トイレ休憩も途中で入れた方がいいと言われて、本当にその通りでしたね。

森:カヌーに関しては、最終的には自分のペースで楽しんでもらいながら、そこに音楽が流れているのが一番いいんじゃないかという結論にたどり着いたんですけれど、そこまでは、流されずに同じ場所でずっと見てもらうためにはどうするべきか、ロープで固定したりした方がいいのか、とかいうことも含めて議論していました。

──自由に漕いでいても、結果的にお客さんは程よく散らばりましたね。

「minamo no oto –水面の音–」

Photograph by NAKANO Yukihide

森:そうですね。本番、アーティスト側にいましたが、色とりどりのカヌーがステージを見ていて、自由に浮かんでいるのはすごく気持ちよさそうで壮観でした。見たことがないロケーションを作れたな、という感覚がありましたね。

──アーティストの視点だと、山々の上に霧がかかって、湖があって、カヌーが自由に浮かんでいる景色が見えますよね。すごくきれいなんだろうな、と羨ましかったです。

荒井:そう。本当にお客さんよりアーティストの方が気持ちが良いのではないかと思います。

 

ミニマルな規模だからこそ実現できた、大胆なステージ演出

森:今回のステージは、後ろの幕がないんですよ。ロゴだけ吊ってあって、奥の木が見えた方がいいよねという意図があって。

──後ろが見えるのは、すごくいいなと思いました。

「minamo no oto –水面の音–」

Photograph by NAKANO Yukihide

森:後ろの幕が抜けていることは、ステージ業務をやる立場からすると非常にリスクが高いんですよ。雨風がステージに入りやすくなるし、炎天下では太陽の光が直接入ってくると、熱で機材がやられる可能性がある。照明をたくさん入れて活かすために、照明の置き所が必要とか、色々な事情があるんです。それを踏まえても、今回はテントもステージも全部荒井さん達が用意するわけだから、やれる範囲でやってみようということで比較的大胆にできましたね。

当然、演者の安全やクオリティの高いステージワークができることは大事なんだけれども、今回はそれ以上に、見たことない空間をいかに作れるか、それを映像とか写真とかでしっかりと残すために、どういう構造であれば見たことがない絵が撮れるかということを重要視していました。アーティスト越しにカヌーが見える景色をバックショットで撮った写真は、インパクトがありましたね。ミニマルな規模だからこそ、短い時間でコミュニケーションを取って、思い切ったステージを作ることができました。

──想像以上にスタッフが少なくて驚きました。

森:実際はもう一人、小林直というフジロックのピラミッドガーデンの仕事とかをやっている仲間がいました。彼は当日に「森くんステージで前説をやったら?」と提案してくれたんで す。彼はその場の雰囲気的にそれが必要な状況だと感じて、僕が普段からフェスの前説をやっていることを知った上で、言っているんですよね。PAさんもとても近い距離だから、急に前説をやることにしても手際良く準備してくれて、感覚的に反応しあえるメンバーで作れたのはよかったです。

──PAさんといえば、今回の環境で音を調整するのは難しかったのではないかと思います。

森:そうなんです。前日のリハーサルとチェックのとき、誰も湖から音を聞いていないんですよ。普段は客席側でどう聞こえているか確認するんですけれど、今回はそれができないから、誰も出音を確認できていない。当日、お客さんを湖に送り出してから、予備のカヌーでPAさんに初めて客席側から確認してもらいました。

荒井:普段綿密にやるところを、かなりざっくりと決めていましたね。「あの水がキラキラしているあたりまで音を飛ばして」とか(笑)。

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会

撮影:加藤春日

森:カヌーがどう動くか分からないから、どこまで音を届けるのがベストか、分からないんです。

白鳥:踊ってばかりの国の乗り込みのPAさんは、ライブ中にカヌーに乗って、モニターしていましたね。iPadで操作していて。史上初じゃないかな。

森:水面だと通常と全然違うんですよね。PAチームには過酷な環境を強いることになった。メンバーにどう聞こえているかを確認する袖卓も離れていて、高さが全然違ったんです。自然公園法とか河川法で守られているから、生えている草とか木とかを、こちらの都合で切ったり抜いたりしたら駄目なんです。だから自由自在ではなかったけれど、それをみんな面白がってくれたから、よかったです。

白鳥:ステージの姿も、準備段階では正面から見えていませんでした。最初のスタッフのカヌーが撮ってくれた写真が送られてきて、初めて正面から見えましたね。

荒井:それまでは横からしか見えなかった(笑)。

──開催に向けて動き出したのはいつ頃でしょうか。

荒井:5月ですね。初めて本栖湖に来たのは6月かな。

森:「湖でライブができたらいいよね」という絵空事から始まったんです。コロナ禍で県を跨ぐ移動すらままならない中、遠くの移動を推奨するイベントは難しいだろうということで、東京から2時間以内で来れる場所かつ、車で行ける距離で探しました。そこで「富士五湖」が上がってきたんです。制約とかルール以前に、イメージに合うかどうかが重要で、このメンバーでそれぞれの湖を見て、隣接しているキャンプ場も見て、たどり着いたのが本栖湖でした。

──富士五湖だけでも5つありますね。その中でも本栖湖だった、と。

荒井:山中湖と河口湖の二つと⻄湖、精進湖、本栖湖で、全然雰囲気が違います。後者の方が、自然が豊かですね。

森:河口湖・山中湖はホテルとか、お土産屋さんとか、レストランとかが湖畔沿いに並んでいて、観光地として人を迎え入れる体制が整っている反面、自然があまり残っていないとも言える。本栖湖はほとんど人の手がついていないから、お店やホテルが全然見えなくて、水面と山肌が見える。その雰囲気がとても素敵だなと思いました。森から出てきたら湖が広がっていて、キャンプ場も近く、イメージにぴったりだったんですよ。

「minamo no oto –水面の音–」

Photograph by NAKANO Yukihide

荒井:みんな「ここだね」って言ったもんね。

白鳥:即決でした。「ここしかないね」と。次の瞬間には、誰に話せば良いのか考えていましたね。

──コロナ禍で初めての試みの中、アーティストへのオファーはどのようにされたのでしょうか。

森:今回のイベントは、通常のイベントと同じ理論で作ってはいけないということが前提にありました。カヌーの上で、どんな音楽が聞こえてきたら素敵かなと考えた時に、イメージできたのがPolarisのオオヤユウスケさんと、踊ってばかりの国でした。直接アーティストにコンセプトを伝えると、面白そう、本当に実現できるんだったら参加すると言ってくださって、オファーしている段階ではまだ開催できる確証がなかったにもかかわらず、前向きなお返事をいただきました。

 

わずか3ヶ月ほどの準備期間を経て、開催へ

──6月初めから動き始め、とても短い期間で準備されましたね。

森:キャンプ場のハイシーズンや湖の事情などで、空いている週末がある程度限られてくるんです。アーティストを待たせていることもあり、色々な条件の中で結果的に10月4日になりました。1・2週後ろだったら寒すぎるし、ヒメマス釣りのシーズンに入ることもあって、年内にやるんだったらここに間に合わせるほかない、という動き方でしたね。

白鳥:本当は9月にやろうと思っていたんですけれど、色々と準備が間に合わなくて、3週間ぐらいずらしたんです。

荒井:申請ごとって、こちらの都合通りにはいかないので。

森:申請される側も、初めてのことなので、正解がわからないんです。だから地元の漁業組合や観光協会、船の関係の方々をはじめ、沢山の方々とのコミュニケーションの中で、地元のいろんな事情を伺いました。

──東京がGOTOキャンペーンの対象になったのがちょうどイベントの告知時期の少し前で、結果的に良いタイミングだったと思います。

白鳥:本当に幸運でした。地元の方にも、開催できるかどうかは分からないけれど、やりたいと思っている、と話すしかない状況だったんです。夏の時点では、寒くなってきたら、またコロナのぶり返しが起こるんじゃないかと言われていたので、開催できない可能性も十分あると思いながら作っていました。

森:通常は10年20年かけて、少しずつフェスを大きくしながら、地元のお店に出店いただいたり、自治体に出店してもらったり、キャンプサイトを一緒に運営したり、色んなやり方で地域の方々と一緒に作っていくものなんです。それをこのコロナ禍、短期間で形にしていく。その上、イベント貸しする場所ではないところにお願いをして理解してもらうということで、ひたすら模索でしたね。

──実際やってみて、地域の方々の反応はいかがでしたか。

森:みなさん喜んでくださいましたし、興味がなさそうだった地元の年配の方も、当日様子を見に来てくださって、嬉しかったです。だからこそ、音がうるさくないかどうかは特に気にしていました。

最初からアコースティックの編成の音楽にすることは決めていましたが、とはいえ音楽が⻑時間鳴ったことのない場所なので、どれだけストレスがかかるのかはやってみないと分からないんですよね。イベントと関係のない一般のお客さんも多いので、地元の方々も「静かな場所を求めてキャンプにきているから音は必要ないのでは?」などそれぞれの考え方があるんです。荒井さんは、水面までの準備期間、毎週キャンプ場に行っていたんですよ(笑)。

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会

撮影:加藤春日

荒井:毎週のように通い、本番までに7週くらいキャンプしましたね。正直、現地のことをよく知らなかったので。初めは平日に見たから良いなと思ったけれど、週末は雰囲気が変わるかもしれない。実際に翌週、週末に行ってみたら沢山人がいました。人のことも一日二日では分からなくて、何回も会ううちに、下の名前で呼べるようになってくると、分かってくる。キャンプ場の人が、本当はやって欲しくないと思っていたらやるわけにはいかないので、本音を感じとるためにも会いに行くしかないと思っていました。

──ストイックですね。

荒井:キャンプ場の人にも「じゃあまた来週」みたいな言われ方をするので、「行かないといけないんじゃないか」と思うようになってね(笑)。今度はイベントが終わったから来なくなったと思われるのも癪だなと思い、また行っていますね(笑)。

森:今回は一発勝負だったので、荒井さんが毎週のように行ってくれて、雨が降ると床がこうなるとか、風がこうだったとか、夜は寒くなってきたということを肌感覚で分かった上で乗り込めたことは、すごく意味がありました。

──今回限りのイベントだったのでしょうか。

森:僕らが普段イベントやフェスを作っている時によく考えているのは、毎年やるつもりのなのか、そうでないかということです。色々変わってくるんですよ。10年かかりで毎年やるフェスだったら協力できるけど、一発ものだったら協力できない、ということもあるんです。逆もしかりで、何年もやるつもりだと言われてしまうと許可できないけれど、「試しにやってみ たいんです」だったら、一回やらせてみようとなることがある。今回は後者でした。この規模で安全確認ができたからこそ乗り越えられたところもあると思うんですよね。

──はい。

森:1回で終わるかもしれないイベントだと、逆にワクワクするし、伝説ですよね。ある種の勢いみたいなものが、コロナ禍で出てきました。とにかくやりたいことをやってみようと。その代わり、リスクは最低限に抑えてやることは意識しました。

 

興行として成立するかではなく、新しいエンターテインメントを生むということ

──発表されたあと、これは行かないと後悔すると思ってすぐにチケットを買いました。

白鳥:どんなものになるのかよく分からなかったとおっしゃっている参加者が多く、それでも参加してくれたことは嬉しいです。

──実際の光景がどうなるかは良い意味で全然想像がつきませんでしたが、目撃しなくては後悔するという確信はありました。

白鳥:そうですよね(笑)。図面が共有されているわけではないから。怪しいと思いませんでしたか?

──どんな人がやっているのかは気になりましたけれども、生半可な気持ちで開催できるイベントではないから、相当の熱量でやっているんだろうな、ということは想像ができました。

森:やればやるほど、誰もやらない理由がよく分かります。大変なんですよ。途中で諦めるだろうと思います。この土地の制約を守って、安全、安心を考えて作ろうとすると、どう考えても興行にはできないんです。

荒井:1ヶ月くらい前までは、天気が悪くて、カヌーが出られません、となった時にどうするかを考えていました。お客さんに払い戻しをするのか、陸地で何か満足してもらえるものを用意するのか。

森:陸地のステージでアコースティックライブを代わりにやることは、物理的にはできるかもしれないけれど、水面でやれないんだったら意味がないかもしれない。そういうことも含めて議論しました。興行とはいかなくとも、新しいエンターテイメントを生むという点では、成功したと思います。コロナ禍でよく頑張ってイベントをやったね、ではなく、面白いことをやっているね、というリアクションが沢山あったのが励みになりました。

──このイベントの開催は、他のイベントの主催者や音楽業界で働く人に刺激を与えたと思います。

森:夜、キャンプ場で食事をしながらアーティストとコミュニケーションを取った時に、自分たちのクリエイティブ活動においてすごく刺激になったと言ってくれたことは嬉しかったですね。

──アーティストにとっても、ライブが普段ほどできない状況で、貴重な機会だったと思います。

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会

撮影:加藤春日

白鳥:アーティストも楽しんでくれるんじゃないかなと思っていました。本来、どんなイベントか分からないのに、出る方はリスクじゃないですか。お客さんの人数も少ないし、ひょっとしたらすごく残念な結果に終わるかもしれない。だけど面白そうだね、と言って出てくれたのはとてもありがたかったです。

森:リハの時の嬉しそうな顔を見て、やってよかったと思いました。大型野外フェスが始まってから、この20年は全国で色々なフェスが開催されて、良い意味でも悪い意味でも、前年より大きいステージに出ることが成功へのステップだとされてきました。もちろん多くの人に自分たちの音楽を届けるという意味では正解なんだけど、それ意外でも、新しい尖っていること をやっていたり、自分たちの音楽が合致する面白いステージやイベントに出ることは意味があると思うんですよね。観客が35人だとしても、今はSNSで広がって「面白いことをやっている」と思ってもらえるじゃないですか。

こういう時だからこそ、キャパを減らさなくてはいけないから残念でした、ということではなくて、面白いことを一緒にやってみようと思ってもらえることはすごく大事ですね。記録ではなく、記憶に残るイベントであってほしいです。スポーツ選手で、あまり実績は残していなくとも、みんな覚えているプレイヤーがいるじゃないですか。それがいいですね。

 

コロナをきっかけにこうした、違った豊かさを求める新しい形、新しい価値観が沢山生まれてきている

──今後このような状況がどのくらい続くか分からないですが、今考えてらっしゃることや、これからの音楽業界について思うところを最後にお話しください。

荒井:配信やデジタルの技術も進んでいるし、仮想空間でも色々できるんだろうけど、きっとそうじゃなくて、みんな人が集まることの大事さにより気がつくと思っています。そうじゃなかったらとっくに会社を辞めないといけないので、元に戻ることを信じていますね。最近、昔ながらの屋台に人が沢山集まっている写真を見るだけでも、いいな、と思ってしまいます。

白鳥:近年フェスやイベントがどんどん大きく盛り盛りになってきていて、それはそれですごく面白いし、突き詰めてどこまで行けるのか見てみたい気もするけれど、今、コロナをきっかけにこうした、違った豊かさを求める新しい形、新しい価値観が沢山生まれてきていると思うんです。それが新しい、見たことがない楽しみに繋がっていくと思っています。楽しみですね。

──最後に森さん、お願いします。

森:昔から大きな災害や疫病が流行ると、新しい文化が生まれるんですよ。ペストが流行って、ルネサンスが生まれた時と同じようなことがこれから起こってくるとポジティブに考えています。2011年の震災では、それぞれが自分の生き方や価値観について問い直すきっかけになったと思っていますが、今回のコロナの件は、それとはまた違ったベクトルで、自分が大事にしていることや自分が求めている面白いことに目を向けるきっかけになったと思います。

来年から徐々に日常が戻ってきた時、エンターテインメントに関わる人たちやアーティストが、新しいものを生み出していく流れができてくると思っていて、誰が何をやり出すか、楽しみで す。当然技術の発展も違うアプローチを考える機会となりますから。

──これからまた面白いことをやってくださると思っていますので、注目しています。

森:期待値が高い(笑)。ありがとうございます。

「minamo no oto –水面の音–」実行委員会

撮影:加藤春日

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