アーティストの活動を継続させる新たなチャネル 360度アーティスト支援型クラウドファンディング「we fan」 (株)LD&K 代表取締役 大谷秀政氏

インタビュー スペシャルインタビュー

大谷秀政氏

LD&Kが、360度アーティスト支援型クラウドファンディングサービス「we fan」を1月12日よりサービス開始した。「we fan」はファンクラブ・ファンサイト制作・運用およびチケット販売に200以上のアーティストとの実績をもつSKIYAKIとの共同事業で、音源制作、PR、流通、デザイン、グッズ製作、ファンクラブ運営などLD&Kの持つノウハウを最大限に活かし、アーティスト・クリエイターをサポートしていくという。「we fan」の開発の経緯やサービスの込めた想い、そして今後の目標までLD&K 代表取締役 大谷秀政氏に話を伺った。

2016年2月3日 掲載
  1. 音楽業界の実態にそぐう環境とは
  2. 多様化したお客様に対応するためのクラウドファンディング
  3. 「we fan」はレコード会社と事務所の中間にある仕組み
  4. 「we fan」を音楽業界の中での1つのスタンダードにしたい

 

音楽業界の実態にそぐう環境とは

——アーティスト支援型クラウドファンディング「we fan」はどのような経緯でスタートしたんでしょうか?

大谷:LD&Kはレーベルとしては20周年を越えたところで、日本レコード協会にも10年会員として加盟していますが、その基本にはアーティスト事務所があります。アーティストを抱えている中で、創業当時から360度ビジネスをやっていて、小さいですがインフラをきちんと作ろうとやってきました。

ですから、レコーディングスタジオもライブハウスも所有して、アーティストがどうやって活動していったら一番いいかということを常に考えながら、底辺に近いところからずっと作っているわけです。そもそも、全国流通もできて宣伝マンもいて、なおかつレコーディングもできてエンジニアもいて、マネージャーもいて、というレーベルってあまりないんですね。

——LD&Kは規模が小さいとはいえ完璧なレコード会社ですよね。

大谷:そこはミニマムにやっていかないと、という感じでしょうか。昔は3万枚売れないと成立しないと言われていましたが、そうではなくても音楽は成立するんじゃないかという想いがずっとあったんです。例えば、当時もジャズなんかは3万枚も売れる作品なんてなかったですが、そこでジャズをやる人がいなくなるかといったらそうではないですし、フィジカルが下がり始めた頃から「多様性」という言葉もよく言われましたが、それにそぐう形ってあまりないんですよね。やはりメジャーなレコード会社さんはタイトル数を多く出しますし、大手のレコード会社さんが一番上にあるヒエラルキーは変わらないわけで、そこから予算をもらったり援助金もらったりして、事務所が食っている構造も変わらないわけです。

LD&Kクラウドファンディング「we fan」
▲LD&Kクラウドファンディング「we fan」トップページ

——その構造を変えるための「we fan」ですか?

大谷:いや、その構造は全然よくて、この「we fan」もレコード会社を否定しているわけではないんですよ。でも、音楽業界がどうしてもレコード会社の仕組みでCDを売ったり、配信もそうですけど、売って稼がないと成立しない仕組みの上に成り立っているのは事実です。メジャーのレコード会社さんで360度ビジネスをやって、うまくいっているのはエイベックスさんとソニーさんぐらいで、そういうところしか定額制聴き放題サービスにきちんと参入できてないんですよ。他のレコード会社さんは楽曲の権利を持っていないですから。

——ほとんどのレコード会社やレーベルが実態に追いつけていないと。

大谷:そうですね。今の音楽業界の実態にそぐう形がきちんとできてないんじゃないかなというのが、今回「we fan」を立ち上げるきっかけになっています。ぶっちゃけて言いますと、レコード会社の最大の役割はファイナンスだったわけですよ。お金を立て替えてくれるというか。

——商社機能ですよね。

大谷:それさえクリアになれば、クラウドファンディングのような仕組みは、本当は一番便利なはずなんですが、どうしても大手はフィジカル優先の仕組みを崩せないですから、IT企業にやられちゃうわけです。でもIT企業は音楽が作れるわけじゃないですし、アーティストのマネージメントができるわけでもない。だから本当はウチみたいなところがやらなくてはいけなかったんですよね。一応2年ぐらい様子を見ていましたが「なんで誰もやらないんだろうな?」とずっと思っていました。

——じゃあ、誰もやらないから自分たちでやろうと?

大谷:そういうことです。クラウドファンディングで一番必要なのは宣伝ですが、僕は宣伝の中で、音楽業界の宣伝が一番大変だと思っているんですよ。普通のメーカーの商品は「これは嫌だ」とか「やりたくない」とか文句を言いませんから(笑)。

——車や家電はプロモーションを嫌がったりしないですからね(笑)。

大谷:なおかつ音楽業界は競争が激しいんですよ。発売タイトルに対してメディアの掲載枠が少ないです。少し話しは逸れますが、僕は飲食業もやっていて、なぜこれが上手くいっているかと言うと、宣伝マンがいるからですよ。飲食業界にあまり宣伝マンっていなくて、なおかつ飲食の方がプロモーション枠は大きいんです。例えば、昼間の情報番組とか雑誌とか媒体が多いですから。それに比べたら音楽業界はすごく大変です。小さいパイを取り合っていますからね。

——おまけに商品サイクルが短いですよね。

大谷:あと、音楽の好みはみんな違うからセンスは問われますし、ただ宣伝すればいいわけじゃないですから。そういった中で考えると、LD&Kはアーティストを扱っていますからメーカーというよりも、事務所機能が先に立っています。アーティストにどうやって活動させながら音楽で生活させていくかをまず考えないといけないので。メジャーさんは売れなかったら切ってしまえばいいかもしれないですが、事務所はなかなかそうもいかなくて、長い目でみないといけないんですよね。そうした場合にメジャーも別に悪くなくて、使えるときには使ったほうがいいです。要するにアウトプットなので。そういった機能の中に、補完する意味でクラウドファンディング的なものがないと、トータルでの音楽業界は成立しないんじゃないかと思います。

——今後、レコード会社は音楽制作の資金が出せなくなる?

大谷:出せるところは出せるんでしょうけど、だいぶハードルは上がりますよね。では、大手に入れなかったらみんな音楽やめるのかというと、決してそうはならないと思うんですね。楽しむことを目的にしているプレイヤーもたくさんいますし、表現するにしても色々な人がいますからね。そういう中で「LD&Kこそがやるべきだ」というスタンスで、「we fan」というプラットフォームを作ることになりました。言ってしまえば、こういうことをやるためにミニマムなインフラを作り続けてきたというのはありますからね。でも実際は5年くらい遅い。もう少し早く来るかと思ったんですけどね、音楽業界のシステムが。僕はこういう時代が来るなと思って20年間ずっとやっていますからね。

 

多様化したお客様に対応するためのクラウドファンディング

——大谷さんは20年前から現在のような状況をある程度予想されていたんですね。

大谷:僕の指向性がそうですからね。すごく売れているものが好きじゃないんですよ(笑)。どうマニアックな音楽でも成立させていくかというのはテーマの一つにありますから。

——「we fan」のプロジェクトには<All or Nothing>方式と<Keep it All>方式の2タイプが用意されているそうですが、どのような違いがあるんでしょうか?

大谷:<All or Nothing>は目標金額を決めるんですね。その目標金額に達しなかった場合は不成立となりお金も返金されます。例えば、音楽映画を作りたいとなったときに、最低限これくらいの支援金が集まらないと成立しない、作れないということが事前に判明している場合は、目標金額に達しなければやらない、という選択を持てます。

対して<Keep it All>はいわゆる補助です。ライブをやるのは決まっているんだけど、ちょっと苦しい。そういう人たちが少しでも良いから援助をしてもらうのが<Keep it All>です。この二つの形式は「we fan」に限らず、クラウドファンディングをやってらっしゃる既存のところでも同じ方式をとってますね。

——現実的にどちらの方式の方が利用者は多いんでしょうか?

大谷:<All or Nothing>の方が多いんじゃないですかね。ミニマムのロットがある商品の場合、最低限これだけお金がないとできないということが結構ありますからね。

——商品そのものが作れないと。共同運営されているSKIYAKIはどういった会社なんですか?

大谷:ファンクラブ運営の大手で、「アーティスト・クリエイターを支援する」という共通したビジョンを持っていることもあり以前から付き合いがありました。SKIYAKIさんで自社開発しているファンサイトの機能は誰でも使いやすい上クラウドファンディングにも対応しているのと、あとSKIYAKIさんはコンビニ決済のチャネルも持っていて、その機能だけウチにはなかったんです。もちろん自社で通販をやっていましたから、銀行決済やクレジットカード決済機能は元々あるんですが、コンビニ決済のチャネルだけなかったんです。お金を振り込みたい人がコンビニで決済できるという仕組みは、未成年を考えると重要なチャネルなんですね。

SKIYAKI オフィシャルサイト
▲SKIYAKI コーポレートサイト

——ファンには10代の子たちもたくさんいますからね。

大谷:ええ。そういった子たちが決済しやすいようにしています。いわゆるファンクラブは10代が結構多いんですが、そうするとコンビニで決済ができた方が便利です。もちろん、その機能がなくてもできなくはないんですが、やはり間口を狭くしてしまいますからね。また、SKIYAKIさんはファンクラブ事業に関して200以上のアーティストとの実績をもつ大手なので、そこはウチで手が足らないときに補完してくれます。

——クラウドファンディングのリターンは、プロジェクトごとにすべて設定するんですか?

大谷:そうです。そのプロジェクトごとに全然違いますからね。

——それはLD&Kとしてアドバイスしたりすることもあるんですか? それともアーティストが決めることなんですか?

大谷:基本的にはアーティストが決めます。ウチも「we fan」を始める前に他のIT企業さんのクラウドファンディングを使って月に何件かやっていたんですが、経験上、値付けの問題ってあるじゃないですか。そういうところをアーティストはなかなか見えなかったりするので、「これくらいの設定で、これくらいのことをしないと売れないんじゃないかな」ということは、打ち合わせの中でアドバイスをしていきます。でも、基本的に決定するのはアーティストです。

——一口いくらというのもその都度設定するんですか?

大谷:その都度バラバラですし、やる内容にもよります。リターンの内容も違いますから。例えば、同じプロジェクトに対して、5万円の人もいれば、3万円の人も、1万円の人もいたりします。

——ふるさと納税みたいな感じですね。

大谷:そうですね(笑)。元々ファンクラブとクラウドファンディングは近いものがあります。会員制にして、会費を取って、それに対して会報がこれだけ行きますよ、とか、グッズが買えますよ、というリターンをしていますから似ているんですよね。

——それに納得した人しか参加しないわけですしね。

大谷:例えば、今までのフィジカルって、CDがいくらと大体決まっているじゃないですか。再販制度がありますし、ライブも大体一律ですよね。対してファンクラブは一律ではないんですよ。極端に言うと、ヨン様が流行ったときみたいに、カシミアのマフラー10万円みたいな世界もあるわけです(笑)。それでも買いたいファンがいるわけで、そこでは「どう縦に伸ばすか」という仕事をしていかないといけないわけです。お客様も多様化していますし「私はもっと特別なサービスが欲しい」という人もいますので。そこを既存のレコード会社だとできないじゃないですか。基本的にやっていないというだけなんですが、配信が取りまとめていくらで、CDがいくらでと、仕事としてほぼ決まっていますよね。今後の音楽業界ではその仕組みだと厳しいんじゃないかということなんです。

——もっと柔軟になっていかないといけないと。

大谷:お客さんによっては「もっと払いたい」「もっとこういったものを欲しい」とかありますから、それに合わせられるという意味では「we fan」は非常に良い仕組みだと思います。

 

「we fan」はレコード会社と事務所の中間にある仕組み

LD&K 代表取締役 大谷秀政氏

——ファンにとって何が嬉しいのか、何だったらお金を払ってくれるのか、ということをアーティストももう一度考える機会になりそうですね。

大谷:そうなったら嬉しいですね。ウチとしては、レコード会社と事務所の、その中間あたりのラインというか、もう1個の仕組みみたいなものを作りたいんですよね。「we fan」がスタンダードなものになってくれればと思いますね。

——そうですね。

大谷:クラウドファウンディングに関しては、IT企業の人たちにやられっぱなしじゃないですか? 僕らもIT企業さんのクラウドファウンディングを使ってみて、「これはウチでできることだ」と思ったんです。結局、アーティスト側がやらなくてはならないことがほとんどですし、物を作るのはこっち側じゃないですか。要するにクラウドファウンディングはお金を集めるだけで、宣伝はちょっとしてくれますけど、やっぱりウチの宣伝の方が優秀なんですよね(笑)。それに気づいた時点で「人のところでやる必要はないんじゃないかな」と思ったんです。要するに決済のシステムさえあれば、これは音楽業界の内部の人間がやるべきなんじゃないかなと考えたんです。

——確かに音楽業界内部からのクラウドファウンディングはい今までなかったわけですからね。

大谷:本当は内部の人がやるべきなんですよね。ただ、大手は現行のシステムを守ろうとしますからやりたがらない。逆に小さいところはそこまでのインフラもないしパワーもない。だから、ウチくらいがやるのがちょうど良いんですよね。

——「we fan」は1月12日にスタートしましたが、反響はいかがですか?

大谷:ニュースを出した時点ですごく反響がありまして、どんどん案件が入って来ている状態です。

——すでに申込が多数入っている?

大谷:ええ。ですから最初の1年間で多分50本くらいになるんじゃないですかね。キュレーターという受ける人間が空いてなければならないですけどね。キュレーターも増やしていかなくてはならないでしょう。

——やはり審査はあるんでしょうか?

大谷:ある程度はあります。無茶苦茶言ってくる人もいますからね。ファンを増やす努力を何もやっていなくて、ただ夢ばかりを語っている人もいますし。だから、そういった意味では、ある程度の審査をして、これなら行けるんじゃないかというところのラインはあります。

——審査を通ったものであれば、可能性はより高まっているということですよね。

大谷:そうですね。例えば、LD&Kに打首獄門同好会というバンドがいて、2月20日にZepp Tokyoでライブがあるんですが、この間「獄ひかり」というお米を作ったんですよ。田植えからやって、収穫までして売ったりしているんですよ(笑)。そして、米を作ったから次はその茶碗も欲しいということで自分たちで益子焼を焼いて。

打首獄門同好会
▲打首獄門同好会

——(笑)。

大谷:米をテーマにした歌があるので、それに基づいて作っているんでしょうが、まあ、よく分からないことをやっているんですね。でも、そういうのって結構ファンが面白がって欲しがるんですよ。でも、益子焼は自分たちで作っているので数が作れないですから、どうしてもプレミア価格になっちゃうんですが、それでも売れるんですよね。だからそういったものを「we fan」を使って、売ったりしたら良いんじゃないのかなと(笑)。

——面白いですね(笑)。

大谷:アーティストがそれで活動が継続できれば良いわけですから、どんどん面白いアイデアを出していけばいいですし、活動が活性化しますよね。CDを売るにしても売り文句をちゃんと作らなきゃならないし、コピーも作らなくちゃならない。そういった意味では頭の中が非常に活性化します。アイデアをどんどん出さなきゃならない。

——他人からお金を出して貰うためにはそういうプラン、事業計画がきっちりしていないとこれからは相手にされない?

大谷:そうですね。そういう意味では、非常に分かりやすいと思いますけどね。

——すぐ評価されますもんね。申込みがなければ評価されなかったとも言えるわけで。ちなみにどういった方から問い合わせがあるんですか?

大谷:いや、色々ですね。若手ミュージシャンはもちろんいますし、長くやっている方もいます。あとは、事務所からくるのが多いですね。

——事務所からも来る?

大谷:事務所から来ますよ。事務所でもメーカーとの契約が切れてしまったアーティストがもちろんいたりするわけです。そうすると、なかなか自分たちで回していくことができない、要するに、ファイナンスの問題ですよね。ウチも、例えば実制作を何かやろうと思ったら結構かかるわけですよ。分かりやすく言うとCDを作る。レコーディングを始めて、それが最短の1〜2ヶ月で終わったとしても、CDショップに卸して、請求書を立てて、入金されるというタームを考えると、やっぱりどう短く見積もっても7ヶ月くらいかかるんですよ。それを事務所などが、ずっとレコーディング費用から立て替えなくてはいけない。CDプレスするお金もそうですし。あとはマネージャーの人件費もありますね。

——すごい先行投資ですよね。

大谷:本当にそうですよ。例えば、LD&Kでかりゆし58というバンドをマネージメントしていますが、やっぱり予算を使って入金されるタームを考えると、半年で億以上かかるわけですが、正直、なかなかファイナンスできる事務所がないんですよ。ですから、「we fan」を色々な切り口で活用してもらって、メジャーなレコード会社がやってきてくれたようなことを、自分たちでできるようになると、音楽業界も活性化していくんじゃないでしょうか。

 

「we fan」を音楽業界の中での1つのスタンダードにしたい

——「we fan」は、資金を集めるお手伝いをするだけで、制作の中身に関して口を出すということは、ほとんどしないということですね。

大谷:LD&Kのインフラで、使えるところがあれば使ってくださいよということですね。

——いわゆる既存のアーティストで、事務所がしっかりあって、長年活動していたような人でもどんどん使ってほしいと。

大谷:もちろんです。単純にお金だけ集めている仕組みをやりたいというのでも、全然良いんです。分かりやすいところで言うと、ウチの中ノ森文子という元中ノ森BANDのヴォーカルがいるんですが、もともとヴィジョン・ファクトリーにいて、そこを辞めてウチに来たときに、ライブハウスへの出方さえ分からないわけですよ。「あれ、みなさんどうやってライブハウスとか出ているんですか?」と。実はずっとメジャーにいた人とかは本当に分からないんですよね。

要するに全部をやってもらっていた人だと、いくら有名だとしても、意外と分からない人が多いんです。「みなさんどうやってライブやっているんですか?」と言われるわけですよ(笑)。そういうことは我々に相談してもらって、箱はウチを使っても良いですし、別に他でも良いんですが、「ここはこうした方が良いよ」と最低限のやりたいことは全部できますからね。でもそれは本人の力だけでできるかというと、なかなかできないですよね。やっぱり音楽のプロダクションをやっているところはできる。

——そうですね。

大谷:そうなんですよ。最低限のインフラというか、LD&Kは全部一通り、一気通貫でできるので。そこも使えますよということですね。

——アーティストとして長いキャリアを持っていても、レコードメーカーとの契約が切れた瞬間にどうしたら良いか分からなくなっている人ってたくさんいますよね。

大谷:結構いるんですよね。多分、これからもっとそういう時代になっていきます。どんどん大手レコード会社のハードルが上がって、契約が切れてくる人が多くなってくる。そういった人たちが、では音楽を辞めるのかといったら、そうじゃないと思うんですね。アーティストは基本的に音楽が好きでやっていると思うんですよ。それで、飯を食いたいと思っていますし。

——プロ野球選手と違って、球団をクビになったらもう野球をできないというわけでもないですしね。

大谷:ないですよ。ずーっと音楽は続けられますから。私は、その音楽をやりたいという才能のある人が、例えばメジャーの仕組みじゃなくても、ある程度続けられる仕組みがあった方が良いと思うんですよね。だから、LD&Kは生真面目にそこをずーっとこだわってやっています。世の中に色々な人がいて、色々な音楽があった方が良いじゃないですか。

——つまり、これからはアーティストとしての自分のプロモーションの企画力とか、そういうことも含めて、アーティストはアーティストで自分の面倒を見ないと、やっぱり生きていけないですね。

大谷:そうです。どうしてもCDが売れなければメジャーにはいられないということが多いので。まあ、配信も含めてですけどね。さっき言ったように、ベテランの本当に名前のある人でも、もう新譜は出さなくても良いじゃないですかという人もいるわけですよ。過去に売れた曲があって、お客さんの中にも「あのヒット曲を歌ってほしいよね」「聴きたいよね」という人がいるわけです。でも、そういう人たちはレコード会社にはいられないでしょう? 新譜が要らないんですから。

だから、音楽をやる人が、色々と選べる環境があるのは大事だと思います。私はメジャーが作る文化というのも大事だと思うんですよ。やっぱりマスである程度の数が売れて大きく動かすというのももちろん大事です。ただ、それだけじゃなくて、色々なチャネルがないと、ということでやっています。

——最後に「we fan」の目標をお聞かせ下さい。

大谷:やはり「we fan」が音楽業界の中での1つのスタンダードになるところまで行けたら良いなと思っていますけどね。

——競合というか、似たようなことをやる人が出てくる可能性は?

大谷:どんどん出て来たら良いと思います。何社か出て来ないとスタンダードにならないと思いますからね。でも、なかなか出て来ないんですよね。もちろん、大手のメーカーで上場しているところなんかは必要じゃないですけど、事務所なんかは本当にやるべきだと思いますけどね。

——ただLD&Kはなかなか特殊な例で、大谷さんが好きなことをやるためにこうやって飲食など色々なことに取り組んできたわけじゃないですか?

大谷:もうずっとそれですよ。そのためにどうしたら良いかということをずっと考えています。今までやってきたこととファンディングとは、ずっと同じようなポジションですからね。「we fan」はその流れの中で生まれたものであり、これが音楽業界の新たなチャネルとなってくれたら嬉しいですね。

LD&K 代表取締役 大谷秀政氏

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