超実践型作曲家育成セミナー「山口ゼミ」特別対談 第三弾 〜ゼミスタートから1年間、活動を総括

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:山口哲一氏、伊藤 涼氏
左から:山口哲一氏、伊藤 涼氏

Musicman-NETではお馴染みの対談シリーズ。超実践型作曲家育成セミナー「山口ゼミ」は「山口ゼミextended」という上級コースを経て、「Co-Writing Farm」というチームがつくられ、活況を呈しているようです。1年間の総括として、お二人に改めてお話しを伺いました。

 

山口 哲一(やまぐち・のりかず)
プロデューサー/コンテンツビジネス・エバンジェリスト


1964年東京生まれ。株式会社バグ・コーポレーション代表取締役。
SION、村上”ポンタ”秀一、村田陽一等の実力派ミュージシャンのマネージメントを手がけ、音楽プロデューサーとして 東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストを世に送り出した。
音楽における、ソーシャルメディア活用法の実践的な研究の第一人者でもある。プロデュースのテーマには、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げている。
『デジタルコンテンツ白書2012/2013(経済産業省監修)』編集委員を務める。
著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本(ダイヤモンド社)』(共著:ふくりゅう)、『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略(リットーミュージック)』、『プロ直伝!職業作曲家への道(リットーミュージック)』、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)がある。

 

伊藤 涼(いとう・りょう)
音楽プロデューサー


ジャニーズ事務所が運営するレコード会社Johnny’s EntertainmentでNEWSのプロデューサーを歴任。
2005年には修二と彰の『青春アミーゴ』をミリオンセラーに導く。
2009年6月に退社し、株式会社マゴノダイマデ・プロダクションを設立。
「ここにいたこと (AKB48)」「走れ!Bicycle (乃木坂46)」の作曲者。

 

——超実践型の作曲家育成セミナーとして「山口ゼミ」が始まって、1年が経とうとしていてます、振り返って、どんな感想ですか?

山口:思った以上の手応えで、良い意味でビックリしています。第一期が23人で始まった時には、僕らのノウハウで3〜4人は育てられるだろうと思っていたけれど、予想以上でした。Co-Writing Farmという修了生によるチームには、プロレベルしか入会させないという基準なのですが、14人が残ったというのは、ちょっとびっくりしています。

伊藤:そーなんですよね。大体こう言うのって、せいぜい2割くらいしかモノにならないものだと思っていたんですけど、驚異の6割越えでしたね。CWFになっても、彼らの食いつこうとするパワーは衰え知らずで、かなり濃いチームが出来てきていますよね。

——たった一年で結果が出るのはすごいですね。

山口:そうですね。書籍『プロ直伝!職業作曲家の道』のPR映像を、モーショングラフィックで有名なTOFU creativeにお願いした時に、山口ゼミ受講生で楽曲コンペをやったのがきっかけで、すごく気に入ってくれて、彼らがつくる大手企業の宣伝映像を山口ゼミ限定でコンペをいただくようになりました。

伊藤:山口ゼミ限定でコンペっていえば、アイドルの舞台テーマソングや某アニソンのテーマソング、某タレントさんのデビューシングルの話も頂いていますね。まだ、はっきり言えないことが多いので…あれですが(汗)

山口:そういう具体的な成果があるのは嬉しいですね。

伊藤:従来の専門学校教育や音楽作家事務所とは違う感じ、ネット上でもコミニケーションをとって、コライトなどしながら常に曲作りが進行している感じは、かなり新しい形だと思いますね。

——実践的な講義内容の成果ですか?

山口:そうですね。ゲスト講師も、浅田祐介、島野聡、TAKU TAKAHASHI、多胡邦夫、KEN ARAI、ヒロイズムなどなど、バリバリの第一線のクリエイターなので、そもそもテンションが違いますね。「教えてあげます」みたいな人はいないし。

伊藤:そう、彼らも素人相手のテンションじゃなく、音楽業界の仲間や後輩として接してくれているので、普段の講演とかじゃ絶対聞けない話がバンバン飛んでいます。そこまで見せちゃいます?みたいな。

山口:でも、実績のある人達が、自分たちの「企業秘密」を惜しみなく披露してくれて、すごくありがたいです

伊藤:山口さんから頼まれたからっていうのもあるのでしょうが、その場の空気が、“Session”と言う感じですねぇ。山口さんの人柄だなぁ〜て思いますよ!

山口:みんな音楽業界の現状に危機感を持っているし、後進の育成に対して責任感があるので、とても協力的ですね。本当にありがたいです。そのお陰もあって、「業界標準」でやるというトーン&マナーは保てているかなと思っています。

——伊藤さんの添削指導が厳しいとのことですが?

山口:はい。上がってきたデモを受講生全員の前で添削指導するのですが、僕は「伊藤斬り」と呼んでいます(笑)みんな、言われたことが悔しくて、夢に出てくるらしいからね。

伊藤:今はDTMで簡単に音源がつくれて、すぐにネットで公開も出来る。だけどプロから音源に対して意見をもらえたり、ダメだしされることは殆どなく、身近な人たちやネットの住人たちから、見当違いの褒められ方や、根拠のない叩かれ方しかしない。すると、それに応えようと段々と本質を失っていってしまう。山口ゼミに来ている人たちは、それを実感しているので「もっと厳しく斬ってください!」ってドM発言連発して食いついてくるので、こちらもバッタバッタと斬り甲斐があるってもんです。

山口:本当にそうだよね。最初は、こいつは箸にも棒にもかからないかなって人が、すごい伸びたりする。バンドでボーカルやっていたって言って、打ち込みのスキルは低いし、歌うと音程は悪いし、どうしよう?と思っていたら、何かつかんで、メロディメイカーとしての才能が伸びて、チャンスを得たら、歌までうまくなって驚きました(笑)

伊藤:いままで幾つかの作家事務所のアドバイザーをやってきたから良くわかるのですが、ここに来ている人たちの伸び率は半端ない。もちろん全員ではないですが、カンの良い人は10倍にも100倍にも成長しますね。逆にいうと、如何に迷走をしつづけている作曲家が世の中にたくさんいるか、ってことを実感させられます。

山口:どの才能が伸びるかって言うのは、わからないものだなって、改めて思います。決めつけちゃいけないなって。

——才能が伸びてきているのですね。コンペの参加やお仕事の受注に関する、山口ゼミ・CWFでの取り組みを教えてください。

山口:コンペ情報は渡しますし、その都度、指導も加えながらやっています。

伊藤:幾つかのコンペでは結果も残せているし、山口ゼミのブランディングはできてきていますね。あえて山口ゼミにお願いしたいって話もありますし、あとは大きなコンペに勝っていって、わかりやすい形で結果を出していくことですかね。

山口:そろそろ大きなコンペでシングル曲で採用があるかなと期待しています。

伊藤:そうですね。コンペの話はたくさんあるんですけど、メジャーだからと言って確率の低いものばかり追いかけても仕方がないので、闇雲に営業するようなことはしていません。ちゃんと顔の見えるチームとガッツリと4つに組んでいける環境作りをしています。

山口:A&Rやプロデューサーの顔が見えていると、どんな曲を出すのか、クリエイティブに考えられますよね。

——現在、山口ゼミはどういったメンバーが参加されていますか?

伊藤:一般企業や家業に就いて働く社会人の方、学生、主婦もいますし、以前バンドやミュージシャンをやっていてもう一度、音楽で夢をみたいって人もいます。音楽制作系の仕事をしているけど、やっぱり作曲の仕事がしたいって来ている人もいますし、もちろんプロ作曲家一本でいきたいってバイトしながらの人もいます。とにかく幅が広くて、年齢的にも10代〜50代までがいます。驚くのはこれだけ違うタイプの人間が集まっているのにも関わらず、そのワキアイアイさ。

山口:やっぱり、パソコンで音楽をつくれるようになって、以前にも増して、作曲は孤独な作業になっているので、仲間が居るのは、僕らが思う以上に嬉しいみたいです。不思議なくらい仲良いよね?

伊藤:そう、音楽っていうひとつの共通言語があるだけでこんなにも仲良くなれるのか?って感じがしますよ。あとは、1期生と2期生でライバル心が芽生えたりして、お互いに切磋琢磨できる環境も図らずとも出来上がってきていますね。それでも、打ち上げで酒飲んじゃえばみんなチームって感じですね。

——プロとしての実績をもって参加する受講生もいるとか?

山口:人気アニメのオープニング曲をつくった人とか、メジャーデビューしたユニットで、オリコン2位になった人も受講してきて驚きました。

伊藤:そうなんだよね。さっきも言ったけど、やっぱり答え合わせが出来ずに、悶々としている作曲家が沢山いるんですよね。その「だから、どうしたらい〜の?」にちゃんと向きあうことにしています。

山口:実績に驕るのでは無く、一からやり直して、絶対、音楽で成功したいって気持ちをもったことで、彼らは大きな心の壁を越えていると思います。うまくいかなかった時に、外部に言い訳を探さないって、クリエイターにとって、大切な姿勢ですからね。

伊藤:「作曲家の道はそんな甘くないよ!」っていう過酷な現状を再確認しつつ、「ここならなら勝てるかもしれない」というイメージを持たせること、それで一途なモチベーションになると思います。あとは結果ですから、一緒に努力していきます!

——山口ゼミが推奨する、コライトの可能性とは?

山口:DTMが広まって、PCを使えば、一人で何でもできるようになりました。同時に、コンペで求めるデモのクオティは、そのままリリースできる位の高さを求められるようになっています。この壁を越えるのにもコライトは有益な方法です。誰でも得手不得手があるので、苦手なことを底上げするよりも、得意なとこを持ち寄って、「チーム戦」で戦う方が効率が良いですよね。

伊藤:目的をもってチームを作ります。こっちで「じゃ、○○さんがリーダーで、○○さんがメロディーと歌、○○君がトラックね!」みたいに指定する場合もありますし、自然発生的にチームが出来てしまう時もあります。チームが出来たら、ひとつの部屋で話し合いしたりセッションしながら作る時もありますし、ネット上でやり取りしながら作っていき、必要に応じて誰かの家にいってレコーディングするとか。基本は自由なんですが、最初はコライトの仕方とマインドをしっかりと叩き込みます。

山口:コライトと言っても、いろんなやり方がありますね。欧州などでは一般的なのですが、日本では珍しいので、「山口ゼミ」の受講生には、いくつか方法論を体感してもらいたいと思っています。

伊藤:日本人はコライト文化がなく、ある意味で苦手意識もあるので、コライトが如何に有効的で楽しいかを知ってもらうようにしています。いまのところ「オレはコライトとか苦手なんでいいっす」みたいな人は出てこないですね。

山口:「山口ゼミ」の中で、共通言語はできているので、スムーズにチームが組めるというのも利点ですね。

伊藤:本当に、コライトをはじめてから信じられないくらいに輝くやつとかいますからね。面白いですよ!

——お二人は、CREA webで「来月流行るJポップ」という対談コラムを連載されていますね。

山口:文藝春秋社の方からお話しをいただいた時は、自分も作品つくっている側なので、他の方の楽曲について語るのは抵抗があったのですが、最新のITサービスの紹介も絡めて、発売前の新曲をポジティブに紹介するというコンセプトなら、シーンの活性化に繋がるかなと思って。

伊藤:話を聞いて、僕だったらディレクター経験や作詞の部分で山口さんとコラボレーションできるかも、って思ってお受けしました。どうせやるなら面白いものを書きたいなってことで、いろいろと趣向を凝らしています。

山口:作詞アナリストと名乗っているのが勇気あるなって思うのですが(笑)このコラムの目玉は「妄想分析」です。ワインのソムリエが、語り出す感じ。

伊藤:そうですね。自分自身『リリック・ラボ』という作詞研究室みたいなものも主催していて“日本で1番信頼される作詞チーム”作りを目指しているので、作詞のテクニカルな事や批評めいたことを書いてしまうと、反対側のひとになってしまうように思うんですよね。それにディレクター経験者が理路整然と正論をかざしても面白くないし、語られる側も“むかつく”と思うんですよね。だったらちょっと違った視点から「この曲、オレだったらこんなイメージが湧くなぁ」みたいな妄想をするんです。たぶん作り手の意図とは違うものなんですけど、あえて違う視点から妄想分析することで、こんな捉え方も出来るんだ!ってJ-POPの楽しみ方を広げたいと思ったんです。だから作詞アナリストっていう堅っ苦しい肩書ほど作詞のテクニカルなところを分析している訳ではなく、むしろ「ヒットの種」の在処をハンティングしている感じですね。

山口:山口ゼミでJ-POPとしてレーベルA&Rから求められるヒットの可能性の高いフォーマットについて語ったことが、このコラムにもつながっていますね。

伊藤:そうですね、センスで片づけない“ヒットの作り方”ってところです。

山口:アクセスランキングも毎回、上位で、嬉しいです。頑張って、続けていこうと思っています。

——「職業作曲家への道・番外編」と銘打って、「作曲家リレートーク」をやられていますね。

山口:月1回、MUSE音楽院の公開講座として、入場無料でやらせてもらっています。書籍を出してみて、活躍している作曲家、サウンドプロデューサーの話をもっと聞きたいな思ったんです。普段は、語る機会が少ないけれど、実は、彼らの話は宝の山なんですよ

伊藤:僕も参加しているんですけど、ほんとうに勉強になりますよ。正直、いつも思うのですが、作曲家を目指すやつがこれに来ないのは“大バカ野郎”ですよ。無料でこれだけの収穫があるんですからね、参加しない意味が分からない!(笑)

山口:毎回、終わると、僕が「伊藤斬り」を受けて、トークの内容について駄目だしされています(笑)

伊藤:あくまでも感想ですよ。でも、たまに山口さん自身がテンションあがっちゃって、音楽業界を深堀しすぎてオーディエンスを置いていっちゃうことがあるんで(笑)

山口:浅田祐介、鈴木daichi秀行、今井大介、と本当に超一流の人達の代表作を聴きながら、エピソードを伺ったり、今の日本の音楽シーンの課題について話し合ったり、観客からの持ち込みデモについて講評したりしています。

伊藤:毎回、山口ゼミのメンバーも参加してますね。打ち上げ目的かもしれないけど。

山口:毎回、宴会になっていますね。他の作曲家も遊びに来てくれたりして、嬉しいです。世界の中でのJ-POPの可能性みたいな話をよくしていますね。

伊藤:彼らにとって、J-POPの最先端にいるクリエイターたちと夢を共有するのはエキサイティングですよね。

山口:2014年からは、ゲスト作曲家の楽曲をカバーするシンガーのオーディションも始めることになりました。気に入ったら、その作曲家が楽曲を書き下ろしてもらえるという特典付きです。

——「山口ゼミ」も「プロ直伝!職業作曲家への道」も、いろんな派生プロジェクトが生まれているんですね?

山口:そうですね。日本の音楽シーンを活性化したいというのが、ベースにあることなので、嬉しいですね。楽しくやっていますよ。

伊藤:おかげさまで、僕らにとってもエキサイティングな毎日になっていますよね。

山口:書籍を購入してくれた読者からのデモクリニックも、どんどん送られてきています。一人ずつ、デモを聴いて返信していますよ。真面目に音楽を取り組んでいる人が多いですね。ここまで業界のことを踏み込んで解説したり、職業作家の実像を書いた本は無かったようで、高評価をいただいています。音楽を仕事にすることを考えている人には、是非、読んで欲しいです。

——山口ゼミの今後の展望をきかせてください。

山口:まだ、始まったばかりです。ヒット作曲家が何人かでてきたら、少しは威張って良いと思うんだけれど(笑)

伊藤:そう、まだまだスタートを切ったばかりなんで。朝食作りで言えば、お湯を沸かし始めた所ってところですかね(笑)

山口:ヒット作曲家をたくさん輩出できるように頑張ります。

——最後に、作曲家志望者へのメッセージを

伊藤:答えがわからなくて彷徨っているひとは、いちど僕らに会いに来てください。希望にあふれた答えか、残酷な答えか分からないけど、彷徨うような悶々としたところから脱出するヒントはあるはず。もう十分に悩んだのだから、そこから脱出しないといけないよね。そうしないと次のステージにあがること出来ないから。

山口ゼミ第4期

2014年1月25日開講

山口ゼミ無料説明会
12月7日(土)15:00〜、1月8日(日)19:30〜
*内容は同じです。

作曲家リレートーク第4回 12月8日(日)17:00〜ゲスト:corin.

オススメ