レコチョクが「eCRM」サービスを導入 〜3.9G時代を見据えた新サービスの展望〜

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:島田智行氏、斎藤勇樹氏
左から:島田智行氏、斎藤勇樹氏

株式会社レコチョク
事業開発室 室長 島田智行氏

株式会社レコチョク 事業開発室
プラットフォーム推進グループ
担当マネージャー 斎藤勇樹氏

 株式会社レコチョクが、総合エンターテイメントサービスを目指す同社の基盤として、昨年12月に新たに無料会員制サービス「レコチョク 会員」を開始させた。
会員制サービスの登録者数は、オープン開始からたった7週間で100万人を突破し、レコチョク会員のアクティブ率(購入率)は85%と高水準を記録するなど、音楽ファンから支持を得ている。
さらに同日にオープンした新サイト「レコチョク 音楽情報」サイトは、1月末よりドコモの音楽情報カテゴリーでメニュー順位1位を獲得するなど、すでに大きな話題となっている。
今回のインタビューでは、これまで公式サイト単位で行われていたユーザーの情報や購入履歴の管理を一元化し、嗜好に合わせて情報を発信する「eCRM」サービスを採用した目的やメリット、また今後の展望ついて、株式会社レコチョク 事業開発室 室長島田智行氏と、事業開発室プラットフォーム推進グループ 担当マネージャー斎藤勇樹氏に話を伺った。

[2010年1月20日/渋谷区渋谷 株式会社レコチョクにて]
株式会社レコチョク
http://recochoku.jp/

 

——「レコチョク 会員」サービスを開始した目的などをお伺いしたいのですが。

島田:総合エンターテインメントサービスを目指すにあたって、一昨年以来、社名/サービス名称変更など「レコチョク」のブランド強化と、通販サービスや電子コミックサイトの立上げなど音楽配信以外のサービスラインナップの強化を進めてきました。一方で、これまでユーザーの管理を3キャリア×27ある公式サイト単位でやっていまして、かつ、ユーザーの属性を登録していただくようなことをやっていなかったんですね。結果として、着うたサイトに集まる1800万人のアクティブユーザーをうまく活かせていないことが我々の課題としてありました。

 今回「レコチョク 会員」という形で、ユーザーにレコチョクIDを提供して、そのレコチョクIDを軸にユーザー情報を把握し、色々なエンタメのサービスを展開していこうと考えています。  また、会員化はeCRM(※1)を非常に重視したもので、着うたからパッケージのデジタル〜フィジカルと、音楽と映画、アニメ、コミックのような音楽以外のエンタメなどとクロスセルすることが、日本のエンタメをより大きくしていくためには重要だと思っています。

——サービスの特徴やメリットは?

斎藤:大きく3つありまして、1つ目は「レコチョクポイント」です。購入に対して、ダウンロードであってもECであっても1%付与します。キャンペーンの時期では数パーセント上乗せされますが、そのようにポイントを付与していって、ポイントが貯まったら着うたなどがダウンロードできる「うたコード」というデジタル音楽ギフト券に交換できたり、通販サイト「レコチョク shopping」で利用できる「お買い物券」に交換できるというものです。

 2つ目は、ユーザーに対しての優待サービスで、会員限定のライブにご招待したり、アーティストにも稼働していただいてオリジナルの限定動画を配信しています。例えば、加藤ミリヤさんと清水翔太さんにはレコーディングの風景を撮っていただいたり、ベッキー♪♯さんにはデコメを作っていただいたり、アーティストをより身近に感じていただけるようなサービスとして会員登録をすれば受けられるという優待サービスを行っています。

 3つ目はメールマガジンのサービスで、これまでも実施していたんですが、あくまでもサービスサイト単位で配信していて、ユーザーの嗜好に合わせたサービスを展開していなかったんですね。ですから今回はメールサービスもリニューアルして、例えば男性アイドルが好きな方には男性アイドルの、韓流が好きな方には韓流の情報を掲載したメールマガジンのサービスを受けられるようにしました。加えて、ユーザーの購買履歴やアクセス履歴に基づいて、適切な情報をプッシュしていくというようなレコメンドのメールサービスを行っています。

——「レコチョクポイント」は、他の企業とのポイント提携は考えていないのですか?

島田:まだ行っていませんが、色々なポイントの事業者と連携することは、まだ着うたを利用していないお客様を取り込んでいくチャンスだと思いますので、そこは積極的にやっていこうと思っています。

——今回の会員サービスを始めるにあたって株式会社ミクシィ(以下、ミクシィ)や楽天オークション株式会社(以下、楽天オークション)と共同でプロモーションを実施されていましたね。

斎藤:はい。ミクシィさんや楽天オークションさんと共同プロモーションをした目的は、まだ着うたを利用していないお客様を、これをきっかけにレコチョクに誘引してくることが目的です。実際、新規のお客様にたくさん利用していただけたことがデータからも出ていますので、我々の意図していることはうまくできたのでないかと思っています。

 また、ユーザーだけでなく企業からの引き合いも多くありましたので、今後は色々な企業と共同企画を実施していきたいと思っています。

(※1 electronic Customer Relationship Management=オンラインによる顧客関係管理)

 

——ここからは、新サイト「レコチョク 音楽情報」についてもお伺いしたいのですが、立ち上げた経緯は?

島田:レコチョクの配信サイトは購入のコンバージョン率が60%ほどなんですね。つまり10人きたら6人の方が買っていくということなんですが、裏を返すと目的買い以外のお客様をうまく捉えられていないという状況に課題感を持っていました。最新のエンタメ情報を得たり、滞在することを楽しむという目的でもレコチョクに来ていただいて、新しいエンタメコンテンツに出会って着うたやCD・DVDを買っていただく流れを作るために「レコチョク 音楽情報」を始めました。

——このサービスの特徴とメリットは?

島田:レコチョクのメディア系コンテンツの中で圧倒的にお客様のニーズが高いのはランキングなんですね。なので、基本的にはレコチョクランキングを中心とした構成となっています。その他のコンテンツとしては、やはりレコチョクはアーティストとの距離が近いということが強みですので、深く突っ込んだインタビューや、また、エンタメが好きなユーザーが集まっていますのでユーザー参加型コンテンツを積極的に展開しています。いろんな切り口から新しい音楽に出会える機会をどんどん提供していければと思っています。

——「レコチョク 音楽情報」のメインコンテンツとして「レコチョク TV」もあるそうですが、こちらはどのようなコンテンツなのでしょうか?

島田:メインとなっているのは、新曲のプロモーションビデオで、10秒から30秒の短いものを会員登録がなくても簡単に楽しむことができます。着うたフルサイトでの新曲紹介と連動し毎月150本ぐらいを追加提供していく予定です。あとは、アーティストのインタビュー動画や「レコHits!mini」や洋楽ランキングなどのランキング情報を紹介するオリジナル動画番組を配信しています。

——現状、アーティストPVが見られるような携帯サイトはあまり多くないんですか?

島田:YouTubeさんとニコニコ動画さんがありますが、それらとはお客様の利用シーンと目的が異なるサービスを目指しています。両者とも膨大なユーザー投稿の動画のアーカイブから検索して見るという使い方で、かつ即楽曲の購入という形にはなかなか結びつかない状況かと思います。一方で、「レコチョク TV」は最新のイチオシ楽曲のものをオフィシャルに配信して、今、流行っているものや、今後流行るものをケータイで動画をチェックでき、すぐ購入できるサービスとして展開しています。実際、昨年の9月〜10月に実施したテストでは、動画視聴をしたユーザーが視聴していないユーザーに比べて、コンバージョンレートが約10%程度伸びたという結果も出ています。

——レコチョクでは音楽配信以外のサイトも運営していますが、今後音楽以外の情報も配信されていく予定なのでしょうか?

島田:「レコチョク TV」でトライアルとして、映画のトレーラーやテレビの番組宣伝の配信を始めています。映画やテレビ番組の主題歌の販促が主な目的です。将来的に目指すところとしては、今はテレビを見て着うたをダウンロードするというのが1つのお客様の行動パターンとなっているんですが、どこかのタイミングで、レコチョクがきっかけでテレビを見たり、映画を観に行ったりするようになればと思っています。それがうまく循環するようになると、よりみんながエンタメを楽しめて、産業的にも貢献できるのではないかと取り組みを始めているところです。

——「レコチョク TV」はエンタメ全体を考えても可能性を秘めていますね。

島田:そうですね。今後モバイルインターネットがさらに高速化していくことを想定すると、メディアとして携帯を使うときにテキストだけではなくて映像で楽しむことが主流になると思うんです。なので、「レコチョク TV」は中長期的に育てていきたいと思っています。

 ロゴも想いを込めてオリジナルのロゴを作成しました。ほとんどのロゴはレコチョクのロゴの下にサイト名が入るんですが、「レコチョク TV」だけは例外で、これをアイキャッチにユーザーに浸透させていきたいと思っています。

 

——今後、携帯だけでなく他のデバイスを通じても「レコチョク」の各サイトが拡大していく可能性はありますか?

島田:まさにそこを視野に入れています。今回発行しているレコチョクIDをユーザーが持っていれば、どんなネットワーク・デバイスからでも、購買履歴やアクセス履歴に基づいて好きなエンタメコンテンツに出会って楽しめるサービスを提供していきたいと思っています。

——そのためにはID発行がマストだったわけですね。

島田:はい。まずはレコチョクユーザーにIDを持っていただいて、仮に今後いろんなデバイスで遊んでいただくときも引き続きレコチョクでどうぞ、というような流れを作っていければと思っています。ポイントサービスもそこの狙いとしてありまして、貯まったポイントを他でも使えるようにといったことも想定したうえで今回のサービスを始めました。

 実は、公式サイトに登録されているとキャリアさんが発行しているユーザーIDを使って基本的なサービスの設計はできてしまうんですが、いつ、どういうデバイスでユーザーがエンタメを楽しむかわからないので我々も準備をしていくということです。

——配信ビジネスの今後についてはどのようにお考えでしょうか?

島田:着うた・着うたフルの市場が成熟期にきていて、直近は頭打ちの状況が続くのでは、と思っているんですが、先ほども話にあったように通信環境であったりデバイスも含めて、今後ユーザーがどう楽しむか、今はその変化の時期だと思いますし、企業側のサービスの提供の仕方次第ではまだまだマーケットは再成長するんじゃないかと思っています。

 新しいサービスを展開するにあたって、いつも重要だと思っていることがあるのですが、音楽配信のサービスをやっていると、どうしても音楽好きをターゲットにサービスを展開してしまう部分もあるんですね。でも、本質的な音楽やエンタメの市場は、「”音楽が好きだ”とはっきり宣言できないけど、音楽を聴くのは好き」というライトユーザーにどれだけ使ってもらえてマネタイズできるかというところが一番重要であり、着うたではそれが作れたと思うんですね。ですから、新しいサービスでもそれを忘れないで、いろんな人に使ってもらえる、わかりやすくて楽しいサービスを展開できればと思います。

——レコチョクとしての今後の展望は?

島田:総合エンターテインメントサービスを目指すということは一貫しておりまして、そこに対して着実に一歩一歩進んでいこうと思います。今回、会員プラットフォームを始めて、レコチョクが「着うたの公式サイト」からエンタメの総合サービスに切り替わっていく基盤が7割ぐらいできたのではないでしょうか。今年一年はその基盤を使ってユーザーにサービスをどんどん提供していくことに比重をおいてやっていこうと思っています。

 また、自前でできることは限られていますので、色々なパートナーさんと積極的に組んで展開をしていこうと思っています。ユーザーを何でもレコチョクに囲い込むというスタンスではなく、各パートナーさんには弊社をプラットフォームとして使っていただいて、お互いに良いビジネスモデルを構築し、市場を発展させることによって日本のエンタメ産業をより大きくしていきたいですね。

-2010.2.15 掲載

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