YGブランドを通じて360度のライフスタイルを提案 株式会社YG ENTERTAINMENT JAPAN CEO 代表取締役 渡邉喜美インタビュー

インタビュー フォーカス

渡邉喜美氏

2016年、韓国デビューから10周年を迎え、初のスタジアム公演やドームツアーなどその勢いが止まらないBIGBANGを筆頭に、WINNER、iKON、BLACKPINKなど次々と人気アーティストを送りだすYG ENTERTAINMENT。その日本法人「YG ENTERTAINMENT JAPAN」が今年10周年を迎える。今回は同社 CEO 代表取締役 渡邉喜美さんに、2016年のYGを振り返って頂きつつ、2017年の展望や、全世界へ飛び立つ韓国の音楽業界の現状までじっくり話を伺った。

2017年4月26日 掲載

PROFILE
渡邉 喜美(わたなべ・よしみ)


YG ENTERTAINMENT JAPAN 代表取締役社長
1968年 福島県生まれ
1999年 Avex Entertainment Inc. 入社
2012年 YG ENTERTAINMENT JAPAN 入社

avex時代にはDo As Infinity、dreamや数々の海外アーティストのマネジメントを担当。
現在は韓国に本社があるYG ENTERTAINMENT日本支社の代表取締役社長として、BIGBANGをはじめとする韓国人アーティスト、韓国人・日本人俳優のマネジメントを中心に、自社のアパレルブランドであるNONAGONやコスメブランドmoonshotなどの日本展開を手掛けている。

  1. 「10年間の成果」をファンと共有できたBIGBANGの2016年
  2. YGを支える新世代アーティストたち〜WINNER、iKON、BLACKPINK
  3. 作品のクオリティに対するこだわりがYGのポリシー
  4. 日本と韓国の音楽業界の違いは「ハングリー精神の差」
  5. 海外に行ったらそこに何万人のお客さんがいたという状況を作る
  6. 「面白いことを考えて、一番最初にやる」YGジャパンのチーム力

 

「10年間の成果」をファンと共有できたBIGBANGの2016年

——2016年はBIGBANGを筆頭にYG ENTERTAINMENT(以下 YG)所属アーティストが活躍されていた印象が強いんですが、昨年1年間を振り返って頂けますでしょうか?

渡邉:もう思い出せないくらい目まぐるしい1年と言いますか、非常に素晴らしい結果を残すことができた1年だったと思います。去年はBIGBANGのデビュー10周年だったので、1年間をお祝いの年にしました。もちろん日本全国のファンの皆さんとお祝いしたかったんですが、会場の都合であったり、アーティストの都合だったり色々ありましたので、夏に初のスタジアムコンサートを開催しました。

——アーティストの都合というのはスケジュールの問題ですか?

渡邉:はい。私は日本支社の責任者なので日本のことだけを考えていればいいんですが、YGのアーティストはグローバルに活動しているので、色々な国で10周年のお祝いをしなくてはならなかったんです。ですから、日本のファンの皆さまのために、なんとか日本のスケジュールを確保したかったんですが、世界各国にファンがいて、みんなのBIGBANGですので、その調整がなかなか大変で、結果、大阪のヤンマースタジアム長居に集約する形でお祝いをさせて頂きました。BIGBANGもずっとドームでコンサートをやってきて、慣れてきたという言葉は良くないんですが、その規模でも純粋に楽しみながらパフォーマンスできるアーティストになったんですが、流石にスタジアム規模になると、メンバーがもう舞い上がってしまって、色々間違えてました(笑)。

——ハイになってしまって?(笑)

渡邉:そうです(笑)。「自分たちがこの10年間やってきた成果だ!」みたいな感じですごく舞い上がっていて、ちょっとびっくりしました。もちろん「a-nation」とかそういったスタジアム・イベントにゲストで出させていただくことはあるんですが、ワンマンでは初めての経験でしたし、ものすごい歓声に本人たちが一番感動していました。「辛いこともたくさんあったけど、頑張って良かった」という想いを、アーティストとスタッフ、そしてファンの皆さんと共有できたすごい年だったと思います。

——あとにも先にも絶対に忘れられない3日間だったんでしょうね。

渡邉:でも、本当は東京でもやりたかったですし、スケジュールや会場の都合がつけば、もっと多くのファンの皆さんに感動をお伝えすることができたわけで、それを少しでも…という想いから、今回DVD(『BIGBANG10 THE CONCERT : 0.TO.10 IN JAPAN +BIGBANG10 THE MOVIE BIGBANG MADE』)をリリースさせていただきました。メンバーたちが本当に良い表情をしているので、是非多くの方々に観ていただきたいですね。

YG ENTERTAINMENT BIGBANG
BIGBANG

——やはりメンバーの日本への想いも強かったんでしょうか?

渡邉:日本が一番苦労した国ではあると思うんです。彼らは韓国語も日本語も英語も中国語もできるんですが、中でも日本語に一番力を入れていました。他の国、例えば、中国へ行ったら中国語で話しますし、アメリカへ行ったら英語で会話しますが、その国の言葉にローカライズさせて歌っているのは日本だけなんですよね。BIGBANGの韓国語の歌を中国語に変えて歌ってはいないですし、英語に変えては歌ってないんですが、日本ではほとんどの曲を日本語で歌っているので、やはり苦労しています。インタビューも中国だと韓国語の通訳さんが入る感じですが、日本の場合はテレビ番組に出ても何に出ても全部日本語でやっています。BIGBANGはああ見えて意外と努力をしているんですよ(笑)。

——努力なしではあのクオリティは出せないと思います。

渡邉:うちの事務所はどちらかというと「頑張っている」とか「努力している」姿を見せないんです。他の事務所さんはやはり頑張っている姿を見ていただいて、みんなに応援していただくという感じなんですが、うちはヒップホップがルーツにある会社なので努力する姿はあえて見せないんです。でも、陰ではすごく努力していますし、日本では苦労してきました。

——その苦労がスタジアムコンサートに結実したんですね。

渡邉:「ここまで来たんだ」という感慨が深かったんだと思います。そのスタジアムコンサートが夏にあり、11月・12月にやったドームツアーが10周年の締め括りだったんですが、10周年のお祝いが終わることももちろんありますが、メンバーのT.O.Pが軍隊に行くことになり、BIGBANGとしては初めてメンバーが一時的に抜ける、というところでメンバーたちの気持ちがまたすごく揺れたんです。

BIGBANGの5人は本当に仲が良くて、グループの仲間という人間関係を超えてしまっているので、この11月・12月のドームツアーはメンバーにとって非常に辛く、悲しい気持ちでやっていかなきゃいけないツアーでした。さきほどお話したYGという会社の持つ特徴じゃないですが、BIGBANGって人前で泣くのが大嫌いなんですよ。やはり、人前で泣くのはあんまりかっこいいとは思ってないみたいで。

——BIGBANGはクールな印象がありますよね。

渡邉:そうなんですよ。お客さんの前に立っているときは泣かない、みたいなところがあって。そんなBIGBANGなんですが、やはりドームツアーの最終日は特別でした。その日は昼間にイベントをやって、夜ライブをやるという過酷なスケジュールでしたが、T.O.Pはもうお客様に会えなくなっちゃうので、とにかくたくさんのお客様にお会いできるようにと、あえてそういうスケジュールを組んだんですが、その昼間のイベントで、我慢していたT.O.Pが泣いちゃって、メンバーも…でも堪える、泣かない、みたいな感じだったんです。そして、私はこらえましたけど、スタッフがみんな泣いているんですよ。だから…みんな辛かったですね。もちろんファンのみなさんも辛かったと思います。

これは韓国の音楽業界事情みたいなところに繋がるんですが、韓国の健康な男子はみんな軍隊に行かなくてはならないので、これって毎回訪れる話なんですよ。T.O.Pが特別でもなんでもなくて、もう間もなく他の4人も行かなくてはならないから、T.O.Pを送りながらもやっぱり自分たちの未来、こうやってファンと別れていかなきゃならないんだ、というモヤモヤした気持ちも抱えながらの11月、12月みたいな感じでしたね。

『BIGBANG10 THE CONCERT : 0.TO.10 IN JAPAN +BIGBANG10 THE MOVIE BIGBANG MADE』
『BIGBANG10 THE CONCERT : 0.TO.10 IN JAPAN +BIGBANG10 THE MOVIE BIGBANG MADE』Blu-ray Discジャケット

——BIGBANGに関しては、この先はどのような活動が予定されているのでしょうか?

渡邉:近い将来、他の4人も軍隊に行かなくてはいけないので、みんな覚悟しているんですね。もちろん、いつ行くかというのは国が決めることなので私にも分かりません。でも間違いなくT.O.Pが行ったということは、順番なのか一緒なのか分からないですが、行かなくてはならない日がきます。BIGBANGって本当にメンバー1人1人がものすごくパワーがあって、ソロで活動できる人たちの集まりなんです。ですから、グループとして今は1人欠けている状態なので、1人1人が一アーティストとして、ソロの活動をしたり、4人で出来る時間も短いので4人で出来る何かイベントやったりとか、色々やっていこうと考えています。

 

YGを支える新世代アーティストたち〜WINNER、iKON、BLACKPINK

——2017年はYG ENTERTAINMENT JAPAN(以下 YGジャパン)の設立10周年だそうですね。

渡邉:ありがとうございます。うちの会社は良くも悪くもBIGBANGに支えられているので(笑)、もちろんBIGBANGが韓国男子の義務を果たして帰ってきたらBIGBANGとまた仕事をしていきたいですし、すぐに復帰できるように待っていようと思うんですが、同時に次世代のアーティストも育てていかないといけないと取り組んでいるのがWINNERやiKONです。

——iKONはデビューまでにドラマチックなストーリーがありましたよね。

渡邉:iKONにはものすごく反響をいただきました。新人のアーティストが世に出て行くのが難しいこのご時世で、ファンの方々に支えていただいて、デビューから1年でアリーナツアーまで行きました。しかも1日2回公演ですから、iKONの売れ方のスピードはすごいなと思っています。

YG ENTERTAINMENT iKON
iKON

——1日2回公演はすごいですね。

渡邉:これも海外とのスケジュールの都合で、私が確保できるスケジュールはあまりなくて、でも待っていてくださるファンの方はたくさんいらっしゃるので、そうなると2、3時間のライブを1日2回やらなくてはいけないんです。体力的にメンバーはつらいんですが、そうしないと応援してくださる多くの方々にお会いできないんです。YGのアーティストはライブで直接ファンの皆さんとお会いするという方針ですので、2回まわしでも何でもして(笑)、どんどんチャンスを作っていくようにしています。

——iKONが異例の早さで売れた要因はどこにあるとお考えですか?

渡邉:iKONはYGがやったサバイバル番組「WIN:Who Is Next」から選抜されているんですが、その番組からは先にWINNERというグループがデビューしているんですね。iKONはそのとき番組でWINNERに負けて、ただの練習生に戻っちゃったんですよ。テレビに散々追っかけられて、日本だ中国だと振り回された挙げ句に落選して、ただの練習生に戻って、電車で通う日々に戻るみたいな。対して、WINNERは華々しくデビューしたわけです。

つまり、デビューが目前にあったのに落とされるという挫折を味わった彼らは、すごく強いというか、本人たちのパワーがものすごいので、それがお客様に伝わったんじゃないかなと思います。また、落ちてしまったグループをずっと支えてくださるファンの皆さんはメンバーと同じで、すごく強力なんですよね。ですから、私はその2つの力がここまでiKONを押し上げたと思っています。

——挫折を経験した人間の持つパワーって凄いですよね。

渡邉:ええ。彼らはステージに立てることがもう幸せすぎてしょうがないんですよ。やはり順調にオーディションに受かって、すぐデビューしましたという人ってなかなかそのありがたみが分からないと思うんですが、彼らは1回突き落とされているので、やることなすことが楽しくてしょうがないというか、幸せで、常に全力投球なんです。ですから取材を日本で受けるときも、嬉しすぎちゃってうるさいんですよ(笑)。

——賑やかなんですね(笑)。

渡邉:本当にうるさい(笑)。とにかく日本に来られること、日本で取材を受けられること、日本でステージに立てること、日本語で歌えること、日本語で喋ること、もう全てが嬉しくてしょうがないんですよ。そういう韓国のアーティストって今までいなかったと思いますし、日本のアーティストでもなかなか彼らのようなパワーを持つ人はいないんじゃないかなって思います。

現在の韓国のアーティストは、東方神起さんやBIGBANGがものすごく苦労して作った道の上をある程度歩けるじゃないですか。だから新しく来る人たちはもうちょっと楽にステージに上がれちゃうんですけど、iKONは1回どん底まで落ちているので、今、活動できることへの感謝がものすごくあるんです。彼らはそういう気持ちで今回のアリーナツアーもやっているので、1度ライブを観て下さったお客さんがリピートしてくださったりして、追加公演が続き、この間ようやく終わりました。2016年の2月からやっていたんですが、それもほぼ2回まわしでやって。

——どのアーティストも当たり前のように2回まわしで公演されるんですね。

渡邉:BIGBANGと同様に、これ以上スケジュールが切れなかったんです。彼らは日本のアーティストみたいに365日、日本にいてくれるわけではないですし、だからこそ、私たちスタッフもその足りない分、お客様にどうやったら喜んでいただけるだろう? ということを考える努力を他よりしていると思います。限られたスケジュールの中でやってかなくてはいけないですから。

——WINNERはメンバーが脱退して4人組での再出発ですね。

渡邉:ええ。WINNERというブランドはもう確立しているので、4人でしっかりやっていこうと。彼らは全員身長180cm以上で美形揃いのグループなんですが、大人っぽくなってさらに魅力的になったので、今年、韓国では結構ブレイクすると思います。彼らはデビューしてから日本での活動を熱心にやってきたので、日本語ももちろん上手です。iKONはどちらかというと限られた地域で大きいライブをやっているんですが、WINNERはホールクラスの会場をすごく細かくまわっているので、その辺の日本人より地方を分かっているくらいなんです。WINNERはiKONみたいに急激な売れ方はしてないんですが、何かのブレイクポイントがきたときにすごく跳ねるグループだなと思っています。1人欠けちゃったので再出発という形にはなるんですが、グループのモチベーションは非常に高いので、今年新しいWINNERを観て頂くために、また地方を回りたいなと思っています。

YG ENTERTAINMENT WINNER
WINNER

——WINNERも逆境をバネにして力強くなるかもしれないですね。

渡邉:WINNERはiKONと逆で、デビューは華々しくできたんですが、デビューしてから大変でしたからね。

——YGはどのアーティストも順調に育っていますね。

渡邉:男子ばっかりなんですけどね(笑)。ただ、うちにはBLACKPINKというガールズグループがいまして、まだ日本ではデビューしてないんですが、すごく温めてきたガールズグループで、練習生を6年くらいやっているので、ビジュアルはもちろん、実力も非常に高いです。韓国内でものすごく人気ですし、韓国から人気が広がって、アジアにもファンがたくさんいます。

——MVを拝見しましたが、歌とダンスのクオリティも非常に高いですね。

渡邉:すごくかっこいいですよね。本人たちに会うと年相応の可愛らしい子たちなんですが、ステージに立つと、本当にかっこいいんですよ。彼女たちは下積み期間が長いので、iKONと似ていて「やっとステージに立てた!」と今は弾けている感じです。あと、BIGBANGの曲も作っているプロデューサーのTEDDYが手がけているので曲がいいですね。

 

作品のクオリティに対するこだわりがYGのポリシー

——最近はアーティストやクリエイターがコライトして楽曲を発表したりしていますが、YGもそういったことが結構あるんでしょうか?

渡邉:K-POPが世界に広がっていると思うんですが、その中でもYGはアメリカやヨーロッパのアーティストたちに支持されていて、「YGのアーティストと何か一緒にしたい」と向こうから言っていただけることが多いんですよ。あと、YGってすごく自由な社風なんですよね。

——本国のYGもですか?

渡邉:本国の方がより自由ですね(笑)。代表プロデューサーのヤン・ヒョンソク(以下、ヤン会長)がアーティスト出身なので、アーティストを縛るのがあまり好きじゃないんですよ。アーティストに音楽を作る環境を用意してあげて、そこで自由に作業してほしい、というような考えで、会社の中にレコーディングスタジオがあるんですけど、そこにみんなが遊びにきて、ノリで作るみたいなのがうちの社風なんです。遊び場がレコーディングスタジオみたいな。

日本のプロダクションだと、1年間にシングル3枚アルバム1枚出すからここまでに曲を作ってください、という感じですよね。それもプロ意識が高くて素晴らしいと思うんですが、うちは「いい曲ができたから出そう」という感じで、戦略的に狙ってやることがなかなかできないんです。結果それでご迷惑をおかけしてしまうんですが(笑)。BIGBANGも4年以上アルバムを出さなかったので…(笑)。

YG ENTERTAINMENT ヤン・ヒョンソク氏
YG ENTERTAINMENT ヤン・ヒョンソク氏

——どれだけ期間が空いたとしても納得のいく作品しかリリースしないというポリシーをお持ちなんですね。

渡邉:はい。日本だったら大人の事情で納得いかなくても出さなきゃいけないことが多いじゃないですか?(笑) でも、うちは出さないです。

——徹底していらっしゃるんですね。

渡邉:なかなか曲を出さないと、アーティストは遊んでいるんじゃないか? と思われがちなんですが、アーティストも作家も相当曲を作っているんです。でも、ヤン会長のOKが出ないんです。

——最終ジャッジはすべてヤン会長がされているんですか?

渡邉:そうです。100曲作っても1曲採用されるかどうかなので、自由な社風ではありますが、産みの苦しみという意味ではアーティストたちは辛いですよね。アーティストはやっぱり自分たちの音楽をお客さんに届けたいという気持ちが強いんですが、がんばって作っても「これぞ」という曲じゃないと出せないので。G-DRAGONなんかは自分で曲も書いているので、ライブやプロモーションなどの活動をしながらもずっと曲を作っています。でも、ヤン会長のそういうこだわりがヒットを飛ばしている要因だと思います。

——それは韓国の音楽業界のやり方というよりは、YG独自のやり方なんでしょうか?

渡邉:そうですね。他の会社はリリースしていますから。私は日本人ですけど韓国の会社に勤めているので、YGの気持ちもわかりますし、avexさんの気持ちもわかるので、辛いときはありますね。間にいるからこそ、どちらの業界の素晴らしさもわかりますし、お互いの良いところを取り入れたいなと思います。よく日本の音楽業界の方は自分たちのことを悪くおっしゃるんですけど、日本の方が優れている所も当然あるので、良い落としどころをみつけてやっていくと、BIGBANGみたいな結果が出るのかなと思っています。

——渡邉さんは韓国のアーティストや音楽業界に初めて関わったとき、どのような違いを感じましたか?

渡邉:戸惑うよりも、スキルの高さや仕事に取り組む姿勢とか素晴らしいと思いましたね。やっぱり練習生を10年近くやっていうような子たちがステージに立っているので、歌もダンスもハイレベルですし、日本に進出するということで日本語を完璧に覚えて日本にくるという姿勢ですよね。日本のアーティストも「海外に出たい」と皆さんおっしゃっていますけど、英語を覚えてネイティブになってアメリカに進出しているかというと、そうではないと思うので、そういうところもすごいなと感じました。

——日本は準備不足だと思われますか?

渡邉:準備不足と言いますか、意気込みが違うなと思います。以前はK-POPがそんなに流行っていなくて、日本の音楽業界もCDが売れていたんですよ。大型アーティストのアルバムは簡単に100万枚以上売れた時代なので、そこまでやる必要がなかったのかもしれませんし、日本の音楽業界の人も危機感を持ってなかったんですが、そのうち日本の中でK−POPというジャンルが確立されてくる頃には、いよいよ日本でもCDが売れなくなって、「なんで韓国人アーティストは海外でも売れているんだ?」「このままのやり方では駄目なんじゃないか?」と危機感を持つようになってきたんですよね。

 

渡邉喜美氏

日本と韓国の音楽業界の違いは「ハングリー精神の差」

——韓国では行政事業として音楽を支援している印象があります。

渡邉:エンターテイメントに対して国がバックアップをしてくれるので、そういう意味では日本よりはやりやすい環境ではあるんですが、レコード会社やプロダクションといったエンターテイメント企業が韓国だけで商売ができるならば、別に海外でやろうと思わないじゃないですか。韓国では日本のように商売ができないから「海外に行くしかない」という発想なので、各自で世界に出て行かなくてはという気持ちはみんな持っています。

では、「世界に出て行くにはどうする?」となったら、最高のパフォーマンスができて、その国の人たちとコミュニケーションが取れなければいけないので、言葉は当たり前のように覚えますよね。明洞とか観光地の店員でさえ日本語を覚えるじゃないですか? そして今度は中国人観光客が増えたら、みんな中国語で話しているんですよ。でも日本ってそうじゃないですよね。だから国の支援もあるんでしょうけど、個人が海外で成功するためには、というところに対してすごくストイックな気持ちを持っているのが韓国の特徴かと思います。裏を返せば、日本はまだマーケットが大きくて、日本のアーティストは国内で売れていれば食べていけると思うんですね。韓国は国内で売れていても、そんなに大きなビジネスにはならなかったりするので。国内だけでビジネスが出来なかったら外に行くしかなくなる。もちろん韓国が悪い国というわけではなくて、やはり人口が少ないので、自然と外を向きますよね。

——日本と韓国を同じ尺度で見ても仕方ない?

渡邉:ええ。それでも日本のアーティストが海外に出て行くんだといったときに、韓国のアーティストとどう勝負していくかとなったら気持ちの問題でしかないと思うんです。彼らは世界で勝負するために、少なくとも5年から10年練習生をやって、すべて身につけてやっとデビューするんですが、日本だとオーディションをやってあっという間にデビューすることが多いですよね。

——ちなみに韓国の練習生はどのように採用しているんでしょうか?

渡邉:そのあたりは日本のプロダクションと全く一緒で、オーディションやスカウトですね。

——では新人開発の過程が違うということでしょうか?

渡邉:それもたくさんの方に聞かれるんですが、実は今、日本も新人開発に力をいれていますし、あまり変わらないんですよ。avexさんは練習生をアメリカに行かせたり、力を入れているじゃないですか。YGも全てのジャンルのダンスをやりますし、ボイストレーニングもグループレッスンからソロまでやりますし、語学も英語・中国語・日本語をやります。全寮制で食事の管理もして、それを5年間とか10年間やっているので、期間の差はあるかもしれないですが、今は日本のプロダクションの方もそれくらいのトレーニングはしていると思います。

ただ1つ違うのは本人たちの気持ちの問題なんですよね。ハングリー精神というか。徴兵制もありますし、練習生の期間が長いと活動できる期間が限られてしまうので、1日でも早くデビューしたいと思うと、懸命に練習するんですよ。30歳くらいまでの考え方が日本の男の子とは全く違いますよね。期限があるのでみんな子供ながらにずっと考えていますよ。男女問わず世界に出て行くためにはどうするか、という頭で練習生をやっていますから。

例えば、日本のプロダクションでも練習生が定期的に成果を見せる評価会みたいなものがあると思うんですが、日本だとアドバイスをするくらいで終わると思うんですね。でもYGだと、そこがデビューできるかできないかが決まる場なので、練習生は全部完璧にして評価会に出るんですよ。自分が大きなステージに立っているアーティストのつもりで衣装も全部揃えて。なので、全てはそのハングリー精神の差だと思います。

 

海外に行ったらそこに何万人のお客さんがいたという状況を作る

——韓国のアーティストはSNSや動画を積極的に取り入れていますし、プロモーションにも外に出て行こうという意識が反映されていますね。

渡邉:これも一長一短あって、日本はアーティストの権利がきちんと守られているじゃないですか? ですから音楽に関しても映像に関しても誰かが管理してくれてお金が入ってくるシステムが整っていたり、ファンクラブなどの会員制ビジネスもしっかりしていて、それでアーティストが収入を得られたりするんですね。

韓国にももちろんそういった権利を管理する団体はありますが、コンテンツそのものをお金に換えようという考え方ではないので、歌番組1つとっても、番組が終わるとテレビ局がネットにあげるんですよ。YGもそうですし、韓国のプロダクションはプロモーションビデオ(PV)ができたらYouTubeに全編アップします。日本はPVをCDの映像特典にしてマネタイズする事が多いんですが、韓国は無料で出しているのでそれができないんですね。

その代わり、YouTubeは世界中の人が観るじゃないですか? 世界中にBIGBANGのファンが生まれて、世界中で「江南スタイル」が歌われて踊られました。韓国ではコンテンツをお金には換えられないけど、出すことでどこの国に行ってもファンがいるので、ライブができて、マーチャンダイジングが売れる。ただし、こういうやり方をしていると会員制ビジネスは難しくて、ここ10年くらいアドバイスしているんですが、日本のようにうまくはいってないです。

——コンテンツをPRの手段にすることで、世界規模のプロモーションができている?

渡邉:そうですね。例えば日本のドラマも海外の人はあまり知らないんですよ。 でも、韓国のドラマは世界中で観られていて、特に中国ではものすごい人気なんですよ。それは観られる環境を中国で作っているからなんですが、日本は色々と保護されていて難しいですよね。日本の監督とかプロデューサーって本当は素晴らしいんです。でもいろんな国の人に観てもらう機会がない。観たら「日本のクリエイターはすごい!」ってみんな言うのに、日本の制作陣は「日本に良いクリエイターがいない、韓国の監督を使いたい」とか言うんです。きちんとコンテンツが観られる環境を作ることができれば、日本もグローバル化することは非常に簡単だと思います。

——日本の音楽業界に対して「もうちょっとこうしたら良いんじゃないか?」と思っていらっしゃることはありますか?

渡邉:すごく大それたことを言うと、日本の根本的なシステムを変えなきゃいけないと思います。良くも悪くも日本はエンターテインメント業界に歴史があり、先輩たちが築き上げてこられたものがあるわけですが、韓国ってまだ業界の歴史が浅いので、それで起きるトラブルも実はたくさんあります。ただその一方で、古い既成概念に囚われない新しい発想で積極的にチャレンジする力があるんですよ。日本は我々の先輩たちがすごく時間をかけて作ってきたアーティストやクリエイターの権利を守るためのシステムがきちんとできている。でも、それが足かせになっちゃっている部分もある。これは本当に難しい問題です。このシステムを崩しちゃうと、やはり痛みはありますから。

——おっしゃる通りだと思います。

渡邉:そこを越えて、K-POPは世界に広がっていっていると思うので、世界に出て行こうと考えているなら言語を覚える、というようなことは当然するべきだと思うんですが、例えば、英語も中国語も韓国語もできるようになったアーティストが、海外に行ったところで、そこにファンがいなかったら商売にならないですし、そこで1から日本でやるみたいにライブをコツコツやりますと言っても時間もかかります。ローカライズしてやっていくと言っても簡単ではないので、だったらBIGBANGみたいに、行ったらそこに何万人のお客さんがいたという状況を作るべきだと思うんです。そうすると「作ったものをどう世界に知らせるか?」という、業界全体の問題じゃないかなと思います。

——言葉は悪いですが、韓国は「損して得取れ」みたいな感じですよね。

渡邉:韓国はそうですよ。PVとかバンバン撒いておいて、後で一気に持って行く感じですね。

——端から見ると順調に見えるK-POPも、一方で痛みを伴っているんですね。

渡邉:そうですね。日本はコンテンツの権利に関して、しっかり守ってもらえる良い環境がありますからね。例えば、K-POPのアーティストのPV、特にYGのアーティストのPVを観ていただくと、すごいかっこいいと思いませんか?

——そうですね。すごくお金をかけているなとも思います。

渡邉:自画自賛で申し訳ないですが(笑)お金もかけていますし、めちゃくちゃかっこいいと思うんです。日本は当然、日本でビジネスをするために作っているPVであるのに対して、韓国はそのPVをきっかけに世界に売ろうとしていますから、とんでもないお金をかけます。でも、日本のアーティストがYGくらいお金を使ってPVを作ったところで、今は日本でしかビジネスができないですから、元が取れないですよね。BIGBANGはPVにたくさんお金を使っていますが、アメリカ、ヨーロッパ、中国といった世界中の人たちがそのPVを見てライブに足を運んでもらえるという費用対効果を考えたら全然高くないんですよね。

——なるほど…。

渡邉:と言っても、日本はまだまだパッケージが売れてはいるじゃないですか。配信でもちゃんとお金を払ってもらえますし、そういう意味では、音楽業界全体がもっと本気になってきたら何かが変わってくるのかもしれないし、テレビ局のみなさんとかはそろそろ考え始めているんじゃないでしょうか。やはり、ドラマを作ったところで、日本人しか見ないとなると、制作費を下げざるを得ない。でも韓国は日本や中国で観られることも踏まえてドラマを作っています。ですから制作費が高いですし、さらにそこに出ている役者のギャラも当然良くなりますよね。日本の役者さんって今色々と取りざたされていますけど、プロダクションが悪いんじゃなくて、本当に役者のギャラが低い。お金だけじゃないですけど、夢がないですよね。制作費にお金をかけられないと、クオリティも…。

——負のスパイラルに陥ってしまう。

渡邉:そうなんですよね。だけど、誰かが悪者にならなきゃみたいなところで、プロダクションが悪い、みたいな。それについては一言申したいんですけど(笑)。

——(笑)。もうちょっと大きくビジネスを見たほうがいいということですね。

渡邉:そうですね。でも、見る必要もないかも知れません。日本だけでやっていくんだったら、日本でやっていくことをしっかり考えれば良いと思いますしね。だって、日本はマーケットが大きいですから、みんなここでビジネスができるじゃないですか、今は。でも、世界へ出ると決めるんだったら、何かを大きく変えて進まなきゃいけないですし、1プロダクションががんばってやっていくとか、そういうレベルの話ではないのではないか? と個人的には思います。

 

「面白いことを考えて、一番最初にやる」YGジャパンのチーム力

——最後に、YGジャパンとして、今後、どういった方向性でビジネスを展開していこうとお考えですか?

渡邉:YGのアーティストを日本でブレイクさせるというのが私のミッションだとは思うんですが、次のステップとして、アーティストやYGというブランドを通じて、音楽だけじゃない360度のライフスタイルを提案していきたいと思っています。実際にそれは本社も考えていて、音楽はもちろん、NONAGONというファッションブランドをやったり…実は私が今日はいているスカートもNONAGONなんですけど(笑)。moomshotというメイク・ブランドを展開したり、あとはYG Republicという飲食もやっていたりしているんですね。それが今、韓国からアジア各国に展開していますので、日本でも展開しようと思っています。ですから、今後はYGブランドをいろいろな角度から日本に提案するのが次のステップかなと思っています。

NONAGON オフィシャルサイト
NONAGON オフィシャルサイト

——本国とのミーティングというのは、どのくらいの頻度でやられたりするんですか?

渡邉:実は、うちの会社は先ほども言ったように自由な会社なので、会社っぽいことをあまりしてなくって(笑)。良くも悪くも、本社からすごく任せてもらえているんですよ。普通だと頻繁にテレビ会議をしたりとか、他の外資系の方々はやってらっしゃると思うんですが、そういうことはほとんどしませんし、月に1〜2回韓国へ行ってミーティングするくらいです。

——渡邉さんが率いるYGジャパンの特色は何だと思われますか?

渡邉:何でしょう…うーん、難しい質問ですね(笑)。

——今回お会いして、渡邉さんのキャラクターというか、パーソナルが反映された部分もあるのかなと感じたもので。

渡邉:うちの会社に限らず、YGの仕事をしていただく方には、みんなYGを愛してもらいたいですし、何か熱い気持ちのない人とは仕事をしたくないんですよね。私だけ盛り上がっちゃって(笑)、みんながシラーッとしているのとか嫌なんですよ。だから、うちの会社の人間もそうですし、うちに関わってくださるavexさんのYGEXというレーベルがあるんですが、そのチームのみなさんもそうですし、宣伝してくださるみなさんとかも、熱い気持ちでやってくださっているので、そこが他と違うかなと思っているんですね。

みんな遊ぶことより「何か面白いことをやろうよ!」みたいなことを話しているときが一番盛り上がるというか。仕事が終わって、せっかくみんなで飲みに行っているんだったら、くだらない話でもすれば良いのに「こんなことやろうよ」「じゃ、こんなのはどう?」と仕事の話ばかりしています(笑)。でも、その雑談が実際、今のビジネスに繋がっていて、例えば、KRUNK(クランク)というYGのキャラクターがそうで、すごく人気があって、そのキャラがアーティスト並に活動していたりして(笑)。

KRUNK
KRUNK

——キャラクタービジネスもやられていたんですね(笑)。

渡邉:そうなんですよ。KRUNKも忙しくてスケジュールがなくて。今、お台場のジョイポリスでカフェをやっているんですが、常に色んなことをしていて、挙げ句の果てにタワーレコードでハイタッチ会とかやっちゃうんですよ(笑)。

——(笑)。

渡邉:そんな感じに、みんなが面白がって話したことが現実になったりしますし、ありがたいことにうちのお客様はそれを楽しんでくれるタイプのお客様なんですよ。ですから、YGのアーティストが良い結果を残せているのは、ヤン会長のプロデューサー力やアーティストの魅力はもちろん、そういうみんなのちょっとしたアイデアだったり、熱い想いだったり、そういうところにあるんじゃないかな? と思うんです。手前味噌ですけどYGでやったことって、結果みなさんに真似をされちゃったりするんですが、真似をされることは光栄だと思っていて、YGがおかしなことを考えて、最初にやって、それが盛り上がって真似されたら、私たちはまた別の新しいことをする、ということを絶えずしているチームですね。

——チーム力が高いですね。

渡邉:高いです。そこに熱い想いのない人は多分いられないと思いますし、もしかしたら「何バカなことを話しているんだろう?」って思われているのかもしれないです(笑)。くだらないことを熱心に、必死に怒っていたりもしますしね。そして、面白いことにBIGBANGは、そんなアイデアに乗ってくれるんですよ。

ライブをするときは、もの凄く格好いいですし、ライブの制作に関して、ちょっとでもミスがあったらすごく怒るし、とてもストイックな人たちなんですが、歌っているとき以外のBIGBANGって、本当に面白い子たちなんですね。もう、みなさんびっくりするくらい。それで、私たちが面白いことを提案すると、それを倍で返してくるんです。ですから、例えばファンクラブイベントとかで、メンバーがちょっとゲームをしたりとか、まあ、それはどこのプロダクションのアーティストもやっていますが、BIGBANGはそれを勝手に広げちゃうんですよね。散らかしてくれるというか(笑)。なので、ファンのみなさんは良く分かっているんですけど、BIGBANGは本当に人を楽しませる天才です。

——BIGBANGは生粋のエンターテイナーなんですね。

渡邉:BIGBANGはそういうアーティストなので、私たちもやりがいがあるというか、面白いことをもっと考えてみようと思っちゃうんですよね。そもそも、みなさんと同じことをしていても面白くないですし、ビジュアルだけで売っているんだったらそれはそれで良いかもしれないですけど、YGはやっぱりBIGBANGの人間味というか、笑いのセンスとかも彼らの魅力だと思うので(笑)、そういうところを引き出していけるように、これからもチームで力を合わせてやっていきたいですね。

株式会社YG ENTERTAINMENT JAPAN CEO 代表取締役 渡邉 喜美氏


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