【前半】身体を突き動かす「格好良い音」を追い求めて 日本屈指のマスタリング / カッティング・エンジニア 小鐵 徹(JVCマスタリングセンター)インタビュー

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増え続けるアナログレコードの仕事

小鐵 徹氏(JVCマスタリングセンター)

——時代の流れとして、持ち込まれるマスターのメディアがどんどん変わっていきましたよね。CD初期のマスターってなんだったんですか?

小鐵:素材は「シブイチ」か「ハーフ」の2種類でしたね。それからDATで持ち込むような人も現れて、今はwavとかaiffが多いですね。

——アナログレコードから聴いてきた耳にはどういう風に感じられましたか?

小鐵:言っちゃ悪いですけど、初期のPro Toolsとかは「なんだこれ。イモじゃないか」と思いました。

——それがマスターになっている時代はがっかりした?

小鐵:ええ。「コレお客さんを騙すことになるんじゃないか?」って思いましたね。失礼なんじゃないかって。「一種の詐欺なんじゃないか」とさえ思いました。

——ハーフインチ・マスターの頃までは良かった?

小鐵:僕は良いと思いました。それからデジタルになったでしょう? もうがっかりしましたね。

——世の中、良い方に進むと思ったのに。

小鐵:そう。「これじゃ詐欺じゃないか」って。確かに便利ですよ?便利だけどね…。アナログのテープだって歴史があるわけじゃないですか? 当初はそんなに良くなかったと思いますよ。でもだんだん良くなってきた。それを思えば、デジタルはまだ歴史も浅いし、しょうがないのかなとも思います。これからデジタルのハードも進化するだろうから、と。そう思っていたんです。そうしたらPro Toolsなんて初期のものと比べたら良くなりましたよね。だから最近のwavでも悪くはないですよ。

昔はテープに「サンパチ」と「ナナロク」とスピードがありましたよね。理屈上は「ナナロク」の方が良いはずなんですが、僕は「サンパチ」の方が好きでした。それは音楽として、そっちの方がバランス良いし、気持ち良いからなんです。デジタル化の後の「ヨンパチ」は、24bitの「ヨンパチ」が一番「サンパチ」に近いかな、という印象があります。今だと「24bit/96kHz」が結構良いんですが、そういう流れを見ていると、結局はアナログに近付こうとしているんですよね。

——「アナログに近付こうとしている」という話は色々なところで聞きます。

小鐵:テープはもう世界中で「生産されてない」とされている。だけど日本では3社、頑張って研究しているメーカーがある。そのテープが、昔に比べて随分クオリティが上がっているらしいんです。今はネットの時代じゃないですか? そのサーバーとして、デカいハードディスクを使っている一方テープで、データの保存が見直されているんです。

——サーバーとして磁気テープを使うんですか?

小鐵:コストも安いし、耐用年数に関しても、ハードディスクより良いということで、大容量のサーバーに使われているという新聞記事を読んだことがあります。それを読んで、そんな高性能なテープがあるのなら、次世代のアナログテープデッキをどこかが作ってくれないかな? と思っているんです。そうしたら「24bit/96kHz」なんかよりもっと良いんだから。

——デジタルって耐用年数に関しては信用ならないところもありますものね。今お客さんはどのような形でデータを持ち込まれますか?

小鐵:やはりハードディスクが一番多いですね。あとはUSB。それからお皿、DVD-Rですね。

——最近はアナログの仕事が増えているようですね。

小鐵:アナログは去年くらいから増えだしたんですが、今年の8月くらいから一段と上がってきましたね。それで最近は土・日・祝日も休みじゃなくなりました。この間なんて月に1回休むのが精一杯でした。

——スタッフ的なところで言うと、他の方もカッティングするのですか?

小鐵:カッティングは僕だけです。昔アナログをカッティングしていた人なら、今でもできるわけでしょう? でも、誰1人やりたがらないです。CDのマスタリングを経験しちゃうと。早い話、楽なんですよね。アナログは本当に地道でキツい作業の連続で、おまけにリスクも大きいんです。だから誰もやりたがらないんですよ(笑)。カッティング・エンジニアは僕と東洋化成さんに2人、それからコロムビアさんにも2人で日本に5人ということになります。まあ非公式にやっている方もいらっしゃるかもしれませんが。

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