起業家に転身したメジャーアーティスト、目指すは早期上場 — Jace代表 西川コウキ氏

インタビュー フォーカス

西川コウキ氏
西川コウキ氏

 メジャーデビュー2年目で武道館ワンマンを行い、その後の展開を期待されながらも2015年4月に解散したViViD。そのドラムだったKo-kiは、休む間もなく今度はビジネスにフィールドを移し、起業。先日はヴィジュアル系に特化したアプリ「ViX」をリリースし、さらにはバンドマンのサポートも兼ねた新業態のホストクラブも手がけているという。高校生の頃から早くもビジネスセンスを垣間見せていた若き野心家は、次の目標を「上場」と定め、「必ず達成する」と熱く語った。

(Jiro Honda)
2015年6月29日掲載

PROFILE
神奈川県出身。2009年にViViDを結成。2011年、メジャーデビュー。2012年、日本武道館でワンマンライブを行う。2015年5月、解散。その後、株式会社Jaceを設立、V系ニュースアプリ「ViX」や新業態のホストクラブ「REALIVE」の運営などを手がける。
Jace
ViX(iOS)
REALIVE
@KoukiNishikawa

 

  1. 高校生の時に「自ら売り込み」事務所と契約
  2. つきまとう「不安」——バンドには寿命がある
  3. 「勝てる戦しかやらない」ヴァーティカルメディアでシーンのエコシステム構築へ
  4. 批判も想定内、敢えて「ホストクラブ」でバンドマンを育てるワケ
  5. 目指すは30歳までに上場
  6. 「日本の音楽産業は中間業者が多すぎる」

 

高校生の時に「自ら売り込み」事務所と契約

——ViViDは先日解散されましたが、起業は以前から計画されていたんですか?

コウキ:もともと目立ちたがり屋で(笑)。起業すること自体はずっと前から決めていましたね。「何歳までにこうする」という目標を設定するタイプなので、例えば高校生の時は「卒業するまでに事務所を決めて契約する」が目標でした。実際、高校3年生の時に自分で資料を作って売り込みに行って、予定通りPS COMPANYと契約までいきました。

——自分で売り込んで事務所と契約までもっていく高校生はなかなかいないですよね(笑)。

コウキ:それで、高校を卒業してすぐ結成したのがViViDでした。高校の時からバンドをやっていて、大学に進学するか音楽をやるかですごく悩みました。もし音楽をやるんだったら絶対にプロにならなければ意味がないと思っていて。最終的に、ヴォーカルがViViDに入るとなった時にそれなら上手くいくと思ったので、その時は音楽に決めました。

——ちなみにコウキさんはドラマーですが、楽器としてドラムを選ばれたのは?

コウキ:やっぱりプレイヤー人口が一番少ないんで、その分機会がありますよね。

——そこからすでに戦略的ですね。

コウキ:ヴィジュアル系(以下、V系)のシーンを選んだのも、マーケティングの視点からなんです。もともとはメタルやハードコアをやっていて、V系には偏見がありました。でもV系のシーンは音楽の方向性というよりも、マーケティングを上手くやればファンを増やせる市場だということに途中で気付いたんです。それで、高校生の時にマーケットにあわせたトライアンドエラーを何回も繰り返しました。ViViDのメンバーを集めるときも、バンド全体で弱みがないように、それぞれのキャラや年齢等を意識してポートフォリオをちゃんと組みました。

 

つきまとう「不安」——バンドには寿命がある

——デビューから武道館までも早かったですよね。

コウキ:20歳の時にメジャーデビューしたんですけど、デビューから2年以内に武道館でライブをやることは目標の一つで、予定通り2年目に達成しました。最初の2年間はすごく順調でしたね。担当マネージャーも戦略家で、一緒に年間計画やブランディングもしっかり考えてくれました。

でも、武道館が終わってからスタッフ体制の変更などもあって、バンドの勢いが段々失速しはじめて、活動スピードが僕のイメージとずれるようになったんです。自分で年間計画の資料を作って周りにプレゼンするような状況にまでなってしまって。「なんでアーティストの僕がこんなことやっているんだろう、なんかおかしいな」とか思いながら(苦笑)。

——予定通りいかずに、いてもたってもいられなかった?

コウキ:バンドを職業として将来を真剣に考えたら、全てを自分達でやるか、とにかく大きい規模でヒットを目指すか、どちらかしかないですよね。もちろん音楽というのは売れることだけが全てではないと思いますけど、現実的には今後何十年もの人生があって、毎日の生活があるわけじゃないですか。僕はバンドには寿命があると考えているので、短い期間で普通の人の生涯年収を稼がなければいけない。でもそこに届くような気配もなくなって、そのまま活動を続けるのがすごく不安でした。

——アーティストにも職業寿命がある?

コウキ:特にV系のバンドでしたからね。だからその時に、決断するべき時期だなと思い、メンバーと真剣に話し合いをしたら全員のビジョンがバラバラで。それでもう無理だろうということで、2014年4月ぐらいに解散が決まって、そこから会社を作る準備を始め、今年Jaceを設立しました。

——次はビジネスでいこうと。

Jace代表 西川コウキ

コウキ:そういう発想になるのは、結局、常に将来が不安だからなんです。今も昔も。あまり裕福ではない環境で育ったせいかもしれませんし、メジャーにはあがったけど、就職経験も無くて、高卒だし、「バンドが終わったらどうなってしまうんだろう」というのは頭の片隅にずっとありました。だから自分なりにリスクヘッジをしておかなければと考えていました。

もちろん、アーティストとしては「音楽だけで食っていく!」というのが一番かっこいいと思うんですけど、ドラムで一生食べていくという選択肢は僕の中にはありませんでしたね。

——バンドをやりながら株式投資もやっていたという話を聞いたのですが。

コウキ:今はもうやっていませんが、バンドをやっていた時は、ほぼ株で生活をしていました。趣味が読書なので、本を読んで自分で勉強して。事務所からの給料は全て投資資金にまわして利益を上げて、機材を買ったりしていましたね。マーケットの取引時間って9時から15時じゃないですか。だから、毎朝8時30分に起きていました(笑)。その頃は日々朝の5時まで飲むような生活をしていたので、けっこうキツかったです(笑)。

 

「勝てる戦しかやらない」ヴァーティカルメディアでシーンのエコシステム構築へ

——アーティストが起業する場合、自分のプロダクションを作ることはよくありますが、コウキさんのように音楽サービス事業を手がけられるケースは割と珍しいですよね。

コウキ:プロダクションは敢えて作りませんでした。バンドをやめてプロダクションを作るのは、あまりにもベタなので。なんでも人と一緒がイヤなんですよね(笑)。でも、人を育てること自体は好きなので、プロダクションについては先日リリースしたViXのようなメディアやサービスを十分に成長させて、Jaceにしかない強みを持った状態にしてから手がけたいと思っています。なので、いきなりアプリ開発から事業をスタートさせたために、イニシャルコストがものすごくかかりました(笑)。実際運営してみて、メディアやアプリ事業は収益化が簡単ではないというのを改めて実感しています。

——起業して最初の具体的なサービスがそのViXになりますか?

コウキ:そうです。ViXはV系にフォーカスした、領域特化型のヴァーティカルメディア・アプリです。実は今までV系に特化したアプリというのはあまり無かったんですよね。ですから、時代にあったスマホ世代の若いファンの為に作りました。

——どういったアプリなのか改めて教えてください。

コウキ:ViXでは、V系バンドの情報のキュレーションを行っていて、お気に入りのバンドのツイッターやブログ、ニュース、ライブスケジュール等をまとめて一気に確認できるアプリです。V系のファンは複数のバンドを同時に好きというケースが多くて、そのバラバラの情報を全てチェックするのが大変そうだったので、そこをまとめて提供してあげればきっと便利だろうなと。一度使い始めれば、アクティブ率の高いアプリなので、V系好きみんなが使うアプリにしていって、サービスとしてMAUアップを目指しながら、同時にシーンを盛り上げることができればと思っています。

ViX Jace
ViXの画面。好きなアーティストをお気に入りにするとソートされた情報がまとめてチェックできる

——今後も機能はアップデートされていきますか?

コウキ:次のフェーズでは、アーティストのインタビューやリリース情報といったコンテンツを増やしますし、その後は多言語対応や音楽ストリーミング機能、ViXの動画番組、グッズのEC機能を追加していく予定です。さらに、V系とクラウドファンディングは親和性が高いはずなので、クラウンドファンディングの機能も備えたいと思います。OtoOで、ライブへの展開もプランにあるので、ここまでやればV系シーンにおけるエコシステムがViXで完成します。バンドもViXだけでファンに全て届けられますし、ファンもバンドに関しての全てが網羅できるので、双方にとってすごくメリットのあるプラットフォーム&コミュニティーになると思います

しかも、V系の海外市場規模は一般的にイメージされているよりもだいぶ大きいということを、実際にツアーなどで現地を回ってキャッチアップしているので、そういった海外シェアも確実に取り込みたいですね。多言語対応はその為ですし、ジャンルとしてはニッチですが、グローバルなサービスにします。

——V系のシーンに特化したのは、やはりそのシーンにいらっしゃったからですよね。

コウキ:勝てる戦しかやらない主義ですので、まずは自分のいたフィールドで、最もアドバンテージのあるところからスタートしました。これがうまくいけば、同じフォーマットを他のジャンルにも応用できると思います。

今後、ユーザーが増えれば広告収益でマネタイズできますし、割と規模の大きい資金調達の話もすでにいくつか進めているので、スピード感をもってサービスを進めていきます。

 

批判も想定内、敢えて「ホストクラブ」でバンドマンを育てるワケ

——他に、ホストクラブのプロデュースも手がけられていますよね。

コウキ:REALIVEという名前で、キャストがバンドマンで演出として演奏もする形態のお店です。

REALIVE(リアライブ
REALIVEのWebサイト

——元アーティストがホストクラブをやっているという話を聞くと偏見を持ってしまわれそうですが、そこも確信犯的だったりしますか?

コウキ:ホストクラブではありますが、僕がお店で実践しているのはバンドマンに「力」を付けるということなんです。その「力」というのは、「知識」と「資金」だと考えていて。僕の憧れはYOSHIKIさんなんですけど、YOSHIKIさんは自分でレーベルを作って、そこからメジャーに行って、色んな交渉も自らされましたよね。やっぱりそういうネゴシエーションが出来るのは、その「力」も兼ね備えていらっしゃったからだと思うんです。

でも、一部の例外を除いて普通のバンドマンには知識も資金もありません。バンドを組んで売れたい。でもどうしたらいいのか分からない。ちょっとがむしゃらに頑張って、事務所に所属するまではいけた。でもそこで終わっちゃうんですよね。あとは任せきりになってしまう。売れるか売れないかは、事務所の力や担当マネージャーが仕事ができるかとか、ほぼ運頼みになってしまう。そうではなく、バンドマンにももっと自分の意志を持って欲しいし、もっと戦略的になって欲しいという思いがあるんです。

——海外はアーティストがマネージメントを雇って、リスクを負う分リターンも大きいという構造がありますが、日本は基本逆ですよね。

コウキ:だからアーティストとして一通り経験した立場から、バンドマンに業界で得た知見を伝えて、なおかつ彼らが稼げる「プラットフォーム」のようなお店を目指しています。「知識」と「資金」、そして「技術」も身に付けることができる場所。ホストクラブというより、どちらかというとAKB48の劇場みたいなイメージですよね。ここからバンドがデビューしていく登竜門になればいいかなと。

Jace代表 西川コウキ

——そういう思いが込められているんですね。

コウキ:それに、こういうホストクラブにしたのは、誰もやっていないからというのと、敢えて人から批判されるものの方がいいだろうという計算もあります。賛否両論なければバズらないですからね。みんなが賛成することは、誰かがもうやっていますし。普通に音楽バーとかやってもつまらないじゃないですか。僕自身もうアーティストではないですから、どんなに批判されようが、最終的に成功したかどうかで評価が決まると思っています。今25歳ですけど、30歳の時には世間が認めざるを得ない結果を出す自信があるので、今はどう言われようと構わないという気持ちです。

——V系は特にだと思うんですけど、ネットとかで叩かれるのには耐性がついている?

コウキ:とはいっても、そんなにメンタル強くないんで叩かれたら普通にツラいんですけどね(笑)。多分ネットで「死ね!」って数万回言われてますから(苦笑)。

——でも批判や偏見は織り込み済みだと。

コウキ:それに、僕自身も最初はホストに対して偏見があったんですけど、提携している会社がホストクラブのイメージを変えたいという理念を掲げて、ホストをコンテンツやソフトとして戦略的に展開しているすごくしっかりした企業なので、そういう革新的なところにも共感して始めたというのもあります。

 

目指すは30歳までに上場

——コウキさんは普通のアーティスト、バンドマンには無いコネクションをお持ちですよね。どうやって人脈を構築されたんですか?

コウキ:フットワークが軽いというのと、あと、お酒がすごく好きなので、先ほど言ったようにそれこそバンドが解散するまではほぼ毎日飲みに行ってたんですけど、内輪で飲むのではなくて、いろんな場所に出向いて、沢山の人に出会って、そこで繋がりができたりとか。あとは海外で出会ったり。今回の会社の立ち上げにあたっても、シンガポールでお会いした起業家の方々から色々勉強させていただきました。

——それは現地でビジネスカンファレンスか何かがあって出会ったんですか?

コウキ:いえ、その時は一人でカジノに行ったんですよ。でも、軍資金を1日で全部すっちゃって(笑)。それで途方にくれていたときに、たまたま知り合いの日本人の方もいらっしゃっていたので、連絡をしたら、その方にまた色々な方を紹介していただいて。

——コウキさんと話していると、アーティストというよりも、スタートアップの起業家の方のような印象を受けます。

コウキ:とはいえ、ただお金を稼ぎたいだけでもないので、とりあえず今はやりたいことを手がけている感じですね。バンドは寿命があるので敢えてすごく急いでやっていましたが、これからの人生はそこまで急ぐ必要はないので、今は少し解放された気分です。もちろん目標があった方が燃えるので、30歳までに上場するという目標を設定していますし、必ず達成するつもりでいます。一方、ビジネスにはバンドのような寿命がないので、ある程度余裕も持ってやっていこうと思っています。

——V系界隈の出身の方は、ビジネスでも優れた方が多くいらっしゃる気がします。

コウキ:ファンの心理をつかむマーケティングが一番大事なジャンルなので、やはりそこでセンスが磨かれるんだと思います。曲や演奏に加えて、雰囲気、発言、キャラクタ−、写真の世界観、そういった全てを戦略的にやらなければ人気が出ないジャンルなので。

ビジネスに関しては、もともと仕事が大好きなんです。普通にビジネスマンだったら誰よりも出世欲があるタイプでしょうし、どんな仕事でも絶対に負けたくないですね。本当に負けず嫌いで。

 

「日本の音楽産業は中間業者が多すぎる」

——あと、お話を伺う中で感じたのですが、やはり今の音楽産業の構造に疑問を感じている?

コウキ:経験して思ったんですけど、やはり日本の音楽産業は中間業者が多すぎますよね。何をやっているか分からない人達があまりにも沢山いすぎます。

——今年はやっとストリーミングサービスが次々と開始されるなど、産業の構造変化の兆しもあります。

Jace代表 西川コウキ

コウキ:でもやっぱり日本は動きが遅いなと思います。「時代が変わる」みたいな同じことを何年も言い続けていますし。CDを中心として完成されたマーケットがもうできあがっていますから、既得権益を得る人がいるので仕方がないですけどね。ただ、個人的にはCDが売れようが売れまいが本当にどうでもいいと思っています。実際、すでに音源だけではアーティストにそんなにお金は入ってこない状況になっていますから、音源に関して言えばもうタダでもいいと考えています。CDはグッズの一つとして売ればよくて、アーティストは積極的にネットで楽曲を流して宣伝して、ライブに来てもらってやっていけばいいだけのことだと思うので。みんなが言っている音楽不況は、音楽業界、いわゆる供給者の理論の都合であって、音楽ファンやアーティストからすると、きっとそもそもの論点が違うんだろうなと思って見ています。

——そういう中で、Jaceでは今までと違う枠組みでサービスを提供していく?

コウキ:最終的にはアーティストとファンがいて、そこをダイレクトにつなげていきたいですね。その為にも、目標に向かって次々に事業を進めていく予定です。必ず目標を達成して、「元アーティストが数年で上場なんて無理だろう」と思っている人達を絶対に驚かせる自信があるので、これからも全力で取り組んでいきます。

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