アジア最大の音楽配信サービス「KKBOX」 — KKBOX Japan 松山泰士氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

松山泰士氏
松山泰士氏

ニアオンデマンドラジオ、サプスクリプション等、新しいスタイルの音楽サービスが次々とスタートしている2013年。先日、アジア最大の音楽ストリーミング「KKBOX」も日本に上陸し、サービスがスタートした。台湾では1,000万人以上のユーザーを持ち、欧米圏のSpotifyやDeezerに対する「アジアの雄」とも言えるKKBOX。

最大の特徴である機能「Listen with」を携え参入したKKBOXについて、日本での拠点KKBOX JAPAN合同会社の松山氏に話を伺った。
(取材 Masahiko Yamaura、取材・文 Jiro Honda)

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PROFILE
松山泰士(まつやま・たいじ)
KKBOX Japan 合同会社


東京出身。慶應義塾大学卒業後、映像業界を経てKDDI株式会社に入社しコンテンツ関連サービスに携わる。
現在はその経験を持ってKKBOX Japanに参加しサービスプロモーションやレーベル、アーティストとのリレーション構築を業務とする。

 

——KKBOXは、「LISOMO unlimited」からKKBOXへブランド変更してのサービスインですが、そのいきさつというのは?

松山:LISOMO unlimitedは2010年に開始しましたが、次のフェイズへの移行にあたって海外展開が視野にありました。LISMOブランドは日本国内においては強いのですが、海外での知名度を考えると、既に海外、特にアジアで非常に認知が高いKKBOXブランドの方が競争力を得られるだろうという狙いから、この度思い切ってLISMOからKKBOXに変更をしました。

——海外というのは特にアジアでの展開ですか?

松山:最近レーベルのみなさんもアジアへの展開を非常に意識されているので、アジア志向を強くする事が、ひいては日本の音楽業界に対して貢献できるのではないかという面もあります。

——KKBOX JAPANはKDDIの完全子会社ですよね。

松山:今は比率が少し変化していますが、2010年12月24日にKDDIがKKBOX本体の株式の76%を取得しました。

まだガラケーが主流だった2010年当時は、音楽配信というとLISMOブランドが強かったのですが、最近スマホに移行している中で、ハードの移り変わりの面においてもLISOMOよりKKBOXという新しいサービスで展開していった方がより効果的だという判断もあります。

——スマホ移行のタイミングもちょうど時期的にあったんですね。KKBOXは台湾発ですが、現地では老若男女問わず知っているとか。

松山:無料会員を含め、我々は登録会員と呼んでいますが、現在台湾では1,000万人以上の登録会員がいます。台湾の人口が約2,300万人ほどですので、既に約二人に一人に近いぐらいの利用状況ですね。ブランド認知率は、国民の92%に達します。台湾のだいたいの人は「KKBOX」という名前を何かしら知っているという状況になっています。

——海外ではいわゆるフリーミアムモデルなんですよね。

松山:台湾、香港では無料会員に対して一日5ストリーミング(一日5曲まで)は全曲無料で聴けるというプランを用意しています。その他に、音楽情報ポータルとしてオンラインマガジン的な音楽ニュースの提供、プレイリストの紹介を行っています。ここで紹介された曲に関しては、30秒間の試聴が出来ます。そして、有料会員になれば全てのサービスがご利用いただけます。

——日本だと、月額980円(税込)(90日間プランは2,940円[税込])のサブスクリプション型でのスタートです。

松山:日本においては音楽情報、音楽ニュースの部分は同様に無料会員様も読めますし、試聴もできますが、一日5ストリーミングのフリーミアム・モデルの提供というのは、まだ調整段階ですね。

——KKBOXはアジア版で以前から日本の楽曲も配信していますよね。

松山:そうですし、アジア版ではむしろ日本で配信されない曲も入っていたりしますね。日本においてはウインドウ・ピリオド(リリースからネット配信開始までの待機期間)がありますが、台湾ではウインドウ・ピリオドがゼロで最新曲が配信されていたりもします。

——それは契約の状況が違うからですか?

松山:恐らくそうですね、レーベルさんも違っていたりしますので。

他にはもちろん、K−POP、C−POP等のA-POPと言われるアジアの音楽も入っていますし、一番多いのは洋楽で、全部を合わせるとアジアでは1,000万曲以上(日本では100万曲以上)。

——洋楽は欧米のレーベルから入っているのでしょうか?

松山:アジア版では、現在、直接各アジアの500ほどのレーベルと契約を交して展開しています。
日本においては、そのアジア版と同じ契約形態ではなく、我々KKBOX JAPANが日本のレーベルさんと直接契約を交わしています。従ってアジア版と国内では、開始当初は曲数でちょっと差異がでているという状況です。

——日本でのレコードメーカーとの交渉についてはいかがでしたか?

松山:なかなか調整の難しいところもありますが、前向きにご協力いただきました。

——音源提供社への支払いというのは?

松山:予め契約の段階で決められた料率の中で、そのレーベルさん全体の楽曲で再生された分だけお支払いするというカタチになっています。

KKBOX Japan 合同会社 松山泰士

——KKBOXを実際使ってみたのですが、やはり一番の特徴は【Listen with】だと思いました。そこについて改めてご説明をお願いします。

松山:簡単に言うと、再生中の曲を他の人と一緒に聴く事ができるという機能になります。チャットも備えていますので、曲を聴きながらみんなでコミニケーションできます。KKBOXはグローバル・サービスですので、例えば私が聴いている曲を台湾の方が一緒に聴く事ができたり、シンガポールのユーザーが聴いている曲を香港のユーザーが聴く事ができたりという、国境をまたいで一つの音楽を聴き合うことができる、やや規模の大きい音楽体験を提供しています。

——一緒に聴ける相手というのは、「国内」、「海外」、「友達」が選べるようになっています。

松山:少し問題なのはチャットの部分で、中国語や英語、日本語が入り乱れてしまうところは今後の課題ですね。日本語だけをソートできる機能等を考えていますが、最終的には翻訳機能を実装して分け隔てなくみんなで会話できるようにしたいですね。

Listen withは、例えばSpotifyにも無い機能なので、これを一つの差別化要素としてユーザーに興味を持っていただきたいです。

——有名なアーティストやミュージシャンがListen withを日常的に使ったら、すごい勢いでKKBOXは拡まるんじゃないかと感じました。

松山:例えば自分の好きなアーティストが聴いている曲は、きっとみんな聴きたいでしょうし、尊敬するDJとか、ツボが同じユーザーが聴いている曲もきっと気になると思うので、そういう部分で新しい音楽の発見にも繋がると思います。あと、自分の好きな女の子が聴いている曲も聴きたくなるでしょうしね(笑)。

——それはもう台湾で実証済みという感じですか?

松山:台湾においても、Listen withは最初ユーザの友達同士というカタチでスタートしたのですが、有名人が使うようになってから、やはり急激に利用者が増えましたね。台湾では、当初我々が有名人やアーティストの方に使ってくださいとお願いしていたのですが、現在は国民的に普及し、KKBOXのアカウントをみんな普通に持っていますので、有名人もみんな利用しているんですよね。もうこちらからお願いをしなくても、自然と有名な方が自分でKKBOXを使ってListen withを日常的に楽しんでいます。自分の曲の宣伝にもなりますしね。

——では、これから国内で本格的にKKBOXをひろめていくときに、例えばレーベルとかがアーティストや楽曲のプロモーションの一環で使うみたいな状況も考えられると。

松山:プロモーションの場としてぜひ活用して頂きたいですね。やはり国境を越えたサービスですので、例えば日本とアジアで同時リリースしたり台湾でライブを行ったりするアーティストが、日台同時でListen withを使って、それぞれでニュースを作るみたいな効果的な使い方もできると思います。

——一緒に聴けるユーザー数の制限はあるんですか?

松山:もちろんサーバーの限界はありますが、例えば台湾で人気のロックバンドMayday(五月天)がListen withをやった際に、同時アクセスが数万になり、あやうくパンクしかけましたけどなんとか大丈夫だったということはありましたね(笑)。

——アーティストが生活の中で聴いている曲を数万人が同時に聴いていると。なんだかすごい体験ですね(笑)。

松山:普段そういう状況というのは他ではないですよね(笑)。

——インターフェイスにおいて、再生への反応速度もサクサクという感じですね。あと歌詞も表示されます。

松山:やはり権利の関係もありますので、全楽曲の歌詞掲載は難しいのですが、「動く歌詞」というのを今後日本でも提供予定です。
アジア版ではユーザーが歌詞を投稿するのですが、これが結構人気があるんですね。新曲がアップされたらファンが競って歌詞を投稿するんです。一番最初にアップしたユーザーは名前が表示されるので、ちょっとした名誉になるという。ただ日本では、許諾等の面で投稿型というのはちょっと難しいですけどね(苦笑)。

——諸々クリアになれば、今後考えられると。KKBOXのサービス基本軸はコミュニケーションにある?

松山:現在はSNS全盛ですから、コミュニケーションの要素を入れる事によってコアな音楽好きだけではなく、例えば彼女と会話をしたい時に「音楽」をコミュニケーションツールとして使うようなサービスの提供でターゲットとするユーザーのレンジもより広がるかなと。

——Twitter、Facebookとも連動していますか?

松山:はい、それぞれにおいて聴いている曲をタイムライン上でシェアできます。

——コミュニケーションを軸にしつつ、新しい音楽に出会うミュージックディスカバリーの要素も兼ね備えていると。

松山:そうですね、そこにグローバルな要素を加えたというのが、全体的なサービス像ですね。

KKBOX Japan 合同会社 松山泰士

——KDDIというキャリアが、音楽配信サービスを手がけるアドバンテージというのはどういう部分になりますか?端末にKKBOXアプリをバンドルするとか?

松山:それも考えられますが、やはりキャリア課金で展開できるというのが大きいです。クレジット決済等になるとサービス利用のハードルが上がり、手間もかかりますが、キャリア課金ができればワンクリックで利用ができますので。

——確かにシームレスです。

松山:さらに、KDDIにはauショップなどのリアルな店頭が、全国で3000〜4000店ありますので、そこでの会員獲得も非常に期待できるかなと。

——デバイスは解放されていますよね。

松山:当然auに力を入れていきますが、docomoやSoftbankの端末でも利用できます。マルチデバイス対応ですので、PC、Mac、タブレット、アンドロイド、iPhone等、インターネットに繋がる環境だったらガラケー以外の全てでご利用いただけます。

今はそうでもなくなってきたのですが、KKBOXアジア版はもともとPC経由での利用が50%以上と非常に多く、そこを前提にサービスが作られてきたんですね。日本においては、今後モバイルを中心に考えていきます。

——欧米の若年層はもうiTunesを使わずにGroove2等のアプリ経由で音楽を聴いていると耳にしたことがあるのですが、台湾でも音楽を聴くのはiTunesではなくKKBOX使っているという状況ですか?

松山:恐らくそうですね、グローバルの方ではサブスクリプションもありつつアラカルトもやってはいますが、サブスクリプションに慣れるとiTunesには戻れないんじゃないですかね。日本でもアラカルトは実施しない予定です。

——キャリアとしてのKDDIの戦略としてKKBOXを使い音楽でブランディングして、例えばハードなどで売っていくというようなApple的戦略はあったりしますか?

松山:先ほども言ったようにマルチデバイスに対応していますし、スマートフォン時代を迎えて、iPhoneはじめ同じ機種が他キャリアでリリースされているので、既にハード上での差別化は難しいですよね。従って、あとはコンテンツレイヤーでしか差別化ができないので、現在は各社色々なコンテンツサービスをそれぞれ投げかけている状況だと思います。

——日本の音楽ユーザーに合わせたプロダクトデザインになっていますか?

松山:プロダクトとしては既にアジア版で膨大な人たちが触って、磨きあがっていますので、基本はそこを踏襲しています。ただ楽曲や音楽情報など、中身の部分はもちろん日本人向けにローカライズしていきます。プレイリストにおいても、日本人が好むようなものを提供していきます。

——台湾では、「KKBOXアワード」というリアル・イベントも展開されているんですよね。

松山:年に1回、日本でいうレコード大賞規模のアワードを開催しています。KKBOXでその年に最も聴かれたアーティストが出演してパフォーマンスをします。これはビジネスというよりは、KKBOXユーザーへ向けた還元イベントでして、抽選になりますが、KKBOXユーザーを無料で招待するんです。今年のKKBOXアワードには約3万人が集まって4ヶ国同時で生中継したりと、けっこう大規模なイベントになっています。いつか日本でも実現したいですね。

——KDDIの資本ではありますが、まだSpotifyやDeezer、Rdioも参入していない中、海外発祥の有力サービスが初上陸という事になります。その点に関してはいかがでしょうか?

松山:個人的な感覚もあるのですが、聴き放題サービスというのは、あるサービスに一度登録してしまうと他のものに移りづらい部分があると感じています。一度プレイリストなんかを作り出してしまうと特に。なので、とにかく先手を打っていきたいですね。早いもの勝ちというと語弊がありますが、とにかく早く展開していく事が非常に重要だと思っています。

——一方で、端末ローカルに入れた楽曲をデフォルトのプレーヤーで聴いているユーザーもまだ多くいると思われます。サブスクリプションという言葉も知らなかったり。まず事業者同士でパイを食い合うよりも、前段として、既に海外ではクラウドからのリスニングスタイルが主要になっているよ、という呼びかけ/マス化も必要かと感じるのですが、そういう部分に対するKKBOXさんの施策というのは?

松山:まだ具体的に他社さんとお話をするという段階ではないですが、もちろんそういう取り組みはやるべきで、やっていきたいと思っています。とにかくまずは業界全体が盛り上がらなければ何事も始まりませんので、競合他社さん含め音楽業界みんなで、新しいリスニング・スタイルというのはひろめていきたいですね。

——では黒船という感じではなくて、とにかくまずは業界全体を活性化させていこうというスタンスで。

松山:新しいリスニング・スタイルが本格的に定着するのは、恐らく海外の主要なサービスも入ってきてからだとも思われるので、そういう状況を共に作りつつですね。

——Musicman-NETで連載の榎本さんの記事のように、KKBOXが最終的に目指す本丸は中国ではないのかという見解もあります。

松山:中国には展開したいのですが、やはり著作権の部分がまだ全く整備されていないので、クリエイターにお金を還元できる仕組みがないんですよね、そこがきちんと固まらないうちに展開してしまうと、結局音楽業界にとってもデメリットでしかないかなと。ですので、今はいわゆるグレーターチャイナ、中国の周辺で展開していって、法制度が固まってきたら中国も狙っていくという感じですね。

KKBOXは基本的に、展開する国をどんどん増やしていこうという戦略ではなくて、しっかりじっくりローカライズをしていこうという方針なんです。その国の音楽に対してお金を払うユーザーがどれくらいいるか、音楽に対するモチベーションは高いかどうか、どういうキャリアと組めるか、などを細かく調査した上で展開しています。

——欧米への展開というのは?

松山:KKBOXは、今後「1年半」の期間でどういう戦略を展開するかで動いているのですが、現在のその「1年半」の中に、欧米展開というのは入っていないですね。とは言っても、すごい速度で変化している時代ですので、これからどうなるかは分かりませんが。

——競合はやはり。。

松山:Spotifyですね。Spotifyの対抗軸ぐらいの存在感がだせていけたらいいなと。

——最後にサービスの今後、展望等についてお願いします。

松山:今後、ますます色々な聴き放題サービスが参入してくるとは思いますが、とにかく一番日本人に好まれるサービスを目指していきたいです。

また、ユーザーが第一というのは前提にありますが、社内的なテーマとして「アーティスト・ファースト」を掲げていて、まずはアーティストを大事にして、業界をみんなで盛り上げていこうという強い思いがあります。アーティストのアジア進出の際にも是非活用していただければと。そういうアーティスト側の支援もさせていただきたいですね。

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