音楽レーベル「Mastard Records」とローソン・HMV一体型店舗で新しい販売チャンネルを開拓 〜ローソンHMV エンタテイメント 大野誠一氏、柳田恒雄氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:大野誠一氏、柳田恒雄氏
左から:大野誠一氏、柳田恒雄氏

 HMV、ローソンチケット等の運営を行っている、ローソンHMV エンタテイメントが、音楽レーベル「Mastard Records」(マスタード レコード)を設立した。今回のレーベル設立の狙いや展望、また、5月15日にオープンしたローソンとHMVの一体型店舗「ローソンHMV表参道店」での展開について、同社取締役 常務執行役員 新規事業開発本部 本部長 大野誠一氏と、新規事業開発本部 新規事業開発部 音楽レーベル事業担当 シニアマネージャー 柳田恒雄氏にお話を伺いました。

ローソンHMVエンタテイメントhttp://www.lhe.lawson.co.jp/
[2012年5月17日 / 都品川区大崎 ローソンHMVエンタテイメントにて]

 

プロフィール
大野 誠一(おおの・せいいち)
株式会社ローソンHMV エンタテイメント 取締役 常務執行役員 新規事業開発本部


1982年 株式会社日本リクルートセンター(現・リクルート)入社
1999年 株式会社メディアファクトリー出向
2001年 松下電器産業株式会社 eネット事業本部入社
2006年 株式会社アクトビラ 代表取締役社長を経て、2011年より現職

 

柳田 恒雄(やなぎだ・つねお)
株式会社ローソンHMV エンタテイメント 新規事業開発本部 新規事業開発部 音楽レーベル事業担当 シニアマネージャー


1989年 株式会社岡三証券入社、岡三経済研究所出向
1991年 株式会社ワーナーミュージック入社
2010年 株式会社セブンネットショッピング入社を経て、2011年より現職

 

——ローソンHMV エンタテイメントは独自レーベル設立、ローソンとHMVの一体型店舗のオープンなど、目新しい話題が続いていますね。

大野:ローソングループでは、昨年からECとエンターテイメントを強化しています。昨年9月1日に、もともとローソングループであった、ローソンチケットを運営するローソンエンターメディアとHMVとの合併を期に、「新規事業開発部」という部署を正式に立ち上げました。先日オープンした表参道の新規店舗も「新規事業開発部」が担当しています。

——そもそも、HMVはどのような経緯でローソングループの傘下に入ったのでしょうか?

大野:ローソングループのエンタメ・EC事業の強化がねらいです。ローソングループとしては、HMVが加わったことで音楽業界の方との距離が近くなり、色々な提案がしやすくなったと思います。HMVとしても、ローソン・HMV限定商品の発売など、様々なことが仕掛けられるようになりました。

——その仕掛けの1つが「Mastard Records」の設立だったわけですね。

大野:そうですね。HMVは、ずいぶん前から自社ブランドのレーベル設立を検討していました。競合他社さんがレーベル事業に取り組んでいらっしゃる中で、HMVも合併を期にスタートしました。また、興行に関してもチケットの委託販売だけでなく、今後は独自イベントの主催も行っていく予定で、準備を進めています。イベントもCD/DVDも、エンタメ商材のプライベートブランドを作っていくような感覚ですね。

——自社レーベルを持つメリットとはなんでしょうか?

柳田:小売がレーベルを持つことによって、CD/DVDの販売にかかる流通コストを利益にすることができます。別の角度から見ると、リクープラインが下がるという考え方もあるんですね。今、メジャーはリクープポイントが高くて作品が出しづらいという問題がありますが、リクープラインが下がることによってリリースできる作品もあるのです。このレーベルは色々な作品が出せる環境ですし、自社商品を多く出せるとHMVのバリューも上がると考えています。

——独自商品の取り扱いによって、他社との差別化にもなりますよね。

柳田:例えば、90年代に外資系のレコード店ができたときに、既存のレコード店が売っていなかった商品を売り始めたわけですよね。それは新しい販売チャネルだったと思うんです。新しいチャネルは、新しい音楽や新しいヒットを創ってきました。その中で今後、コンビニはCDを売る新しいチャネルになり得ると考えています。そこで新しいヒット作を創ることができるのではないかと。これまでも、メーカーからの提案でCDをコンビニで販売したことはありますが、期待通りにはいかなかったんですね。私たちは今後是非、コンビニで売れるCDを商品開発したいと思っていますし、表参道の新規店舗のようなCDショップとコンビニ一体型のお店が増えて独自のヒット作を生み出せると、レーベルとしても小売としても他社と差別化を図ることができると考えています。

——レーベルとしての自由度は高いですね。

柳田:そうですね。流通において卸を通じて全国発売もできますし、例えば、新人アーティストでも全国発売する前に、まずローソン・HMV限定発売で局地的なヒットを作って、その後に全国デビューさせるなどの選択肢も持てます。そういう意味では自由度の高いレーベルだと思います。

——第1弾作品「東京カフェスタイル」をリリース後、業界内外の反応はいかがでしたか?

柳田:プレスリリース発表後、マネージメントやレーベル関係の方をはじめ様々な方から問い合わせをいただいております。HMVと、エンタメに強く全国に1万以上の店舗を持つローソンが立ち上げたレーベルということで、「何をやってくるんだろう?」といった、期待もあるのではと感じています。

——カバーアルバムを第1弾に選ばれましたが、どのような狙いがあったのでしょうか?

柳田:やはりレーベルにとって一番大事なものは、この時代であってもカタログの売り上げだと思いますので、末永く売れる商品ということが第一にありました。また、CD購買層でもっとも厚い層が30代以上なので、その年代の方にしっかり魅力を感じていただける商品を、と考えていました。そこで権利元のご理解を得て、荒井由実さんの名曲をカフェ・ミュージックでカバーした作品をリリースしました。おかげさまで非常にご好評いただいております。

 

——今後はどのような作品をリリースしていく予定ですか?

柳田:まず、6月27日にnavy&ivoryという、非常にキャリアのある男性ボーカルユニットのベスト盤の発売を予定しています。また新人アーティストの発掘や、第一弾作品「東京カフェスタイル」シリーズの発売を予定しています。

——だいたい2ヶ月に1タイトルくらいのペースでしょうか?

大野: 1年目である今期は、約10タイトルくらいのリリースを予定しています。

柳田:もちろん手探りのところがありますので、ケーススタディをしながらいろいろなタイプの作品を創っていきたいと思っています。

——宣伝に関しては自社のルートを使うことになるんですか?

柳田:そうですね。まずHMVやローソンの媒体や店頭では、確実に露出を図っていきます。

——そうなるとやはり強いですよね。

柳田:例えば全国のイベンターさんと協力して、チケットの売り出し期間と合わせてCDの宣伝をお手伝いいただくとか、そういった外部の方の力を借りて、確実にヒットを出していきたいですね。

——流通や宣伝費をかけなくてもそれなりの展開ができるような環境が整っていますよね。

柳田:はい。当社には音楽好きが集まっていますし、ブランドの強みもすごく感じています。例えばカフェミュージックのCDは競合が多いのですが、HMV店頭でコーナー展開をするなど差別化することで、確実に結果は出ています。

——埋もれちゃいますよね。

柳田:そうです。それをHMVで売ることで実績を出していける。今更ながらHMV店頭の力を強く感じています。

大野:先日オープンしたローソンとHMVとのコラボ店が順調に推移すれば、更なるエンタメ方面のブランディングも可能ですし、同じ形態の店舗を複数出店できる可能性もあります。

——表参道店の成否によって、今後の展開が大きく変わってくるわけですね。

柳田:コンビニでどういった商品が売れるのかを試すことができるスポットを持てましたので、私たちにとってもアンテナショップにしたいと思っています。この強みはどんどん活かしていきたいですね。

——パッケージはまだまだいけると判断をされているということでしょうか?

柳田:個人的にはそう思っています。音楽の需要が落ちているわけではないので、色々なチャレンジの仕方があると思います。そういった意味で表参道店は、小売がユーザー側に寄っていった画期的な店舗だと思うんですよ。他の業態では当たり前かもしれませんが、エンタメの小売に関しては、これまであまりなかったことだと思うんですね。

大野:パッケージそのものに未来があるかないかは一概には言えませんが、新しいやり方をすると、しっかり反応があることが短期間でもだいぶわかりました。今までと同じやり方を続けて、パッケージが伸びていくということはないのかもしれませんが、新しい挑戦を行っていく中では、手応えを強く感じています。

——CDはすぐになくなってしまうのではと危惧していましたが、世の中の動きはそう急速ではない部分もありますね。
 
大野:日本は特殊かもしれませんけどね。実際に、シングルの売上は伸びていますしね。

——不思議ですよね。他の国ではこのようにはいかないですよ。

柳田:もちろん我々も一概にCDを売りたいというわけではなくて、新しい業態や新しい音楽を作っていければと考えています。

——プロダクションとしての業務は予定されていないんですか?

大野:現在その予定はありません。自分たちにしかできないことや、新しい組み合わせを作ること、それをどうカタチにして、どう見せるかに主眼を置いて取り組んでいきたいと思っています。


「東京カフェスタイル」

ローソン・HMVオリジナルレーベル
「Mastard Records」第1弾作品!

「東京カフェスタイル」 #1 ストーリー
2012年4月25日発売 2,415円(税込)

1970年代に生まれた荒井由実の名曲を、実力派女性ヴォーカル6人によるオムニバス・ユニット「f.e.n.」(フェン)が、今一番スタイリッシュなカフェ・ミュージックでカバー。

収録内容
1.ひこうき雲 / 笹川美和 
2.卒業写真 / 手嶌葵 
3.中央フリーウェイ / 拝郷メイコ
4.あの日にかえりたい / 松本英子 feat. 笹川美和 
5.CHINESE SOUP / 長谷川久美子 feat. 池田綾子 拝郷メイコ
6.雨の街を / 池田綾子 
7.ルージュの伝言 / 笹川美和 feat. f.e.n. 
8.魔法の鏡 / 拝郷メイコ 
9.ベルベット・イースター / 松本英子+長谷川久美子 
10.やさしさに包まれたなら / 池田綾子+手嶌葵
11.少しだけ片思い / 松本英子 feat. 池田綾子 拝郷メイコ 
12.きっと言える / 拝郷メイコ feat. 池田綾子 松本英子 長谷川久美子
13.海を見ていた午後 / 長谷川久美子 
14.翳りゆく部屋 / 笹川美和 
15.ひこうき雲〜Piano Ver〜 / 池田綾子

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