ロック&メタル・シーンの更なる活性化を目指して 〜ユニバーサル ミュージック 「ユニバーサル・インターナショナル」内 「Thunderball667」「Spinefarm Japan」レーベルマネージャー 奥村 “NOBBY” 昇 氏

インタビュー フォーカス

奥村 “NOBBY” 昇 氏
奥村 “NOBBY” 昇 氏

ユニバーサルミュージックの洋楽部門 「ユニバーサルインターナショナル」内に、ロック専門レーベル「Thunderball667(サンダーボール・ダブルシックス・セヴン)」とヘヴィ・メタル専門レーベル「Spinefarm Japan (スパインファーム・ジャパン)」が今年、立て続けに設立された。洋・邦問わず、ロック、メタルを積極的にリリースしていくだけにとどまらず、アパレル分野にもフィールドを広げ、多元的なビジネス展開で「21世紀型のロックなライフスタイル」を提案するという。同レーベルマネージャー 奥村 “NOBBY” 昇 氏に設立経緯から今後の展望に至るまでお話しを伺った。
(取材・文:Takuya Yashiro、Jiro Honda)

[2012年6月8日 / ユニバーサルミュージックにて]

PROFILE
奥村”NOBBY”昇(おくむら “ノビー” のぼる)


1966年生まれ、東京都出身。17歳の頃にヘヴィ・メタルバンドANTHEMのローディーとして、その音楽キャリアをスタート。その後、イーストウエスト・ジャパン(現ワーナーミュージック)を経て、2000年よりユニバーサル・ミュージックにて洋楽を担当。プロダクト・マネージャーとして、メタリカやスラッシュ(ex.Guns N’ Roses)をはじめ、海外のビッグネーム・アーティストを担当し、今回、2012年設立の「Thunderball667」「Spinefarm Japan」 両レーベルのレーベルマネージャーに就任、その活躍の場をますます広げている。

——新レーベルの設立、おめでとうございます。

奥村:ありがとうございます。

——まず、新レーベル「Spinefarm Japan」設立の経緯からお伺いしたいのですが。

奥村:このSpinefarm Japan設立に先だって、今年の3月1日に、「ユニバーサル・インターナショナル」内にロック専門レーベルの「Thunderball667」(サンダーボール・ダブルシックス・セヴン)を立ち上げました。

本来は、そのタイミングでSpinefarm Japanも同時に立ち上げようと思ったのですが、それぞれのレーベル立ち上げにおいて、よりインパクトが出るように、まずロック・カテゴリーとしてのThunderball667を設立し、その中のコアな形のレーベルとして、Spinfarm Japanを5月にスタートしました。Spinfarm Japanは基本的に洋・邦問わず、ヘヴィ・メタルのレーベルになります。

奥村NOBBY昇

——Spinefarmの本拠地はフィンランドですよね。

奥村:はい。Spinefarmは本国フィンランドとイギリス、そして、我々日本の三つになります。それぞれの特色として、フィンランドでは、スラッシュ・メタル、シンフォニック・メタル、ブラック・メタル等々のものが多く、イギリスに関しては、王道なロックンロール・スタイルのバンドや、オーソドックスなハード・ロックバンドが多かったりします。

そして、我々は日本のバンドをリリースしていくわけですが、この各国3つのチームでスクラムを組んでやっていく予定で、我々が手掛ける日本のバンドを海外に出していくこともありますし、フィンランド、イギリスのものも日本でリリースしていく予定です。

——Spinfarmは元々フィンランドにあるレーベル名ですが、「Thunderball667」というレーベル名は何に由来しているんですか?

奥村:僕は007の映画が好きなんです。

——やっぱりそこからなんですか(笑)。

奥村:ええ(笑)。でも「サンダーボール007」だとさすがにマズいということで、僕は1966年生まれで、66年生まれと67年生まれの友達が多いので、それらをくっつけて「Thunderball667」としました。

——なるほど。

奥村:「Thunderball667」は先ほど言ったようにロック・レーベルなんですが、友達のアパレル・ブランドと協業して、音楽はもちろん、バイクやサーフィン等のカルチャーと融合した、ロックなライフスタイルの新しい提案・展開を考えています。全体のイメージとしては、「やんちゃな男の子の遊び」みたいな感じですかね。

奥村”NOBBY” 昇

——Spinefarm Japanのリリース第一弾は、フィンランドの国民的英雄とも言われるチルドレン・オブ・ボドムのベスト・アルバムですよね。拝見したところ、特典のアレキシのギター・フィギアはかなり精巧だとか。

奥村:あのフィギュアに関しては、もともと僕がGIジョーマニアなので、その影響もあります。GIジョーは1/6スケールなのですが、ミニチュア・ギターは1/8で作っています。特に、今回は実際にアレキシ・モデルを作成しているESPさんに全て監修していただいたので、色合いとか細かなデティールに本当にこだわっています。まぁ、更にこだわりだしたらキリがないのですが、現存の予算内で最大限のものが制作できたと思います。

——また、国内での第一弾はアンセムですよね。

奥村:はい。アンセムはベテランのバンドでご存じの方も多いと思うのですが、実はリーダーの柴田直人さん(ベース)が僕の地元の先輩で、アンセムの前身のブラック・ホールの時から、30年以上にわたる知り合いなんです。

——不良仲間の先輩ですか?(笑)

奥村:いやいや、そんなことなはないですよ(笑)。まぁ、地元は板橋なので、そのあたりはご想像にお任せしますけど(笑)。僕自身が17歳から彼らのローディーとして、機材を運んだり裏方のお手伝いをしながら、一緒にツアーやレコーディングについていた時代があったんです。

それからしばらくして、ローディーとしては離れたんですが、何らかの形で常にコンタクトはとっていたんですね。そういう流れがあり、今回僕がレーベルマネージャーとして新しくレーベルを設立するタイミングで、彼らも「もう一回海外でやってみたい」という希望があり「じゃあ一緒にやりましょうか」ということで、今回の形になりました。

海外で上手くいくかどうかは、やはり最終的にアーティストに依るところになりますが、我々はその橋渡しと言いますか、最大限その環境を作るバックアップをすることが使命になってきます。アンセムは、9月にシングル、10月にアルバムのリリースを予定しています。

——海外からの、日本のシーンへの評価というのは現在どんな感じなのでしょうか?

奥村:海外からの日本のバンドへの興味というのは、より高まっています。昔と違い海外だからといって、日本のバンドも英語で歌わなければならないということもないですからね。日本のバンドは日本語で歌えばいいんですよ。海外のお客さんは、それでも全然ライブに来ますしね。

——言葉の壁は、すでに関係ないですか。

奥村:ビジュアル系のバンドをはじめ、海外でやっているバンドの話を実際聞くと、日本語で全く問題ないみたいですね。海外のファンは言葉も含めて、日本のカルチャーとして興味があるようです。

海外進出のはしりはLOUDNESSだと思うんですが、彼らは英語でしたよね。でも、今でもLOUDNESSを崇拝している海外のミュージシャンに話を聞くと「とにかく日本発のメロディーが新鮮なんだ。全然違う」と言っていました。やはり当時から、本当は言葉云々ではないらしいんです。歌メロはもちろん、ギターソロも全然違うと。すごくアグレッシブだし、叙情的で、アメリカにはないものだと言うんです。

——今に始まった話ではないと。

奥村:元PANTERAで、今はヘルイェーのヴィニー・ポールと仲が良くて、この間会ったときに「PANTERAのみんなってLOUDNESS好きだったよね。どうして?」って訊いたら、ヴィニーが「今でも好きだよ」と言いながら、さっきのような理由を語っていたんです。メタリカのラーズに訊いたときも、やっぱり「メロディーが全然別モノだ」と言っていました。ギターの音作りも、とても繊細に感じられるらしいですね。

——先日の「Thunderball667」第一弾のYOHIOが、スウェーデン人であるにも関わらず、日本発のヴィジュアル系スタイルで、日本語で歌って日本デビューというのは、ある意味一周しているようで興味深いですね。

奥村:そうですね。YOHIOは現在、日本だけのリリースなんですが、夏前にはアジア・エリアでリリースが決まっています。香港や韓国、台湾からも、ツアーをやりたいと言われていますし、弊社が100%原盤を持っているので、海外でどんどん展開していきます。日本から積極的に”輸出していく”というスタンスでやっていきたいです。

奥村NOBBY”昇

——ヘヴィ・メタルのリスナー/ユーザーやマーケットの状況というのを、改めてお伺いしたいのですが。

奥村:30年前とかは、まず歌謡曲がメインで、その一方として、洋楽があるという状況でしたよね。その時代から考えると、現在は、例えばマドンナやマライア・キャリー、レディー・ガガやジャスティン・ビーバーなど、洋楽も普通に受け入れられるようになりました。ただヘヴィ・メタルは、それらの洋楽に比べると、やはり規模感でいったら今でもマスは全然小さいです。ただし、そこにチャンスがあるんですよね。

小さいマーケットのユーザ−なんですけど、そのユーザーはあまり他所に流れないんですよ。彼らは、アルバムが良かれ悪かれ、必ず購入するんです。そして、期待を込めながら、評論するんですね。ライブもそうです。評判が悪くても、足は運ぶんですよね。ある意味、野球の監督のように叱咤激励しながら、時には愛情を込めて怒ったりしながら、応援するんですよ。

そして、彼らは作品と正面から向き合って、音楽を聴くんですね。BGMとしてではなく、曲の流れをきちんと理解したりして。あと、アートワークなんかにもこだわりが強いですね。国によっての違いや、CDのケースの違いにもきちんと気付いたり。

——やはりシビアなユーザーが多いですか。

奥村:我々のような作り手の立場からすると、かなり厳しいご意見を頂戴しますね。会社にカスタマーセンターというのがあるんですが、そこに問い合わせが一番多いジャンルが、実はヘヴィ・メタルですね(苦笑)。

——真摯に作品に向き合っている分、ハードルが高くなるわけですね。

奥村:ですが、その裏返しとして、やはりフィジカルでしっかりと売れるんです。CDが捨てられるということなんて、考えられませんよ。ヘヴィ・メタルリスナーは、作品を大事にしながら所有しています。あと、紙ジャケというのを我々はよくリリースするんですが、その度に以前の作品と音が変わったのかなとか、細かく聞き比べたりもしているようです。

例えば、以前メタリカを紙ジャケでリイシューしたときに、ユーザーが「音が違う」と言いだしたんです。実は、このとき僕はマネジメントに直接交渉して、ワーナーが所有していたアナログのみこの世にリリースされていた、ファンの間では伝説のマスター音源と言われていたものを提供してもらっていたんですね。

最初は、そのことをアナウンスしていなかったにも関わらず、リスナーの間では「音が際立っている」、「ドラムが大きく聞こえる」とか言っているわけですよ。その後、改めて「2008年最新リマスタリング」という帯を作って、そのことをアナウンスしたらまた売れたんです(笑)。

——コアなファンの耳は侮れないですね。

奥村:ただ音が少し違うだけなんですけど、メタリカのファンは熱心ですからね。まぁ、メタリカ自身が、特にラーズなんかはオタクですから(笑)。彼らは強いこだわりを持ちながら、常にファンを信じ、サポーターに対しては全力で応えると常々言っていますよ。

——ちなみにメタルが熱心に支持されている国はどこになりますか?

奥村:昔から言われているのはドイツですよね。あと、北欧はずっとヘヴィ・メタルは強いですよね。

——ナショナル・チャートにメタルが入る?

奥村:全然入ってきますね。ドイツとか北欧は特に。それと、イギリスもやっぱり熱いですね。IRON MAIDENは未だに2〜3万人規模でライブをやりますからね。

——メタル人気は根強いんですね。

奥村:やっぱり、メタルしかり、ロックというのは歴史だと思うんですよ。今、メタルの中で最新のトレンドのCDを買ったとしても、そこからいくらでも遡れますよね。このギタリストは誰に影響を受けているのか、カバー曲があったら原曲はどんな感じなのか、そのようにどんどん紐解いていくと、リトル・スティーブンやレッド・ツェッペリンに辿り着いたりすると思うんです。ある意味、メタルって勉強というか深く知りたくなる音楽だと思うんですよ。バンドとメンバーのファミリー・ツリーを作ってみたりしたくなるというか。

——確かに、ルーツを知りたくなるジャンルです。

奥村:あと、ARCH ENEMYやラクーナ・コイル、弊社のアマランスとかこれからリリースするコブラ・アンド・ザ・ロータスのような、ヴォーカル/フロントマンが女性のバンドも活躍しています。

——現在の日本の若手のシーンはいかがですか。

奥村:国内バンドのライヴもたまに観ます。やはり、海外のバンドをそのまま模倣していても世界のフィールドで活躍することは難しいので、メロディやテクニックしかり、ルックス、バンドイメージなどで日本のバンドであることの独自性を打ち出すことができれば、海外で通用する可能性はあると思いますよ。

奥村”NOBBY” 昇

——ここで少し奥村さんご自身の、現在に至るまでの背景についてもお伺いしたいんですが、音楽に目覚めたのはいつ頃だったんですか?

奥村:僕自身は、ロック好きの姉の影響もあって、小学校の頃にチープトリックの武道館公演をはじめ、クイーンとかKISS、エアロスミスとかのライブを観に行ったりしていました。中学校にあがると、今度は友達とレッド・ツェッペリンとかブラック・サバス、ディープ・パープルを聴いていて、中学校2〜3年ぐらいのときに、ヘヴィ・メタル・ブームがありまして、その中でアンセムの柴田さんと出会い、17歳からアンセムのローディーをやっていたんです。

その後、ローディーを離れて、音楽とは別の仕事をしていたんですが、ローディー時代にかわいがってもらっていたレコード会社の知り合いの方に声をかけていただいて、26歳でレコード会社に入社して、はじめてサラリーマンになりました。

——初めてのサラリーマン生活はいかがでしたか?

奥村:当初は定時で働いて、給料が貰えるっていうのに、まず驚きましたね(笑)。それで、最初は仕事のやり方も分からなかったので、とりあえず早く出社して、机とか掃除したりしてたら、「そういうのは業者の人がやるからいいんだよ」って言われたり(笑)。

——ローディーのときの習慣が(笑)。

奥村:そこから、英語も全然しゃべれないのに海外のミーティングに行かされたり、少しずつ仕事を覚えていって、なんとかやってきたという感じですね。レコード会社で勤めはじめて今年でちょうど20年ですけど、まだまだ勉強することばかりですね。

——でも、奥村さんは珍しいキャリアですよね。

奥村:そうかもしれませんね。僕のやり方は独特でして、やはり機材には詳しいので、アーティストと割とすぐ仲良くなっちゃうんですよ。洋楽担当がやたら機材に詳しいというのは珍しいですからね。

昔ワーナー時代にやっていたスキッド・ロウやMR.BIGでは、レコーディングの現場にも立ち会っていたんですが、そこでのマイクの立て方や使っているマイクの種類とかを、日本の有名ミュージシャンにこっそり教えたり(笑)。

——(笑)。

奥村:今でこそ、レコーディングの方法はオープンですが、昔はヴェールに包まれた部分がありましたからね。ヴァン・ヘイレンの1stでは、エディがどのマーシャルのアンプを使ったのかというのは今でも謎になっているんですよ。僕は訳あって知っていますけど(笑)。

——まさに企業秘密ですね(笑)。では、最後にSpinefarm Japanの今後の展望と抱負をお願いします。

奥村:本国フィンランドやイギリスで、それぞれレーベル・カラーがあるように、日本でもその独自のカラーを打ち出していくためにも、邦楽のバンドをどんどん増やしていきたいと思っています。

——やはりアーティストサイドからのアプローチも結構あるんですか?

奥村:そうですね。昨日も、僕がレーベルを設立したというMusicman-NETの記事を見て、知り合いが連絡してきて、お会いしましたしね。「こういうバンドがいて海外でデビューさせたいんだけど、手伝ってくれないかな?」という感じでご相談頂きました。また、他のレーベルでくすぶってるバンドとかも、現在のレーベルがあまり動いてくれないからということで、コンタクトがあったりします。

また、洋楽においても、サードパーティーとしてSpinefarm Japanに興味を持ってくれているところもありますので、もちろんそれらも一緒に扱っていきます。それぞれ色々なやり方はあると思うんですが、僕の場合は、とにかく動いて、海外のレーベルとマメにミーティングをしています。

——レーベル主催のライブなど予定されていたりするんですか?

奥村:はい。その企画自体はすでにありまして、来年か再来年には開催したいですね。せっかくこういうポジションをいただいて、レーベルも立ち上がったので、こういう音楽が好きなみんなが楽しめるイベントにしたいと思っています。

——ユニークなレーベルとして、今後も展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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