【全文掲載】契約金4億円!?AIアーティストが続々チャートイン【榎本編集長のMusicman大学#11】
MC Tama:今日のテーマは何ですか?
榎本:今日はAIアーティストが続々チャートインしているという話をします。
MC Tama:どんな曲がチャートインしたのですか?
榎本:まず話題になったのがザニア・モネというR&BのAIアーティストです。次がBreaking Rustというカントリーのアーティスト、3番目がHAVENというEDM・ダンスハウス系のアーティストです。
MC Tama:これがAIなのですか?
榎本:ボーカルも全部AIです。Sunoで全て作っているようです。
MC Tama:プロンプトを入力した人が素晴らしいということですね。
榎本:Sunoは誰でも使えますが、彼女はWarner Music、Universal Music、Virgin Records、そしてHollywood Recordsからオファーがあり、Hollywood Recordsと日本円で約4億円弱の契約を結びました。現在Spotifyでは月間リスナー数が140〜150万人程度で、多くのファンに応援されています。

MC Tama:なぜそれほど人気が出たのでしょうか?
榎本:ザニア・モネの中の人は、ミュージシャンでもなければIT系の人でもありません。ただ近所の教会のゴスペル聖歌隊に所属していて、歌手になりたいという夢がありました。しかし、様々な事情でシングルマザーになり、アルバイト生活が忙しくて歌手になる夢を諦めていたのです。そこでSunoに出会って曲を作り、InstagramやTikTokに投稿したところ、大きな反響がありました。
MC Tama:プロデューサー兼ディレクターになったということですね。
榎本:彼女を応援したくなったのです。アルバイトをしながら挫折を経験しながらも音楽を続けていきたいというストーリー性に共感が集まりました。31歳くらいの方のようですが、苦労が反映された歌詞が響いたのでしょう。またゴスペル調のプロンプトを入れたことで、こぶしの効いた歌い方になり、Sunoとの相性も良かったと思います。そのストーリー性にメジャーレーベルが目をつけ、このファンダムは大きくなると考えて契約しました。結果、ビルボードのR&Bデジタルダウンロードセールス、つまりiTunesで1位になりました。
MC Tama:ビルボードのメインチャートではないにしても、1位は素晴らしいですね。
榎本:iTunesは現在そこまで使われていないものの、応援して購入してくれるファンがついたということです。AIアーティストとして初のR&Bデジタルセールス部門1位となりました。私もXで紹介したところ、非常にバズりました。すぐにブレイキングラストというカントリーのアーティストも話題になりました。
MC Tama:これもボーカルがAIなのですか?

榎本:全部AIです。確かSunoだったと思います。こぶしの効いた歌声です。昨年あたりからカントリーブームが起こっていて、ビヨンセの「カウボーイ・カーター」というアルバムが非常に好評で、カントリーがポップシーンにも反映される流れが1年ほど続いています。このブレイキングラストはカントリーをAIで作りました。
MC Tama:なぜ受けたのでしょうか?
榎本:こぶしの効いた男臭い歌いっぷりと、歌詞の内容です。演歌にも決まった歌詞の型がありますが、同じように「人生に何度もやられたけど俺は絶対に折れない、文句言う奴はほっとけ、俺は俺の信念で俺の道を歩く」という典型的なアメリカンタフガイの世界観です。ウイスキーなども登場します。
MC Tama:男らしい歌詞ですね。
榎本:歌詞が良かったのでしょう。また歌いっぷりも良く、Sunoを使いこなしています。もう一つ良かった点があります。このビジュアルを見て人間だと思いますか?
MC Tama:少し作られている感じがします。CG丸出しというか、AIで作ったのだろうと分かります。
榎本:それが良かったのではないかと思います。あえてAIであることを表に出しています。映像でこれはAIですと伝えており、騙すつもりは全くありません。
MC Tama:以前教えていただいたThe Velvet Sundownとは全然違う売り方ですね。
榎本:ベルベット・サンダウンは「実は人間ではなくAIでした、騙された」という態度でした。それで反感を買い、Spotifyで月間200万リスナーほどいたのが、今や20万リスナー程度まで縮小しています。一方、Breaking Rustは「私はAIです、でも曲の内容を聴いてください」というメッセージを、AI丸出しの映像によって誠実に伝えています。「ウォーク・バイ・ウォーク」はビルボードのカントリーデジタルソングセールスで2週間連続1位を獲得しました。
MC Tama:何であっても1位を取ることは素晴らしいですね。
榎本:ダウンロードで購入したランキングなので、ビルボードのHot 100ではありませんが、今の時代にあえてiTunesで買ってくれるということは、それだけファンダムがついたということです。中の人のアーティスト性やメッセージ性に共感する人が多く出たということです。
MC Tama:もう一人いるのですね。
榎本: という曲です。TikTokで非常にバズりました。
MC Tama:踊りたくなるような音楽ですね。
榎本:「I Run」というタグで多くの人が投稿し、10月に大バズりしました。TikTokの再生を反映するチャート、例えばUKオフィシャルチャートで9位まで上がりました。UKオフィシャルチャートはイギリスのビルボードのようなもので、その総合チャートでトップ10内に入りました。先ほどのザニア・モネやブレイキングラストはマイナーなチャートでしたが、このアイランはメジャーのトップ10内に入りました。これはおそらく世界初です。
MC Tama:こういうことが来ると思っていましたか?
榎本:ハマればこうなると思っていました。内容も良いし歌声も非常に良かったです。ただ、この歌声があるアーティストとそっくりだと話題になりました。ジョルジャ・スミスというイギリスのR&Bシンガーで、月間リスナーが1100万人以上というUKのR&B女性シンガーではトップクラスの人物です。彼女の声にそっくりだということで話題になり、あまりにも似ているため本人に「これはあなたですか」とXで質問が来て、「私ではありません」という返事があったほどです。
MC Tama:その後どうなったのですか?
榎本:SpotifyやYouTubeからこの曲が削除されました。曲を作ったハリソン・ウォーカーというイギリスのプロデューサーは、Sunoで自分の歌声を何回も変換したらこういう声になったと説明していましたが、そのままではないかという批判が出ました。声も肖像権のようなものとして認めるべきだという流れが進んでおり、削除されました。
MC Tama:9位まで行ったのに削除されたのですか。
榎本:9位ですし、Shazamの世界バイラルチャートでも1位でした。口コミでもナンバーワンで、放置していたらおそらくUKチャートで1位になったでしょう。ビルボードのチャートでもトップ10に入る可能性がありましたが、削除されました。最近、声を変えたバージョンがSpotifyに再アップされており、それは削除されていません。そこまでそっくりでなければ堂々とチャートインできたのではないかと思います。
MC Tama:ジョルジャ・スミス風の声にしてとSunoにプロンプトを打ったかどうかは分からないのですか?
榎本:それは分かりません。このアイランは日本ではそこまで話題になっていませんが、今年のTikTokで一番流行った曲と言えるほどでした。本丸のチャートでナンバーワンすら取れそうな曲がAIで生まれたということです。
MC Tama:今ご紹介いただいた曲について、私たち人間はAIの曲を聞き分けることができるのでしょうか?

榎本:Deezerというヨーロッパで有名な音楽サブスクリプションサービスが調査しました。日本人を含む8カ国9000人にテストを実施し、「これは実はAIですが気づきましたか」と質問したところ、気づいた人はたった3%でした。
MC Tama:ほとんど気づかなかったのですね。
榎本:気づかなかった人の半分以上が、騙された気分で不快に感じたと回答しています。先ほどのThe Velvet SundownがAIだと分かった途端に人気が縮小したのもそのためです。逆にBreaking Rustは映像でAIであることを誠実に伝えていたので、騙された気分にはならなかったのです。結論として、ほとんどの人はAIかどうか分かりません。
MC Tama:「I Run」については、リスナーから騙されたのではという声は上がらなかったのですか?
榎本:これは本当に大丈夫なのか、本人なのかそうでないのか、本人の声を使ったのかそうでないのか、はっきりしてほしいという声が上がり、問題になりました。政治や経済の世界でも同様ですが、透明性が求められています。これは綺麗事ではなく、みんなが求めていることです。AIで作ったことが分かるようにしてくれれば、良ければ聴いてくれるということが分かりました。隠すというプロモーション手法はあり得ますし、実際にベルベット・サンダウンはそれをやりましたが、人気商売でそれをやると嫌われます。これが改めて分かったと思います。
MC Tama:人間はストーリー性があって何か共感できるものがないと応援したくないのでしょうね。騙されると納得いかない気持ちになります。
MC Tama:そもそもアーティストはAIを使っているのでしょうか?
榎本:LANDRというミュージシャン向けのAIクリエイティブプラットフォームがあります。AIでマスタリングしたり、エフェクトプラグインを適用したり、プロモーションを提案したり、曲作りの際にサンプリング音源を推薦したりと、ミュージシャンの制作を支援しています。そこが調査したところ、87%のミュージシャンが既にAIをツールとして使っていることが分かりました。
MC Tama:時代はもうAIなのですね。
榎本:ミュージシャンにとっても便利です。マスタリングをすぐやってくれたり、仮歌をとりあえずAIに歌わせて入れるなど、様々な便利な使い方ができています。我々メディアの人間もAIを使い倒しています。一度経験すると、ただのGoogle検索には戻れません。
MC Tama:確かにChatGPTにまず聞くようになりますね。
榎本:同じことがミュージシャンの世界でも既に起こっています。一般的なニュースではAI反対というクリエイターの声が届いているかもしれませんが、実際には既に使っているという状況です。
MC Tama:ここのフレーズがうまく歌いこなせない、音がうまく出せないという時に、AIでやってしまおうということも出てくるかもしれませんね。
榎本:それで技術が落ちる可能性はもちろんあります。DTMが出てきた時にも同様の議論がありました。よく言われているのは、昔のアイドル歌手と呼ばれていた人たちの歌唱力が、今振り返ると非常に高かったと再評価されていることです。当時は編集ができなかったので、しっかり練習して録音に臨まなければなりませんでした。今は編集が簡単にできて、音程やリズムのずれも全て直せます。それがさらに進む可能性があります。特に歌だけでなく楽器もAIで演奏できてしまうので、ミュージシャンの技術が落ちるのではないかという話も出ています。
MC Tama:聴く分には良くても、ライブでは「あれ?」と思われてしまう可能性も今後増えるかもしれませんね。
MC Tama:Sunoを使っても安全なのでしょうか?著作権侵害になるのではないですか?
榎本:Sunoはほぼ全てのメジャーレーベルから訴えられましたが、結論として、先ほどの「I Run」のようにジョルジャ・スミスさんの声とそっくりというレベルまで行くとまずいですが、誰かの声とそっくりでなければ大丈夫だと思います。ブレイキングラストも誰かに似ている人はいるでしょうが、「そのまま」ではなかったので問題になりませんでした。そのままパクリだと聞こえないように使うことが大事です。今はSNSが発達しているので、話題になればすぐ誰かが気付きます。それを守る必要があります。
MC Tama:訴訟はどうなっていますか?
榎本:現在SunoとUdioという音楽生成AIがメジャーレーベルと裁判していますが、和解が進んでいます。和解して提携する方向に進んでおり、堂々と使える時代が来て、それがミュージシャンにも還元されるようになります。その詳細は次回以降お話しします。
プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)
1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載。
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「Musicman大学」は世界の音楽業界の最新トピックスを解説。講師は『音楽が未来を連れてくる』の著者、Musicman編集長・榎本幹朗。「Talk&Songs」は月間500組ものアーティストニュースを担当するKentaが選ぶ、今聴くべき楽曲と業界人必聴のバズった曲を解説。
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