【ビルボード・データ公開】5月のMUSIC AWARDS JAPANは確実に世界展開していた:海外ストリーミング31%増、藤井風は香港で爆伸び

アジアのビルボードパートナーが一堂に会する初のカンファレンス「Billboard ASIA Conference 2025」が6月27日に東京・ビルボードライブ東京にて開催された。オールジャパン体制で開催されたMAJ(MUSIC AWARDS JAPAN 5月22日開催)が国内外で実際、どれくらい影響があったのか。それをデータで解説したビルボード・ジャパン・礒﨑誠二氏(阪神コンテンツリンク・ビルボード事業本部・上席部長)のプレゼンテーションをMusicmanは記事化した。J-Popの海外展開をデータで明らかにした貴重な内容となっている。
(2025年6月27日 於:東京・ビルボードライブ東京 取材・文:Musicman編集長 榎本幹朗、Musicman 山内千秋)
- 【国内】受賞・パフォーマンス楽曲の驚異的な伸び
- 【国外】アメリカ市場での顕著な動きと今後の伸びしろ
- 藤井風の成功事例に見る「線から面へ」の海外戦略
- MAJを他のアワードと徹底比較
- ビルボード・ジャパン「書籍チャート」を始動
- MAJは日本の大事な知的財産(IP)だ
【国内】受賞・パフォーマンス楽曲の驚異的な伸び

左:【国内】ストリーミング増加数・増加率が高かった受賞曲トップ5/右【国内】ストリーミング増加数・増加率が高かったパフォーマンス曲トップ5(出典:ルミネイト)
国内「MAJ」の効果を示すデータは圧倒的だった。受賞楽曲のストリーミング数は平均31%増加し、パフォーマンス楽曲に至っては49%の伸びを記録。日本のストリーミング普及率から考えると注目すべきは『増加数』だが、ここでも数字の伸びを獲得していることから、これらは誇っていいデータであると礒﨑氏は述べる。
【国外】アメリカ市場での顕著な動きと今後の伸びしろ

左:【国外】ストリーミング増加数・増加率が高かった受賞曲トップ5/右【国外】ストリーミング増加数・増加率が高かったパフォーマンス曲トップ5(出典:ルミネイト)
海外市場でも受賞楽曲が平均14%、パフォーマンス楽曲が31%の増加を記録。日本で『増加率』が高かったNujabesが、国外では『増加数』でランクインしたのが印象的だった。他に黒うさP、King Gnuの楽曲にも海外の注目が集まった。MAJでYOASOBIが演奏した「PLAYERS」は、特にアメリカ市場で顕著な動きを見せた。演奏されなかった受賞曲でも増加している。
藤井風の成功事例に見る「線から面へ」の海外戦略

左上:YOASOBI「PLAYERS」@US /右上:藤井風「満ちていく」@香港/左下:ちゃんみな「ハレンチ」@台湾/Creepy Nuts「BBBB」@メキシコ(出典:ルミネイト)
当日、藤井風が圧巻の生演奏を披露した「満ちてゆく」(図・右上)は、MAJ開催後にストリーミング数が上昇し、その後の新曲リリースと連動してさらなる伸びを見せた。この結果について礒﨑氏は「パフォーマンスから新曲へとうまくつなげていくことができることを実証している」と分析。これこそが、礒﨑氏の訴える「IPを線としてつなげ、面にしていく」戦略の具現化だと言えるだろう。
MAJを他のアワードと徹底比較

左上:MAJ 2025/右上:75th紅白/左下:MAMA 2024/67th Grammy(出典:ルミネイト)
MAJの効果を客観視するため、紅白歌合戦、MAMA、グラミー賞との比較データもビルボードは初公開した。グラフの水色部分が、開催地域『以外』のストリーミング動向を示している。この分析により、MAJと紅白は国内でのストリーミング増加が中心となる一方、MAMAやグラミー賞は海外でのインパクトが大きいことが明確になった。この結果を経て「まだまだMAMAやグラミー賞ほどに海外において伸びていく余地がある。むしろ、もっと伸ばすことができるということを示している」と礒﨑氏は前向きに捉える。

【世界地図】左上:MAJ 2025/右上:75th紅白/左下:MAMA 2024/67th Grammy(出典:ルミネイト)
これらは、複数の楽曲を一曲あたりの増加数に置き換えたランキングである。地域別の分析では、「MAJ」の影響が日本、台湾、香港、ブラジル、韓国の順で強く現れた。「東南アジアへのリーチに関しては予想を外しており、もう一越え欲しかった」と述べる。「MAJ」と「紅白」を比較すると、紅白の方がアメリカ、東南アジアへの訴求ができてきた結果となった。一方、「MAMA」(韓国開催のアジア最大級の音楽アワード)はインドへの訴求の高さは見逃せない点である。「グラミー賞」はアメリカ、カナダに加え、ヨーロッパ諸国まで広範囲に影響が及んでいる。
ビルボード・ジャパン「書籍チャート」を始動

公表予定ブックチャート一覧表
礒﨑氏はさらに、音楽業界での知見を活かした新プロジェクトも発表した。9月から開始予定の「Japan Book Hot 100」は、小売店販売、電子書籍、EC販売、サブスクリプションを統合した総合書籍チャートだ。「誰も電子とフィジカルを混ぜたランキングを作ったことがない」という気づきから始まったこのプロジェクトは、音楽と書籍の親和性を活かし、アーティストの読書傾向なども含めた総合的なエンターテインメント分析を目指している。
MAJは日本の大事な知的財産(IP)だ
ビルボードは各国で展開する自社のチャートと、音楽アワード「Billboard Music Awards」を重要な知的財産(IP)と捉えるIP戦略を進めている。
この「IP(知的財産)戦略」を礒﨑氏は特に強調した。20年間に渡り米ビルボートとライセンス契約を重ねてきたが、「7〜8年前にマイク・ヴァン氏(米ビルボードCEO)がビルボードに入って以降、状況は劇的に変わった」と振り返る。それまで開催が不透明だった「Women In Music」「Billboard Music Awards」が確実に実施される体制となり、他のライセンシー諸国でもこれらに対して同様の取り組みを推進し、本格化していったと述べる。
この変化により、私たち、つまり日本が手にした最大の「IP」が「MAJ」であると磯崎氏は述べる。
「MA J」を日本の「IP」として捉えるならば、初開催のMAJから取れたデータは『始まりの結果』だ。日本のアーティストが「線」としていろんな国に出てきて、それらがやがて「面」になる動きを作っていく。アメリカ、日本だけでなく16カ国に渡るビルボードのライセンシー諸国は、「IP」を「線」として繋げるツールになりえるはずだ。
ビルボードは毎週開催される「MAJ」の広報委員会に継続的に参加。これはMAJを単に5月開催のイベントとは捉えず、継続的な「IP」として育成していく意志の表れだという。
「ビルボードはもっとできることがある。影となり、色々なお手伝いをさせていただきたい」と語り、業界全体での取り組み強化を呼びかけた。
レポート・まとめ
日本版グラミー賞「MAJ」5月の初開催から、どの程度世界へのインパクトがあったのか。具体的な数値としてアワードの影響力を定量化できた貴重なデータであった。特筆すべきは、藤井風のパフォーマンス楽曲「満ちてゆく」が示した推移データ。MAJ後のストリーミング増加が新曲リリース時に更なる相乗効果を生んだこの事例は、「線から面」戦略の実証であり、アーティストマネジメントにおける新たなモデルケースだと言える。
他アワードの比較は、MAJの現在地と成長余地の客観視ができた重要な指標だ。特に、MAMA『インド市場』への影響力、グラミー賞『ヨーロッパ圏』での波及効果が、MAJの今後目指すべき指針を示しているのではないか。礒﨑氏の「東南アジアへのリーチで予想を外した」という見解は、具体的な改善指針でもあった。
米ビルボードのマイク・ヴァン氏(CEO)の就任後の変化を踏まえた「IP戦略」の説明は、MAJを継続的に育成すべき「IP(知的財産)」であることを明確にした。始まったばかりの「MAJ」今後の『面』としての更なる広がりを期待したい。
広告・取材掲載