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佐藤竹善、世界中で愛されるクリスマス・ソングを中心に仕上げられたベストアルバムに込めたメッセージとは

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佐藤竹善

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クリスマスのように1年中、みんなが優しい気持ちでいられたらいいのにねーー。佐藤竹善の最新作は、過去にリリースされたクリスマス・アルバムとEPからの楽曲に、新曲を加えたベスト・アルバム『The Best of Your Christmas Day Ⅰ Ⅱ Ⅲ&More』。世界中で愛されるクリスマス・ソングの親しみやすさ、多彩なアレンジの楽しさ、込めたメッセージの奥深さを深く理解し、オリジナル作品とともに佐藤竹善流「カバーの極意」を駆使して作り上げた、珠玉の1作だ。
そして11月からは、恒例のクリスマス・ツアー『Your Christmas Night 2025』がスタート。ツアーについて、新曲について、そして彼が思うクリスマス・ソングの本当のメッセージについて。年輪を重ねた円熟と飽くなき挑戦のはざまで歌い続ける、稀代のソングライター&ボーカリストの言葉に耳を傾けよう。

――あらためて、始まりのことを聞かせてください。2013年に最初のクリスマス・アルバム『Your Christmas Day』を出したのは、どんなきっかけがあったのか。

湘南ビーチFMというコミュニティFM局で、僕がDJを始めたのが2011年なんです。日本では数少ない洋楽ジャズ・ステーションで、そこでは12月1日から25日まで、朝から晩まで24時間、クリスマス・ソングしかかからないんですよ。それまで僕は一般の方と同じように、クリスチャン関係のクリスマス・ソングとか、「ジングルベル」とか、達郎さんの「クリスマス・イブ」とか、ごく普通の知識しかなかったんですけど、それがきっかけで、「クリスマス・ソングにはこんなにいい曲がいっぱいあるんだ」と。そこでは往年の名曲が、ラテン、ジャズ、ロック、ポップス、R&Bとか、同じ曲でも全然違うアレンジで演奏されて、さらに毎年オリジナル曲がたくさん生まれている。「ジングルベル」1曲とっても、デスメタルからボサノヴァまで、通常はそれぞれのジャンルで独自にやっているアーティストが、クリスマスの時期だけ一体になるという、その世界観と音楽観が非常に素晴らしいなと思ったんです。だから日本でも、単純に街をにぎわすクリスマス・ソングという認識以上に、音楽としてのクリスマス・ミュージックの幅広さと深さを伝えたいと思って、クリスマス・アルバムを作ろうと思ったんですね。

――はい。なるほど。

そして、向こうでは、クリスマス・アルバムの中にクリスマス・ソングではない曲も入っていたりするんです。一番有名なのは「What a Wonderful World」で、あの曲をクリスマス・アレンジで聴くと、クリスマスの特別なメッセージが伝わってくるんですね。そういう深さも知るようになって、それで僕のシリーズも、クリスマス・ソングじゃない曲を織り交ぜることで、そういう部分を伝えられるんじゃないか?という思いで、『Your Christmas Day』の『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』の3枚を作りました(*2013~15年にリリース)。本当はそれ以降も作りたかったんですけど、SING LIKE TALKINGの周年ライブとか、いろんなことが忙しくなっていったこともあって、ちょっと止まっていて、途中でEP(2018年『Little Christmas』)が出るぐらいだったんですけど、自分の中では3枚で完結しているわけではなくて。最初のリリースから12年経ったので、一度ひとまとめにして、リスナーの人たちが、僕がそういう作品を出しているということに目を向けるきっかけになったらいいなということで、ベスト・アルバムを出すことにしました。

――クリスマス・ソングは音楽ジャンルではなくて、スタンスと言いますか、メッセージ性と言いますか。

無名の曲でも、素晴らしいメッセージを持った曲はたくさんあって、行き着くところは、クリスマスには普段は揉めている人も優しくなって、それぞれが心を通い合わせたらいいと思うけれど、「それが本当は1年中だったらいいよね」というのが、一つの大きなクリスマスのメッセージだと思うんです。今回のベスト・アルバムには入れなかったんですが、「Once A Year」(2013年『Your Christmas Day』収録)という曲のメッセージが非常に大好きで、未だにライブでもよくやる曲です。「Once A Year」は1年に1回という意味なんですけども、歌詞の内容は“More Than Once A Year”で、“1年に1回だけじゃない”ということなんです。クリスマスになると、向こうではプレゼントを車の後ろに積んで、恵まれない人たちに配って歩く慣習があるんですが、1年に1回こういう素敵な時間があるけれど、でも本当は1年に1回だけじゃなくて“いつもこういう思いにみんながなれればいいね”という歌詞なんです。だからタイトルは「Once A Year」で、歌詞が“More Than Once A Year”なのがポイントなんですね。そんなふうに、歌詞のほんの一節でも心に響くものがあれば、もうそれだけでクリスマスという存在がどういうものか、肌感でみんなを癒していくんじゃないかな?ということは感じていますね。

佐藤竹善

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――ちょっと、話が横道にそれますが。カバーという表現をわざわざ使うのは日本だけだと、以前におっしゃっていましたよね。

そうですね。今は分類を明確にするために、カバーという言葉を欧米でも使うようになりましたけど、本来はカバーという言葉は、特にジャズとクラシックの世界では、カバーができなかったら話にならないですよね。それはある意味で音楽の基本で、それがあるからこそオリジナルというものが生まれてくる。これは世界中、昔からすべてのジャンルですべてのアーティストが経験したことでもあると思うんです。日本だけが、ある時期からオリジナル至上主義というか、「オリジナルの方がカバーより偉い」みたいな時代になっていきましたけど、世界では常に「いい曲を継承する」という概念と「オリジナル楽曲を生み出す」という概念は、同じ高さに存在しているなと、僕はずっと思っているんです。

――本来、そうあるべきだと思います。

30年前に最初のカバー・アルバム(1995年『CONERSTONES』)を出した時は、いろんな評論家からも、アマゾンのコメントとかでも、ボロクソ書かれましたから(笑)。「人の曲を歌うなんて」とか「オリジナルが書けなくなったんじゃないか」とか、どんどん話が変な方向に行っているなと思って見ていましたけど、「いつか時代は変わるはずだ」と思っていました。そしたら、その10年後ぐらいにはカバーが当たり前の時代になっていて、色々言っていた人はどこへ行ったんだろう?と思いましたけど、それはもう昔から、時代の流れというのはそういうものだと思っているので。ただ、その頃色々叩かれたり書かれたりしても全然気にならなかったのは、それを気にすることよりも、海外のすごいアーティストがこんなすごいカバー・アルバムを出したとか、それに対してどうやったら1ミリでも追いつけるだろうか?とか、そういうことで頭がいっぱいだったので、それが良かったのかもしれないですね。そういう土壌が自分の中に出来上がっていることもあって、クリスマス・アルバムに入れる曲も、オリジナルだろうがカバーだろうが、自分が歌うことでうまく仕上がったら、それがイコール作品だという概念に、ナチュラルになれていたんだと思います。

――まさに『COENERSTONES』のシリーズもそうですけど、竹善さんは最初から、スタンダードを歌い継ぐ姿勢が最初から貫かれていたと思います。そんな流れの中に、クリスマス・アルバムのシリーズもあると。

そうですね。それと、このシリーズを続けてきて良かったなと思うのが、僕の作品でその曲を初めて知ったという人が増えてきているのは、すごくいいなと思っています。なぜかというと、自分が子供の時に、ビートルズが歌う「ロング・トール・サリー」を知らなかったら、(オリジナルの)リトル・リチャードにはたぶん行っていないんですよね。サウンド的に古すぎて。でもビートルズがカバーしてくれたおかげで、リトル・リチャードやチャック・ベリーがかっこいいと思えるようになったので、それもカバーの大きな魅力だと思っています。

佐藤竹善

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――そして今回のベスト・アルバム『The Best of Your Christmas Day Ⅰ Ⅱ Ⅲ&More』は、アルバム3枚とEP1枚の中からセレクトした14曲入り。選曲の基準は?

ベスト・アルバムの選曲は、SING LIKE TALKINGでもソロでもずっと同じ発想なんですが、今までのファンの人たち以外の人が聴いて、入りやすくて聴きやすいということを、自分の中の鉄則にしています。わかりづらいこだわりだとか、そういういうものは一切あっちゃいけないのがベスト・アルバムだと思っていて、とにかく入り口として、「こんなに楽しいならオリジナル(アルバム)はどうなんだろう」と思ってもらうための、入口にしたいので。そして、新しい曲を入れることに関しては、今の自分がどういうものなのか?を正直に出すこと。今回は書き下ろしの1曲と、「Do They Know It‘s Christmas?」のカバーで、今僕がどういうふうに音楽に向き合っているのか?が、そこに表れていると思います。

――その、書下ろし新曲「Christmas Family」。どんなイメージで作った曲ですか。

この曲は、僕がクリスマス・ソングに込めたい温かさの部分をメインにした曲ですね。詞を書いてくれたDr.capitalにそこの部分だけを伝えて、あとは「メロディから感じられる世界観を書いてくれればいい」と。それプラス、SING LIKE TALKINGの西村智彦が先日亡くなったので、「彼に対する思いも込めたい」と。ただ彼に対して歌う曲ではなく、「彼の音楽に対する思いを込めて歌いたい」と言ったら「わかりました」ということで、とても素晴らしい歌詞の内容になりました。それを感じさせるフレーズも、歌詞の中にあります。“時が流れていく中で、ここにいるメンバーは変わっていくけれど”“でもそれも悪いことじゃない”という希望を込めてくれました。それと、イントロのメロディ、あれはSING LIKE TALKINGで西村が書いた「星降らない夜」という曲のサビのメロディなんです。そういうものも、ちょっとだけ散りばめてみました。

――それは…わかる人はすぐにわかる。

わかると思います。ただ三拍子にしているので、気づかない人は気づかないかもしれない。

――西村さんのことは、こちらから口にするのは控えていましたけど、今年のクリスマス・ツアーにはきっと、今までとは違う思いを持って出かけられるんだろうなとは思っていました。

去年のツアーには、あいつがゲストで弾きに来てくれたりもしましたしね。

佐藤竹善

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――そしてもう1曲、新たに録音されたのがバンドエイドの「Do They Know It‘s Christmas?」。これについては?

これはライブでずっと何年もやっている曲で、ラテン・アフリカンなビートで、サンバのニュアンスを生かしつつ、楽しく演奏したいと思ってアレンジしました。今回レコーディングするにあたって、大儀見元にアフリカン・パーカッションをいっぱい重ねてもらって、かなり壮大なアフリカンアレンジになりました。実は「Do They Know It‘s Christmas?」自体が、ボサノヴァから何から様々なバージョンがあって、カバー曲としてのスタンダードにもなっている曲なんですよ。本体のバンドエイドも、10年おきに新しいバージョンを作っていますしね。ラップを入れたりして、その時代のイギリスのスターたちが歌っているんですけど、それが去年完結して、全部のバージョンが入ったコンパイル・アルバムが出ました。

――そこに対する日本からの回答と言うか、まさに「いい曲を継承する」という概念を体現しているバージョンだと思います。そして、アルバムのラストに「The Lost Treasure ~The Adventures of Jaime~」(2015年『Your Christmas Day III』)が入っているのが、すごく重要だと思うんです。12分を超える壮大な組曲で、ある意味異色のこの曲を、なぜここに入れたのか。

「The Lost Treasure」は「パティシエ エス コヤマ」(兵庫県三田市のスイーツメーカー)の小山さんが作ったストーリーが元になっていて、第何章まで出来上がっているお話の、「それぞれの章を楽章にしてほしい」と。プログレみたいにしてほしいと言われて、初挑戦だったんですけど「よし、やろう!」と言って、書き上げて、歌詞はシャンティ・スナイダーにお願いして、ミュージカルの音楽を作るようなつもりで書いていきました。すごく楽しかったですけど、すごく大変だったので、もう二度とやりたくないです(笑)。

――これはとんでもない名曲だと思います。入り口としては、高い山かもしれないですけど。

この曲は、僕の中で一つの金字塔なんです。作品として。歌詞も、クリスマス・アルバムにはぴったりな荘厳なメッセージで…今は、製菓会社がCMで、現地でカカオを作っている人たちにもちゃんと収入が行くようにというメッセージを発信していますけど、昔は低賃金で、安くチョコレートを楽しんで、それが当たり前だと思っていた時代があった。悪気はなかったと思うし、彼らにも収入を与えていたつもりでいたけれど、本当はもっと与えなきゃいけなくて、もっと幸福を分かち合う概念になっていかなきゃいけないんだということに、業界全体が変わっていったと思うんです。それを小山さんは真っ先に感じていて、実際に向こうへ行って、彼らが潤うように、そして自分にもいいカカオが手に入るようにしていった。日本でも野菜を作る時とかに、そうやっている人がいますよね。結局それが、クリスマスの最終的な大きなメッセージでもあると思ったので、この曲をベストアルバムの最後に入れたかったんです。少なくとも、「なんでこの曲を入れたんだろう?」と思ってほしかったので。

――この曲に、ここまでの竹善さんのお話が凝縮されていると思います。

そして、この曲のロック・パートの、ディストーションのギターは西村が弾いているので、あいつの足跡もあります。

――「Christmas Family」のイントロものメロディも含めて、西村さんへの思いを込めたベスト・アルバムでもあるんですね。ここで声高に言うことではないかもしれませんけど。

全然言ってもらって大丈夫ですよ。あいつの話は折に触れて、ずっと語り続けるのが僕の考え方なんです。ラジオをやっている時も、「この曲の西村はこうだった」とか、まるで生きているかのように、一生語っていこうと思っています。

佐藤竹善

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――素晴らしいです。そしていよいよ11月から『Your Christmas Night 2025』のツアーが始まります。2014年から続くこのツアー、これだけライフワーク的に長く続くとは、思っていましたか。

いえ、当時はそんなことは考えていないです。クリスマスの作品を出して、ツアーをやること自体が、今まであんまり日本にない形だったので、「いろんな人にできるだけ楽しんでもらったらいいな」ぐらいの気持ちでしたね。最初は確か、東名阪の3本ぐらいだったと思いますけど、それが意外にも盛り上がっていって、これ以上増やせないぐらいの本数になったのは、すごく幸せだなと思います。これ以上増やすと、クリスマスじゃなくなっちゃいますからね(笑)。

――リスナーが盛り上げてくれた側面も大いにあると。

あとは、一緒に回っているジャズのミュージシャンたちが、素晴らしい演奏家なので。ぼくのジャズに対しての姿勢がより濃密になっていった頃と、クリスマス・アルバムを作り始めた頃が重なったこともあって、彼らに支えられた部分は非常に大きいです。

――すべてのタイミングがうまく重なった。

そうですね。彼らのようにジャズの素晴らしいレベルの演奏家とやったことで、大きく流れが変わったと思います。

――11月15日の岡山から、12月27日の北海道まで、追加公演も含めて全部で15本(*1日2回公演あり)。メンバーは佐藤竹善(Vo)、江藤良人(Dr)、井上陽介(B)、青柳誠(Pf)というメンバーです(*一部、竹善&青柳のDUO公演あり)。どんな気持ちで臨みますか。

基本的にはいつも通りだと思います。もちろん今回のベスト・アルバムから、できるだけ多く選びたいなとは思っていますけど、フルで17、8曲やれる箇所はそれほど多いわけではないので。ビルボードライブとかは、10曲くらいになると思うので、基本的には今までと同じ感じ、プラス新しい曲で行こうかなと思っています。

――初めて来られる方もいるかもしれないので。あらためて、お誘いの言葉をいただけますか。

最近、「Sound Inn S」(BS-TBS)とか、テレビの歌番組に出たこともあって、新たに僕を知った人も結構いるようなんですね。それでライブを見に来たという人も、ちらほらいたりして、このクリスマスのコンサートも、そういう感じで新しい人が来てくれたらいいなと思っています。ただ、みなさんがなんとなくイメージする「クリスマスのコンサート」というものがあるとしたら、そういうものでは全然ないと思っていただいて、普通のロックやポップスのコンサートと同じように楽しめると思って、来てくれるといいなと思います。

――最初におっしゃったように、クリスマス・ソングはジャンルではなくメッセージ。しかも、いろんなことが起きている現在の世の中だからこそ、音楽で平和や安らぎを感じられるのは、とても素晴らしいことだと強く思います。

それが伝わると嬉しいなと思います。一方、そういうメッセージは、もう何十年とずっと言われ続けていて、逆にメッセージ自体が一つのジャンルみたいな感じで、慣れてしまっている部分もあると思うんですね。なので、メッセージを聞くというよりは、クリスマスというもの自体を感じることで、逆に心がしっかり、そこに向いていくきっかけになったらいいなというか、理解するというよりも、感じるという時代なんじゃないかなと思っています。「正しいことを伝える」ということではなくて、正しいことはもう、みんな聞き飽きているはずなんですね。それこそ、朝ドラの『あんぱん』じゃないですけど、「逆転しない正義を目指してアンパンマンを描いてきた」という、やなせたかしさんの言葉がありますけど、絶対に変わらないものの大切さは、頭で考えて理解することも大事ですけど、それ以上に感じることが大事だと思うんですよね。それが音楽なんだと思います。

取材・文=宮本英夫 撮影=大塚秀美

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