【特別取材】音楽業界を深く知るための指南書!『17人のエキスパートが語る 音楽業界で食べていく方法』著者・関根直樹氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

関根直樹氏

ソニー・ミュージックで主に海外興行に携わっていた関根直樹教授(江戸川大学)が音楽業界のガイドブック『17人のエキスパートが語る音楽業界で食べていく方法』をリットーミュージックから上梓した。前半ではファンダムや海外興行といった音楽業界の最新課題を解説し、後半はYOASOBIのディレクター山本秀哉氏を始めAvex、SMA、AWA、Spotify、TikTok、KOBAMETAL、フジパシフィックミュージック、Zepp、クリエイティブマン、ライブエグザム、イープラス、シミズオクト、マナモア、HIKKY、エイベックス・クリエイター・エージェンシー、MUSICAから成る錚々たるメンバーが音楽業界の現場を解説。音楽業界を目指す学生・社会人だけでなく、業界知識をアップデートしたい音楽業界人にもおすすめの一冊を書いた著者にインタビューした。

(インタビュアー:榎本幹朗、Musicman発行人 屋代卓也 取材日:2023年12月22日)

プロフィール

関根 直樹(せきね・なおき)


江戸川大学 社会学部 経営社会学科 教授
インアウトワークス合同会社CEO

上智大学外国語学部英語学科卒。ショービジネスの本場にあるニューヨーク大学で音楽ビジネスを体系的に学ぶ。ソニー・ミュージックエンタテインメントでプロデューサーとして邦楽宣伝・A&R業務に携わり、出向先のライブエグザムでチーフ・プロデューサーとして日本人アーティストの海外興行エージェント・ツアーマネジャーおよびAnime Festival Asia, ペンタポートロックフェスティバルなど海外のアニメ・音楽フェスティバルの制作業務を手掛ける。SCANDAL、T.M. Revolution、中孝介、LOVE PSYCHEDELICO、坂本真綾などアジアを中心に着手したアーティストは30組以上。

ソニー・ミュージックに入社しNYへ留学

ーー『17人のエキスパートが語る音楽業界で食べていく方法』を拝読して「Qsicmanで音楽業界の求人を見ている人には全員に読んでもらいたい」と思いました。ニューヨーク大学で音楽ビジネスを学ばれているんですね。

関根:平成元年に新卒でソニー・ミュージックに入社しました。それから8年間働いた後、ソニーグループの留学制度を使ってニューヨークへ行きました。

ーーSMEではそれまで何をされていたんですか?

関根:入社当初は販促を行っていました。「ロックの制作をしたい」と言って入りましたが、アイドルセクションに配属されたんです。学生時代、持っていたレコードが浜田省吾や尾崎豊、ECHOESなどCBSソニーのものばかりで「須藤(晃)ディレクターと仕事がしたい」と思って入社したのですが、会社の方針で、絶対に希望通りにはさせないんですね(笑)。当時は、音楽ビジネスのガイドブックなどは存在しなかったので、予備知識が全く無く面食らいました。

ーーアイドルというと、どなたの担当だったんですか?

関根:河田純子さんの担当、松田聖子さんやデビューしたばかりの宮沢りえさんのサブ担当でした。

ーーディレクターは若松(宗雄)さん?

関根:そうですね。あとは酒井(政利)さんですね。

ーー日本にアイドルの時代をもたらした、歴史を創った方々ですね。

関根:その後、札幌に転属したのですが、古内東子さんがそこでブレイクして、札幌が社内売上の20%になるほどでした。「これをお土産に東京に帰れるな」と思っていたら、今度は大阪に転属 となりまして(笑)。そんな中、大阪時代の上司から「おまえは何で業界用語ばかり覚えてるんだ。英語が使えるのだから海外に行くべきだ」と言ってもらったんです。留学試験には二回落ちたんですが、三回目に受かって。「まずは洋楽を学びなさい」ということで、東京で洋楽の担当として、いわゆる渉外業務でオーストラリアの担当者と毎日英語で話していました。アーティストが来日するたびに、通訳ほかケアをしていました。Silver Chairはご存知ですか?

ーーはい。Ana’s Songは何回聴いたかわからないくらいです。その後、ニューヨークに行かれたということですね。いかがでしたか?

関根:NY大は当時からレーベルの現役社長が「音楽ビジネスとはなにか」という講義を行っていました。エンタメ業界の弁護士が著作権の講座を担当していて、ライブビジネスのプロが我々学生をカーネギーホールへ連れていき現場で教えるとか、講義レベルの高さに凄いショックだったんです。

あとは、学生がみんな積極的に手を挙げるんです。「音楽業界に絶対入りたいんだ」という意気込みで先に手を上げた方が勝ちという感じで。なので、負けじと私も必死に喰らいついて質問していました。

ーー日本とは全く違う環境ですね。ソニー・ミュージックから延べ何人、留学したんですか?

関根:歴代で5人くらいです。その中には、TMネットワークのディレクターだった山口三平さんもいます。

ーーちなみに入社したとき同期は何人いましたか。

関根:同期は85人です。当時はCDの活況期でしたので、倍率は100倍でしたね。

ーーすごい倍率ですね!

倍率100倍をくぐり抜けた「就職の秘訣」

ーー今回、音楽業界の就職本を出版されましたが、関根さんご自身を振り返ってSMEに入社できたポイントはありますか?

関根:お恥ずかしい話なのですが、SMEは最後に受けた会社でした。それまでテレビ局、広告代理店、メーカーなど尽く落ちて、面接慣れしていたのがポイントかなと思います。それと結局、それまで受けたところが1番行きたいところという訳でもなかったんです。最後に受けたSMEが、お互いしっくりきたというところがあります。

それと、自分の気持ちをはっきり伝えたというのもあります。面接の時に、丸山茂雄さんに「もうロックをビジネスにしなくては駄目です」「BOOWYがもうここまで来ています」と熱弁したんです。言いたいことを言えたので「もう落ちてもいいや」と思っていたくらいだったんですよ。

あとは、何か記憶に残った方がいいということで、毎回、同じTシャツを着て行っていました。大学時代に1年留学した時にアメリカ人と組んでいたバンドが「Three Legged Dog(三本足の犬)」という名前だったのですが、その物販Tシャツを毎回着ていって話題にしてもらっていました。

ーーアーティストを売る仕事ですから、想いを相手の心に伝える力とか、自分を題材に宣伝する力を見せるのは大切なのでしょうね。

海外興行のパイオニアとして

ーーNY大から帰ってきてからはどんな仕事をされていたんですか?

関根:ニューヨークにいた頃から「これからはアジアだ」と思っていたので、NY大で中国語を勉強してたんです。帰国して1998年から2006年までソニー台湾、ソニー香港などのアジア圏にCDを売り込んでいました。でもこの時期の後半になると、もうCDではなくなってきていたので、デジタルの波を受けて「これは違うな。これからは興行だ」と思い始めていました。ちょうどその頃、中孝介(あたりこうすけ)というシンガーに出会って、デビューしてすぐに上海のイベントに出したりしていたんですが、彼がEPICに所属していたのに伴い私も異動したんですが、その流れでレーベルの中で興行をやり始めました。

ーー今となってはレーベルがライブもやるのは常識ですが、その頃、iTunesミュージックストアが始まって「次はデジタル販売だ」となり、実際にはサブスクが普及するまで売上が落ち込んで。それからレーベルは「360度ビジネス」に行きましたが、関根さんは先駆けだったんですね。

関根:EPICでSCANDALをデビュー前から手掛けていたのですが、その時期からいろいろと変わり始めて、SCANDALを海外へ出しましたね。

ーー10年前、佐久間正英さんと対談したときにアメリカでベビメタとSCANDALが受けているという話をしたのですが、その頃、その現象を知っているのは業界でもわずかでした。

関根:SCANDALは確か2008年にサウス・バイ・サウスウエストにいきなり出して、アメリカ・ツアーをさせたんですよ。高校の制服風のコスチュームで「この子たち本当に楽器、弾けるの?」という感じでアメリカ人がざわつきだして、最後のLA公演では結構な人数が入りました。

それからEPICだけでなくSMEが全社的に興行へシフトしていこうということになり、ライブエンターテイメント事業部ができました。これが今のライブエグザムです。SME時代の最後2013年からライブエグザムに出向していました。

ーーそうだったんですね、六本木のオフィスですね?

関根:はい。私は海外興行を展開する部署で、邦楽アーティストの海外興行を30組ほどやりました。韓国、台湾の音楽フェス、シンガポールのアニメ・フェスなどにも出資して、アニソン歌手やバンドをブッキング、制作していました。

ーー今はYOASOBIやRADWIMPSなど海外展開が当たり前になりましたし、それが日本の音楽業界の現実的な目標になりましたが、その時代を関根さんは切り開いてきたわけですね。

関根:当時は「これからはアジアだ」と言っても、社内は全くピンとこなかったんですよ。ですが、そこから「アジアについて聞かせてくれ」と他社からも尋ねられるようになりました。

今はSMEから中国に数人行ってますけど、今度は中国市場がシュリンクするのではないかと言われだしています。こういうのは早すぎても遅すぎても駄目で、タイミングが一番難しいと思いましたね。いくら自分が先に動いても業界が動かなかったら引っ張れないじゃないですか。

ーー昔はアジアといえば海賊版のイメージでしたね。

関根:2000年あたりに中国へ行ったら海賊版を売るショップばかりでした。だから「これからは人を売ろう」と。興行ですね。

ーー海外興行の本も出されてますよね(「日本のアーティストを売り込め! 実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ」)。

関根:はい。2年前、会社を辞めるときに書きました。

ーー最新のご著書でも海外のファンダムや海外興行の今後が詳しく書かれていて、興味深く読ませていただきました。業界人も必読だと思います。

コロナ禍で邦楽アーティストの海外展開が進んだ

ーー書籍に登場するみなさんが「コロナ禍で業界が決定的に変わった」とおっしゃっています。邦楽アーティストの海外進出が好調になったきっかけに、コロナ禍は関係あるのでしょうか?

関根:大学の講義でも話していますが、背景としてSNS、DSP(音楽サブスク)、DTM(PC上での楽曲制作)が大きいです。ボカロ文化ではリモートでコラボするのがコロナ禍前から当たり前でしたが、YOASOBIはこうした背景をうまく使って、対面接触しなくても曲を発信できることを示しました。

コロナ禍の間、世界の音楽ファンはライブに行けないので配信で観ざるを得なかった。でも配信で観るとやっぱり行きたくなったし、DSPによってリスナーは増えましたよね。

1月にインドへ行く予定ですが、インドも変わってきています。昔はボリウッドというダンスの付いた映画のサントラがTOP100を埋めていたのが、今はガラッと変わってポップスの割合が徐々に高まってきています。これはYouTubeやSpotify、Apple Musicの影響が大きくて、DSPでリスナーシップが変わってきています。

DSPの浸透で色々な国の音楽が刺さっているなかで、J-Popも入ってきました。そしてリスナーが増えたことで、彼らは発見して共有して広まっていくじゃないですか。そうやって感動が広がると最終的に興行になってくると、そういう流れかなと思います。

ーーNetflixやAmazon Primeで日本のアニメが広まって、海外でもアニメはオタクのものから一般人のものに変わりました。それがJ-Popの後押ししたのも確かですが、例えばシティポップはアニメと関係ないですもんね。次の段階に入った気もします。

関根:全く関係ないですね。YOASOBIに続いて世界ツアーに挑戦する若手アーティストがどんどん出ることを期待しています。

ーープロ・スポーツの世界でも誰かが海外進出を切り開いて、他の日本人選手が続くという流れがありますが、音楽もそうなるといいですね。本の中ではYOASOBIのディレクターの山本さんにもインタビューされていますが、必読の濃い内容でした。

関根:SMEだとZeppの戸井田さんにもインタビューしました。

ーー先日Musicmanでも、自動ライブ配信システムの件で戸井田さんに取材しました。

関根:彼は同期なんですよ。

ーーこの本の中では、音楽業界の近未来について多くを割かれていていますよね。テクノロジーの進化とともに音楽業界のスタイルも変わっている、業界を目指す人たちにはチャンスはどんどん広がっているとアピールされているのが印象的でした。現場で働いている人たちの声があることで、リアルな温度感や適切な評価みたいなものが分かるのかなと思いますし、学生の方や新たに業界を目指す人だけではなく、私たち音楽業界人にも参考になると思います。

音楽業界に必要な才能はいろいろある

ーーこの本の読者にいちばん伝えたいことは何ですか?

関根:学生が音楽業界の就職を考えるとき、たとえばソニー・ミュージックやアミューズのような大手の会社のイメージがどうしても強いと思うんです。ですが、音楽会社はもっとたくさんありますので、そういったほんの一握りではなく、視野を広げていろんな種類の会社、いろんな才能を必要としている環境に気づいて欲しい、と伝えたいですね。

例えばこの本に出てくる、マナモアという会社で舞台監督をされている潤井隆典さん。彼とはシンガポールで初めて一緒に仕事をしたのですが、米津玄師、RADWIMPS、緑黄色社会など今売れているアーティストを担当してます。会社の規模こそ中小規模ですが、需要がすごいそうです。

こういう会社が音楽業界にはたくさんありますので、そこにスポットを当てたかったというのがあります。私の担当するゼミ生にも同じようなことをいつも伝えています。生徒には「Musicmanの音楽業界DBを見ておきなさい」と言っていますが、実はすごい音楽会社がたくさんありますよね。まず「見つける」ことが必要なのではないかと思います。

ーー実際、Qsicmanで取り扱う職種をみても、20年前から比べると音楽に必要な職種や業種が明らかに増えていると感じますね。固定概念を取り払って、自ら動いて色々な会社を見つけて欲しいですね。

「音楽が好き」だけじゃ面接には通らない

ーー本に登場するみなさんのアドバイスに、学生時代にやっておくべきことで共通点がありました。音楽が大好きなだけじゃ通用しない。「なぜヒットしたのか分析する」こと、音楽だけでなくエンタメ全般を楽しむ、得意ジャンルを掘り下げておくことの3つなのかなと思いました。関根さんからもアドバイスをいただけますか?

関根:差別化じゃないですかね。みんな音楽が大好きという中で、他の人と違うことを言えるかどうか。例えば「このアニメを語らせたら私は誰にも負けないです、聖地も全部巡礼しました、どこまでも掘り下げて話せます」とかですかね。そういったことでいいんです。

あと先ほど出たエピソード・トーク、自分のストーリーを狭くていいので深く語れることです。「面接官はこの人と一緒に働きたいか見ているんだよ」という話がよく出ますが、そう言われてもわからないじゃないですか。

ーーなかなかピンとこないでしょうね。

関根:だから「個性を出す」ことが必要なのかなと。他の業種と違って、この業界は個性が特に大切だからこそ、勉強もスポーツもできて、バイトもやっててとそんなに要らないので、ひとつだけ出すことが必要。

「アニメの聖地巡礼80箇所、達成しました」「ええ?それはすごいね」となるんですよ。私はそういう強烈な個性がありつつ、前向きで肯定的なのが一番だと思っています。

ーーQsicmanで動画履歴書を始めたのですが、何かを伝えたいという熱意や個性が見分けられるようになったんです。特に学生さんには積極性を出してもらうこと、それこそが差別化になるんじゃないですかね。

関根:同じことを今日のゼミでも話しました。日テレでアナウンサーだった小倉淳先生と一緒にやっているのですが、目の前に音楽業界とマスコミ業界にいた実務家出身の先生がいるのだから、自分から手を挙げて大いに僕らを使えばいいじゃないかと。「まず叩いて、叩き続けたら門は開くよ」と。

ーーアドバイス通り積極的にやってみますという人には、チャンスはいっぱいあるわけですよね。

関根:そうですね。例えば、ある生徒からヴァイオリニストのマネジメントを目指していたんですが上手くいかなくて、「先生の本に書いてあった舞台監督にも興味が出てきたんですが」と言ってきたので「じゃあ今度マナモアの舞台監督に会うから話しておこうか?」ということがありました。積極的に来てくれたら、手を差し伸べられるんです。

3年生たちに「模擬面接してあげるから来なさい」と言った時のこと。その中の一人が、とある大手レーベルに行きたいと決めている子がいたんです。面接して50箇所くらいダメ出ししてボロボロだったんですけど、私はそういう子は買っていますね。第一希望がダメでも次のチャンスがあるはずですし、私からも一言かけられるかもしれない。

ーー本の中でZeppの戸井田さんがおっしゃっていましたが、倍率何十倍の第一希望に落ちたとしても、それはじぶんに本当に合っている会社と出会う過程だから絶望しちゃいけない、と。これだけ色々な仕事が音楽業界にはあるのだから、積極性を忘れずに進み続けるのが天職に出会う秘訣なのかもしれません。

今、自分が学生だったらどこを受けたいか

ーー関根さんが今、学生だったら本に紹介した会社のなかでどこに興味を持つと思いますか?

関根:30年前だったから「レコードの制作」という発想を私はしましたけど今、これを読んでいたらHIKKY(VR開発会社)が面白そうかなあ。HIKKYの舟越さんも「業種でなくて職種で選べ」とおっしゃっています。複眼的に就職先を考えるといいよ、と。「音楽業界=レコード会社」というのはストレートに見えて実は迂回というか、その周辺にたくさんの職種があります。

アーティストと仕事がしたいのならHIKKYのようなVRの会社の方が近道の場合だってありうるわけです。コロナ禍の前は音楽業界に全く相手にされてなかったそうなのですが、今では音楽業界から企画書がどんどん届くそうです。

ーー舟越さんのアドバイスは、この中では異色で「広く浅く興味を持ちなさい」でしたね。それとツールが進化しているから、そのツールで何ができるかイマジネーションが大事。自分ができないことが浮かんだらどんな仲間を連れてくればいいか、そういう発想が大事だと。Musicmanではリレーインタビューで音楽業界の成功者に数百人とインタビューしてきましたが、最初から計画があって上手くいった人なんかいなくて、後のことなんか考えないで「だってこれが好きだから」と頑張っていたら花開いたというような人たちばかりでした。だから十年後を考えたらこのスキルが必要とか杓子定規に考えずに、パッションというか「それが楽しいから」というのを一番大事にしてもらいたいですね。

音楽業界に挑戦したい社会人にも読んでもらいたい

ーーTikTokの増井さんにもインタビューされてますが、アーティストとリレーションを取っていろいろやっていくのって理論も必要だし、アイデアもコミュニケーションも必要で、すごくやりがいがある仕事だなと。Spotifyの芦澤さんも新人発掘をがんばっているし、どれも昔なかった職種ですよね。あと、イープラスの中野さんの話を読むと、プレイガイド業界も昔と全く変わったな、と改めて思いました。

関根:チケッティングだけじゃなくて、購買情報を解析してイベントをプランニングしたり、出資したり、ホールの建設まで関わっている。マーケティング会社でもあり、シンクタンクもレーベルもエージェントもやっている。どこまで理解してくれているかわかりませんが、学生たちにはそう伝えています。

だから「コンサートプロモーターになりたいです」「ステージの仕事がしたいです」と思ったとき、一見プレイガイドって関係なさそうだけど、そっちもあるわけです。興行の主催もしている。そうすると発想が広がってきますよね。

ーープレイガイドってこんな大きな仕事も出来るんだというのは、知らないと思います。だから学生だけではなく「音楽は趣味でいいか」と思っている社会人にもぜひ読んでもらいたいな、と。社会人の目から見ても十分、挑戦しがいのある業界だなってわかってもらえると思います。

関根:A&RもYOASOBIプロジェクトを立ち上げた山本さんみたいな人材が、もっともっと必要です。

ーー話を戻しますが、SMEを辞めた理由を教えていただけますか?

関根:2つあります。海外興行ビジネスをがんばっていた時に、「これ、じぶんで会社を持ってやればいいんじゃないか」と考え出したことです。もう1つは、サラリーマンにはいずれ定年がやってきますが、音楽業界の引退は自分が決めたいと思いました。定年で会社を辞める前に自分で引き際を決められる会社を持とうと思ったのです。

ーー独立起業ということですね。

関根:大学の先生になる前に、日本人アーティストの海外興行のエージェント業務を行う会社を立ち上げました。先月(2023年11月)、今月(同12月)も上海へ5人組ラウドロックバンドや女性ソロアーティスが行ったり、来年(2024年)も何組か決まってます。僕は今、大学の仕事上、春休みや夏休み以外にツアマネができないのでその期間以外はエージェントに専念していますが、こっちの仕事も動き出した感じですね。実務に関わり続けているのが大学で教えるのにも役立っています。これを読んでいる方で海外、特にアジア圏に自社のアーティストを売り込みたいという方はご一報ください!

ーーわかりました。音楽業界を目指すみなさんに、ぜひ読んでもらいたいですね。本日はありがとうございました。

 

書籍情報

『17人のエキスパートが語る 音楽業界で食べていく方法』
著者:関根直樹
仕様:A5判 / 216ページ
発売日:2023年11月17日
価格:1,980円(税込)
発行元:リットーミュージック