トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジが「JAL、宇多田ヒカルの事例から学ぶ“生き続けるブランディング”」セミナーを開催

インタビュー スペシャルインタビュー

12月12日、渋谷にてトライバルメディアハウス内のエンターテインメントマーケティングレーベル Modern Age/モダンエイジ主催のセミナー「Modern Age Marketing TOUR 2017“音楽・エンターテインメントで企業をデザインする”ブランド戦略- JAL、宇多田ヒカルの事例から学ぶ “生き続けるブランディング” の正体 -」が開催された。

 

企業の見える化と若年層を取り込むための取り組み

Modern Age Marketing TOUR 2017

第1部では「“若者カルチャーとの共創”非航空利用時における生活者とのコミュニケーション戦略」と題し、JALのコーポレートブランド推進部 Webコミュニケーショングループ山名氏より、SNSプロモーションと、若者カルチャーとの共創について語られた。

JALは、2010年の経営破綻後、顧客とのダイレクトコミュニケーションを活性化させてきた。その取り組みの1つとして、公式Facebookで実名顔出しでパイロットや客室乗務員を登場させ、思いを語りSNSでの共感、接点を持ってもらうという施策を行っている。

また、航空会社を選ぶ理由の多くが「なんとなく好き」等の、感情や潜在意識によるものが多くなっており、潜在意識のブランドスイッチの切り替えは非常に難しく、そのため航空機の利用経験が少ない若年層が重要なターゲットとなっている。JALでは、若年層へアプローチするため、積極的にイベントへの出展・協賛を行っている。

まず「ニコニコ超会議」への参加を2015年に開始し、2016年には専用ブースを出展。同時にニコニコ動画への投稿も開始し、ボーカロイドの楽曲で客室乗務員をはじめとするJALの社員がダンスをする“踊ってみた”動画が人気となったため、2017年には「超踊ってみたブース」で“1,000人の観客と踊ってみる”という企画を実施し好評を博した。

さらに、「ニコニコ超会議」だけではなく、異なる顧客層へのアプローチを図るべく、2017年春には「東京ガールズコレクション」(TGC)に初出展した。来場者は若年層の女性が中心となるのため、SNSでの拡散を見込み、客室乗務員の制服の試着や、立体的なデコレーションをしたフォトブースを設置。会場内で流すCMでは、宣伝色が強くなり過ぎず、より印象に残る作品となるよう、主演にはTGC出演者を起用した。

また、「ULTRA JAPAN」も2年連続で協賛をしている。山名氏は「1年目はULTRA JAPANに寄せすぎて自社の印象が薄くなってしまい、色々と反省点があった」と語り、社内のアイディアだけではなく第三者の意見を取り入れるため、Modern Age/モダンエイジと組み、ノベルティの工夫や、SNSへの投稿がしやすいブースの演出を行ったという。

イベント出展による実際の効果はなかなか評価しずらく、長期的にナーチャリングしていかないと結果が見えてこないため、現時点ではどれくらい反響があったのかというソーシャルメディア上でのクチコミ数をKPIにしているという。BIツールで情報を一元管理・可視化し、どのイベントでどれだけ反応があったか分析し、次の出展の検討に生かしていきたいとのことだ。
 

宇多田ヒカル、AIの事例から学ぶ 音楽と企業の新たな関係性

Modern Age Marketing TOUR 2017

第2部「宇多田ヒカル、AIの事例から学ぶ 音楽と企業の新たな関係性」では、ソニー・ミュージックレーベルズ EPICレコードジャパン OfficeRIA部長 梶 望氏を迎え、宇多田ヒカル、AIの事例を紹介。まず、AIのCSR活動としての取り組みについて語られた。

2011年にAIのレーベル移籍に伴いリブランディングを実施したという梶氏。「音楽においては、ゴールが見えていないと間違った方向に行く可能性がある。“戦略”がはっきりしないと“戦術”が出てこない」と、徹底的にペルソナマーケティングを行ったそうだ。

2011年は、東日本大震災があり、コカ・コーラのクリスマスキャンペーンを日本独自の企画で行うこととなった。そこでAIがタイアップに起用されることとなり、「AIは世の中に対してどんなメッセージを届けるべきなのか」また「AIをどのように魅せていくか」を考えたという梶氏。そこで生まれたメッセージが「あなたが笑えば みんなが笑えば きっと世の中よくなる」で、この“メッセージ”が戦略となりAIの「ハピネス」(2011年12月発売)が誕生。その「みんなに笑顔を届ける」というコンセプトで、アーティストビジュアルをはじめ、MVはコカ・コーラCMとリンクさせた作品とし、タッチポイントの見せ方も統一させたキャンペーンを実施した。

また、震災の復興支援にも取り組み、一貫したメッセージ戦略を実施。梶氏は「エンタメは世の中を、人を、前へ向かせる力を持っている。そして記憶を風化させないんだとそのときに実感しました。そして展開として大事だったのが、アーティスト本人が汗をかくこと。中途半端だと偽善ととらえられるリスクがありますし、やるんだったら本気でやるべきだと。本気で取り組む人はベースとなる人間性が重要で、AIの場合は世間の好感度イメージと本人の人間性が合致し、リブランディングが成功しました」と振り返った。
 

“血の通ったタイアップ”作品は共感され広がりやすい

 

次に宇多田ヒカルのタイアップとプロモーションを成功例に、今、有効なタイアップのかたちを紹介した。

まず、宇多田ヒカルの復帰作品「Fantôme」(2016年9月発売)のプロモーションの戦略について「宇多田ヒカルの場合は、“作品”が高く評価されているアーティストのため、改めて楽曲の価値を作っていく作業をしました。ソーシャルの施策は、『宇多田ヒカルを主語にせず作品を主語とする』ことだけを徹底的にやり、『作品ありきの宇多田ヒカル』ということを周知してから本人をプロモーション稼働させ、違和感なく復帰させることができました」と梶氏。

また、タイアップについて「タイアップだけで売っていく時代ではなくなったと実感しています。少なくともプッシュ型のプランニングが通用しなくなった。プッシュすればするほど引かれ、引いた分気づいてもらえない」と分析し、「お互いリスペクトがあり、同じベクトルで一緒に作っていくタイアップ、つまり『血の通ったタイアップ』は共感され広がりやすく、売上に繋がる」と語った。

また、「リスナーのクラスタ分析を活用し、音楽に対する意識・行動特性、ライフスタイルをリサーチし分析することは重要。人物像に合ったプロモーションをすると、プッシュがプッシュではなくなり、心地よいものになる。誰にウケているかが明確だとタイアップも決まる」と、アーティストのブランディングと、企業の商品のブランディングが一致しているタイアップは強く成功しやすいと説明した。最後に、宇多田ヒカルのソニーミュージックへの移籍に伴う今後の展望も紹介された。

 

音楽や音は、“生き続けるブランディング”を作ることができる

Modern Age Marketing TOUR 2017

第3部では、トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジ レーベルヘッド 高野 修平氏から「“音楽・エンターテインメントで企業をデザインする”ブランド戦略」をテーマに語られた。

現在の市場について、業種・業態問わず市場が成熟化し、差別化が難しくなっており、どの企業・商品もポジショニングマップに空きがなく、STP(Segmentation / Targeting / Positioning)の限界を迎えていると説明。

そのような現状下では、前述のJALの事例のように、感情のスコアが高いほど優位性が高くなるという。「選ぶ理由が見つけづらいなかで、“最高”でもなく“最安”でもなく、“最愛”を目指す必要がある」と高野氏。

「『とりあえずタイアップ』といった認知“だけ”のマーケティングは終焉を迎えた。これからの時代は情報としてシェアされる『論理的訴求』と、感情としてシェアされる『情緒的訴求』、この2つを回してこそマーケティングのアプローチが意味を持つのではないか」と語り、想起されることが大事で、「トップ・オブ・マインドの地位を獲得したブランドがトップシェアを握ると言われている。音楽・音は、記憶を格納する。感情を動かす。体験を刻む。一体感をつくる。そのため音楽・音を有効活用すればトップ・オブ・マインドの獲得に非常に有効なのではないか。」と提言した。

また、「“タイアップ”と“ブランディング”」について、タイアップ(短・中期的なプロモーション)=費用対効果と、ブランディング(中・長期的な)=投資対効果を分け、どう音楽と組むかを考えることが重要かが語られた。

「ブランドと音楽のタイアップは、コンテクストが一致していないものは記憶に残らない。どちらがいいではなくて“タイアップ”と“ブランディング”と2つあるんだということ。目的に応じてどう組むかを、選択し、戦略を描き、戦術として落とすことが大事になる。音楽を活用した短期的な話題化やファン流入のタイアップ型だけではなく、音楽や音を中心としたブランディングは、生き続けるブランドをつくることができるのです。(高野氏)」

最後に、高野氏は「今の時代に最適化された音楽や音の活用ができれば、これまでとは違う可能性と価値を生み出せると思います。SNS、フェス・ライブ協賛、サブスクリプションサービス、環境音など手段は増えて行く中で、大事なのは手法論ではなく、組み方の思考を変えることが重要で、音楽と企業が互いにリスペクトをし、どうフェアに組むことかということ」と語り、音楽や音の活かし方として「さまざまな分野を混合して一つのモノをつくり出す”システム『多領域最適化設計』がポイントになっていくのではないか」と提言し、セミナーは修了した。

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