【DAWN】日本ライブエンターテインメント業界のイノベーター2名によるトークセッション 「ULTRA JAPAN」、「Kawaii」カルチャーの仕掛け人の二人が語る日本のライブエンターテインメントの未来<後編>

インタビュー スペシャルインタビュー

DAWN Live Entertainment Summit 2017」第1部イベント業界を牽引するトップクリエイターによるトークセッション

日本のライブエンターテインメント業界を牽引するトッププレイヤーや有識者、そして業界の未来を担う若きプロデューサーたちが集まり、ライブエンターテインメントの未来について語る「DAWN」。トークセッションの第一部として、ULTRA JAPANクリエティブディレクター小橋 賢児氏とアソビシステム株式会社 代表取締役 中川 悠介氏を招き、日本のライブエンターテインメントの未来について語られた。
 

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【DAWN】日本ライブエンターテインメント業界のイノベーター2名によるトークセッション 「ULTRA JAPAN」、「Kawaii」カルチャーの仕掛け人の二人が語る日本のライブエンターテインメントの未来【前編】

 

 

「自分がどこまで没頭できるか」が鍵

「DAWN Live Entertainment Summit 2017」Session1

塩田:僕も含めて、これから日本のエンタメコンテンツを世界に出していきたいと思っている人たちに向けて、この辺は意識したほうがいいというようなことはありますか?

中川:僕らもまだまだなんですが、感覚でいうと小橋さんの言うとおり「自分がどこまで没頭できるか」というところかなと思っています。そうすれば海外のエンタメとシェイクハンドしてもらえるなって。良いものを「良い」と言ってもらえる感覚は日本より海外の方が僕はありましたね。会社が大きい小さいとかではなくて、“このアーティスト面白いから良い”と言ってもらったところから始まるというか。

今年、中田ヤスタカが「ULTRA JAPAN」のテーマ曲を作らせてもらったんですが、これもレーベルの人が中田の曲を聴いて「良い」って言ってくれたから実現したんです。

塩田:シンプルに良いものを作るということですね。小橋さんはこの辺どう思いますか?

小橋:中川さんが言ったように、自分も「日本発信って何だろう?」と考えるときに、日本の「和」って「調和」の“和”なんじゃないかと考えているんです。まず日本の感覚には「Accept=受け入れる」というのが根底にあって、戦争に日本は負けたけれども、戦後にアメリカの文化が入って来たときに、それに憧れるくらい受け入れたじゃないですか。受け入れたことによって、日本にアメリカ的な色が入ってきて、ヨーロッパの情報とかが入ってきて、それを自分たちなりにどう解釈したらいいか、調和する力・間・融合する力が、世界中どの民族より突出しているんじゃないかなって思うんです。

僕は海外の人とよく仕事をするんですが「東京ってamazing」だと言われるんです。こんなに小さな街の中には、青山の高級ファッションがあって、渋谷のストリートがあって、原宿には“Kawaii”があって、明治神宮があって、みたいな。もっと広げれば秋葉原、浅草がある。「街がスーパーセレクトショップみたいだ」と。普通はぐちゃぐちゃになるのに調和されていて、このバランス感覚、それこそ増田セバスチャンさんもですが、色んなものを見て自分の中で解釈したものをアウトプットする力が、すごいんじゃないかなと思っています。

ただ、今は日本発信のものにこだわり過ぎてきて、逆に世界のものを見なくなってきたようにも感じるんです。ですから、このタイミングで僕はもう1回「ワールドスタンダードって何?」ということを「ULTRA JAPAN」でみんなに感じて欲しかったんです。

塩田:「STAR ISLAND」もそうですが、「花火」という伝統・文化を変えて引っ張って来た感じですよね。

小橋:「STAR ISLAND」を作ろうと思ったときに、世の中には「伝統を守る」というのが溢れていると感じたんですね。もちろんそれも大事なんですが、本質的にただ「伝統を守ればいいのか」という疑問もあったんです。

というのも、伝統になるまでには、例えば、花火を初めて創った人たちはもの凄い熱量でクリエーション、イノベーションして戦って、それを創り上げたわけじゃないですか。その花火を見た人がその熱量を感じ取って、全身の毛穴が開くような特別な体験をしたはずなんですよ。でも、いつの間にか特別だったものが特別じゃなくなって、当たり前のように見られるようになっちゃったことが、本質的ではないなと。

だったら、“本質的”に伝統を守るんだったら、今の時代の才能・テクノロジーと融合して、この時代の人たちも当時の人のように毛穴が開くような体験をすれば、“ファン”になるんじゃないかと。“ファン”になれば過去も含めて掘り下げるし、守ろうという気持ちが生まれるんですよ。そういう心から動く体験をして欲しいんですよね。

 

 越えられなかったものを越えていく

「DAWN Live Entertainment Summit 2017」Session1

 

塩田:中川さんも原宿発信で「Kawaii」文化を創っていますが、今の日本の良さや強みでもっと生かした方がいいと思うことはありますか?

中川:僕はクールジャパンの国の委員会もやっていたんですが、もったいないなと思うのは、会議室と現場との距離感があることなんですよ。

会議室で決まる予算とかが、現場に落ちてこないという初歩的なところで躓いていて、自分も「もしもしにっぽん」とかの会議に結構出ていましたが、超大変なんですよ。そのときに、オールジャパンじゃないですけど、もっとまとまれたらいいなと思っていて。韓国とかヨーロッパでフェスをやるときは、色々なアーティストが混ざって、自動車業界も電化製品業界も協賛してイベントやっているんですよ。そういうのを見て「うらやましいな」と思いました。海外の方が、会議室と現場の距離は近く感じて、柔軟性がある気がします。でも、日本はまだバラバラな気がしていますね。

塩田:「ライブ」といった時点でこれから場所は結構重要になっていくじゃないですか。ただものを創るんじゃなくて、その場所全体が良いコミュニティーになっていくという。

中川:僕は原宿という場所で色々やらせてもらっていますが、この街も商店街にずっと居る人たちとか、神社もあるので、僕たちも街に馴染むために最初はゴミ拾いをしたり、御神輿を担いだりしていきながら、色々な人と付き合っていったんですよ。

塩田:そうやって中に入っていったんですね。

中川:ライブとなると地域の方から「騒音問題」しか出ないじゃないですか。でも、きちんと街の人たちに理解してもらえれば大丈夫なんですよ。

小橋:でも「STAR ISLAND」を開催するまでにも色々ありましたよ(笑)。砂浜は東京都で、海は漁業権があって、古い建物は建設局で空は国交省みたいな。結構ぐるぐる回りながら。皆さん、1つ1つ話していけば解決方法もあるんですが、やっぱり心が折れそうになる瞬間もありました(笑)。

そもそもイベントって、日常の中である日突然、非日常を体験することによって色んな価値に気付いてもらう意味があると思うんですが、今の日本では「過去は出来ていたのに今はできない」「世界ではできたことが日本ではできない」ってことが多いんですよね。

例えば、原宿でいえば「ホコ天」をやっていたじゃないですか。僕も中学生の頃、通い詰めていましたが、色々な音楽を出し放題で、毎週末にパーティーしていましたけど、それが今ではできない。何かがあるとクレームが入って終わってしまう。エンターテイメントをやる上で、世界では街中で色々やっていたりするんですけど、日本では「若くてよく知らないもの」はやりにくいという風潮があります。

それこそ「ULTRA JAPAN」をお台場で開催するとなったら、ものすごく構えられて、そもそも無理だと思われていたんです。「あんな場所でできるわけがない」と。でも、当時FacebookやTwitterで世界のフェスの動画、「Tomorrow Land」や「ULTRA」がシェアされて1億再生とかされていて、若者たちが「こんなイベント行きたい」「羨ましい」と言っている。

かたや日本を見ると「どうせ日本なんかでできるわけない」という空気があって、大人は大人で「昔はバブルとかあって楽しかったけど、今はつまんないよな」みたいになっている。「世界ではできても日本ではできない」「昔はできたけど今はできない」とみんなが未来に対して悲観している気がして、自分の人生も含めて望みがないように感じたんです。

では、もしこの時代に彼らが起き得ないと思っていたものが、東京のド真ん中で起きて、それを体感した人が「もしかしたら自分たちの人生を変えられるかもしれない」「日本が変わるかもしれない」と感じてもらえるじゃないか?という想いが一番のモチベーションだったんです。

塩田:ある種、創るところのストーリーも良いですよね。越えられなかったものを越えてくという、それ自体がメッセージになる。

小橋:まさにおっしゃる通りで、イベントがそれを体感した人たちにとって、気付きの場になればいいなという気持ちが一番にありながらも、自分自身も越えられない山を登ったときに新しい自分に会えることが楽しいんですよね。

中川:小橋さんが「ULTRA JAPAN」をやったことによって変わったこともあって、今日本ではクラブの風営法が変わったり、うちだと去年きゃりーと中田ヤスタカがDJのイベントを平安神宮の境内でやらせてもらったんですが、平安神宮からするとクラブとかDJって説明しても最初は全然理解してもらえなかったんです。でも、日本にフェスが増えて変わってきたということをちゃんと説明して理解してもらうことができて、イベントもやらせてもらって、喜んでいただけたんですね。それで「是非またやりましょう」となったんですが、今までは有り得なかったんですね。

 

 

新しいものと伝統的なものが出会うことで活性化していく

「DAWN Live Entertainment Summit 2017」Session1

塩田:今までは過去、現在の話をしてもらいましたが、2人の中でエンターテイメント産業がこうなって欲しいと思うことはありますか?

小橋:僕は「ULTRA」とかをやっていると「海外のものを日本に持ってきたいの?」とよく聞かれるんですが、そういうことを意識しているわけではなくて、2000年初頭からSNSで世界中の人たちが繋がり始めたときから始まっていることで、もう日本とか世界ではないなと思っているんです。

塩田:「グローバル」というのが古く感じますよね。

小橋:そうなんですよ。当たり前なんですが、エンターテイメントがワールドスタンダードになることが大事なんじゃないかなと思っています。

どうしても日本って、世界の中でも産業としては小さいながらもある程度成り立ってしまうから、外を見てこなかったというのもあるんですが、これからはオリンピックもあって世界中から色々な人たちが日本に来るので、遊びも含めてエンターテイメントがまずワールドスタンダードになるべきだなと思っています。そして、ワールドスタンダードになってから本当の意味で日本のオリジナリティーが出てくると思うんですよ。

今は現場に来なくても「ULTRA」とか全世界中継してシェアできるわけで、それを無償で提供することによって「いつかあそこに行きたい」ってなるんですよ。僕自身はフェスに行って、「イベントだけじゃもったいないからその国を回っていこう」と旅をしてきたわけですが、これからはイベントと観光を繋ぎ合わせられると思うんですよ。その中で自分たちだけが潤えばいいじゃなくて、一度ワールドスタンダードを体験した人たちが次に作る未来は何かな?と楽しみにしています。

塩田:確かに日本では「インバウンド、インバウンド」って言われていますが、東京タワーを観に行くだけじゃなくて、この日この場所この瞬間のために日本に来るというスタンダードまでもっていけるといいですよね。

小橋:本当は外側を向けばできるイベントだったり体験っていっぱいあるんだと思うんですよ。

塩田:まず日本のエンターテイメントの地位を上げて世界から認められれば、優秀な人材も来るし、世界が広がりますしね。

中川:僕も色々変わってきているなと思っていて、例えばSNSとかで色々なことが発信しやすくなっていると思うんですが、雑誌、ファッション誌ってなくならないと思っているんですよ。ファッションは価値だと思っていて。そういうことを新たに見出していきたいです。

日本って業界団体が強すぎて、その中でまとまっちゃっていると思うんですよね。レコード業界だったらレコード会社と流通と販売店の中で商売が成り立っていて。今日のこの3人もそうですし、芸能界もITも、もっと色々な業界がチームを作っていい時代なんじゃないかなとすごく思っています。その結果で新しいことが生まれると思いますしね。

例えば、今この3人のチームで「ライブハウスを作ろう」となったら、今ライブハウスをやっている人たちは、面白くないかもしれないじゃないですか。そうではなくて、活性化することによって既存でやっている方々にも良い影響を与えられるんじゃないかな?と思うんですよね。そういう感じで視野を広くやりたいなと最近は思っています。

塩田:さきほどの例えのように、新しい取り組みをして、新しいライブハウスの形ができて、新しいお客さんを連れてきて、結果全体が盛り上がるという。

小橋:それは絶対あると思います。僕もクラブイベントとか色々やってきましたが、イベンター経験もない人間がいきなり外側から入ってきてこういうフェスをやることによって、最初はイベント業界の人から「なんだよあいつ」って空気は多分あったと思うんです。でも、その業界の中には今までいなかった層の人たちが入ってくることで、新しい体験が生まれ活性化していく未来の方が、本質的には広がっていくんじゃないかなと思うんですよ。

塩田:新しいものと伝統的なものは相反するものではないから、一緒に解決していこうよというスタンスですよね。

中川:壊すんじゃなくて、みんなでちゃんと作り上げていく発想が大事なんじゃないかなと。

塩田:そうですね。色々な業界の人が混ざって仕事するってシンプルに楽しいですし、今までなかったものが生まれるから、それはいいですよね。

 

2021年以降にも残るものを作りたい

塩田:最後になりますが、今後やりたいと思っていることをお聞かせください。

中川:来年アソビシステムが10周年なので、そこを頑張りたいなと思っていますが、JAPAN EXPOや海外のイベンターの人たちと話していると、「2020年で日本が終わっちゃうんじゃないの?」って言われるんですよ。2020年まではスポンサーの話とか、色々な企業も来るけど、2021年からはどうするの? と言われるので、やっぱり僕は2021年以降にも残るものを作りたいです。でも単純に夢だと、テーマパークを作りたいですね。それは街でもいいし、どこでもいいと思うんですが、そんなことやってみたいなと僕は思っています。

小橋:僕も結構同じところを見ているんですが、日本は右にならえで流行り物にずっと向かっていって、それが終わると燃え尽き症候群のようにテンションが落ちちゃうところがあるので、アフターオリンピックって結構心配です。

もちろんイベントという1日2日のある意味奇跡を創ることもずっとやって行きたいんですが、やっぱりちゃんと残っていくものを創って行きたいなと思い、最近は地域の再開発や街作りをやらせていただいています。

いきなり街を作るわけではなくて、お店と周りが触発されてどんどん集まっていって街が変わっていく、そういう気づきのきっかけになるような街のコンセプトを作りたいなと。一人で大きなことを作るんじゃなくて、色々な仲間が集まって気づいたら数十年後ずっと残っていくような、サステナブルに街が変わっていくようなことを、僕らの世代で一回やってもいいんじゃないかなと考えています。

世の中って十分出来上がっちゃっているように見えるんですが、実は修正できるところっていっぱいあって、さきほど僕がお話したお台場でやっている花火も、「お台場ももっと価値を生かせるじゃん」という一つの修正で、一石を投じて「ここってこんなにイケてる場所なんだ」と気づいてもらうことで人が集まってくる。そうやって未来がもっと楽しくなればいいなと思っています。

 

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