音楽業界「ど真ん中」で芽吹いた次世代マネージメント 「ワーナーミュージックエージェンシー」インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:黒岩利之氏、竹本 現氏

ワーナーミュージック・ジャパンが、マネージメント業務を核とする新会社「ワーナーミュージックエージェンシー(以下、WMA)」を2015年3月1日に設立した。2014年、小林氏が代表に就任し、新体制のもと「プロダクト&サービスへの転換」を推し進める中で、WMAは実験的なチャレンジを積極的に行っていくという。設立発表とともにスタートしたオーディションにも予想を超える反響がきているようで、早くも「WMAならではの展開の可能性を感じている」という。従来のレーベルビジネスの枠に縛られないスタイルでチャレンジをはじめたWMAが求める才能や、ビジネススタンスについて、ワーナーミュージック・ジャパン 執行役員/邦楽第2クリエイティブルーム本部長・ワーナーミュージックエージェンシー 取締役 竹本 現氏とワーナーミュージック・ジャパン コンテンツビジネス開発本部長 兼 事業戦略室 黒岩利之氏に話を伺った。(取材/文:Jiro Honda)  

2015年4月14日掲載
  1. 必然的な新組織 「レコード会社」にとらわれず
  2. 組織のカラー タレントと「共に」
  3. 先進アイデア タレントからも学び、共有
  4. ワールドワイド・シェアが前提 外資の強み活かし
  5. リリーススキーム 次の発想へ
  6. 才能との出会い ビジネスの分野も歓迎

 

必然的な新組織 「レコード会社」にとらわれず

——「ワーナーミュージックエージェンシー(以下、WMA)」が設立された経緯というのは?

竹本:我々はレコード会社として業務を行っている訳ですが、その中で、日頃からユーザーや媒体のみなさまから、様々な要望をいただくんですね。例えば、バラエティ要素の強い音楽番組などで「トークが上手い人いない?」とか、「YouTuberのようなネットで面白い人いない?」というようなことを聞かれたり、映像制作の際に出演者の問合せをいただいたり。ユーザーの方からも、「女優になりたいんです」とウチに直接連絡があったりもします。

 それで、そのようなニーズにお応えするためには「事務所としての機能も必要だよね」、ということでWMAの設立に至りました。

——会社機能として必然的に設立された感じなんですね。

竹本:その通りですね。「音楽がキビしいから、事務所を作るんですか?」と時々言われたりしますけど(苦笑)、そういう訳ではないんです。我々にとって、いわゆる「レコード会社」という枠にとらわれない、音楽以外のチャンネルが単純に必要になってきたという流れです。

——このタイミングで設立されたのはどうしてでしょう?

竹本:社内的にも海外の流れにしても、こういうことを展開するタイミングが訪れたということだと思います。

黒岩:あとは昨年経営体制が変わったというのもあります。新体制での、「プロダクト&サービスへの転換」という方針を受けての戦略の一つだと言えますね。

 

組織のカラー タレントと「共に」

「ワーナーミュージックエージェンシー」インタビュー
ワーナーミュージックエージェンシー 竹本現氏

——設立発表とともにオーディションもスタートされていますが、反応はいかがですか?

竹本:最初は半信半疑というか、オーディションだと難しいかもしれないなと思っていたのですが、いざ募集してみると予想以上の反響で驚いています。

——ミュージシャンからモデル、お笑い芸人まで幅広く募集されていますが、どういった方からの応募が多いですか?やはりミュージシャン?

竹本:本格的なアイドルから自分で曲を作るミュージシャンの方など、幅広くご応募いただいていますが、実は声優志望の方がすごく多いんですよ。これも予想外でしたね。あとは、俳優・女優志望の方からの応募も多いですし、全体的に男女比は、ほぼ半々ぐらいです。ただ、今のところ芸人さんの応募はないですね(笑)。

——ワーナーミュージックでお笑いのイメージはこれからかもしれませんね(笑)。

竹本:でも面白いことに、芸人さんが、芸人志望ではなく音楽をやりたいといって僕のことろに直接言って来たりするんですよね。

——世の中の流行を見ても、芸人さんと音楽は相性が良いですよね。でもある意味、今回のWMA設立とオーディションのアナウンスで、ワーナーミュージックの新しいスタンスが改めて世の中に伝わったんじゃないでしょうか。

竹本:そうですね。実は、WMAは、「こういうカラーでいこう」というのは全く決めていないんです。例えば、「付き合った人が好みになる」ということがありますよね。それと同じで、タレントと出会って初めて我々のカラーが出来上がっていくだろうと考えています。なので、このオーディションで掲げている「make a hit!!」とうスローガンにも、大きなヒットをタレントとスタッフが「一緒になって作り上げていこう」という意味合いを込めています。

ワーナーミュージックエージェンシー
▲「make a hit!!」を掲げ、幅広く才能を募集している。

——用意したハコに合う人を扱っていくのではなく、才能を持った人と一緒に作り上げていくと。

黒岩:WMAはプロダクションというよりもエージェントに近いんですよね。才能を持っている人が自分の望む形で世に出れるよう、そのきっかけをたくさん作っていければと考えています。そこにおいては、レコード会社でこれまで培ったノウハウが活きてくると思います。

 

先進アイデア タレントからも学び、共有

「ワーナーミュージックエージェンシー」インタビュー
ワーナーミュージックエージェンシー 黒岩利之氏

——WMAは、ワーナーミュージック内ではどのような立ち位置になりますか?

竹本:ワーナーミュージック・ジャパンの100%子会社となっていまして、WMAは日々の業務から出てくるものをサポートするというコンセプトから始まっていますので、スタッフは現状ワーナーミュージックの人間が兼務してやっています。

黒岩:先ほどの「プロダクト&サービスへの転換」というテーマにおける、「サービス」の部分を担っているイメージですね。兼務ということで、例えば僕はワーナーミュージックではコンテンツビジネス開発本部に所属しているんですが、そこで出会った才能とか、仕事の幅が広がったときに、日常の業務では吸収しきれないものに対して、実験的に取り組んでいく場ですね。

——現在は何名ほどで運営されているんですか?

竹本:約10人です。我々2人を含めた4名を中心に、大きく4つのセクションに分かれて動いています。

——その4つのそれぞれの役割というのは?

黒岩:竹本はタレント・モデル部門で、今回のオーディションもメインで担当しています。僕はライブ制作も含めたイベント部門になります。あとは、パスピエなどのアーティストをマネージメントしているミュージック&クリエイティブ部門と、セールスのコーディネーションをしたり、営業開発を行うスペシャルセールス部門になります。それぞれワーナーミュージックと連動して動いたり、WMAの中でも横の連携をとりながら、柔軟な体制で運営しています。

——事務所も、時代とともにその在り方は日々変化していっていますよね。

竹本:今は例えばYouTuberなどのように自分で稼げる人がでてきましたよね。これまで僕たちにはそういった方法でヒットを創るという発想はなかった。4月から一緒にやっていく「もりすけ」で知られている森 祐介という男の子がいて、Vineで自分を表現しているんですけども、やはりITリテラシーが非常に高い。WEB上で、自身をどう表現すればいいか、きちんと理解している。

 従来だと、タレントが我々の仕組みを使うことが多かったんですけど、現在は、我々もそういう人たちから専門的な知識やアイデアを学んで、それを会社全体で共有しています。なので事務所も、タレントと協力して、お互いで補い合って運営していくといったカタチになっていくでしょうね。

黒岩:表現者は何を求めていて、どうしてほしいのか。一方で、ユーザーが求めているものはなにか。その両方の架け橋にならなければと思います。ユーザーが求めるものも、ただ音楽を聴きたいだけじゃなかったり時代によってどんどん変化しますから、ユーザーの気持ちを斟酌しながらアーティストと一緒にクオリティの高いものを提供していければと思います。

——ファンクラブやマーチャンダイジングも展開していく予定でしょうか?

竹本:それらはタレントが稼働すれば必然的に付随してくるものですから、やっていきます。ファンクラブが機能すると、ダイレクトマーケティングを充実させられるので将来的にも強化していきたい部分ですね。ユーザーが望めば必然的にその比率も高まってくると思います。

 

ワールドワイド・シェアが前提 外資の強み活かし

——今回、新会社の設立にあたって竹本さんと黒岩さんが要職に抜擢されたことについて、ご自身ではどう思われていますか?

竹本:うーん、自分じゃなかなか答えにくいですけど(笑)敢えて言うなら、抜擢というよりも日々意見交換をするなかで、自然な流れで任されることになったという印象ですね。

黒岩:海外も含め今の経営陣には、普段の何気ない会話とかを日常的にリサーチをされていたような気はします。竹本は今の自分のセクションの構想を語っていたら取り上げてもらえたということだと思いますし、僕は僕で得意なことを普通に話していたら、それを活かす機会を作ってもらったのかなと。

ワーナーミュージック・ジャパン、GOMA STUDIO「WANNA GOMA RECORDS」記者会見
▲ワーナーミュージックはアニメ音楽を手がける新レーベル「WANNA GOMA RECORDS」も立ち上げた

——海外に本体があるワーナーミュージックということで、日本以外での展開も視野にありますか?海外のネットワークも御社の強みですよね。

竹本:グローバルネットワークが既にあるというのは、やはりすごいアドバンテージだと思います。数回のプレゼンテーションで各国のワーナーミュージックのヘッドとプランを共有することができるので、スピード感のある展開を目指します。

黒岩:僕的には、「アニメ」が一つのテーマとなっていまして、それこそ声優志望の応募も沢山きていますし、WMAならではの展開の可能性を感じています。アニメは日本文化を輸出する上でクールジャパンの象徴なので、アニメのプロダクツと積極的に絡めていくことで、おのずとワールドワイドなシェアに持っていくことができると思います。なので海外に対しては、まずそういった方法の「癖」を付けるというか、ワールドワイドなシェアありきのコンセプトからスタートしていきたいと思っています。

竹本:あと新しいヒットって、そのときの旬なメディアから生まれてきたと思うんですね。最近の新しいアプリや新しい音楽ジャンル、先進的なテクノロジーからは時代の胎動を感じますし、我々自身もその新しい流れに良い意味で巻き込まれながら取り組んでいる感じがあります。

 

リリーススキーム 次の発想へ

——今後目指すところは?

竹本:将来的にはWMAがワーナーミュージックの音楽の部分と売上を競うぐらいになりたいですね。

黒岩:今は意識的に、レコードビジネスとそれ以外のビジネスを分けるために会社を2つにしていますが、業務の幅が倍になっているわけではありません。なので、まずは現状兼務する中で、これまで取り込めなかったものを積極的に取り込んで、少しずつビジネスの幅を広げていきます。その流れを定着させて、WMAがワーナーミュージック全体で活用されるようにしていきたいですね。

竹本:WMAってすごくフラットな組織になっているんですよ。みんながアイデアを自由に言えるし、僕自身部下からダメ出しをされることもあったり(笑)。

——そういう環境だと、きっと今までなかった発想や化学反応が出てきますよね。

竹本:今までのレコード会社は、モノを作っているようで意外とルーティンなところもありましたからね。「先輩がこうやっていたらからこうなんだろう」と思い込んでやっているような部分が、ともすると「時代に合わない」といった雰囲気をつくり出していたのかもしれませんし。

——「フォーマット」としてのシングルやアルバムの存在意義を問うようなリリースの試みも、各所で見かけるようになりました。

竹本:もはやシングル2枚出してアルバムで稼ごう、という考え方が成り立たなくなっていますからね。

黒岩:今まではアーティストオリエンテッドに、シングルをここにおいて、じゃあアルバムはここで出して、その後ライブはここに入れてみたいな時系列で組み立てていく発想だったんですけど、もっと自由な発想で、柔軟に適切な方法を考えていく時代が来ているのは明らかだと思います。

 ただ、もちろん従来通りのやり方を続けて、それを大きくすることがマーケット的にも適切なアーティストもたくさんいるので、それは本体の業務としてしっかり継続して、WMAでは応用的な位置づけで活性化していけば、両軸で力強く成長していけるのではないかと思います。

 

才能との出会い ビジネスの分野も歓迎

——音楽業界の中、特にメジャーレーベルの「ど真ん中」から、こういう新しい動きがどんどん起きているということを、ぜひみなさんにも知ってもらいたいです。

竹本:「音楽業界でこんなことをやってみたい」というような提案を僕らに送ってもらって、一緒に新しいビジネスにするようなこともできたら面白いなと思っています。普段、業界とは関係ない方も音楽に関して色んなアイデアを考えていると思うんですよね。そういう違った角度からの発想も活きるような場でありたいなと思っているので、そういう意味では、レコード会社以外の人にも積極的にブレーンとして入ってもらって、新規ビジネスを追求していくのは大いにありですね。

 僕らはどれだけの才能に出会えるかが勝負なんです。ジャンルに関わらず、常に門戸は広く解放して新しい才能との出会いをワクワクして待っています。オーディションの応募もお待ちしていますし、新しいビジネスアイデアのある方にも、ぜひコンタクトしていただきたいです。

「ワーナーミュージックエージェンシー」インタビュー

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