スマホ電子チケットサービス特集 イベント管理サービス「Peatix」マーケティングマネージャー 庄司 望氏 インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

庄司 望氏
庄司 望氏

ライブやイベントが活況を呈していると言われて久しい。CDなど音楽ソフトの売上は伸び悩む中、ライブの公演数は年々増え、音楽フェスの定着と共に、拡大を続けている。その一方、チケット価格の高騰や、人気アーティストのチケット争奪戦の加熱ぶり、そしてオークションサイトなどによる不法なチケット転売など、様々な問題も指摘されている。

同時にサイトやスマートフォンを使い、電子チケットサービスを展開する企業も増え、メジャーアーティストのツアーやインディーズアーティストのライブ、また音楽に限らず街コンやセミナーのような小規模なイベントに至るまで、さまざまなシチュエーションで電子チケットやイベント管理ツールが活用される機会も増えてきた。

今回はそんな新しい電子チケットサービスを提供する企業にクローズアップ、イベント管理サービス「Peatix」マーケティングマネージャー 庄司 望氏に話を伺った。(編集部)

peatix

 

——Peatixはどのような経緯でできた会社なのでしょうか?

庄司:Peatixは元々ソニー・ミュージックエンタテインメントにいた原田 卓を中心に作られた会社なんです。原田はAmazonの日本の音楽ストアやアップルジャパンでiTunes Music Storeの日本上陸を担当してまして、ITを使って音楽や文化的な活動をしている人々を支援するということをずっとやってきました。

それで原田がある時、アメリカではCDが売れないけど、ライブで稼ぐ人が出てきたという話を聞いたんですね。ただ、それはメジャーアーティストの話であって、インディーズやアマチュアはなかなか難しいと。ですから、そこを助けるようなサービスを作ろうと立ち上げたのがPeatixです。

インディーズやアマチュアの人たちでも、イベント規模が30人でも50人でも、確実にライブでマネタイズができるように手助けする。それはITの力でコストダウンして、ソーシャルメディアと連携するなどの付加価値を付けよう、という発想です。

2011年3月にサービスを起ち上げて約2年半で、すでに1万2,000以上のイベントで使われました。音楽だけでなく、セミナーやワークショップ、インディーズ映画、あと女子会とか(笑)、本当にジャンルは多岐に渡ります。

——Peatixは海外法人なんですよね。

庄司:アメリカのニューヨークに本社があり、東京に日本法人があります。元々は日本の会社で、現在でも日本法人が一番大きいですが、投資などの関係で2年程前にアメリカ法人を作り、海外法人になっています。

元々、原田は幼少の頃からずっとアメリカにいたので、半分アメリカ人みたいな感じなんですよね(笑)。また、メンバーも留学経験者や外資系企業出身者が多かったこともあり、日本だけに閉じこもる理由はありませんでした。

——Peatixのサービスの流れはどのようになっているんですか?

庄司:大まかに説明すると、まずPeatixのサイトでイベントの告知・チケット販売ページを作っていただきます。そのページをソーシャルメディアで拡散したり、オフィシャルサイトに貼ったりして、集客をしていただくという流れです。PCかスマホさえあれば、事前登録も審査もなく、簡単に前売りチケットを販売できるので、ある種、誰でも使える決済サービスとも言えます。

また、最近はスマホアプリに力を入れていて、「イベントタイムライン」では写真やコメントをイベント参加者同士で共有し、コミュニケーションを取ることができます。また、イベントに参加した人だけに一斉メールを送ったり、個別にメッセージのやり取りができたりします。例えば、ライブに来た人にだけ音源を配信したり、次のイベントのディスカウントをしたり、当日グッズを買えなかった人にグッズを売ったりもできます。そういうことは、今までは大掛かりになりがちで、お金を掛けてシステム構築したりしないとなかなかできなかったと思うんですが、それがPeatixを使えば誰でも簡単にできてしまいます。

——Peatixのようなサービスは他にも出てきていますが、Peatixの特徴は何だとお考えですか?

庄司:まずは「使いやすさ」です。PCやネットが苦手な人でも、画面の指示に従うだけで簡単に使いこなすことができます。

次に「手数料」です。Peatixはネットでチケットを販売する他の会社さんと比べても、おそらく半額くらいの手数料でチケット販売ができるようになっています。これはイベントの数が急激に増えたこともあり、コストが下がりこの価格設定にすることができましたこともあるのですが、イベントの主催者や参加者からのお金でビジネスをするというよりは、イベントに協賛をしたい企業やお店、スポンサーしたい人とのマッチングをビジネスにしているからなんですね。

最後は「手厚いユーザーサポート」です。今、日本法人は20人くらいですが、そのうち8名はユーザーサポートです。

——スタッフの約半分がユーザーサポートだと。

庄司:ええ。チームとして一番大きいです。Peatixの使い方に始まり、主催者がイベントの日時を間違えてしまったり、チケット料金を間違えてしまったり、そういうトラブルに電話とメールで対応して、どんなに小さいイベントでもつつがなく行われるようにサポートしています。機能の紹介もそうですが、「安心して使える」というのも私たちが特にお伝えしたいことのひとつです。

——こういったネットのサービスって、サポートが結構ドライな印象があったりもしますが。

庄司:最近フリーダイヤルも取って、その番号をトップページにのせていますので、困ったらいつでもご相談下さい、と(笑)。

あと、残りの6名くらいのチームが各イベント主催者と打ち合わせをしてPeatixの使い方をレクチャーしたり、イベントの現場で一番大変な受付のサポートに行くこともあります。

——ちなみに受付のコツって何かあったりしますか?

庄司:まずは適正な人数ですね。来場者100人でしたら最低3人くらい受付の人が必要です。また、チケットを忘れた人とか、申し込んだつもりだったのに申し込めていない人とか、そういったイレギュラーな事態に対応する人を必ず用意します。

イベントが初めての方は慌ててしまうので、そこは私たちが話を聞いたり、便利な使い方をレクチャーしたりと、とにかく毎日色んなイベントへ実際に行っているんですよ(笑)。それはすごく手間がかかりますが、実は新機能や、改善点を発見する大切な機会です。「必ずみんなここでつまずくから、このボタンを消そう」とか、そういった改良を2年間、日々行ってきました。

——Peatixがターゲットとしているイベントの領域はどのあたりなんでしょうか?

庄司:私たちは今あるチケット業界のシェアを奪いにいくというよりも、今までイベントができなかった人たちや、事前決済でチケット販売をすることができなかった人たちに新しく使ってほしいと思っています。

——実は、競合と市場を争ったり、今までの古い常識を壊すみたいな意識でやられているのかなと思っていたんですが、そうではないんですね。

庄司:そうではありません。私たちは、競合の方と同じ市場を争うことを目的にビジネスをしている訳ではなく、根幹にある基本テーマは「大企業ではなく中小企業や個人のempowerment」です。もちろん規模の大きいイベントの依頼があれば喜んでお手伝いさせていただきます。

——大規模なイベントからの問い合わせもありますか?

庄司:実際に日本国内ですと数万人規模の音楽フェスにご利用いただいたり、海外でも大型の音楽フェスでの利用実績があります。

また、最近多いお問い合わせが、日本のバンドの国内ライブを海外のファン向けに売りたいという話ですね。特にビジュアル系のライブって中国本土や香港、台湾等の中国文化圏の女の子が観に来ることが多いらしいんですが、日本のプレイガイドではチケットが買えず、海外発送も対応していないそうなんですね。それで、本当に観たい子たちは中間業者に頼むらしいんですが、だったらPeatixで、とお話を頂きます。

我々は英語で対応できますし、正式にサポートしている訳ではないですが、シンガポールには中国語が話せるスタッフもいます。クレジットカードさえあれば、世界中どこでも決済できますから、海外向けの発券を希望する方からの引き合いも多く、日本のライブを海外に売るとか、日本のアーティストが海外に行くときのサポートもできますので、そういったことを希望される方にもぜひ利用してもらいたいですね。

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Peatix トップページ

——海外の拠点をアメリカとシンガポール以外に増やす予定はありますか?

庄司:次がどこっていうところまでは決まっていないんですが、大都市はだいたい同じモデルで展開できると思うので、大きな都市へ行きたいとは思っています。東南アジアは特にシンガポールを中心として、香港、ジャカルタやバンコク、クアラルンプールでの展開も考えています。すでに、香港、タイ、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドでは現地通貨でのチケット販売に対応しています。

——各国のチケット産業においては市場の違い等あると思うんですが、デジタルだとその辺りはあまり関係なく参入できますか?

庄司:基本的にはグローバルで通用するものをということで開発しているんですが、例えば不正チケットに対する感覚は各国で全然違うんですね。海外に比べ日本では不正チケットが作られるケースがかなり少ないです。

——不正チケットが少ないからこそ、その対策も海外に比べると甘いかもしれない?

庄司:日本は不正チケットが入りやすいというか、セキュリティ的にまだ甘いですね。中国とかインドネシアなんかは、正規のチケットを印刷している工場にお金を払って偽造チケットを作らせてしまうから、受付で本物かどうか区別できないんですよね。紙から本物のチケットだから(笑)。

——セキュリティも厳しくせざるを得ないと。

庄司:だから人気のイベントとかはすごく大変らしいです。アメリカだと必ずバーコードスキャンをして、チケットの確認をしています。確認しないイベントだと、チケット売上が300枚なのに会場には500人いる、ということがよく起きていますし。

あと例えば、数万円のフェスとかスポーツイベントのチケットを100枚とか偽造してさばいたら、ひとりの年収分くらい稼げてしまうので、犯罪するモチベーションがすごく高いらしいんです。だからセキュリティの要件というのは(海外では)すごく厳しいです。デジタルになっても、単にチケットを模しただけとかでは全然通用しないですね。

——なるほど。今後、Peatixで新しい取り組みなどは予定されていますか?

庄司:年明け頃には入場管理の全く新しい仕組みを発表する予定です。そもそも「チケット」というのは「紙」がありきのものです。Peatixでは、入場管理が早く、簡単に、かつ安全に行える仕組みを開発しています。皆さんに紹介するのを楽しみにしています。

また、「Peatixイベントアド」と言って、イベントの広告主を僕たちが探してくる仕組みをすでに立ち上げていまして、数人のイベントでも数千円が集まり、決済手数料を払うよりも、広告収入の方が多くなるようなサービスを始めています。

——それは具体的には?

庄司:ブログによくアドセンスみたいな広告を貼れるじゃないですか? それに近いイメージで、例えば、音楽のイベントだったら音楽に興味がある人がたくさん来ますよね。その人たちにバナーを出せたり、メールが送れたり、クーポンを配れる仕組みをすでに作っています。また、実際にイベントに来る人って100人とか200人でもイベントページを見る人はその数十倍いたりします。確実にその領域に興味のある人たちに広告を出せるということで、すごく引き合いがあるんです。

今までは集客が300人くらいのインディーズバンドって協賛を集めることがすごく難しかったんですよ。営業に行かなくてはいけないし、終わったあとに報告書を出すみたいなことって、普通のミュージシャンはやらないですよね。それを僕たちが全部やって、例えば、1万円でも2万円でも広告を出して、彼らにバックしてあげると手数料を払うどころか、僕たちを使ってライブをやるとお金になるんですね。今、そういう仕組みやマーケットを作っているところで、そうなるともう少しイベントをする主催者の人のビジネスの役に立てるかなと思っています。

——今後は大きなイベントもどんどん増えていきそうですね。

庄司:もちろん大きなイベントをやるのも大切ですが、40〜100人規模のイベントの取り扱いが一番多いですし、そういったイベントをしっかり応援していきたいという気持ちもあります。ですから、どちらが大事ということは言えないですし、区別はできないです。

——イベントに貴賤なしと。

庄司:そうですね(笑)。そういう人たちが将来的に東京ドームでやったりするかもしれないわけですから、そこをやることに社会的な意味があるかなと我々は思っています。

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