J-WAVE プロデューサー 持田騎一郎氏 インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

持田騎一郎氏
持田騎一郎氏

 人気のラーメン屋さんに入ると、なぜかBGMにジャズがかかっている・・・普段は見落としがちなお店のBGMに着目し、積極的にBGMを利用する方法を解説した新書がソニーマガジンズ新書の第一弾として発刊された。タイトルは『儲かる音楽 損する音楽〜人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ?〜』。このとても興味深い新書の著者である株式会社J-WAVE 編成局 制作部副部長 持田騎一郎氏に執筆に至る経緯や、チョイス次第では何倍もの効力を発揮するBGMの力についてお話を伺いました。

 

持田騎一郎 Kiichiro Mochida


1962年8月1日、東京生まれ。
ラジオ・プロデューサー、音楽プロデューサー、DJ、BGMコンサルタント。
一橋大学卒業後、日本IBMで大型コンピューターの営業マンとして勤務。1990年、トップセールスとして表彰される。
AMラジオ局「ニッポン放送」の制作ディレクター、インターネット放送局「ステーション・ガイヤ」編成局長などを経て、現在、FMラジオ局「J-WAVE」にて、番組&イベントをプロデュース。
 飲食店舗とのかかわりを持つ中で、店内BGMに悩むオーナーの多いことを知り、2006年からBGMコンサルタントとして活動。趣味は狂言。

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——ウェブサイトへのリンクはこちらへ
 http://www.futurechoice.jp/

——本のウェブは
 http://www.sonymagazines.jp/book/detail.php?goods=013253

▼J-WAVE
 → http://www.j-wave.co.jp/
▼ソニー・マガジンズ
 → http://www.sonymagazines.jp/

[2008年2月28日 エフ・ビー・コミュニケーションズ株式会社にて]

——この本の執筆のきっかけは何だったんですか?

持田:友人の出版プロデューサー 末木佐知さんとの飲み話で、「最近、ラーメン屋さんではよくジャズがかかっている」と僕なりに分析をして話し始めたら非常に面白いと言われまして、その後、今までの音楽ビジネスの本というのは音楽そのものに関する本ばかりで、音楽をBGMという形で利用して別のビジネスを成功させていくという考え方の本はあまりないので書いてみないかとお話をいただいたんです。

——やはりこの本のサブタイトル「人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ?」という部分が気になるんですが。

持田:何でラーメン屋でジャスがかかっているのかというと、本では答えをちりばめているんですが、おそらく最近のラーメン屋さんがインテリアとかに注目した「おしゃれなラーメン屋さん」が増えてきたということと関係があると思うんです。結局「おしゃれなラーメン屋さん」を作るとなるとインテリアデザイナーが当然入ります。そうすると施工の段階で「天井にスピーカーを埋め込みますか?」という話になるんですね。それでスピーカーを付けてその先には有線を繋げるケースが多いと思うんですが、どのチャネルをかけるかとなったときに、消去法的にジャズになってしまっているんだと思うんですね。たまにビートルズや70’sといったチャネルになっているんですが、たいていジャズです。

——そもそも持田さんがお店でかかるBGMに関して意識するようになったきっかけは何だったのですか?

持田:5年前に友人が恵比寿に「NOSTALGIE」というバーを始めるにあたって選曲を依頼されたんですね。結果、その選曲の評判がよかったようで、お客さんの滞在時間が延び、リピーター率が増えたことによって、売上高が上がったのを目の当たりにしたのが大きかったと思います。その後、BGM的にいいお店を求めて、あちこち足を運んだり話を聞いたりするようになりました。それと僕の中で大きかったのがステファン・ポンポニャックとの出会いです。パリのヴァンドーム広場に「オテル・コスト」というすごくおしゃれなホテルがあるんですが、そこのBGMを選曲しているのがステファン・ポンポニャックで、彼はBGMの新しい流れを提案したんですね。

——ステファン・ポンポニャックはJ-WAVEでも番組をもってましたよね。

持田:そうですね。彼が作った『オテル・コスト』というコンピレーションCDが本当に素晴らしい選曲で、聴いて気にいったので、2年くらいかけて口説いて、それで選曲のコーナーを持ってもらったんです。ちょっと本から離れるんですが、ステファン・ポンポニャックと現在J-WAVEで選曲のコーナーを持っているイギリスのジャイルス・ピーターソンは選曲に対する考え方が全然違うんですね。ジャイルスはラジオでかけるための音楽とかクラブでお客さんを踊らせるための音楽という考え方で選曲をしているんです。その一方、ステファン・ポンポニャックはレストランやラウンジといったスペースでお客さんが会話をしているときに、そのバックで流れるのにはどういう音楽が良いか、空間演出として選曲しているので、選曲の仕方が全く違うんです。彼はあくまでも料理が美味しくなって、会話が弾むにはどうしたらいいかという考え方を常にしていて、それが新しかったんです。

 僕はBGMって中途半端な音楽だと思っているんですね。例えば、ライブとかをやるときに返しのモニターを置くじゃないですか。そのときに自分自身の声はハウリングしないように抜いてあるので「マイナス1」とか言うんですけど、結局お店でもしゃべりを邪魔しないためのBGMは、自己主張しない「マイナス1」くらいの音楽でいいと思うんです。だからボーカル入りよりはないほうがいいし、ボサノヴァみたいに薄く歌っている方が良いし、自己主張していない音楽がいいと思うんです。

——なるほど。お店や料理を引き立てるという意味では、CM音楽とも近い気がしますね。

持田:CM音楽は大体30秒くらいと短いですが、お店のBGMはどちらかというと映画のサウンドトラックに近いと思うんです。ある程度の長さで、店員の人が毎日聴いても飽きない気遣いも必要なので、そうするとある程度の曲数がないと駄目ですし、その中で流れも必要になってきます。

——日本でもBGMも含めていい空間演出をしている店は増えつつありますか?

持田:橋本徹さんの「カフェ・アプレミディ」など素晴らしいお店もありますが、ほとんどの店が有線を流すか、有り物のCDをかけているような状況ですね。

——ちなみに外国のレストランでは何がかかっているんですか?

持田:それはケースバイケースですね。フランスではステファン・ポンポニャックの登場以降、ラウンジ・ミュージックや「フーディング・ミュージック」という食事をしながら聴く音楽を流す店が増えました。アメリカはそれぞれのお店のオーナーが好きな音楽をかけていますね。例えば、ヒスパニックのオーナーはヒスパニックの音楽をかけて、ヒスパニックの料理を出すといったようにベクトルが一緒ですから違和感があまりないんです。でも、日本は多国籍な料理が食べられるがゆえにベクトルがバラバラな感じがします。ハワイアンのお店でハワイアンがかかっていれば違和感がないんですが、そこでJポップやロックがかかっているとやはり不思議に思うじゃないですか。  やはりBGMというのは「暗黙の集団合意」がないと納得されないです。「ウエディング・マーチ」がかかれば結婚式だと思いますし、「葬送行進曲」がかかればお葬式だと思いますよね。そういったすり込まれた原体験があって、音楽によってイメージされちゃうものってものすごくあります。逆に言うとイメージさせることによって料理やお店に対するオーナーの自己主張を出すチャンスがあるのに、使わない手はないと思うんですよね。

——個人的な意見ですが、一番音楽が気になってしまうのは美容院ですね。おしゃれのためにお客さんは来るわけですから、音楽のセンスが悪いとちょっと・・・。一流のお店は音楽にも気を遣っているように感じます。

持田:この間、有線の方にお会いしたときにも言ったんですが、今は音楽のジャンルで選曲してますが、そうではなくて業務形態のジャンルで選曲チャネルを作ったらどうかと思うんです。例えば、「カフェ・アプレミディ」のチャネルができましたが、「カフェ」というチャネルとか、「バー」や「ラーメン屋」といった業態に向けたチャネルとか、先ほど話に出た「美容院」とかね。有線って利用者のほとんどが業務用のために入れている割に、業態に合わせたチャネル設定になっていないのがそもそもナンセンスだと思うんですよ。

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——例えば、今後、持田さん選曲のコンピレーションを出す予定などはあるんですか?

持田:そういうご提案を頂ければと思っていますけどね。この間、レコード会社の人と「ラーメン ジャズ」と銘打って、固有の店舗ごとに発売したら面白いんじゃないか、なんて冗談半分で話していたんですが、ただ「ラーメン屋さんでかかるジャズを選びました」では、皆さんの思っているラーメン屋さんのイメージが多岐に及んでいますから、リアリティがないと思うんです。「オテル・コスト」も「カフェ・アプレミディ」も実際の店舗があるがゆえに説得力がものすごくあるんですね。だから「ラーメンジャズ」というコンピレーションを作ったとしても、どこかモデル店舗を選んで、その店舗を想定して選曲しないととてもじゃないけど選曲できないと思いますね。

——この本でもっとも読者に伝えたいことは何ですか?

持田:インテリアや照明、観葉植物、絵画に何十万円もお金を払うんだったら、オーディオ機器とCDなんてそう高くはないんですから、もう少し音楽に気を遣ったらということです。例えば、電球が切れたら電球を交換する、あるいはお花が枯れたらお花を替えるのと同じように最初からオーディオ機器とCDというのは設備機器なんだと考えて、電球と同じ感覚でCDを買えばいいのに、設備ではなくオプション投資という考え方をしてしまっているので、コストカットをするときに一番最初に音楽が切られてしまうんです。マンションなんかも同じです。共有部分で有線を流していたとしても、経費節減で切られてしまう。植え込みの木はあってもなくても生活には特に支障がないですけど、植木屋さんを入れて手入れをするじゃないですか。だけど有線(音楽)はなぜ最初に切るんですかということです。

——あまりにも音楽に対して無神経というか、扱いが雑すぎると。

持田:逆に言うと、音楽が必需品なんだと考えればいいんです。照明、インテリア、観葉植物と音楽は基本的に同じなんだと。「あったってなくたって死なないでしょう?」という議論になったら、みんないらないんですから(笑)。ぶっちゃけて言っちゃうと、ラジオとかテレビもなくたって死なないです。でも、そういったものを面白がることは文化のために重要な要素ですし、音楽を伝えるためにはラジオが必要ですし、新しいエンターテイメントを伝えるためにはテレビも必要だと思います。

——持田さんはJ-WAVEのプロデューサーとしてご活躍ですが、この本に書かれたような考え方はラジオプログラムを作る上で生きていますか?

持田:逆にJ-WAVEのラジオはそういう風にできていたので、それゆえに僕に合っていたんですね。AMのラジオ番組はどちらかというと出ているタレントやミュージシャンありきのコンテンツ勝負になっているんですが、J-WAVEの場合は「この時間帯にはこのグルーヴでこんな話題を提供して・・・」みたいに空間演出のような番組作りをするので、BGMの考え方に近いです。ただ、レストランはどんなに長くても2〜3時間しかお客さんはいませんから出て行けばそれで終わりますが、ラジオはほぼ毎日聴いていますから、飽きさせないという演出が必要なんですよね。そういう意味で言うとBGMとも微妙に違うかもしれません。

 あと、J-WAVEが他のFM局と較べて違うと思うのは、しゃべりの後ろにかけているBGMの選び方のセンスが圧倒的にいいと思います。J-WAVEも含めてどのラジオ局もそうですが、オンエアーする曲そのものの選曲に関しては色々言う割に、しゃべりの後ろでかけているBGMに関しては意外と無頓着なんです。ただ、J-WAVEの場合はディレクターの中にも音楽好きな人が多いので、必然的におしゃれな選曲になっているとも言えますね。

——最後に「BGMコンサルタント」として今後の展望をお聞かせ下さい。

持田:店舗のBGMでお悩みの方は是非相談して欲しいですし、あと、できることならせっかくJ-WAVEにいるので、J-WAVEという会社として店舗のBGMを引き受けるみたいな形ができたらいいなと思っています。

——これからはお店のBGMにより一層耳をすませてみたいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。

-2008.3.11 掲載

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