(株)ミキサーズ・ラボ レコーディングエンジニア 内沼 映二 氏スペシャル・インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

内沼 映二 氏
内沼 映二 氏

 前回、このSPECIAL REPORTにてDVD-Audio 5.1chサラウンドチェック・ディスク「CHECKING DVD BY MUSIC」の紹介をして頂いた、レコーディングエンジニア内沼映二氏が、1年半ぶりに自社レーベル第二弾として、ビッグバンドの名曲10曲を最新のレコーディング技術によって新録した『BIG BAND STAGE〜甦るビッグバンドサウンド〜』を5.1chサラウンドと2chを収録したDVD-Audioと、その感動を手軽に楽しめるCDとの2枚組で 4/26にリリースした。配信による音楽ビジネスが急速に展開する中、高音質なDVD-Audioを世に送り出す内沼氏の意気込みを語っていただきました。

[2006年5月22日/(株)ミキサーズ・ラボ WESTSIDEにて]

プロフィール
内沼 映二(うちぬま えいじ)
株式会社ミキサーズ・ラボ 代表取締役社長/レコーディングエンジニア


テイチク、ビクター、RVCを経て1979年レコーディングエンジニアの集団、(株)ミキサーズ・ラボを設立。
1997年 第一回日本プロ音楽録音賞『新日本紀行 冨田勲の音楽』から「新平家物語」で優秀賞を受賞。
2001年 第八回日本プロ音楽録音賞『ベイビーフィリックステーマソング集』(テーマソング:Vo.大貫妙子)でパッケージメディア・ポップスロック部門にて優秀賞を受賞。
2003年 第十回日本プロ音楽録音賞『Stardust Revue/LOVESONGS』から「追憶」でニューパッケージメディア部門(DVD-Audio作品)で最優秀賞を受賞。
2005年 音の日記念 第10回「音の匠」顕彰。
【主な作品(順不同)】
 [CDパッケージ]角松敏生、冨田勲、前川清、SPEED、石川さゆり、ANRI、福山雅治 他多数。
 [サウンドトラック]踊る大捜査線 MOVIE 1・MOVIE 2、Returner、ジャングル大帝、ドラえもん 他。

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——ミキサーズ・ラボ・レーベル第二弾となる「BIG BAND STAGE」の制作意図を聞かせて下さい。

内沼:昨年の夏を境にiPodが爆発的に普及したことで、世の中の動きとしては、レコード会社、オーディオのハードメーカーがそれまで育ててきたDVD-AudioやSACDの次世代フォーマットの展開が失速してしまった感があります。そんな状況下ですが、我々音楽録音を仕事としている者にとっては、配信される圧縮音源を携帯オーディオで手軽に楽しむことと並行して、高音質なソースを世に送り出していく役割も担うべきだと思っています。

レーベル第一弾は、我々の仕事の現場でも使える5.1chサラウンド環境を整えるオーディオチェック・ディスクでしたが、今回は純粋な音楽ソフトとして、DVD-Audioのハイスペックを活かせる音源ということで、ビッグバンドをチョイスした訳です。内容は、私自身もアナログ盤時代に聴き倒した誰もが聴いたことのあるジャズのスタンダードな名曲を選曲し、当時のイメージを保ちながら、5.1chサラウンドと2chの新鮮なサウンドに仕上げました。

演奏は、主旨に賛同して頂いてた角田健一ビッグバンドと、ゲストプレーヤーにMALTAさんを迎えることが出来ました。角健バンドが長年煮詰めてきた演奏は、原曲のイメージの中に新しいエッセンスも加わっていて聴き応えがあります。それからビッグバンド人口が高校生を中心に、若い世代にも波及していることもあって、選曲的にビッグバンド入門編と成り得るこのアルバムを多くの方に聴いて頂くため、CDも付けて2枚組としました。

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——レコーディングはどのように進行したのですか?

内沼: MALTAさんも入れて18名のバンドが収容可能なビクタースタジオ301stにて全て同録です。ドラム、ベース、ピアノ、ギターのリズム隊は各ブースに分けましたが、トランペット、トロンボーン、サックスは同じフロアで演奏していて圧巻でした。収録には当初アナログマルチも検討したのですが、結局192kHz/24bitのハイスペックにてProToolsを使用しました。ただマイクは、ビンテージとなったノイマンM49を中心に、マイクアンプもオールドニーブを使って、新旧の機材を織り交ぜて今のベストを目指しました。ミックスはホームグラウンドのウエストサイドスタジオにて、5.1chサラウンドと2chステレオを交互に1曲ずつ仕上げていきました。

通常DVD-Audioでは、5.1chサラウンドのみを収録するのがスタンダードとなっていますが、今回はそれにプラスして、192k/24bitの最高音質2chステレオも収録して、CDとの聴き比べが出来るという、ハイエンド・オーディオファンにとっては興味深い試みを盛り込みました。やはりビッグバンドという生楽器の響きを表現するには、DVD-Audioのスペックがいかに効果的か思い知らされます。シンセを多用するポップスをCDで気軽に楽しむのとは別に、ソースによってはDVD-Audioをはじめとするハイクォリティー・デジタルで自然な響きを残していくのは意味のある事ではないでしょうか。特にエルダー層の方は、アナログ盤を体験されているので、より興味を持っていただけると思います。

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——とは言え、自宅に5.1chサラウンドの再生装置を所有されている方はまだ少ないですよね。

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内沼: 確かにそうですね。私自身もDVD-Videoにて映画を楽しむサラウンドセットは所有していますが、厳密にDVD-Audioを聴く環境は自宅にはないです。ただ、ホームシアターのサラウンド環境でも今回の作品は、充分楽しめるので、是非聴いてもらいたいですね。制作している側もそれを踏まえ、基本的にフロントスピーカーを重視したミックスを心掛けています。またカーオーディオでは、積極的にその空間を活かしたサラウンド再生システムとDVD-Audio、SACDのマルチプレーヤーを搭載する傾向があるので、今後もっと身近になるのではないでしょうか。

——最近、DVD-Audioも種類が増えてきましたよね。

内沼: そうですね。この3月にリリースされたドナルド・フェイゲンのニューアルバムの輸入盤仕様はCDと5.1chサラウンドのDVD-Audioの2枚組なんですよ。彼は、スティーリー・ダンの頃から我々にとってリファレンスとなる高音質な作品を生み出してますからね。

——確かにそうですね。ところで、このドナルド・フェイゲンのアルバムのエンジニアはどなたですか?

内沼: 昨年「第10回 音の匠」に表彰された米国のエリオット・シャイナー氏です。

※日本オーディオ協会が、1996年より12月6日の「音の日」にちなみ、音を通じて文化や生活に貢献した方を「音の匠」として顕彰している。

——そういえば、内沼さんも同時に「音の匠」に選ばれたとの事ですね。おめでとうございます。

内沼: ありがとうございます。昨年はハード、ソフト両面からサラウンドに取り組んできた方が焦点となって、私も微力ながら積み重ねてきた事が実を結びました。DVD-Audioの存在によって可能となったサラウンド音源のパッケージですが、デジタル放送開始目前にして、その可能性を追求していくと共に、ステレオ音源においてもデジタル・ポータブル・プレーヤー全盛のこの時代に、音楽を楽しむ中の一部により良い音を求めたくなるような良い音楽、良い演奏を後世に残していく事を絶やさず、発信していきたいと思っています。

——最後に、この「BIG BAND STAGE」を誰に一番聴いて欲しいですか?

内沼: 第一弾と同様、オーディオが好きな方にはもちろん聴いてもらいたいですね。しかし、今回制作してみて、1930年から1940年当時全盛だったビッグバンドジャズのスタンダード曲のメロディーやアレンジの素晴らしさが再認識出来たので、楽器を持ち始めた中高生にもおすすめします。最近、テレビCMにビッグバンドの音源が数多く登場してますし、そんなことから興味を持ってもらって、全ての音楽ファンに聴いてもらいたいですね。

——本日はいろいろなお話ありがとうございました。(M)

レコード会社のビジネスとしても、パッケージに変わって配信が台頭して来た時期、このDVD-Audio作品は、インディーズレーベルであるが故に制作可能な形態なのではないかと実感しました。CDに代わってより良い音をパッケージ出来るよう誕生したDVD-Audioを、何事も多様化するとは言え、世の中の多くが一律して効率化を目指す傾向の中、今後も存続出来るよう内沼氏をはじめ業界諸氏にぜひ頑張って欲しいです。

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