高垣 健 氏 スペシャル・インタビュー ビクターエンタテインメント(株) 常務取締役

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:高垣 健 氏、寺田正治 氏
左から:高垣 健 氏、寺田正治 氏

 ビクター・スピードスターレコードの創設者であり、現・常務取締役である高垣氏が、今年の秋から、新人アーティストのデビューチャンスを広げることを主眼とした独立メジャーレーベル「BabeStar」を立ち上げた。これまで数多くの大物ロックミュージシャンを手がけてこられた高垣氏が、『多数良質』をコンセプトに、今までの既成概念を取り払ったメジャーとしては画期的な2,000円フルアルバムをメインアイテムとした1ショット契約で新しい才能をリスナーに向けて送り出すという。高垣氏の時代を読んだ斬新な発想から生まれたBabeStar立ち上げの経緯は、全ての音楽業界人、そしてデビューを狙うアーティストの方、必見です!

[2004年9月27日/ビクターエンタテインメント株式会社にて]

 

高垣 健(たかがき・たけし)

ビクターエンタテインメント株式会社 常務取締役
1948年 兵庫県神戸市生まれ


1971年4月 日本ビクター株式会社 入社 音楽事業本部洋楽制作室
1973年4月 洋楽部宣伝課
1975年〜  フライング・ドックレーベル、インビテーションレーベル制作担当
1991年4月  ビクター音楽産業株式会社 邦楽本部 制作2部長
1992年6月  スピードスターレコード設立
1995年7月 ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部副本部長
1997年8月 ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部長
1999年6月 ビクターエンタテインメント株式会社 取締役 スピードスターレコード本部長
2003年6月 ビクターエンタテインメント株式会社 常務取締役

 

寺田正治(てらだ・まさはる)

ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部制作部 副部長 A&Rプロデューサー
1962年 福岡県大牟田市生まれ


1984年 4月 日本ビクター株式会社 入社
1984年 8月 ビクター音楽産業株式会社 営業促進部 企画グループ
1985年 9月 ビクター音楽産業株式会社 制作2部 第2制作グループ
1995年 4月 ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部 制作部
1999年 4月 ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部 制作部課長
2003年10月 ビクターエンタテインメント株式会社 スピードスターレコード本部 制作部副部長
2004年10月 ビクターエンタテインメント株式会社 ADルーム BabeStar Label長 兼 スピードスターレコー部プロデューサー

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▼ BabeStarレーベルは:
1. 優秀な、新人アーチストのデビューチャンスを広げます。
2. CD価格を見直します。¥2,000フルアルバムがメインアイテムです。
3. 音楽配信など、新ビジネスへの積極的な参加とトライアル。Webを重視。
4.メジャー流通での、ヒット作品を目指します。 ▼BabeStarレーベルオフィス
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-13-19 ビクター青山ビル1F「BabeStarレーベル」
TEL:03-5412-2802
FAX:03-5412-2809
e-mail:babestar@ve.jvcmusic.co.jp

<BabeSter Official web>
http://www.babestar.net/

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——まず今回のレーベル立ち上げまでの経緯を教えていただけませんか。

高垣: ビクターの中でADルーム(旧:A&R開発室)っていう新人発掘育成のセクションがあるんですが、僕も関わっているんですけど、今オーディションを5種類ほどやっているんですよ。ライブバンドのオーディションから、インターネット上の楽曲のオーディション、女性シンガーボーカリスト、大学のサークルとジョイントしたオーディション……と、ジャンル的にも幅広いんですが、優秀なアーティスト、新人バンドもそこからたくさん出てくるんですよ。今、かなり優秀な勝ち残り新人アーティストが50数組いるんですよ。それ以外にも、デモテープを聴いたりライブを見に行ったりする中で、すごくいいアーティストが世の中に一杯いるわけです。にもかかわらず、現実にメジャーデビューできていないアーティストがたくさんいるんですよね。そこに疑問を感じながら今までやってきたわけなんですが、考えてみたらメジャーデビューするためのルールというか基準をこっちが作っているんですよね。それと同時にメーカー側のキャパシティの問題もあったりするんです。スピードスターでもデビューできるのは、だいたい年に2組ぐらいですよね。いくらオーディションで勝ち残っても、たとえばその基準の中に「年齢がいっちゃっている」とか「ルックスが悪い」とか「華がない」とか「音楽的に今風じゃない」とかもしくは「プロダクションが合わない」とか、そういう本来の音楽じゃない理由でメジャーデビューできないアーティストがいっぱいいるわけです。

——レーベルのカラーというのは実際にありますからね。

高垣: メジャーデビューできるっていうのは、アーティストが『いい』とか『悪い』ではなくて、タイミングと会社のスタッフとの相性なんですよね。そんな理由で才能があるアーティストが埋もれていくのは、もったいないなと実感していたんですよ。そんな現状もあって、新たにデビューするきっかけになる場所を作りたいなと思ったのが事の発端ですね。

——新たにデビューできる場所を提供したいというわけですね。

高垣:そうですね。スピードスターや既存のレーベルではどうしても規模も大きくなってるし、そんなに簡単に『ルール』を曲げるわけにはいかない。だったら、そういう目的で新レーベルを作った方が手っ取り早いなって思ったんですよ。今年に入って、そういう話をずっとA&R開発の久保田君っていうマネージャーや寺田君と繰り返しながら今に至ってるんです。

——現実的に大手メーカーのオーディションには受かっても「育成中」という名の下に何年も飼い殺しで置かれているアーティストっていうのはいっぱいいると思うんですよね。

高垣:受かった以上、他に移るわけにもいかなくて、何年もくすぶったりしていて、もったいないですよね。

——それが少し風通しがよくなるっていうことにつながりますか。

高垣: そうですね。そうありたいですね。なぜ、メジャーデビューできなかったのか不思議だなっていうアーティストがほんとに世の中にいっぱいいるような気がするんですよね。

——ということは、才能さえあれば、少なくとも今の日本のメジャーレーベルの中で、最もデビューしやすいレーベルだといっていいのでしょうか?

高垣:そうですね。そういうふうに言ってもらっていいですね。

——ルックスだの年齢だのそういう要素は一切関係なく音楽そのもので評価するというのは、理想ですよね。契約については、1ショットでの契約だそうですね。

高垣:そうですね。ただ、僕はスピードスターでずっと仕事をしてきたから、スピードスターのやり方やルールっていうのは当然体に染みついているわけで、かたや、BabeStarを立ち上げて新しいことをしようとしている自分がいて、今、自分の中で闘っているみたいなところがありますよね。それは全然違うキャラクターが自分の中で2人いるような感じで、すごく面白いですよ。たとえば、BabeStarの第一弾アーティストである大阪のANATAKIKOUっていうグループは、すごくいいバンドだけど今のスピードスターだとちょっとなぁっていう、既成のアーティストとバッティングするし、プロモーションのやり方も煮詰まっちゃうし、セールストークも言いにくい部分があるんですが、BabeStarに持ってきたら、いくらでもプロモーションできるみたいな部分はありますよね。同じアーティストでもスピードスターとして見たときのとらえ方と、BabeStarとしてのとらえ方とで全然違って見えてきますよね。

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——スピードスターとの関連性はどうなんでしょうか?

高垣:スピードスターのジュニアみたいなイメージがあると思うんですけど、組織的には全く切り離して独立レーベルとしてやっていくことになっています。

——寺田さんが兼任ということですが、スタッフ的に専任というのは設けられるんでしょうか。

高垣:テーラー(寺田)は兼任といっても専任に近い立場なんですよ。寺田がいて、A&Rスタッフが2名、プロモーションが2名、デスク兼ウェブ関係が1名、ADルームの中に、このレーベルを立ち上げたってことになりますね。

——レーベルのスタートはいつなんでしょうか?

高垣:今月(10月11日)からスタートします。当然必要に応じて大きくしていきたいですけど、最初はできるだけミニマムでスタートしたいと思ってますね。スピードスターも最初はそうでしたからね。気がついたら今は40人になっちゃってますけどね。

——人選などの具体的な話はいつ頃から始まったんでしょうか?

高垣: 去年の秋ぐらいですね。BabeStarを始めるにあたって、具体的なお金のことを経理のスタッフに相談したり、コストの相談を始めたのは今年に入ってからですね。

——そのときの社内の反応はどうでしたか?

高垣:みんな理解して、協力してくれたので、思ったよりスムーズにまとまりましたよ。2,000円フルアルバムがメインアイテム。選ぶ権利はリスナーにあるという発想。

——BabeStarではCD価格を新たに見直す、ということなんですが、これはどういうことでしょうか?

高垣:これはiPodから得た発想なんですよ。ある日突然僕の友達がiPodにハマったんですよ。僕は人がはまっているのを見ると欲しくなるっていう性格なんでね(笑)、今年の3月ぐらいにiPodを買ったんですよ。そしたら、一気にハマりましたね〜(笑)。それまでMDウォークマン、CDウォークマンを山のようにたくさん買ってきたんですが、全部人にあげたぐらいですから。一万曲入ってるわけだから、どこにいようが冬だろうが夏だろうが、これ一発あればO.Kで、しかもダウンロードまで簡単でタイトルまで入れられて…もう魔法だよね(笑)。それぐらいびっくりしたんですよ。なんでこんなにハマるのかなと思ったら、CD一枚、MD一枚でしか聞けないものじゃなくて、リスナーが自分で全て選べるわけですよ。選べるから流行っているわけで、この『選べる』っていうのが大事なんだなって思ったわけです。従来は我々のような優秀なA&Rマンがいて(笑)、すごくいい新人をピックアップして、1つだけ見つけだして、時間とお金と労力を目一杯注ぎ込んで、一年以上の時間もかけて作品を作って、「どうですか?」と世に問うていたわけです。つまり、決定権はあくまでメーカーなり制作者側にあって、制作者が一つだけ選んで決めて、それをリスナーに提供してきましたよね。これからはそうじゃなくて、決めるのは『リスナー』じゃないかな、っていうのがiPodを買った僕の学習なわけです。『少数精鋭』っていうのは言葉は綺麗だけど、ひょっとしたら今に合わなくなってきてるんじゃないかな、という気がしてきたんですよね。

——選ぶ権利をリスナーに与える、ということですね。

高垣:そうです。僕は少数精鋭のレーベルを今までずっとやってきたつもりなんですが、ここでちょっと一回振り返って、『多数良質』のレーベルを作るっていうのも一つありかな、と思ったんです。『多数良質』って言葉があるかどうかわからないけど、これからの時代は、リスナーが選ぶ幅を持つ、言いかえれば、選択肢をリスナーに預けるっていうことなんじゃないかなって思ったんですよね。多数良質イコール粗製濫造にならないようにね。もしかすると、粗製濫造と多数良質はひょっとしたら同じかもしれない、しかし、それを決めるのはリスナーなのではないか?と。その辺はこれまでのキャリアと経験実績みたいなものをうまく使って、できるだけ多数、できるだけ良質なものを送り出すようなレーベルにしたい、と思っているんです。

——2,000円のフルアルバムということは、今までのメジャーものとは明らかに違いますよね。

高垣:正直言って、今回の2000円というのは、もろもろのCDが世に出るまでのありとあらゆる経費というのを見直していったんですよ。社内社外の関係者にこのレーベルの趣旨、今後の可能性みたいなものを説いてまわったんです。その結果、2000円でもできる、ということになったんです。 当然一枚のアルバムが世に出るまで、色んな費用と人手がかかりますよね。制作費、宣伝費、販促費、それからジャケット制作だったり、工場のプレス費、そして流通コストがある。今、3,000円前後のフルアルバムが一つの定番になってるのは、いいところと悪いところの両方あって、やはり価格っていうのは印税に反映してくるから、そんなに簡単に価格を安くするわけにはいかないし、取り巻く環境が許さないわけですよ。新レーベルだから可能になったというのはありますよね。

——削れる部分を全て削ったら、できた、と。

高垣:これは、みんな考えていたけど、なかなかやりたくてもできなかったことかもしれないですね。もちろん、全て2,000円っていうわけにはいかないんですが、メインのアイテムはフルアルバム2,000円でいきます。

——宣伝に関しての制約などはでてきますよね。

高垣:もちろん制約は色々ありますよ。例えば、初回オーダーのみだったり、最初から全国展開で従来のやり方でCDを全国に展開してということはあまり考えられないですね。やっぱり局地的な宣伝だったり営業だったりすると思います。そこをどれだけ効率を高くしていくかっていうのが問題ですね。当然インディーズに近い規模でスタートすると思うので、1000枚未満から立ち上がる作品も多いと思いますよ。1,000枚未満だったら、東京と大阪だけでいいかもしれないし、ひょっとしたら出身地だけでいいかもしれないし、ディーラーもそれにふさわしいディーラーだけでいいと思うんですよ。そういうふうに考えていくと、今までのような全国展開に使っているお金を削ることは可能だったりしますよね。

——たとえば大阪限定、とか。

高垣:そうですね。最近は特に地方のイベンターと話をしていると、地方分権を考えなくちゃいけないと思うんですよね。東京をないがしろにするっていうんではなくて。 話はそれちゃうんですが、今、斉藤和義君が宇都宮限定で1曲限定のシングルを出したんですよ。斉藤君は栃木県宇都宮市出身なんですが、昔、学生時代に馴染みのある街の通りだっていう「オリオン通り」について歌ったので、僕らとしては軽い気持ちで宇都宮限定でインディーズで出したんですよ。それが、8月頭に出して今、3,000枚ぐらい出てるんですよ。宇都宮で3,000枚っていうのは、全国規模に換算すると、200万枚なんですよ。

——うわー。それはすごいですねー。

高垣:本当にびっくりしましたよ。担当は本屋だ、時計屋だ、乾物屋だとかにも売って、男の子たった一人で走り回ってやっちゃってるわけですよ。すごいですよね。

——ビクターというメジャーレーベルがこれまでの価格の2/3だって言っちゃうわけですよね。これは将来、社内の既存のレーベルも含めて色々なところに影響を与える可能性もありますよね。

高垣:僕としては影響が出るくらいになりたいですね。それがスタンダードになればそれに越したことはないと思うし、そのためにやる部分もあると思います。

——今までもビクターにインディーズレーベルがあったわけで、その中間的な形を作り出したって感じですかね。メジャー流通だけど、もっとスタンスの軽いやり方を開始する、と受け取っていいんでしょうか。

高垣:そうですね。メジャーとインディーズのいいとこ取りみたいなイメージもあるんじゃないかと思ってます。 今、インディーレーベルが日本に300以上存在して、そこのフルアルバムがだいたい2,000円から2,500円じゃないですか。それからメジャーアルバムの収録曲は、14曲〜16曲というのが当たり前になってますよね。僕はそこまでする必要はないと思うし、時間と曲数をもう一回見直していく必要があると思っているんです。

——これまで、インディーズレーベルがメジャーの横で価格破壊をやってきたと思うんですよね。メジャーレーベルがこの値段で出すというのは、画期的なんじゃないでしょうか。

高垣:今の輸入盤の値段を見ると、だいたいそれくらいの値段ですよ。色々見ていて、音楽のアルバム2,000円というのは、かなりいい線なんじゃないかな、と僕は思ってるんですけどね。2,000円という価格は、リスナーが「パッケージ」として買いやすい値段じゃないかなと思っていますね。

 

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——たとえばBabeStarで成功してミリオンセラーを出しても、ずっとBabeStarレーベルでいくんですか?

高垣:基本的にはBabeStarでうまくいったら、メジャーレーベルに送り出してあげたいですね。BabeStarはエンジン的な役割で、ここからスタートして、次にスピードスターやビクターレーベル、ひょっとしたら他社かもしれないですよね。

——野球で言えば二軍みたいなイメージですね。ここでチャンスをつかんでっていう…。

高垣:そうですね。ただ、あくまでビクターのメジャー流通でいきたいんですね。それはなぜかというと、色んなインディーズがあって人によって様々な考えがあると思うんですが、「インディーズだから売れなくてもいいや」っていう空気が風潮として若干あるように僕は感じているんですよ。それを避けるために、あくまでメジャー流通でいきたいんですよ。ミリオンはわからないけど、このレーベルも数万っていう夢はきっちり見たいと思っていますね。

——事務所に所属している、していない、は関係あるんですか?

高垣:できれば事務所にいてほしいと思っていますね。僕の経験から言っても、事務所がいる方が刺激になるし、事務所とのやりとりは、すごく大事だと思っているんで、できるだけマネージメントはいてほしいと思いますね。

——なるほど。

高垣:今、プロダクションの人達ともよく話をするんだけど、賛同してくれる人がたくさんいるんですよ。その一つの理由として、事務所の方としても、正式契約できないアーティストがいっぱいいるんです。できれば、給料を払うとか正式なマネジメント契約を交わしたりしたいんだけど、なかなかそうはいかないアーティストがいっぱいいるんですよね。逆にそういうアーティストは、このレーベルにふさわしいかもしれないし、事務所にとっても、このレーベルを経由して正式契約になることもあるんで、お互いにいいんじゃないかと思います。

——音楽配信などの新ビジネスへの積極的な参加などもやっていきたいということなんですが、近年、配信をめぐっての、レコードメーカーとアーティストとの取り分の件でアーティスト側から不満の声が上がっていたりしますよね。その辺はここでは何か変わるんですか?

高垣:今、ちょうど契約書のフォーマットを作っている最中なんですが、二次使用の問題とか配信の手数料の問題とか、当然もう一度見直していますよ。具体的な数字はまだ言えませんが、従来のレコードカンパニーのやり方を見直す場所でもあると思いますね。たとえば配信関係の契約は一年前と今とで変わってきてますよ。

——そんなに変わってきてるんですか?

高垣:もともとの契約書には配信については書いてないから、新ビジネスや協議事項になっているんです。早い話、協議する場所さえ作れば、どんどん変えられる。かつてみたいな、レコード会社がど〜んと構えて待っていればアーティストが来るっていう時代じゃ決してないですから。そういう意味じゃ契約の内容は、日進月歩ですよ。

——どんどんアーティストサイド寄りになってきてるということですか?

高垣:そうですね。配分はどんどん上がっていっていますよ。特に「着うた」ができた辺りからは、それはもう顕著に変わってきてますね。

——今回のプロジェクトは、高垣さんが長年にわたって、色々な矛盾を感じていた部分を理想的な形に

高垣:すると、こういう風になるってことですね。 いやいや。今の時代だからやれるってこともあると思うんですよね。時代が後押ししてくれてるってこともあると思います。大きなレーベルじゃなかなか小回りが利かないことも当然ありますからね。

——ビクターという大企業の中で、今回のプロジェクトが簡単にO.Kになったとは思えないんですが、その辺はどうなんですか?

高垣:社内の中で色んな意見は当然ありますよ。ただね、音楽だから、個人的な考えと会社っていう組織の考えっていうのが相反するのは当然あるわけじゃないですか。みんな何かやらなきゃいけない、変えなきゃいけない、これはちょっと変だっていうような事は山のようにあるわけですよ。既成の中ではなかなか変えられないけど、新しくこうやって企画書を起こしてやると、変えやすいというか会社としても認めやすいっていうかね。そういうのはありますよね。

——過去何十年間にわたって当たり前と思われてきたことやルールが、少しずつ変わりつつあるってことでしょうかね。

高垣:そうですね。たとえば今回、ウェブやモバイルも今までになく大いに活用するっていう『ITレーベル』を目指そうっていうことを言っているんですね。やっぱり活字、電波っていう媒体はそれはそれで大事だし、大きな力を持っているんですけど、ウェブメディア、ネットメディア、モバイルっていうものの影響力はほんとに日増しに大きくなってますよね。バークスのネットマガジンからヤフーだ、マイクロソフトだ、あとはBLOGは今ものすごく話題になっていますよね。それを使うことで、新しい音楽ファンの開発なのか、新しい情報の届き方なのか、ひょっとしたらレコード会社の仕事のやり方の変化なのか、わからないですが色々な可能性を秘めていて多方向に考えられますよね。

——それにしてもBabeStarっていうネーミングはいいですね。

高垣:ベイビースター食べながら考えたんですよ(笑)。登録申請するときに、「これ、通んねえーだろうなー」と思ったら通っちゃったんだよね。1ワードで出したから通ったんですよ。スピードスターもそれと同じで、二語に分けたら通らなかったんだけど。

——BabeStarのこのロゴマークなんですが、これは何か意味があるんでしょうか?

高垣:これはヘッドホンをかけた赤ちゃんのイメージなんですよ。実はうちのデザインセンターの富岡君が「このレーベルには、このマークしかありませんよ!」って作ってきたんですよ。彼が言うには、これは、ドットデザインだと。ドットデザインって何?って聞いたら、どんなに小さくしても大きくしても同じに見えるデザインなんだ、と。これもホームページで動かすことを前提に考えたいんですよ、と。

——動かすことを前提にしたロゴ、ですか。

高垣:そうなんですよ。僕もねロゴマークっていうのは、どんどん変わるものだってイメージが強いんですよ。例えば昔、アイランドレーベルのマークで、レゲエのアルバムだったらヤシの木マークだったり、UKロックだったら、後ろにビルが建っていたり、一つのマークだけで色も変わったり色んなデザインがありましたよね。それに通じるイメージがここにもあって、このマークが動いたり、成長したりすると面白いかなと思ってますね。

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——面白いですね、それは。

高垣:今ビクターに、ウェブ関係や音楽配信なんかをやっているネット・メディア部というセクションがあるんですが、またそこでいろんな面白いアイデアが出てきてるんで、今後も新しいことをいろいろやろうとしてるんですよ。

——配信については独自の配信サイトで?それともレーベルゲートなんかを使われるんですか?

高垣:基本的には、内外問わずオープンなスタンスでやっていきたいですね。もうそういう時代でしょうしね。この先、パッケージ、ノンパッケージっていうのは、絶対に共存して行くと思うんですよ。やっぱり、存在感も違うし役割も結果も全部違ってきますしね。たとえば僕自身iPodを買って何が変わったかっていうと、昔のCDをまたいっぱい買い始めたんですね。音楽配信でiPodにダウンロードするっていうのは日本ではやっぱりまだできないから、CDからパソコン経由でダウンロードする。そうすると、昔買ってどっかにいっちゃった70年代や80年代のCDをまた買い始めたわけです。僕の周りのiPodにハマった人達の話を聞いたら、やっぱりみんなCDをまた買いはじめているんですよ。「共存していく」っていう意味で、僕はこの相互関係はこれからもずっと続いていくことだと思いますね。

 

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——BabeStarのアーティストの特徴や色っていうものは何かあるんですか?

高垣:色はね、寺田君が決めるでしょう(笑)

——では寺田さんにその辺の話を伺いたいのですが。

寺田:基本的には、ジャンルでしぼっていくっていうのは今のところ考えてないですね。選択して自由にチャンスを広げるっていうのを第一に考えるべきだと思いますね。

——要するに、世に出していくべきだと考えたアーティストはどんどん出していきたいということでしょうか。

寺田:そうですね。これまで、自ら萎縮してた部分とか敷居を高くしていたことがデビューを妨げてたんじゃないかと思う部分があるので、この厳しい状況を突破するというのは、新しい才能を積極的に出していくことからやっていきたいと思っています。まずは可能性を見つけたいなという感じですね。

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——BabeStarの発売予定のアーティストについてお聞きしたいんですが、今、何弾アーティストまで予定が決まってるんですか?

寺田: 今のところ確定は2アーティストです。第1号アーティストは、大阪のANATAKIKOUというバンドでね。3人組のすごくいいバンドなんです。実は彼らは自主制作のCDが、関西圏の外資系CDショップを中心に軒並みチャートインしてたり、地元FM局にレギュラー出演するなど、人気、注目度は関西随一なんです。

——すごいですね。それでもメジャーデビューの予定はなかったんですか?

寺田: チャンスとタイミングがなかったせいか、なかったんですよね。これまでインディーズでシングルを3枚出してまして、今度がフルアルバムになります。 高垣:802の土井さんっていうDJなんかはよく知ってるし、大阪のメディアではよく知られてるんですけどね。彼らも大阪以外では、ほとんど活動してないんですよ。

——その次のアーティストは決まっているんですか?

寺田: 第二弾は堀下さゆりというシンガーソングライターで、これはADルームのインディーズからアルバムとシングルを既に出していて、今度2枚目のフルアルバムになります。

——寺田さんはこれまでどういうアーティストをやってこられたんですか。

寺田: LA-PPISCHとCoccoですね。後はARBに関わったりだとか、チカブーンやジャングル・スマイルですとか、最近では、キセル、トルネード竜巻です。

——Coccoはカムバックしましたよね。

寺田: そうですね。独自のスタンスですけどね。3年休んで、自分のライフワークとしてまた活動をやりはじめて、誰もが想像していなかった大きなところに行き始めてると思います。

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ANATAKIKOU
http://anatakikou.oops.jp/
松浦正樹(Vo&G)藤井寿光(Dr)北條真規(Vo&G)
2005年1月リリース予定。 2001年10月もともと顔見知りだった三人により大阪で結成。自主制作の3曲入りCD-Rが口コミや一部FM局などで話題を集め、2002年11月1stマキシ「リリー」として全国発売。関西圏の外資系CDショップを中心に軒並みチャートインし、CRJ-WESTチャートにも24週ランクイン。翌2003年6月には4曲入りマキシ「RIVER SHELIMITS」を発売、7月にはTeenage Symphony のオムニバスCD「The Many Moods Of Smiley Smile」に参加。その後、東京・名古屋へとライブ活動の場を広げ各地のCD即売記録を次々と塗り替える。2004年3月3日、3曲入り3rdマキシ「sand memotion」を発売。4月18日大阪十三ファンダンゴでの初ワンマンライブも超満員ソールドアウトで大成功に終える。同4月からは地元FM局の番組にレギュラー出演するなど、人気、注目度は関西随一。その特異なポップセンスとライブパフォーマンスはまさに“遅れてきた超新星(笑)”。現在、2005年1月発売予定の1stアルバムを、寿命を縮める勢いで鋭意制作中。

 

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堀下さゆり
2005年2月リリース予定。 東京でストリートライブやライブハウスなどで活動中の堀下さゆり。
2002年にミニアルバム「リリーライフ」を発売後、3枚のオムニバスに参加するなど活動の幅を広げ2003年末にはワンマンライブ(102人動員)を四谷天窓で成功させる。
今年に入りピアノと歌だけで構成した1stアルバム「プライベート〜The PianoAlbum〜」リリース、6月にはバックにClingonを迎えシングル「あじさい畑」をリリース。
12月には2度目となるワンマンライブも決定。BabeStar第2弾アーティストとしてのリリースを控えている。

 

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——BabeStarの方向性で、今後何か考えていることっていうのはありますか?

高垣:新人だけじゃなくて、一度メジャーデビューしたけど、メジャー契約が終了したアーティストもBabeStarで出そうと思ってます。もちろん当然新人が多くなるけど、準新人っていうところでも考えてますね。

——敗者復活戦ありっていうのは、みんな業界では意識してますよね。

高垣:今、クラッシュ&ビルドっていう言葉が流行っているじゃないですか。たしかにクラッシュして新しく作るっていうのは大事なんだけど、今はクラッシュに偏ってますよね。一回アーティストの数を減らして、合理的にやろうっていう空気は音楽業界全体にあるんですよね。

——音楽は、新しいものを生み出し続けることによって、需要を喚起し続けなくてはいけないと思うんです。制作数を減らすっていうのは、音楽業界が自分の首を自分で絞めているようなものですよね。

高垣:1回でも縮小するとね、また生産するエネルギーっていうのは削られるような気がするんですよね。縮小することで労力を使っちゃって、ビルドする力がなくなっちゃうような気がするんですよ。勝手に制約を作って、新人のデビューを減らしてるっていうのは、そこにも原因があると思いますね。それは、色んなレーベルのマネジャー連中と話したりするときに感じたりすることですけどね。

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——多数良質のキーワードで大成功してもらいたいですよ。

高垣:アーティストとか事務所や、僕の身近なメディアに話をすると、割と賛同してくれる人が多いんで、それに後押されたみたいなところもあるんですよね。それにしても、iPodにしろDVDレコーダーにしろ、最近僕が買った電化製品はほんとにスゴイよね(笑)。それからテレビも、昔は5チャンネルから6チャンネルあれば十分で、アメリカみたいにケーブルとか100チャンネルなんて「見るわけないじゃん」ってみんな言ってたわけじゃないですか。実際、デジタルを自宅に入れたら、今70チャンネル以上見れるわけですよ。しかも、値段が安い、これだけ選択肢がたくさんあるっていうのは楽しいよね。その中から、リスナーなりユーザーが選ぶわけだから、選ばれなかったものは『弱肉強食』じゃないけど、負けちゃうわけだしね。そういった生存競争は当然厳しくなるけども、また新しいものが生まれてくる。選択肢がいっぱいある方が当たり前になるんでしょうね。

——まさにiPod時代なんですね。日本の音楽業界全体にとって、BabeStarが成功するか否かは大きいと思いますよ。この動きというのは、少なくとも他のメジャーレーベルに先駆けたものですから。

高垣:そうですね。

——業界内外から様々な意見が出てくるかもしれませんね。

高垣:逆に、そういうことを言う人がいても僕はいいと思うんです。割に僕は自虐的なところがあるんで、逆にそう言われたいなっていうのがあるんですよね。良くも悪くも話題にしてほしいっていうのがありますね。粗製濫造じゃないかとか、安いコストでメーカーに都合のいいことやってるだけじゃないかとか、そういうことを言う人はこれからもいると思いますよ。でも、ちゃんと評価されて、いい音楽やいいライブをやるアーティストがBabeStarから出てくることがそれに対する反証なわけで、理屈じゃないと思うんですよね。

——BabeStarの成功を心よりお祈りしています。

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