Vol.9 有限会社エヂソン ライトハウス 照明デザイナー 久保 良明さん

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有限会社エヂソン ライトハウス 照明デザイナー久保 良明さん
有限会社エヂソン ライトハウス 照明デザイナー久保 良明さん

音楽業界の今を動かす、現場の音楽業界人 = Musicman に、仕事内容や最近の「気になる!」こと現在の仕事に至るいきさつなどを中心に伺っていくインタビューコーナー「Musicman Pick Up」。

第9回は、“音楽は人生のスパイス”という音楽業界歴22年!照明デザイナーとして幅広く活躍する有限会社エヂソン ライトハウス久保良明さんにお話を伺いました。

 

——照明とは、具体的にどんな仕事ですか?

久保:音楽照明においては、音楽の表現を助けること、臨場感を作ること。音楽を見せること。

——よくある1日の業務スケジュールを教えてください。

久保:起床→現場へ到着(理想的には会館が開く30分前)→楽屋入り→搬入(持込器材がある場合)→仕込打合せ(会館照明担当者及び現地照明の人達)→サス及びトラス仕込→休憩(この間に楽器及びステージ周りの道具の仕込)→ステージ周りの照明仕込→休憩(この間に持込照明卓の設置)→仕込んだ器材の回路・チャンネル/faderチェック→昼食→focus(シュートとも言う)→Moving Lightのポジション取り→dataの作成及び修正→リハーサル→focus修正(リハ後の直し)→開場(この間に夕食)→開演→バラシ(ステージ周りから)→搬出→帰宅

——これまで関わったor担当アーティストは?

久保:矢野顕子 / CORNELIUS / 武満 徹 / くるり / Chara / Love Psychedelico / Def Tech / Wyolica / 宇多田ヒカル / MISIA / 小川美潮 / たま / 五輪真弓 / 小谷美紗子 / Kahimi Karie / Original Love /Tokyo SKA Paradise Orchestra / Pizzicato Five / bird / Killing Time / くじら / 鈴木雅之 / Moon Riders / Chocolat / 渡辺 謙 / Orange Pekoe / 辛島美登里 / 遊佐未森 / 池田 聡

——照明の仕事に就くきっかけは?

久保:学生時代の演劇で照明担当になり、気付いたら知り合いの照明家の関連会社に入社していました。

——ライブなどの本番に臨む際、心がけていることはありますか?

久保平常心と高揚感のバランスを保つこと。インスピレーションを大事にすること。

——この仕事をしていて、嬉しい瞬間はどんなときですか?

久保:リハーサルを通して試行錯誤を重ねた結果で仕込図が上がった時。それと、ライブ自体が素晴らしく、事故もなく終演を迎えた時。ライブが素晴らしかった時は、『今日来たお客様はラッキーだな』と思います。

——仕事において、これだけは誰にも負けない!という強みは?

久保:仕込み量の少ない時のプランニングが上手いと思います。また、目の前に見える音楽の裏をかくこと。言い換えると、音楽の裏の表現を見せること。文章でいう、行間を見せることにも通じると思います。

——今の仕事で一番やりがいを感じることは何ですか?

久保:お客様に笑顔で帰って頂いた時。自腹で新しい器材の紹介をライブを通してしていること。モニターになりたいです。

——この仕事はどんな人に向いていると思いますか?

久保頑固さと素直さを同居出来る人。その理由は、頑固さが無いと自分の目指す明かり作りが頓挫します。しかし、あまりに頑固すぎると、つまり、頭が堅すぎると、目の前を通り過ぎるインスピレーションを見逃します。だから、他人の意見に耳を傾ける素直さと同時に目の前のインスピレーションを素直に観る力が必要です。

真面目なこと。技術的に覚えなければいけないことは山ほど有ります。それに追いつくには真面目さが必要。真面目と遊び心は相反しません。当然、遊び心も必要ですね。

アイディアを具現化できる人。具体的なテンポとか譜割とかの事ではなく、抽象的な表現をしなければならない時、必要なことです。

物事の消化吸収が出来る人(遅くても良いが早いに越したことはない)。照明は一人で造る物ではなく、そこに音楽が当然あり、音楽を奏でる演奏者がいる。他のスタッフを含めミーティングを重ねてプランをするにあたり、そのミーティング内容の消化吸収能力が必要になりますね。

——これから挑戦してみたいと思うことはありますか?

久保:海外アーティストのワールドツアー。

——ミュージックもんについてはどう思いますか?

久保:新しい音楽の発掘には必要だと思います。

——Musicman-NETの活用法、好きなコーナーなどあれば教えてください。

久保:インタビューコーナーが面白いと思います。

——最後に、音楽業界を目指す人(アーティストも含む)に一言。

久保音楽は人生のスパイス。そして、音楽業界に従事する人は職人であって欲しいですね。

<2007.1.30追記>

久保:何年か一緒に八ヶ岳の「高原音楽祭」等でご一緒させて頂いた武満 徹さんに頂いた一生忘れない言葉です。『通俗性も大事ですよ。低俗じゃなくて、通俗ですよ』僕は小難しいことを表現しようとしていて、壁にぶち当たったり。また誰も理解できなくても良いから“照明にも哲学を”と思っていました。

一方、彼は小難しい現代音楽を平たくするコンサートを行っていて。深夜の現代音楽祭でほろ酔い気分も手伝ってビートルズのWild Honey Pieを歌う人でした。現代音楽の先生から聞く話とは思えないけれど、若い頃は自宅のある八ヶ岳近辺を散歩していると、空から星が降ってきて自分の体にまとわりつきそれが音符に変わって自然と曲が出来ていたそうです。

フリースペース

久保:最近、ライブとは何か、照明の存在理由とは何か、音楽とは何か。表現とは何か、自問自答することが多い毎日です。答えはきっと永遠に出ないし、出ないからこの仕事を続けるのでしょう。

その昔、仕込図を描きながら亡くなった著名な照明家がいます。彼は苦しくも楽しくお客様を迎えるために仕込をする絵を浮かべながら旅立ったのでしょうか。夢を見ながら亡くなった彼のことを思い出す度に、僕はマダマダだなと感じます。“仕込を考えるデスクワーク”“仕込から本番をする実務”夢はどちらの方が大きいでしょうか。

僕の仕事は、夢を見ること。夢を与えること。花に水を与えるのと似ているでしょうか?綺麗な花は咲かないかも知れないし、どんな花が咲くかも分かりません。でも、人は水を与え続けます。希望という水を。僕は未だ彼のお墓参りが出来ていないまま、26年の歳月を数えます。

-2007.1.16掲載/1.30追記 

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