日本人として世界で戦うハイブリット企業 ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明 × 音楽プロデューサー 今井大介 対談

インタビュー フォーカス

左から:今井大介氏、工藤与明氏
左から:今井大介氏、工藤与明氏

STY(エス・ティ・ワイ)、HIROを筆頭に次世代クリエイターが数多く所属するクリエイティブ・チーム「ディグズ・グループ」。欧米では一般的なコライティング(共作)をいち早く取り入れ、海外のサウンドを日本のJ-POPファンに浸透させた気鋭のクリエイター集団に、音楽プロデューサー 今井大介(D.I)氏が加入。「日本を武器にして海外で勝負をしたい」と語る株式会社ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明氏との対談が行われた。

日本レコード大賞を受賞した、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「Unfair World」、「R.Y.U.S.E.I.」などのヒットでさらに存在感を増しているディグズ・グループが仕掛ける次の一手とは。

2016年5月25日 掲載

 

  1. コライティング(共作)を軸にチームで世界基準のクリエイティブを創り上げる
  2. 「Unfair World」「R.Y.U.S.E.I.」 ー トレンドの追求から生まれるヒット
  3. 世界に通じるエンターテイナーを作り夢を与えたい

 

コライティング(共作)を軸にチームで世界基準のクリエイティブを創り上げる

——ディグズ・グループはどのような経緯で設立されたのでしょうか?

工藤:僕はもともとアメリカに10年いて、そこからキャリアがスタートしているんですが、アメリカで得た刺激的なものを日本に持ってきて日本文化の底上げをしたい、そして日本を武器にして海外で勝負したい、という理想がありました。

ディグズを日本に設立した2005年は音楽産業の売上がかなり下がってきていましたが、当時からこのままでは下がる一方だと思っていました。CDが売れないとかデジタルとかそういう問題じゃなくて、クリエイティブの点だけで考えると、東南アジアも含めて日本は絶対的に海外に負けているので、まだまだやれる余地があると感じていましたね。

今井:音楽のジャンルで日本は強みと弱みがあると思うんですよ。例えば、歌謡とか演歌は海外にはないジャンルで日本の強みだったりするんですけど、洋楽がベースになるJ-POPなどは全体的な厚みはあるんだけど、K-POPのような突出したものがないんですよね。

今後は日本のアーティストを東アジア・東南アジアに輸出していくことになるかと思いますが、当然、東南アジア・東アジアでも、自分の国のアーティストを日本へ出したいと考えているはずです。そうなったときに、日本でのリリースを前提として、1から10までシームレスに制作ができるのが、グローバルな感覚を持つディグズだと思うんです。アーティストを輸出するのも大切ですが、制作者・制作チームを輸出することが日本はできていないんです。でも、クリエイターだけ送り込むんじゃなくて、チームとして受け入れたほうが向こうも分かりやすいじゃないですか。

工藤:ディグズは英語やフランス語、韓国語ができるスタッフが集まってますし、常に海外を意識してビジネスを展開したいと考えているので、色々な面でコミュニケーションが取れるのは大きな利点かなと思います。ポイントは言語より海外慣れしているということですね。日本でK-POPブームになる前に、少女時代の日本ファーストアルバムをディグズで制作したいと指名していただいたんですね。どういった経緯で名前を挙げてくれたかはわからないんですが、結果ミリオンになりましたし、クリエイティブを評価してもらえたんじゃないかと思っています。そこがクレジットよりも僕たちの武器になるんですね。

少女時代「GIRLS GENERATION」
▲少女時代の日本ファーストアルバム「GIRLS’ GENERATION」

今井:7〜8年前にSTYが出てきたときも「すごい子が出てきたな」と思いましたね。彼の楽曲はあれよあれよという間に変化していくんですよね。しかも、彼はこちらの想像とは違うことをやりだすじゃないですか。HIROくんも初めてコミュニケーションをとったときに、トラックダウンされたものを聴いて「これはうかうかしれられないぞ」と思いました。

楽曲をコライトすることで、新しい刺激もありますし、彼らのインスピレーションにひっぱられて、今まで自分でも想像できなかったクリエイティブが生まれたりします。ディグズは所属している作家たちがコライトしたり役割をシフトして、集団で楽曲を創りあげている。例えるなら、パフ・ダディがいた『バッド・ボーイ・レコード』とかと同じにおいがするんですよ。

工藤:日本と海外は制作スタイルが違うじゃないですか? 僕らがコライティングという共作をメインにやっているのは、作家を育てたいという考えからなんですね。作家さんのやりたいことを理解して、真の実力を発揮できる環境を作ることが僕らの仕事で、うちに所属したいと思ってもらえるようなマネジメントをしていかなければならない。ただ、ディグズを作家事務所と考えたことは一度もなくて、STYもMitsu.Jもレコード大賞を頂きましたが、彼らができないことをMaozonができたり、それぞれの作家さんが作る曲にカラーがあるんですよ。もちろん商業として売れることを考えながら作らないといけないときはありますし、みんなもそれを理解しながらやっていますが、やはり自分が100%いいと思っているものを作りたい、もっとこういうことをやりたいというオリジナリティというか、それぞれ独自の発想があるんです。

 

「Unfair World」「R.Y.U.S.E.I.」 ー トレンドの追求から生まれるヒット

——今名前の挙がったSTYさん、Maozonさんの「R.Y.U.S.E.I.」やMitsu.Jさんの「Unfair World」など、ディグズでは多くのヒット曲を制作されていますね。お二人が考えるヒットの要因とはなんでしょうか?

工藤:そもそも、ヒットは作ろうと思って作れなくて、色んな要因が合わさって生まれるものなので、僕らだけの力じゃないです。いいミュージックビデオが出来たり、いいコレオグラフだったり、キャッチーな踊りができたり、レコード会社や事務所など関係するすべての方のチームワークと僕らのアイディアが重なり、更にその時代にマッチした時にヒットが生まれると思います。

ですから、ヒットを意識するんじゃなくて、常にトレンドセッターの感覚を持っていなければならないんですよ。海外も含めて今の時代にアンテナを張って、トレンドを追求して研究する。マーケットからものづくりに落とすのではなく、いいものを作るためにトレンドを追いかける感覚が大事だと思っています。そうやって世界中の流行を勉強した結果が、たまたま三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEや少女時代のヒットに繋がっただけで、今イケているものを日本版に落とし込んだに過ぎないんですよね。

今井:楽曲単位でヒットを作ろうと思っても趣味嗜好があるから難しいですよね。クリエイティブとして新しい物を提供し続けなければいけないというプロとしての自覚はもちろんあるんですが、「これは絶対売りますよ」と常日頃から気にして作ることはないですから。マーケットを意識するような話はしないんです。

工藤:マーケットから落とし込んだクリエイティブはリジェクトしてしまうので、クリエイターはそういう政治的な話はしなくていいと思っています。けれども、「これは絶対にヒットする」というクリエイティブってわかるんですね。

今井:Maozonくんとやっていて面白いのは、トップラインの音が彼の頭の中で明確に鳴っているんですよ。それで「これにR&Bを乗っけてください」と言われるけど、最初は全く理解できないんです。「これにR&Bのっけていいのか…?」って(笑)。でも、試行錯誤しつつ彼に確認しながら作業をしていくと、自分の中でも振り切ったものができたりして、一回り以上歳の違う彼から教わったことがたくさんありました。変に経験値があると先入観を持ってしまいますが、彼にそういう部分を呼び覚ましてもらったというのはありますね。いい意味で彼は純粋ですし、クリエイティブに没頭しているからこそ、ヒットに繋がっていると思います。

「受け入れるべき変化」と「捨てるべき慣習」——昨年は日本でも複数のストリーミングサービスがスタートしました。音楽を提供する環境、聴く環境が変わってきた中で、「受け入れるべき変化」と「捨てるべき慣習」について、どのように思われていますか?

今井:まず、CDの需要がなくなるのは受け入れざるを得ないですよね。アルバムという形態もなくなるかもしれない。毎月1曲配信して1年経ったら12曲、ストリーミングだとそれがプレイリストになるわけじゃないですか。アルバムというシークエンスをユーザーが作る世の中になるかもしれないですし、これからはどれだけ聴かれているかがバロメーターになるので、ある意味ガラス張りでフェアです。

また、著名人が作ったプレイリストの影響力も大きくなるでしょうね。例えばテイラー・スウィフトがオススメのアーティストのプレイリストを作ると、これまでほとんど聴かれていなかった曲も、次の日には100万再生になるかもしれない。そういうティッピングポイントの沸点が低くなっていくんじゃないかと思います。

ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明 × 音楽プロデューサー 今井大介

工藤:「受け入れるべき変化」と「捨てるべき習慣」って繋がっているように思うんですね。メディアの違いではなくて、日本のビジネスモデル自体を見直すことが先だと思います。日本の出版の考え方、クリエイティブの考え方は独特で、「日本 対 日本以外」なんですよ。それが60年以上続いていますが、今後は古き良きものは残しつつも、新しい価値観に合ったものを受け入れるべきだと思います。

これは捨てるべき習慣というより、「守るべき習慣」ですね。守るべき習慣は、音楽ビジネスにもあるし、物作りとしても日本には長い伝統と歴史があります。大事なのは日本人の古き良きものを理解して、その感覚を持って海外に挑戦することなんです。僕らはただ欧米人になりたいわけじゃなくて、日本人として海外で戦えるハイブリットな日本人企業を作りたいと思っているんです。

今井:その考えはすごく共感できます。グローバルプラットフォームに合わせたほうがいい。そのためにも英語が話せる日本人じゃないといけないんですよね。ただ、子どもに英語を習わせるときもアメリカ人にしたいわけじゃない。英語を話せる日本人、海外の文化を理解できる日本人を育てたいだけなんですよね。

工藤:ソニーや東芝など世界屈指のブランドとして事業展開している日本企業も、そういう志を持った日本人が作り上げていったんだと思うんです。今、原点回帰するべき時期にきていると思っていて、メディアが抜本的に変わっても、音楽に対しての魂、作り手の想いを忘れてはいけないですし、それがエネルギーになるじゃないですか? 僕らはそれに特化して、徹底的に集中してやるクリエイティブ集団を目指していくべきだと思っています。

 

世界に通じるエンターテイナーを作り夢を与えたい

ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明 × 音楽プロデューサー 今井大介

——今回、今井さんがディグズに所属されて、会社として新たな推進力が加わったのではないかと思いますが、その上で今後の展望をお聞かせください。

工藤:色々な事業を展開している中で、今後メインとして考えているのは、日本人として世界に通用する、ディグズならではのアーティストを世に出していくことです。僕には世界で通用するエンターテイナーを作るという夢がずっとあるんですが、今の日本は良くも悪くもフィジカルでの売り上げが多くを占めていたり、完全に考え方がシフトできていないので、その感覚が持てないように思うんですね。僕自身、K-POPに携わってから展望が明確になったというか、すごく悔しいと思ったんです。でも、絶対日本でもできるはずなんですよ。

今井:僕は今回、一作家としてディグズに加わったわけじゃないんですね。以前から工藤さんと色々話をしているんですが、次のステージとして、アーティストを発掘して自社でマネジメントと制作をしていきたいと考えていたんです。2020年の東京オリンピックまでに5組のアーティストと契約して、それが常に回っているという状況を作ることが理想ですが、中国やインドネシアのアーティストの仕事が全方位でできたら大変面白いですね。

工藤:今井さんのように、これだけ僕の感覚に近い人ってなかなか少なくて、彼のバランス力は想像以上で本当にびっくりしています。うちの会社はトップが突拍子もないことを考えますし(笑)、スタッフの考えもクリエイターの考えも全部理解できる人っていないんですよね。

今井さんが入ったことで、今考えているいくつかのビジネスプランがより早く実現すると思っていますし、今後も世界のトレンドに合わせて、スピーディに新しいものを提供していけると自負しています。そして、ディグズ・グループとして、世界に通じるエンターテイナーを作り、世の中の人に夢を与えていきたいですね。

ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明 × 音楽プロデューサー 今井大介

関連タグ

関連タグはありません

オススメ