世界のトップ・アーティストが指名するマスタリング・エンジニア ー メトロポリス・スタジオのスチュアート・ホークスに会ってきた

インタビュー フォーカス

スチュアート・ホークス氏
スチュアート・ホークス氏

過去25年間におよぶマスタリング・エンジニアとしての経験とノウハウを持って、無名の新人からトップ・アーティストに至るまで数え切れないほどのヒット作を生み出してきた英国ロンドンのメトロポリス・スタジオ所属のトップ・クラスのマスタリング・エンジニア、スチュアート・ホークス。そのサウンド・クオリティーは国内外の多くのアーティストより支持され、近年ではエイミー・ワインハウス、エド・シーラン、アヴィーチー、Lordeなど数多くの世界的なヒット作を手がけ、モンキー・マジック、LUNA SEA、大橋トリオほか日本国内アーティストも多く手がけ最も多忙なマスタリング・エンジニアの1人だ。そんな彼が来日するとのことで、滞在中の過密スケジュールの合間を縫って話を伺ってきました。

<Mastering Credit>
エイミー・ワインハウス、エド・シーラン、アヴィーチー、Lorde、サム・スミス、チャーリーXCX、ディスクロージャー、イギー・アゼリア、モンキー・マジック、LUNA SEA、大橋トリオ、東京スカパラダイスオーケストラほか

(Kenji Naganawa,Yuki Okita)
2016年4月22日 掲載

 

  1. マスタリングのトレンドはラウドからナチュラルへ
  2. 誰に対しても常にベストなサウンドを

 

マスタリングのトレンドはラウドからナチュラルへ

——今回の来日の目的は何ですか?

スチュアート:マスタリングについてみなさんにお話するために来日したんですが(編集部注:4/8、ギブソンショールームにて「Q&A マスタリング講座」が行われた)、基本的には日本を楽しむために来ました(笑)。

——(笑)。来日は今回が初めてですか?

スチュアート:3回目です。来日をしてマスタリング作業自体をしたことはないんですが、友人やお客さんに会ったり、スタジオや僕の紹介を兼ねて来日しました。

——日本の印象はいかがですか?

スチュアート:日本は大好きですね! 食べ物も美味しいですし、街のエキサイティングな雰囲気、さらに日本独自の伝統も好きです。

——日本の音楽業界の方の印象はいかがですか?

スチュアート:みなさんとても仕事熱心な印象ですね。今回も何人かの方にお会いして、CDに握手券や投票券を入れて販売するAKB48のビジネスモデルを知りました。業界にとっていいビジネスチャンスになると思うし、いいアイデアだと思います。これまでイギリスでは例がない方法ですが、試してみたらいいビジネスになるかもしれませんね。

——イギリスでは特典を付けてCDを販売することはない?

スチュアート:ええ。アナログを買ったときにダウンロードチケットが入っていることはありますけどね。イギリスでミート&グリートチケットが入っていたら、ファンが興奮し過ぎてアーティストがちょっと危険かもしれません(笑)。

——現在イギリスの音楽シーンはどのようになっているんでしょうか?

スチュアート:数年前にストリーミングが入ってきたときに、音楽業界が崩壊するような危機感がありましたが、実際には売上が上がっていて、ライブも好調なことから全体的に上向きになっている印象があります。私は今まで一度も音楽フェスティバルに行ったことがなかったんですが、今年初めてグラストンベリーフェスティバルに行ってきます。

——25年間音楽の仕事をされてきて一度もなかったんですか?!(笑)

スチュアート:基本的にテントが嫌いで(笑)。もちろんコンサートは行きますけど、野外イベントは初めてですね。

——マスタリングのトレンドについて、スチュワートさんはどのように見ていますか?

スチュアート:ここ10年間はラウドネス戦争が頂点を極めていて、これ以上ラウドにはできないというところまで来てしまいました。それを踏まえて、最近のマスタリングの課題としては、ラウドでありつつも音のクオリティが潰れないように、ナチュラルにしていく手法が増えてきています。

——ジャンル問わずラウドに仕上げていくんでしょうか?

スチュアート:フォークだろうがEDMだろうが、ほとんどのアーティストさんがラウドにしてくれと言うので、それが当たり前になってきています。

——そういったリクエストに対してどのような作業を行うんでしょうか?

スチュアート:現状、「マスタリングをオーダーすること」と「ラウドにすること」とがイコールになってきているので、リクエストがない場合でもラウドにします。マスタリング・エンジニアは、届いた音を聴いたときにやるべき事がわかるんですね。その中で必要な作業をして、NGが出れば更にそれを修正します。

レコーディングの時点ではたくさんのトラック数があって、それを最終的にミックスエンジニアの方が2chのステレオに落とすんですね。それがマスタリング・エンジニアの元に届くんですが、まずはそれを48kHzのアナログで再生しし、さらにそれをデジタルキャプチャーします。常に48kHzで再生しながら作業をするんですが、お客さんへ確認するときは、みなさんが聴いているフォーマット44.1kHz/16bitのCD音質で送っています。それで問題がないようでしたらCD用マスター、またMastered For iTunesなどのハイレゾ用ファイルなど高いレートでマスターをお送りしています。

 

誰に対しても常にベストなサウンドを

メトロポリス・スタジオ マスタリング・エンジニア スチュアート・ホークス

——日本人アーティストの作品もたくさん手がけられていますが、どのような印象をお持ちですか?

スチュアート:日本の音楽はイギリスなど他の国に比べてディテールにこだわっている楽曲が多いですね。私はそういった楽曲が好きなので、毎回音源を受け取るのが楽しみです。時には発明的なアイデアが組み込まれた作品もありますね。

——例えば、どのようなアーティストでしょうか?

スチュアート:東京スカパラダイスオーケストラはキャラクター付けが上手くできていている曲がありますよね。自分が作業しているときは気付かないんですが、ラジオなどから流れたときにギミックやキャラクターに気がつくことが多いですし、楽曲の中に組み込まれたテクニックなども後で気付きます。マスタリングのプロセスというのは非常にテクニカルな作業なので、作業中はあまり楽しむ余裕はないかもしれないです(笑)。

——なるほど…。

スチュアート:とても面白いお客さんがいまして、セッティングがピタっと合った瞬間に突然踊りだしたんですよ。そのお客さんにとっては私のセッティングがバチっと決まったからなんですが、そういった光景に立ち合うとすごく嬉しいですし、それがマスタリングの醍醐味でもあります。

——スチュアートさんが所属するメトロポリス・スタジオの魅力はどこだとお考えですか?

スチュアート:マスタリングルームにコンソールが1つしかなく、環境的に、もっとできることがあるのにできない、というようなスタジオも多い中、メトロポリスはコンソールにしても、機材にしても、様々な組み合わせを試して最高のサウンドを引き出せる環境が整っていますし、いい音楽のため、そして顧客の高いレベルの要求に応えるため、様々なチャレンジをしていくスタジオであると思います。

——どのような要求にも応えられるような準備があるということですね。

スチュアート:そうですね。ただ、最近は自宅スタジオなどでレコーディングやミックスダウンした作品のマスタリングを依頼されることもあるんですが、超一流のトッププロデューサー、ミュージシャン、スタジオを使って作り上げられた、お金のかかった楽曲を参考にしてほしいとリクエストがあったりするんですね。これは厳しい要求です。そもそもマスタリングでできることには限界がありますからね。「ギターを上げてボーカルを下げてください」というリクエストを受けることもありますが、それはミックスダウンでやることであって、マスタリングは周波数で上げ下げするので、同じ周波数帯にあると調整が難しい場合もあります。

——無茶なリクエストも多いんですね。

スチュアート:それでもやりたいことはわかりますし、トライはしますよ(笑)。

——直近ではどのような作品を手がけられたんですか?

スチュアート:チェイス&ステイタスというイギリスのドラムンベースのアーティストです。あとはLUNA SEAのニューシングルですね。あと、ここではまだ発表できませんが、日本のあるビッグアーティストの作品もリリースを控えています。

——個人的に好きなアーティストや作品はありますか?

スチュアート:色んなジャンルの音楽を日々聴いていますので、どのジャンルも好きなんですけども、強いて言うならデヴィッド・ボウイとかジェフ・バックリィは、仕事をしてないときに聴く音楽の一つです。最近歳をとってきたので、ハードコアテクノみたいなのはなかなか聴かないかな(笑)。

——(笑)。最後に読者へメッセージをお願いします。

スチュアート:私は誰に対してもベストなサウンドを提供するために、常にトライをし、皆さんに喜んでもらいたいと思っています。もし自分がアーティストだったら、たぶん僕に依頼すると思っているくらいです(笑)。また、新しいアーティストや才能との出会いを楽しみにしていますので、機会があったら是非一緒に仕事をしましょう!


メトロポリス・スタジオ

1989年の設立以来常にUKトップ・チャートの50%を占めるヒットを生み出してきたロンドンにあるインディペンデント・レコーディング・スタジオ。クイーンやローリング・ストーンズ、U2、アデルに至るまで多くのアーティストに愛されるヨーロッパ最大規模のレコーディング・スタジオ。マスタリング・エンジニアは現在8名在籍し、ピストルズを手がけたティム・ヤングやツェッペリンの一連のリマスタリングで知られるジョン・ディヴィスらが所属している。

お問い合わせ先:Metropolis Studios 吉岡仁
The Power House, 70 Chiswick High Road, London W4 1SY
Metropolis Studios | Europe’s Best Recording & Mastering Studios in London UK
Phone:+44 20 8987 7543
E-mail:hitoshi.yoshioka@thisismetropolis.com


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