メディアからライブハウス運営まで、ロックを軸に独自展開 — 激ロックエンタテインメント代表 村岡俊介氏

インタビュー フォーカス

村岡俊介氏
村岡俊介氏

 ロックをメインとした音楽WEBメディア「激ロック」「Skream!」を運営する激ロックエンタテインメントが、2015年6月に下北沢にてライブハウス「LIVEHOLIC」をオープンする。DJイベントからはじまり、フリーマガジン、WEBメディア、Music Bar、アパレル等々、次々に事業展開を進め、音楽シーンでオリジナルな存在感を放ち続ける激ロック。代表の村岡氏にその背景を伺ってみると、リスナーに寄り添い、しっかりと現場経験に裏付けされた丁寧かつ大胆な経営スタイルが垣間見えてきた。

(Jiro Honda)
2015年4月22日掲載

PROFILE
村岡俊介(むらおか・しゅんすけ)


1999年、大阪にてDJイベントをスタート。2007年5月、激ロックエンタテインメント(株)設立、2010年同社代表就任。DJ・ライブイベントをはじめ、フリーマガジン、WEBサイト、Music Bar、アパレル、ライブハウス等々、ロックを中心とした音楽に特化し、幅広く展開している。
激ロックエンタテインメント(コーポレートサイト)
激ロック
Skream!
GEKIROCK CLOTHING
MUSIC BAR ROCKAHOLIC
下北沢 ライヴハウス LIVEHOLIC

 

  1. ライブハウス展開 自然な流れで
  2. 慎重かつスピードのある経営スタイル
  3. クロスメディアやアパレルへの展開
  4. シーンとバンドを繋げていく
  5. 今後も「ロックに関連したことをやっていく」

 

ライブハウス展開 自然な流れで

—— 今回、激ロックがライブハウスの運営を手がけることになった経緯というのは?

村岡:現在、激ロックでは事業の一つとして渋谷でMUSIC BAR「ROCKAHOLIC」を運営しているのですが、その2号店を下北沢に出店しようということで、以前から物件を探していたんです。やはり下北沢は、渋谷と同様に音楽の街ですし、個人的にも思い入れのあるところなので。それである時、ライブハウス下北沢屋根裏さんが入られているビルで空きが出たので内見しようということになったんですけど、実はフロアが2つ空いてると。会社の事業としてライブハウスの運営というのは、立体的にロックシーンを形成していくという意味で遠い将来の事業としては考えてはいたんですが、僕の中でそこまで優先順位が高いものではなかったんです。でも、スペースもあることだし立地も良くて、「バンドマンに愛されるライブハウスとMUSIC BARが上下階で繋がっていたら最高だよね」ということで本格的にライブハウス事業に取り組みはじめました。

——とすると、最初からライブハウスをやろうとして物件を探していた訳ではないんですね。

村岡:もともと、僕は会社を経営するにおいて長期的にガチガチの計画を立てるタイプではないんですね。音楽シーンは本当に動きが早いですから、その中で展開するにおいてMUSIC BARもロックのアパレルショップ「GEKIROCK CLOTHING」も、やろうと思い立って実際にオープンするまで半年もかかっていないんです。そんなスピード感で展開しているので、今回のライブハウスに関しても、いつもの僕の事業スタンスに添ったカタチで進んでいると思います。とは言っても、もちろん行き当たりばったりでやっているわけでは無く、いい素材を手に入れたときに、最善の方法でスピード感をもって一番良いカタチに仕上げるという、むしろ最も得意なことをやっている感じですね。

——音楽WEBメディアがライブハウスを手がけるというのは珍しいことですよね。

村岡:「メディアとしてライブハウスへ進出」という意識は、実はあまり無いんです。僕は以前、精密医療機器の営業という音楽とは全く関係のない仕事を10年以上していたんですけど、まだその仕事をしている時の1999年に、趣味として友人達と大阪で始めたDJイベントが「激ロック」だったんです。そのうちイベントの数も規模も段々大きくなるにつれて、イベントのフライヤーにも色々な情報を載せるようになったんですね。レーベルの方にご協力いただいて、アーティストのインタビューを掲載したりとか。それが発展してフリーペーパーという形になりました。同様にイベントのホームページが発展して、WEBメディアになりました。なので、根本にイベントがあって、そこからロックにまつわる色々なことを行ってきたので、「メディアとしての戦略」とか、特にそういうコンセプトがある訳ではないですね。

——ビジネス的というよりは自然な流れだと。

村岡:フリーペーパーやWEBメディアの時も、収益をあげようとして始めた訳ではなくて、シーンを盛り上げる為にコツコツやっていたら情報が蓄積されて、気が付いたら収益の見込める媒体に育っていたという流れです。

 

慎重かつスピードのある経営スタイル

——激ロックを会社化されたのいつ頃だったのでしょうか?

村岡:激ロックのイベントが盛り上がるにつれて、レーベルや関係各所とやりとりするにおいても、こちらがキチンとした会社組織の方が安心してもらえますし、色々な面でやりやすいということで2007年に会社化しました。ですが、前の職場がWワークのできない会社だったので、実質は僕がメインで動いていたんですけど、とりあえずは自分の父親に名前だけの代表になってもらって(笑)。僕が前の会社を辞めて、正式に激ロックの代表になったのは2010年ですね。

——長く続けられていた仕事を離れて、立場の違う「企業の代表」として再出発するにあたって不安はなかったですか?

村岡:前の仕事が役職につきそうなタイミングだったので、そこで中途半端にはできないですから筋をキチンと通そうというのと、僕より前に激ロックの社員になっていたスタッフが頑張って数字を作ってくれていましたし、会社も大きくしていかなければいけない時期でしたから、そこは覚悟を決めましたね。一般的にいえば「趣味」である音楽を仕事にできているわけですから、今の仕事で苦痛や苦労を感じたことは一度もありません。僕的には、良い意味で仕事は趣味の延長線上なので、常に楽しんでやっています。楽しく仕事に取り組んでいると柔軟なアイデアもどんどん浮かんできますしね。

 あと僕は基本的に臆病というか、石橋を叩いて物事を進める、しかも色んな角度から叩いて確かめる方で、いわゆる「自信家の経営者」というタイプではないですね。臆病だからこそ、あらゆる手段で不安を払拭しようとしますし、色々なことに気付くと思っています。

激ロックエンタテインメント代表 村岡俊介

——先ほどのようにスピード感を持ちつつも、丁寧に精査すると。

村岡:その通りで、新しい事を始める時も、閃いたアイデアを何も考えずに進めるのではなく、スタッフ含めみんなで慎重に検討を重ねて、その上でOKであれば一気に進めるというスタイルですね。

原点はDJイベント 常に現場主義&リスナー目線で——激ロックはある種シーンを形成した感がありますよね。ディストーションの効いたギターがあってスクリームやシャウトの入った楽曲を、今や違和感なくJ-POPのリスナーも聴いています。ライブに行くと、普通にみんなツーステップを踏んで、サークルモッシュが起きたりしていますし。こういったオーディエンスの行動様式の変化の背景には、やはり激ロックの存在が大きいような気がするのですが。

村岡:そう言っていただけるのは嬉しいですね。今でも僕達の原点であるDJイベントはずっとやっていて、それこそ東京では毎月やっています。そこでは、若くて音楽に敏感なリスナーに常に接することができるんです。リスナーの気持ちとニーズに本当に近い現場なんですね。イベントでは一晩で何百曲とかかるので、お客さんの反応をダイレクトに感じることができますし、そうすると、「どういう楽曲をリスナーは欲しているのか」「どんな楽曲で盛り上がるのか」「新しい楽曲をかけたときの反応はどうか」が自ずと理解できるんです。それを1999年から今までずっとやっていますから、メディアの運営においても、リスナーに寄り添ったもの、しかも現場での裏付けがあるものをきちんと届けることができるんだと思うんです。メディアとして伝えたいことと、リスナーの欲しい情報や楽曲の乖離がないというか。

——イベントの現場が、最新マーケティングにつながっていると。

村岡:しかも、特にロックのDJにおいては、盛り上がる楽曲ばかりをかけていてもお客さんは飽きるので、こちらから新しい楽曲をかけてレコメンドすることも必要で、そういったバランス感覚も自然とブラッシュアップされているんだと思います。お客さんのニーズにあわせるばかりでなく、新たな気付きのきっかけを絶妙なタイミングで提供する。そういう現場第一主義かつリスナー目線での運営を、どの事業においても心がけています。

 

クロスメディアやアパレルへの展開

——そういう長年磨かれてきたキュレーションも含めたセンスが魅力となって、それぞれの事業で支持を集めているんでしょうね。あと激ロックというと、やはりラウドなイメージがあります。

村岡:激ロックのイベントを始める前に、洋楽中心のオルタナティブ/インディーロックのDJイベントを先にやっていたんですけど、そこで激しい楽曲をかけると少し違和感があったので、激しいロックしかかけないラウドミュージックに特化したイベントとして激ロックを始めたんですね。なので、そこから派生しているフリーペーパーやWEBメディアは自然とそういうカラーになりますよね。特に狙った訳ではなく、最初の方向性自体がラウドということになるので。

激ロック
激ロック

 一方、そのオルタナティブロックのDJイベントは数回で終わってしまったんですけど、オルタナティブロックの流れを持ったものを会社の柱の一つにするというのは以前からやりたかったことなので、「激ロック」とは別にギターロック、インディロックを中心としたもっと普遍的なロックのクロスメディアとして「Skream!」を立ち上げました。

Skream
Skream!

——なるほど、クロスメディアの2つの棲み分けには元々そういう流れがあったんですね。他に、ECサイトと実店舗の両方でアパレル事業をやられていますね。

村岡:僕自身昔から、ファッションが大好きなんですけど、ロックとファッションって、日本ではあまりうまくリンクしてない時期があったと思うんですね。でも世界的に見るとそうではなくて、ファッションリーダーやセレブも普通にロックファッションを好みますし、ロックとカルチャー、スポーツ、ファッションがリンクして、格好いいものとしてずっと在り続けているんですよね。そういう部分があまり日本では根付いていないので、どうにかしたいなという想いはありました。なので、日本でもロックとファッションがカルチャーとして、海外とタイムラグ無しにリンクして欲しいという思いで取り組んでいますね。BRING ME THE HORIZONのヴォーカリスト、Oliver Sykesが立ち上げたブランド「DROP DEAD CLOTHING」の国内唯一の正規代理店を取得したりとオンリーワンなECサイトと実店舗を目指しています。

GEKIROCK CLOTHING
GEKIROCK CLOTHING WEBサイト

 

シーンとバンドを繋げていく

——実際、海外からバンドを招聘してのライブイベントも精力的に行われていますよね。

村岡:年間でだいたい5バンドぐらいを海外から呼んでいます。海外のバンドと日本のバンドを組み合わせた、リーズナブルな価格帯のライブイベントというのは代表になる前からずっとやりたくて。ファンが気軽に見に行けて、海外のバンドと日本のバンド、両方の魅力に触れることができるような場を作りたかったんです。

激ロックエンタテインメント代表 村岡俊介

 あと、以前の国内ラウドシーンって、バンドが点と点で活動している状況だったので、そこを何とか繋げてフックアップしたいというのはありましたね。当時はシーンとして盛り上がる一歩手前までは来ていたんですけど、旗振り役となるバンドがいなくて、あともう少しという感じだったので、僕らがバンド同士、そしてバンドとお客さんを繋げるように動いたことは、シーンが突き抜けるきっかけの一つにはなったんじゃないかなと思います。あと、「繋げる」ということで言えば、良いバンドがいたらレーベルさんに紹介させていただいたり、バンドの電話番号を教えたりとか(笑)、そういうこともしていますね。

——村岡さんが繋げたからこそ、世に出ているバンドも多くいるんでしょうね。

村岡:いえいえ、レーベルさんをはじめ音楽業界の方からも、僕ら自身が気付かないようなアドバイスをいただくこともありますし、やはりみなさんのご協力があってこそです。

 

今後も「ロックに関連したことをやっていく」

——そうやって色々な立場からロックに関わっている村岡さんの目には、昨今のロックシーンはどう映っていますか?

村岡:洋楽でいうと、世界的にはやっぱりロックがあまり売れてない状況が前提にあって、さらにそれを日本で売るというのは、正直中々厳しいのかなと思います。ですが、今が「底」だと考えると、やはり時代はまわっているので、現状を打破する新世代のバンドがきっと出てくるんじゃないかなと感じてます。なので、未来を考えるとそこまで悲観しなくてもいいのかな。

 国内に目を向けると、世界がそういう状況の中、邦楽のロックは健闘しているので、良い意味でガラパゴス化していると思います。世界の状況に左右されずに独自のカッコいいバンドが次々と出てきていますし、カルチャーとして大切な若い世代のファンもきちんと取り込めていると思います。数千人規模の大きな会場でやれるロックバンドも数えきれないほどいるので、若いファンにはそこが入り口となるでしょうし、間口が広い状況というのはとても良いことですよね。

——ラウドロックシーンに限ってみてはいかがですか?

村岡:一見、活況を呈しているようには見えるんですが、バンドの層が浅いのが少し気になりますね。実際生きのいい若手バンドが少ないですし、割とキャリアのあるバンドが活躍しているという状況なので、今後はフックアップしたいと思わせてくれるような若い才能が台頭してくるのを期待しています。

激ロックエンタテインメント代表 村岡俊介
MUSIC BAR ROCKAHOLIC にて

——本当に幅広く展開されていますが、更なる新しい構想はありますか?

村岡:今後も恐らく色々なことを手がけていくとは思いますが、基本的には「ロックに関連したことをやっていく」ですね。少し広がったとしても、音楽に関係のあることしかやらないと思います。時々「激ロックって色んな事やってるね」って言われるんですけど、全て音楽に関係していることしかやっていないんですよね。音楽に関係のないことはやりたくないですし(笑)。そこは軸として今後も変わらないと思います。ライブハウスの展開も含めて、今やらなければならないこと一つ一つに100%で取り組んで、激ロックにしかできない唯一無二のものを作り上げていきます。


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