ロンドン「Nevo Sound Studios」オーナー/ミュージックプロデューサー/レコーディングエンジニア ヨアッド・ネヴォ(Yoad Nevo)氏インタビュー

インタビュー フォーカス

ヨアッド・ネヴォ(Yoad Nevo)氏
ヨアッド・ネヴォ(Yoad Nevo)氏

イギリス・ロンドンのレコーディング・スタジオ「Nevo Sound Studios」のオーナーであり、ペット・ショップ・ボーイズ、デュラン・デュラン、ブライアン・アダムスなど海外大物アーティストの作品も多数手掛けるミュージックプロデューサー/レコーディングエンジニア/マスタリングエンジニア、ヨアッド・ネヴォ(Yoad Nevo)氏。今回のFOCUSは、アナログと最新オペレーティングシステムを融合させたこだわりの「Nevo Sound Studios」やヨアッド・ネヴォ氏ご自身について、さらに、イギリスの音楽事情に至るまでお話をお伺いしました。

[2012年2月3日 / 渋谷区道玄坂 株式会社スターチャイルドにて]

プロフィール
Yoad Nevo(ヨアッド・ネヴォ)
「Nevo Sound Studios」オーナー/ミュージックプロデューサー/レコーディングエンジニア/マスタリングエンジニア


彼の音楽に対する感性と磨き上げられた音響テクニックは、アーティストの創造力を最大限まで引き出し、新しい独特な趣向と新鮮なサウンドを持つ作品を生み出している。このことがPet Shop Boys,Bryan Adams,Duran Duran,Girls Aloudのような世界的ミュージシャンの支持を集め、製作を共にし、世界中で賞賛されるプロデューサー・エンジニアの一人にまで登りつめさせたのだろう。

イスラエル出身のヨアッド・ネヴォは20代の頃、そのころのイスラエルの音楽シーンで作り出されることがなかったような新しい音響テクニックを身につけ、イスラエルの多くの有名ミュージシャンのレコーディング、プロデュースに携わった。その後、さらに腕を磨くため、ロンドンに移住。徐々に彼の創造性とテクニックが認められ、いくつものレコーディングプロダクションからの声がかかり多大な評価を受ける。

ヨアッドの初期の試みは、レコーディングやミキシングに留まらず、自分自身で音声を分解したりつなぎ合わせたりと試行錯誤するようになる。後に、今ではソフトウェアで大きな実績をあげているWaves Audio社に参加しレコーディングスタジオのコンサルタント、プラグインの開発からデザイン、設計までも担当する。今日リリースされているWaves Audio社のほとんどの商品にヨアッドは関わっている。

また、ヨアッドは2008年に、自分が今まで経験した上でのミキシング、プロデュースのテクニックを記した著書「Hit Record」を出版している。自分の得たノウハウを、今からを担う若い世代に継承していき、そこから生まれた新たなアイデアがより音楽を躍進させることができれば、と考えるヨアッドの謙虚で、情熱的な音楽への考え方の集大成がそこにあるといえるだろう。

彼のミックスした作品、プロデュースした作品は初期から今現在にかけてでもかなり様々なジャンルに広がっている。TOP10入りを果たしたオルタネイティブポップバンドJemの「Finally Woken」,クラブサウンドSophie Elis Bextorの「Murder on the Floor」,インディーロックバンドDandy WarholsやThe 80’s Matchboxなど様々であり、更にPet Shop Boys, Sugababes, Girls Aloud, The Bangles, Air, Goldfrapp, Morcheeba, Bryan Adams, Duran Duran, Moby, Dave Gahanの有名ミュージシャンの作品にも関わっている。どの作品にも最高のパフォーマンスで彼らの音楽に息を吹き込んでいる。

 

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  3. ロンドン「Nevo Sound Studios」
  4. 著書『Hit Record』

 

1.

——Nevo Sound Studiosはどのようなスタジオでしょうか?

このロンドンスタジオは温かみのある音と独特な音を作り出す、アナログコンソールNEVE V51を主体にしており、コンソールのチャンネルはWaves社によって設計されています。NEVE V51は全てのデジタル機器と最高のマッチングを持っている世界最高峰のコンソールです。

——なぜロンドンにスタジオを構えたのでしょうか?

ロンドンは世界の中でも最先端の音楽が集まる重要なプラットフォームであり、
いつでも音楽産業の先頭を走っていける場所だからです。

——他のスタジオにはない特徴やこだわりはありますか?

私のNEVEコンソールは、私が求めている音に対応できるようカスタマイズされたもので、実際私自身がWavesプラグインの開発者であることから他のプロデューサーやエンジニアが持っていない新しいテクノロジーを駆使できるような設計になっています。私とこの特別なNEVEコンソールが唯一無二のサウンドを生み出しているのです。

——デジタルオーディオについてもプログラムを開発し、著書を出版されているそうですね?

「Hit Record」の出版が成功してそれが市場で脚光を浴びた後、日本語訳された「Hit Record」が日本で発売されることが決定しました。私にとってこのことはとても嬉しいことでしたし、誇りにも思いました。この本が日本で広まり、いろんな音楽の現場で参考になれば嬉しいですし、日本の読者に新しい知識や手法を得る楽しさを届けられればと思っています。

——日本人アーティストがスタジオを利用したことはありますか?

まだありませんが、私はエキサイティングでおもしろい音楽に常に意識を向けています。日本の音楽は私にとって新鮮な芸術性を与えてくれるもののひとつだと思っています。

——ネヴォさんご自身についてもお伺いしたいのですが、どのような学生生活を過ごされましたか?

よく、部屋でギターやシンセサイザーを弾いたり、録音したり、ずっと音に触れていました。

——現在に至るような環境はありましたか?

幼い時、エレクトリックギターを手に入れたのですがアンプを持っていませんでした。なんとかそのギターの本来の電気を通した音がほしかったので、色々な方法でそれを試していましたね。そのことが今の私に至る最初のきっかけです。

——本格的にプロデューサー/エンジニアを目指したきっかけは?

17歳の時にサウンドエンジニアコースを受講していました。その後、大型のレコーディングスタジオでアシスタントエンジニアとして働いていました。初めはここまで長いエンジニア人生を送ることになるとは思っていなかったです。でも、今ある自分が私の全てです。

 

2.

——その後、「Nevo Sound Studios」を設立されるわけですね。いつ頃、どのような経緯で設立されたのですか?

私は世界中の大きなスタジオで何年もエンジニアとしてやってきたのですが、その後、この経験を活かして自分独自の作業の場所を持つときが来たと感じました。自分自身で最高のアナログ環境と最高のデジタル環境を組み合わせることのできる場所を得たかったんです。この二つがうまく組み合わさった環境の中であれば、自分の創造性に限界はないと感じていますし、Nevo Sound Studiosで構築したモニタリングシステムや室内音響の精密さが今の私に音楽をプロデュースする自信を与えてくれています。

——これまで手がけられた作品は?

Bryan Adams, Pet Shop Boys, Girls Aloud, Duran Duranなど多くのアーティストと多くの素晴らしい作品を作ってきました。私は音楽の多様性が好きで、今まで手がけてきたどのアルバムも違いますし、これから手がけるであろう作品もきっと違うものになるでしょう。こういった取り組みがいつでも私に新鮮なものを与えてくれて、同じ手法を使わずに新しいアイデアや試みを追求していく糧になっていると思います。また、それが広い視野を持たせてくれていて、過去に手がけてきたジャンルから「借りてきた」手法やテクニックが今現在取り掛かっている作品に活きているのです。

——得意な音楽ジャンルはありますか?

主に、ダンスポップからインディーロックまでのポップス・ロックが得意で、そういった音楽にエレクトロニックの要素を結びつけて音楽を完成させるのが好きです。

——作品を作る一連の流れの中で、どういった所に気を遣われますか?

どの作品もそれぞれ違いますが、どの曲でも最大限の可能性を引き出せるように心がけています。私には「アルバムトラック」という考えはなく、全てがアルバムのメインになるように制作に向き合っています。

——印象に残っている作品、エピソードはありますか?

Bryan Adamsとの仕事はとても印象に残っています。彼は、本当に人間味のある人物で、彼の音楽に対する信念には賞賛に値するものでした。また、Jemのファーストアルバム「They」の仕事など、アーティストの処女作品に立ち会えるのはとても感動的なことですね。

——日本では近年、音楽産業の不振でレコーディングスタジオの閉鎖が相次ぎ、スタジオへのレコーディング予算も削減され、大変厳しい状況におかれています。イギリスではいかがでしょうか?

残念ながらイギリスでも同じような状況に直面しています。今現在全ての音楽産業は変わりつつあり、その中でも過渡期に突入しようとしています。レコーディングスタジオを含め、音楽レーベルなど、この状況下で生き残っていくのが厳しいということは非常に残念です。

——今後のイギリスの音楽産業はどのように変化すると予想されますか?

どこの国とはいわず、ミュージシャンが自宅で曲を作り、それを自宅で録音・編集するという今や当たり前のやり方がこれからもずっと続いていくと思います。しかし、彼らが次のレベルアップを図るためにはプロの耳と経験が必要になるはずです。その時のために私がいるのです。

——今後、どのようなアーティストの作品を手がけたいですか? また、具体的な展望や目標はありますか?

今後、日本の音楽シーンにも深く関わっていきたいと思っています。私にとって日本の音楽シーンは新しいものばかりで、そこから新しい音楽に対するアイデアや流行を私の経験を使って生み出すことのできる素晴らしい機会だと思っています。

——それはとても嬉しいお言葉です。ネヴォさんが手がけられた日本人アーティストの作品が世界中に発売される日がくることを心から願っています。貴重なお話をありがとうございました。

 

ロンドン「Nevo Sound Studios」

多くの大規模レコーディングスタジオが経営難に追い込まれ、そのほとんどがDAWレコーディングシステムをベースとしている昨今で、ヨアッド・ネヴォ(参加作品;Pet Shop Boys, Duran Duran, Moby, Brian Adams)はその風にあえて立ち向かい、独自で積み重ねてきたアナログの技術と最新のコンピュータオペレーティングシステムを組み込んだ大型プライベートスタジオの設立に着手した。

ミキシングルームの音響特性の細部までこだわり、綿密な音響機器の試行錯誤を重ねた末、2010年 ネヴォスタジオロンドンが完成、多くの音楽と高音質サウンドを提供している。

このスタジオには2トンもの吸音素材が音響システムを作り上げている。また、ロンドンAir Studios所属のマルコム・アトキン氏によってオリジナルカスタマイズされた60/92 Neve 5116 Console、ATC SCM-100をメインにしたモニタリングシステム、新しいものからビンテージまで特性に合わせて使い分けられるマイクロフォン、アナログシンセサイザー、デジタルシンセサイザー、壁に飾られたギター、ベースなどの弦楽器、アンプ、YAMAHAメイプルカスタムのドラムセット、そしてあらゆる種類の打楽器が用意されている。メインコンソールの前には72インチもの巨大なスクリーンも用意されている。
このスタジオをヨアッドは「ミュージシャンのためのプレイランド」と呼んでおり、ミュージシャンとエンジニアが一緒になって快適に、刺激しあいながら作品を作り上げることのできる「アイデアのハコ」の役割も担っている。

スタジオオーナー、ネヴォ・ヨアッドは語る。「ミュージシャンにとってもエンジニアにとってもたくさんの楽器に囲まれ、LogicとProtoolsで構築されたメインコントロールルームや、ミックス・サミングを可能とするNEVEコンソール、テープマシーン、数々のアウトボードなどカスタマイズされた優れた音響機器を使っての作業は本当に刺激的だと思う。だからこのロンドンスタジオですばらしい作品が生まれたし、これからも時代の先端を行くスタジオだと信じているよ」。

ロンドン「Nevo Sound Studios」

 

著書『Hit Record』

ネヴォ・ヨアッド「Hit Record」

この著書はロンドン・ヒットメーカー、ヨアッドのレコーディングにおけるテクニックや、20年以上のスタジオでの経験が生み出した彼自身の音楽の概念が綴られており、Wavesソフトウェアをつかったテクニックの一例をCD-ROMを使って読者に伝えている。プロデューサー、エンジニア、ミュージシャンの異なった方面で活動してきたヨアッドの音楽に対する独自の考えをまとめた1冊である。(2012年4月10日 公開)

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