蓮沼執太 撮影=高田梓
蓮沼執太とは何者か? それは、ソロ、デュオ、バンド、大編成の「蓮沼執太フィル」など、様々なスタイルを使い分けながら、娯楽とアートの境界線で豊かな音楽を生み続ける、唯一無二の存在。昨年リリースされた最新作『TEAM』は、ロックバンド編成の「蓮沼執太チーム」による初のアルバムで、音響派/ポストロックの巨人、トータス(Tortoise)のジョン・マッケンタイア(John McEntire)をミックスエンジニアに迎えた意欲作だ。チームの成り立ち、目指すもの、アルバムのテーマ、そして2月12日から始まるリリースツアーへの意気込みについて。類まれなるインディペンデント・スピリットを貫く音楽家、蓮沼執太の本音を訊いてみた。
蓮沼執太チーム アルバム『TEAM』ジャケット
――このジャケットのアートワーク。いいですね。
デザイナーの前田(晃伸)さんという方と一緒に考えて、ビジュアルを作っています。犬なんですけど、犬に見えます?
――見えます。可愛いです。
アートワークについて話し合った時に、ヘルシンキに住んでいるアーティスト(SERRAGLIA)の作品が面白いねということになって、それをお借りして作らせてもらいました。Wrapped Wondersという彼の作品シリーズです。布でまかれているけど、経験や知識などでなにが隠れているか予想できる。それが「みる」ということの本質を体現している作品です。お会いしたことはないですけど、建築のバックグラウンドを持ちながら現実と虚構のあいだを表現しているアーティストだと思います。
――タイトルもアーティスト名もなくて、アートだけがあって、かっこいいなぁと思います。
蓮沼執太チームを始めたのは2008年で、僕の中にあるいくつかの音楽形態の中では、ロックバンドっぽいアプローチになっているんですけど、そもそもイメージがないんですよね。ビジュアル的なイメージがないので、色がついていないんです。だからアートワークも前田さんに全振りをして、イメージを作ってもらいました。作曲的なコンセプトもなくて、昔僕がソロで作っていた曲や、蓮沼執太フィルで作った曲たちを、あえてバンドで演奏しているというものだったりするので。たとえば「この楽曲たちは悲しみを表現しているので悲しいジャケットにしてください」とか、そういうコンセプトがないんですよね。だから自由に「可愛いね」というものも落とし込める、そういうスタンスだと思います。
パソコンで音を作って実験的なアプローチをしても身体性があまり感じられなくて。自分で作った電子音を楽器に置き換えたのが蓮沼執太チームなんです。
――2008年結成ということは、今年で18年。長いですよね。
はい。でも、ライブのために組んだバンドなので、レコーディングもしなかったし、十何年やっているのに、やっているのかいないのかもわからない感じだったんですけど。
――コロナ期には、まったく止まっていましたよね。
そうなんです。そして、2024年に東京ミッドタウンでの六本木アートナイトで4年ぶりにライブをやって、それがすごく良かったんですよね。もともとは刹那的に、ライブのために組んだバンドなんですけど、「チームってこういうことでしたよね」というものを記録して残すことは、今しかできないんじゃないか?と思ってアルバムを作った、というのはありますね。
――それが、活動18年にして初めてのアルバム『TEAM』。曲は、ライブでやり続けてきたものですよね。
ずっとやってきた曲ですね。でもライブの時にしかやっていないから、1回で300人とか、そこに来た人しか知らないわけじゃないですか。音楽の本質は、やったら音は消えるということで、残るのはそれを聴いた人の記憶しかないわけで。そういうことのためにやっていたんですけど、こうやっていい形でレコーディングできたことは、自分のためというか、そういうこともあるんじゃないかな?と思っています。
――メンバーは、蓮沼執太フィルとかぶっていますよね。
全員フィルのメンバーです。
――考え方として、フィルがあって、それをスモールコンボにしたものがチームなのか、まったく別のコンセプトに基づく編成なのか。
自分でも、青写真を描いてやっているわけではないので、時系列で説明するぐらいしかできないんですけど――僕は今でもソロでやっていますけど、もともと電子音で音楽を作っていて。当時はラップトップで音楽をやるというエレクトロニカの時代で、僕も20歳そこそこだったので、コンピューターで音を作ることにハマっていて。ただ、ライブができないんですよ。パソコンで音を作って、そこでいくら実験的なアプローチをしても、結局はスピーカーを通した電子音を流すしかなくて、そこに身体性があまり感じられなくて。もっと身体的なものが欲しくて、自分で作った電子音を全部楽器に置き換えるということをやったんです。それが蓮沼執太チームなんですよ。
――はい。なるほど。
ツインドラムにして、ツインギターにして、シンメトリーにする形で、そこに僕が入って、ライブでは鍵盤と歌を歌う形でチームが始まって。それを組んだ3年後ぐらいに、さらに人数を増やして楽団にしようということになったのが蓮沼執太フィルです。なので、だんだんチームがフィルになっていったということですね。それで、フィルでアルバムを作って、ツアーもやって、大人数でやっていく醍醐味がやっぱり面白くて、自然とチームはやらなくなっていたんですけど、2年前に久々にやったらすごく面白くて、「これは残しておこう」ということになったんです。
――フィルとチームとでは、音楽性が違いますよね。
全然違います。フィルの場合は、セクションごとにヘッドアレンジだけやって、細かいところを奏者に直してもらうこともありますけど、基本的に僕が全部アレンジして、楽譜を書いてやっています。チームはその逆で、ほとんど楽譜はないです。でも即興ではなくて、アドリブと言えばいいのかな。そこが完全に違いますね。そもそも楽譜を必要としないミュージシャンで、ロック的な人が多いからということもあるんですけど。
難しいことをやっている意識はない。ただ深く聴き込めば、サウンド的な面白い差はあるし、変わった曲たちが結構ある。
――蓮沼さんの立ち位置も、フィルでは作曲と指揮、チームではプレイヤーの比重が大きい感じがして、かなり違う印象を受けます。
たたずまいが違うかもしれないですね。ギターも、フィルでは座って弾きますけど、チームでは「立って弾いてくれ」と言いますから。同じメンバーなんですけど、音楽としては全然違うもので、仕組みも違うし、五線譜に書いた音楽の常識から解放されて、のびのびやっているという感じです。トータスのカバーをやらせてもらっていますけど、20世紀の音楽と21世紀の音楽との決定的な差は、ポストプロダクションだと思っていて、その手法を生でやっているというか――どんどんいろんなものを編集して組み合わせて、という、普通はパソコン上で作るポストプロダクションを、ライブでやっている感覚があるんです。
――だから、音の組み立てがカッチリしているんですね、蓮沼チームは。同じインストでも、ジャムバンド的なものとはまったく違う。端正なループ感があって、すごく気持ちいいです。
ポストプロダクションにおいて、波形をセレクトしてコマンドC、コマンドDで反復させる、それと同じ発想で、音のコピペを人力でやっているので。たとえばクラウトロック的な、ノイ!(NEU!)みたいにミニマルなリズムをずっと繰り返しているみたいな感じに近いかもしれないです。チームは、音楽的にはアメリカっぽいニュアンスが強いんですけど、そういう20世紀が生んだロックのバイブスは入り込んでいて。ポスト・サンプリングミュージックとか、ポストDTMを経て生でやっている、という感じがあるんですよね。今、20代とかで音楽を始めた子は、自然とそういうニュアンスが入っていると思うんですけど、あらためてアルバムを作ってみて、自分で音を聴いて考えてみると、そういうふうに分析できるなという感じがします。
――それこそトータスも、ポストプロダクションを解体して生演奏するというアプローチをやっていたと思います。このアルバムにジョン・マッケンタイアさんが入っていることも含めて、ある種の指標になっていますか。トータスという存在は。
そうですね。単純にファンだというだけなんですけど。でも「ただファンだから一緒にやる」って、僕にとって初めてのことなので、単純に嬉しいですね。音作りの面でジョンに入ってもらっているんですけど、やっぱりドラムのサチュレーション(厚みと温かみ)とか、ちょっと個性的すぎて(笑)。僕もミックスをやるので、音の作り方はなんとなくわかっているんですけど、絶対自分ではやらない方法をやるんですね。録りは日本で、ずっと一緒にやっている葛西敏彦さんというエンジニアとやっていて、葛西さんはプロフェッショナルなので、あとでどう調理してもいいように、全てのレンジを広く録ってくれたんですけど、それをまったく変えてしまうというか、個性溢れる音にしてしまうので。ジョン自身がドラマーなだけに、ドラムの音作りが特に面白かったです。
――1曲目と2曲目からして、ドラムの音が全然違う。
録り音も変えていますけど、それにしてもすごいです。面白いなと思いました。
――そこは、音源になった良さもあると思いますね。
ライブだけでは味わえないものが出てきたというか。スタジオレコーディングアルバム、というふうにしたいなと思っていたので、そういうふうに落とし込めたかな?とは思っていますね。どうしてもスタジオアルバムにすると、ライブの良さが、ダイナミクスとかが沈んじゃうんじゃないか?という恐れがあったんですけど、それを失わずに閉じ込められたと思います。僕は42歳になったんですけど、20代の時に作っていたら、たぶんこんな感じになってないなと思うし、今だからこそできる感じの落とし込み方だなと思っているので、良かったんだろうなというふうに思っています。
――20代だったら、もっと荒々しくなっていたかもしれない?
たぶん、もうちょっと荒削りにしていたんじゃないかな。今みたいに、余計な肉は落とすけど、スピーディーな感じを失わないという落とし込み方は、たぶんできなかったと思います。
――このアルバムの気持ち良さの理由が、なんとなく見えてきました。
最新プロジェクトではないんだけど、それなりにテクニックが付いてきて、それがいい形でできている感じがします。みんなの力があってこそ、ですけど。
――聴いて楽しい音楽だと思います。蓮沼さんのファンは、わりとしっかり聴き込んで分析するタイプの、マニアックなリスナーが多い印象があるんですけど。
どうなんでしょうね。もうみんな、ついていけてないんじゃないかなと思っていますけど(笑)。
――そんなことはないと思いますけど(笑)。
これの2か月前に、灰野敬二さんとのアルバム(『うた』)が出てて、それは完全にエクスペリメンタルミュージックで、その後にこれを聴いたら、何がなんだかみんなわからないと思うので(笑)。それを承知でやっているんですけど、でも、そうですね、深く聴いてくれる人も当然いらっしゃいますけど、難しいことをやっている意識はないので。ただ深く聴き込めば、サウンド的な面白い差はあるし、変わった曲たちが結構あるので。
――そうですね。
12月に蓮沼執太フィルで、代官山の蔦屋書店でライブをして、翌日が『モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン』で、ぴあアリーナMMでやったんですけど、全然違うんですよね。片や100人ぐらいで、片や1万人ぐらいのキャパで。全然違うんだけど、どちらにしても音楽好きの人は聴いてくれる印象がありますね。
フィルは、コスパもタイパも全部悪いです(笑)。真似しようと思う人がいたら、絶対やめたほうがいい。
――その上で、あえて言うならライト層の、ロック的なサウンドが好きなリスナーが楽しめる音楽だと思います、蓮沼執太チームは。フィル、チーム、ソロ、灰野さんやユザーンさんとのデュオとか、いろんな入り口があって、それぞれにファンがいるという、活動すればするほど実像がわかっていくのと逆に、どんどん広がっていくというか。すごく面白いポジションにいますよね。ある意味、謎の人物というか。
謎の人物でしょうね(笑)。でもミュージシャンとかアーティストって、生き方が決まっちゃっていて、僕が生まれる前からそういうシステムが戦後に作られて、今もこうやって職業として成り立つシステムがあるわけですけど、それだけじゃないと思うんですよね、生き方って。僕はなんとかぎりぎりできているほうですけど、ユザーンなんて、そういうシステムから外れて生きている大事な先輩です。だからみんな自由にやっていいんですよと言いたいし、そっちのほうが面白い音楽が生まれてくる可能性も多いので。事務所に入って、レーベルと契約して、ドームを目指すとか、それも素晴らしい生き方なんだけど、それだけが音楽じゃないので。なかなかできることじゃないと思うんですけど、いろんなモードを作っていくのは、意識的にはやっていますね。
――本当にそうですね。
明確なビジョンを持っているわけではなく、その都度やっているという感じでしかないんですけど。続けていくことで立ち上がってくることはやっぱりあって、そういうアウトプットの一つがチームであり、フィルなんだと思います。
――正直、フィルとか、絶対採算が合わないと思うんですよ。
フィルは、コスパもタイパも全部悪いです(笑)。真似しようと思う人がいたら、絶対やめたほうがいい。もしも効率とかを望むのであれば、スリーピースのバンドを作ってヒット曲を書いたほうがいい。あんな10何人も、しかも好き勝手にやっている人たちを集めているので(笑)、人にはお勧めしないです。でも、だからこそできるものもやっぱりあって、そういう場所に携われるのはすごく幸せなことだなといつも思っているので、負けじとやっているという感じです。
――素晴らしいと思います。
そういう大所帯バンドは結構あって、この間の年末も、大友良英さんのビッグバンドを見させてもらったんですけど、大友さんのスタイルはとても指針になるし、尊敬しているミュージシャンのお一人です。その中でも集団のあり方というのは、やっぱりそれぞれにあって、大友さんも大変そうですけど、大変なりに面白い、音楽の魅力がぎゅっと詰まっているので、そういうものを信じてやっている感じですよね。
――そうですね。
僕はもともと一人で音楽を始めているので、だからこそ人と一緒にやることや、「バンドとはこういうものだ」ということを教えてくれたのはメンバーなので。リハーサルスタジオも押さえたことがなかったので、イトケン(Dr)さんに教えてもらったり。ギャラをどうしたらいいかとか、そういうことも全部教えてもらったので。
――不思議なリーダーですね。
不思議なリーダーです。でもそういったところから、音楽が作られているんですね。かっこいいコンセプトがあるわけじゃないんですけど、そういう日常的なものから、色々音楽を学び、作られているアルバムだというのは確かですね、『TEAM』は。
新しいフェーズに入っちゃっているので、よりプログレッシブなことをやりたい。普段はやってこなかったことも、取り入れてみようかなと思っています。
――そして、アルバムリリース後にツアーがあります。2月12日の東京キネマ倶楽部からスタートして、名古屋、大阪、福岡は3日連続という、かなりのハードスケジュールですけど、どんな抱負がありますか。
このツアーは自分でやると言い出したものなので、気合入ってます。もともとライブのために組んだチームなんですけど、アルバムを作ったことで、それをまたライブに還元していくというか、必然的に新しいフェーズに入っちゃっているので、よりプログレッシブなことをやりたいなと思っています。普段はやってこなかったことも、取り入れてみようかなと思っています。
――みなさんぜひ、気軽な気持ちで来ていただけると。
楽しいライブになると思います。キネマ倶楽部は、自分でライブをするのは初めての場所なので、それも楽しみですね。
ツアー『重力』メインビジュアル
――ツアータイトルの『重力』には、どんな意味を込めましたか。
ジャケットをデザインしてくれた前田さんに、ビジュアル全体をお願いしているんですけど、トランポリンを使って、空中に浮いたアーティスト写真を撮ったんですよ。そもそも音楽的なコンセプトがないバンドで、ツインドラム、ツインギター、僕という編成だけがコンセプトみたいな感じがあるんですけど、メンバー全員が空中に浮いた写真が、重力に逆らっているように見えて、それもコンセプトの一つかな?と思ったのと。あと、重力って、漢字をくっつけると「動」になるじゃないですか。その動的な感じが、チームっぽいなと思って、ツアータイトルを『重力』にしました。重力に逆らうかのように動きながら、ダイナミックにやりたいなという意味合いです。後付けも甚だしいですけど、でも嘘ではないです。
――アルバムのイメージにもぴったりだと思います。
そうやって、アートワークもツアータイトルも含めて、いろんな人のイメージが入ってきて、影響しあって何かが生まれていくというのは、すごくチームらしいし、いいなと思っています。
取材・文=宮本英夫 撮影=高田梓

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