第84回 小室 哲哉 氏 音楽プロデューサー / ミュージシャン

インタビュー リレーインタビュー

小室 哲哉 氏
小室 哲哉 氏

音楽プロデューサー / ミュージシャン

今回の「Musicman’s RELAY」は松浦勝人さんからのご紹介で、音楽プロデューサー/ミュージシャンの小室哲哉さんのご登場です。小室さんは1983年に「TM NETWORK」を結成し、1987年にリリースした「Get Wild」で一躍人気バンドとなりました。また、TM NETWORKの活動の傍ら音楽プロデューサーとして松田聖子、渡辺美里、安室奈美恵、篠原涼子など、数多くのアーティストの楽曲をプロデュースし、ミリオンヒットを連発。人気アーティストであるtrfやglobeにも参加し「小室サウンド」というジャンルも確立されました。現在では、環境音楽といったポップス以外の楽曲も制作しており、さらにプロデューサー/ミュージシャンとしての幅を広げています。今回のインタビューでは、小室さんの音楽のルーツから、新プロジェクトの概要、今後の音楽市場までお話を伺いました。

[2009年12月9日 / 港区南青山 エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社にて]

プロフィール
小室 哲哉(こむろ・てつや) 
音楽プロデューサー / ミュージシャン


●生年月日:1958年11月27日東京都生まれ。

音楽家。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ。
83年、宇都宮隆、木根尚登とTMネットワーク(のちのTMN)を結成し、84年に「金曜日のライオン」でデビュー。
同ユニットのリーダーとして、早くからその音楽的才能を開花。93年にtrfを手がけたことがきっかけで、一気にプロデューサーとしてブレークした。
以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなど、自身が手がけたアーティストが次々にミリオンヒット。
現在では、環境音楽といったポップス以外の楽曲も制作している。

 

    1. 若い頃からあったプロデューサー意識
    2. みんなで創り上げる楽曲が必要
    3. コンテンツを実りのあるビジネスに
    4. 音楽が売れる環境作りをしていきたい

 

1.若い頃からあったプロデューサー意識

−−今回ご紹介いただきました松浦勝人さんと最初にお会いになったときの印象をお伺いしたいのですが。

小室:すごくミュージシャンと会ったときに近い感覚でしたね。実際はビジネスマンなんでしょうけど、髪の毛が長いとか見た目ではなく、色というか雰囲気がミュージシャンに近かったです。

−−松浦さんとは、アイデアを出し合いながらお仕事をされていたんですか?

小室:最初は僕のアイデアを商品にしてくれるという作業をやっていたと思います。エイベックスは国内屈指のインディーズレーベルでしたから。

−−当時のエイベックスは全てが掟破りという感じでした。

小室:そうですね。国内で考えたらとんでもない飛躍だと思います。

−−そのエイベックスの飛躍も、小室さんの他とは違う明確なコンセプトやサウンドが1つの時代を築いたことが大きな要因だと思います。

小室:それはやはりエイベックスが協力をしてくださったことが大きいと思います。僕の中で松浦さんは、ヴァージンのリチャード・ブランソンが一番近いイメージですね。リチャード・ブランソンはもともとレコード屋からスタートして、レコード会社を立ち上げ、航空会社まで始めたわけで、レコード会社で航空会社をつくれるまでの資産を生み出したということは驚異的なことだと思うんですね。あとはゲフィン・レコードを売却してドリームワークスを設立したデヴィッド・ゲフィンの二人が松浦像としては思い浮かびますね。彼らにとても近い存在ではないでしょうか。

−−ここからは小室さんご自身のお話を伺っていきたいのですが、小室さんの音楽的なルーツは何なのでしょうか?

小室:70年代の洋楽がルーツですね。アトランティック・レコードもそうですし、アサイラム・レコード、ワーナーとか、レーベルで選んでいたところもあります。アサイラムには魅力的なウェストコーストサウンドがいっぱいあり、また、ワーナー傘下にはトッド・ラングレン、ヴァン・ヘイレンも所属していました。トッド・ラングレンは、ミュージシャンでありプロデューサーで、グランド・ファンク・レイルロードが一時期落ち込んていたのをプロデュース力で全米1位にまで導いたんです(「ウィー・アー・アン・アメリカン・バンド」)。あの当時はそのプロデュース力を驚異に思っていたんですね。そのあとはモータウンとかクインシー・ジョーンズのプロデュースにも影響を受けました。

−−それはいつ頃のお話ですか?

小室:中学から高校にかけてですね。

−−そんな時代からプロデューサーに注目されていたんですか? すごく早いですね。

小室:そうですね。TM NETWORKのデビューアルバムから「Produced by TETSUYA KOMURO」という文字を大きく入れて欲しいとお願いして記載してもらっていました。これは自分の資質の問題だと思うんですが、コンサートでステージに立ってセンターでピンスポットを浴びるようなことが嫌だったんです。その頃から半分表で半分裏ぐらいのほうか居心地が良かったんですね。

−−ちなみに一番最初に買ったレコードって覚えてらっしゃいますか?

小室:一番始めにレコードを買ってもらったのが小学校5年のときで、確かセルジオ・メンデスですね。あと「サン・ホセへの道」を聴いたときになぜかいいなと思ったんですね。他にもサンタナとかちょっとラテン・テイストのものも好きでした。

−−日本のアーティストはいかがですか?

小室:Charさんや山下達郎さんはすごいなと思っていました。山下達郎さんのプロデューサーでいらした小杉理宇造さんもすごい方ですよね。

−−やはり裏方にも注目してらしたんですね。

小室:村井邦彦さんもすばらしいですよね。荒井由実さんを見出したり、YMOもそうですよね。考えるとエイベックスって、アルファレコードのユーロビートがルーツになっている部分が大きいと思うんですよね。

 

2. みんなで創り上げる楽曲が必要

−−最近はまた音楽制作に没入している毎日なんでしょうか?

小室:以前よりは曲のジャンルが多様化しているので、毎回同じようなタイプのものを作っているわけではなくて、環境音楽なども作っています。多岐にわたって制作していきたいとは思っています。

−−小室さんが書かれた『罪と音楽』という書籍を拝見したのですが、50曲を一気にリリースする計画があるそうですね。

小室:そうですね。作曲家の方は年間で100曲以上作っている方もたくさんいらっしゃいますので、作ること自体はそんなにすごいことではないと思うのですが、それを本当に商品にできるかというところが大事になります。個人的には今の時代はリスタートさせていただくにはとてもいい時代かなと思っています。なぜなら楽に音楽が売れる時代ではないじゃないですか? 大変厳しい状況で、アイデアとかプランもそうだし全てのプロセスが難しい。自分だけが苦しいわけではなく、みんな苦しんでいるんだというところでとてもやりがいを感じます。

−−書籍には小室哲哉のヒットの作り方を惜しげもなく公表していらっしゃったので「いいのかな?」と思っていたのですが。

小室:書籍に書いたようなことは、もうみなさん十分に会得されていると思うんですよね。ですが、継承していきたいものは方法は様々ですが継承していこうと思っていますし、音楽に関して、ヒットのコツを書いたようなマニュアル本はどんどん出していきたいと思っています。

−−サウンドもさることながら小室さんの作られる曲は歌詞も素晴らしいですよね。

小室:これは僕の持論なんですが、メロディーと言葉が同じような感覚で出てくるような楽曲がうけるんだろうなとは思います。

−−実際作曲されるときにはいつも曲と歌詞が同時に降りてくるわけではないですよね?

小室:そうですね。でも同時のときももちろんあります。仕事を依頼していただくときに、詞と曲を一緒に、というオーダーのほうが両方上手く組み合わさったものを考えるのでいいものができるのかなとは思っています。僕の場合ですけども(笑)。でも、今の市況では、みんなの団結力みたいなものも必要なので、なるべく一曲の楽曲に色んな人が携わっている方がいいのかなという気もしますね。曲がヒットしたときに、制作、宣伝、営業と色々な部署の方が「自分もこの曲に携わったんだ」という気持ちになれますし、もっと言ってしまいますとテレビ局などのメディアやスポンサーの方たちも全部含めてみんなで創り上げるほうがいいのかもしれませんね。

−−1曲挙げるのは難しいかもしれませんが、これまで制作されたなかで一番思い入れのある曲とその理由をお聞かせ下さい。

小室:個人的には一時代を築くきっかけとなった「My Revolution」(’86年・渡辺美里)が印象的です。エイベックスの飛躍的な進化に少しは貢献できたかなという意味では、「EZ DO DANCE」(’93年・TRF)という存在はやはり大きくて、TRFでは自分でも好きなことができましたし、松浦さんをはじめエイベックスとしても好きなことができて、両者共に楽しんで仕事ができたと思います。TRFの初期の作品は「え? この曲を売り出すの?」というような気持ちは全く出てこなかったですし、本当に自分自身も好きで、売りたいと思う曲がリリースできましたね。

−−楽曲の出来や時代の流れ、スタッフとのコンビネーションと全てのタイミングがぴったりあったんでしょうね。

小室:制作から営業まですべてのスタッフが「自分も好きだな」「買いたいな」と思う作品だったと思うんです。

−−そういう状況ですと関わった人みんながハッピーになれますよね。

小室:まさにそうですね。みんながハッピーになるという感じでしたし、タイアップで関わった人たちもとても満足してくれましたね。

 

3. コンテンツを実りのあるビジネスに

−−最近アメリカではiTunesが音楽だけでなく映画やテレビ番組まで配信していますが、今後、エンターテインメント・ソフトのあり方はどう変わっていくと思いますか?

小室:欧米でアップルが成功をおさめていますが、アジアは人口も消費者の数も一番多いですからないがしろにできないけれど、結果が出せていないという現状があると思うんですね。日本はまず国として鎖国っぽくならずに、輸出商品の1つとして「エンターテインメント」をもう一度考えて欲しいなと思います。特に音楽ですね。

−−韓国なんかは力の入れ方がすごいですからね。

小室:韓国や中国は国を挙げての国策を採っているのでバックアップがすごいですよね。兵役ひとつとっても、エンターテインメントの方は多少優遇されたりしますし、それはよっぽどのことだと思うんですよね。必要なものと思われているというか。いろんな意味で自国の外需拡大だと思うんですが、日本は内需でペイできているところもあるので、まだ外需までは本格的に考えられないんじゃないでしょうか。

−−モバイルについてはいかがでしょうか? 日本では配信というとモバイルがメインでPCは出遅れてしまっていますが。

小室:モバイルのアジア基準はヨーロッパと一緒ですが、i-modeが見られるのは日本だけです。i-modeではYouTubeもiTunesも見ることができないじゃないですか? 色んなことが寸断されているんですよね。でも、日本は世界一のエンターテインメント消費国だと思うんですね。

−−逆に輸出国にもなれるはずなんですよね。

小室:そうなんですよね。コンテンツを見るための技術力はすごく評価されているのに、コンテンツを実りのあるビジネスにできていないような現状がありますよね。経済的なことになると難しい話になっていってしまいますが、みんなから愛されるアーティスト、アニメがぽっと出たほうが経済が活性化するかもしれないですね。

−−音楽プロデューサーとして、アニメ、ゲーム方面へのご興味はありますか?

小室:アニメやゲームはずっと大切にしてきましたし、これまでも一緒にやってきました。アニソンはたくさん作っていますし、最初にやった映画音楽がアニメでした。「機動戦士ガンダム」から「シティーハンター」、「ポケモン」もずっとやってきています。ゲームでは「ストリートファイター」もやっていますし、今後もそういう方たちと一緒に組んで海外に輸出していくことを考えていかなくてはと思っています。

−−日本は素晴らしいエンターテインメント・コンテンツを作ることができるけど、海外でのビジネスが下手だというような話を耳にしたことがあります。

小室:そうですね。ただ、ブルーレイディスクとか、CDを世界基準にしたのはソニーじゃないですか。ハードにもソフトにも関連できるものを世界基準にできる力のある国なのに「なぜ?」と思いますね。コンテンツを売るよりも世界基準を作ることのほうがよっぽど難しいと思うんですけどね(笑)。

−−インターネットも含め音楽なりエンターテインメントを国に積極的に支援してもらわないと、と思いますね。

小室:そう思いますね。音楽などの流行は繰り返すと言いますけれど、今回ばかりは繰り返さないと思うんですよね。今はインターネットという以前にはなかったものが中心にあって、あり得なかったことが成り立ってしまっているので。文明開化みたいなもので江戸時代の流行を今繰り返すということはないと思いますね。

 

4. 音楽が売れる環境作りをしていきたい

−−健康面で気遣ってらっしゃることはありますか?

小室:特にないんですよね。健康とは関係ないかもしれないんですけど、音楽が好きと言い続けてますが、カラオケに2時間はちょっと耐えられないので避けてしまいますね。カラオケを否定するわけではもちろんなくて、膨大な楽曲数があってそれを瞬時に出さなくてはいけないわけですから音が全部同じように聞こえてもしょうがないとは思います。カラオケ自体ももう少し何か加えるとこができれば、質を上げることはできるような気がしますね。

 先日、皆さんがカラオケで唄うオーディションに行かせていただいたんですけど、ほとんどカラオケの打ち込みなので例えばピアノのイントロから始まる曲でもコードから何から何までピシッとめちゃめちゃ揃っていて、歌い手一人だけが生身でそこにポツンといるとやはり音楽のコミュニケーションであったり呼吸がないですよね。それは上手い下手ではなく、あれに合わせるのは不可能だろうというくらい打ち込みのリズムもCならCのコードも完璧過ぎて、それに慣れてしまっていて歌うというのも酷だなとは感じましたし、癖や個性も出しようがないですよね。もちろん市況が原因というところも大きくて、生身のミュージシャンを5〜6人使うと何倍もお金がかかるわけで、打ち込みでディスプレイを使って簡単にそして安くあげなければ成り立たないと思うのでしょうがないとは思いますけど。

−−それはカラオケだけでなく、最近は一般的にリリースされる作品にも同じ傾向がみられるように感じます。

小室:今一番頼もしいのはNHKの「のど自慢」ですよ。あれは生バンドですよね。

−−え?!「のど自慢」を観てらっしゃるんですか?!

小室:いや、さすがに毎週欠かさずということではないですけどね(笑)。ふとしたときについていると見てしまうという感じですが、あれは素人さんのノリがあって真似ようとしているわけではなくて、好きな歌を好きなように唄う様を見ながらバンドの人たちが合わせていくのですごくグルーヴがあるんですよね。

−−意外なご意見で驚きました。

小室:鐘を鳴らす人もいつ鳴らすのかを伺っているという緊張感があるんですよ。「これは1コーラスまでかな」とか「鐘2つかな」と誰もが予想すると思うので鐘を鳴らす人もすごいテンションが上がっていると思うんですよね(笑)。

−−確かにそうですね(笑)。全員が生身の人間ですもんね。

小室:「のど自慢」も一つの音楽として考えると、鐘が鳴ってしまえばそこで演奏する人も唄う人も全員が止めなければならないので指揮者のような存在ですよね。長年やっていると思いますが今でも面白い音楽番組だと思います。

−−最後になりますが今後の予定をお聞かせ下さい。

小室:新しい日本初のビジネスモデルを、海外で成功している事例を取り入れながら提示できて、それが国内外のメディアにとりあげられることが一番だと思うんですね。音楽がヒットするとかは副産物にしてもいいのかなと思います。音楽からではなく、1つの環境を作って、例えばブルーレイが1つの環境だとしたら、その上に音楽がのっていて副産物としてその音楽が売れていくほうがいいと思っています。

−−globeとしての活動やステージに立たれる予定はありますか?

小室:一握りの本当のファンの方たちのためにはいくらでもやりたいなとは思っています。演奏はしたいですし、音楽が好きなことは間違いないので、好きな者同士楽しめればいいかなと思っています。でも、それを武器にして何かを、ということで済むような音楽市況じゃないと思うんですね。そんなに独りよがりじゃ駄目な状況だと思っています。

−−ポール・ポッツやスーザン・ボイルなどを輩出しているイギリスのオーディション番組(「Britain’s Got Talent」英:ITV)がすごく盛り上がって世界的な話題になっていますが、日本でももう一度オーディション番組をやる可能性はありますか?

小室:そうですね。そういうことも含めて新しいことは考えていますし、僕がやれる限りのことはやりたいと思います。エイベックスもエンターテインメント業界が活性化するための役割は担っているわけですし、エイベックスが活気づいてくれば業界全体も活気づいてくると思います。その中で今後、僕もお手伝いができればいいなと思っています。

−−本日はお忙しい中ありがとうございました。小室さんの益々のご活躍をお祈りしております。 

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

今回のインタビューは、連日の音楽制作活動でご多忙の中、貴重なお時間をいただき実現したインタビューでした。小室さんはメディアで拝見していたイメージと変わらず、物腰が柔らかく、穏やかな方で、短い時間ながらも音楽について様々な角度からお話をしてくださいました。また、国のエンターテインメント支援についての現状や、日本の音楽の輸出について、プロデューサー/ミュージシャンとしてではなく、音楽ビジネスに携わる一人として「今後、日本の音楽産業が発展するためにはどうしたらいいか」ということを考えていらっしゃったことが特に印象的でした。今後もたくさんの素晴らしい楽曲を発表してくださることを期待しております。

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