ストリーミングとソーシャルはアーティストをどう変化させたのか

インタビュー フォーカス

スポティファイジャパン株式会社 ディレクター 野本 晶氏
スポティファイジャパン株式会社 ディレクター 野本 晶氏

【特集】ミレニアル世代のアーティストが創る新たな音楽シーン

2017年3月14日掲載

 

  1. 自由に音楽を表現し、ファンと繋がるミレニアル世代
  2. Spotifyが2017年に注目する新人アーティスト
  3. “どのメディアか”ではなく“誰からの情報か”で判断する
  4. 世界中のアーティストとソーシャルで交流
  5. 今後アーティストに求められるのは音楽+人間力
  6. 最初から世界を意識してほしい

 

自由に音楽を表現し、ファンと繋がるミレニアル世代

スポティファイジャパン ディレクター 野本 晶氏:かつては「メジャーデビューを目指す」というような画一化された目標があり、レーベルが間に入らないとなかなか音楽がユーザーに届かないような状況でしたが、TwitterなどのSNSを通じてユーザーとアーティストが直接繋がれる、また自由に自分の音楽を発表できる場が増えたことで、“売れたい”より“聴いてもらいたい”という気持ちが強くなっているように思います。

ですから、ミレニアル世代のアーティストたちはSoundCloudなど収入にならないところにもどんどん音源を公開しますし、ソーシャルに音楽ストリーミングが新しく加わることで、音楽込みでユーザーと繋がっています。

また、音楽ストリーミングだと日本だけでなく世界にも音楽を届けられますから、シーン的にはこれから面白くなってくるんじゃないでしょうか。

 

Spotifyが2017年に注目する新人アーティスト

野本:今年話題になりそうな新人アーティストを紹介したプレイリスト「Early Noise Japan 2017」の中でも、The Hotpantzはアメリカで人気が広がってきています。彼らはSpotifyで最初に音源をリリースしてくれたんですが、プレイリストやオーディオ広告に曲が使用されたことで徐々に認知度が高まっていきました。

その後、日本人の方がブログで紹介したことがきっかけで、ある日突然海を渡ってアメリカでブレイクしました。LAのローカルチャートではドレイクやアリアナ・グランデと並んで4位まで急上昇しました。

ちょっと信じられないですよね。実は海外を意識して英語バージョンも録ったんですが、ランクインしたのは日本語バージョンなんです。この状況は現在進行形で広がっていて、LAからアメリカバージニア州のアッシュバーンという街のカレッジラジオのチャートで1位になり、さらに隣の州に飛び火しています。

THE HOTPANTZビッケブランカ
The Hotpantz、ビッケブランカ

野本:また、ビッケブランカもいきなりバイラルチャートいう口コミチャートの1位になりました。Spotifyには2つチャートがあって、再生回数に基づくメインチャートは人気曲は根強く順位があまり変わらないのが特徴なんですが、口コミチャートは毎日順位が入れ替わるので、ここで1位になるというのは注目しても面白いかもしれません。

これは仕込もうと思ってもなかなか仕込めないもので、他にもポルカドットスティングレイなどの新人も1位になってます。多分TwitterなどのSNSでフォロワーの多いユーザーが「この曲良いよ」と薦めたことが、この結果に繋がっているんだと思います。

 

“どのメディアか”ではなく“誰からの情報か”で判断する

野本:例えば、「『Early Noise Japan 2017』をたくさんの人に紹介したいんだけど、どんなメディアと組んだらいいかな?」って彼らに訊くんですが、「メディアはあんまり意識してない」と答える人がすごく多いんですね。「音楽情報は信頼してるユーザーさんや他のアーティストからゲットすることが多いので、どのメディアが良いっていうのは別にないです」と。

彼らはSNSや信頼してる人の口コミから、自分にとってより有益な情報かどうかを判断しているんですよね。まあ、その人が雑誌のライターさんかもしれませんが、いずれにせよ”メディアより個人”という側面が強いようです。

 

世界中のアーティストとソーシャルで交流

野本:彼らは非常に上手にデジタルを使っていますよね。ソーシャルって仕込みはすぐばれてしまうみたいで、ユーザーも気付いちゃうんですよ。ですから、アーティストのスタッフのツイートであったとしても、本当に「良い」と思って発信しているものの方が共感を得て広がりやすいと思います。

また、海外だとアーティスト同士がソーシャルで交流するんですね。ソーシャル上でお互いの曲を褒め合ったりして、その結果コラボレーションが生まれたり、フィーチャリングで一緒に曲を作るようなことがすごく活発に起こっています。

日本でも日常的にそうしていきたいという想いもあって、今回「Early Noise Japan 2017」に1人だけJess Connelyというアジアのアーティストを入れました。彼女はフィリピンのインディーズ・アーティストなんですが、歌が本当に上手いです。

Jess Connely
Jess Connely

野本:彼女は「日本でピックアップされるなんて信じられない」と言ってましたが、こういったプレイリストなどを通じて、日本と海外で活発な交流が生まれればいいなと思っています。そのきっかけをSpotifyで作っていきたいですね。

 

今後アーティストに求められるのは音楽+人間力

野本:最近ではEDMもトロピカルハウスが流行しているように、全体的にゆったりしたサウンドが音楽的なトレンドになるかなという予測はあるんですが、デジタル世代のトレンドとして、人間力というかアーティスト自体の存在感がすごく求められるようになってきていると感じます。憧れられる何かを音楽的にも人間的にも持っているかどうかが重要かなと思います。

そのためにもアーティストたちには、とにかくたくさんの多様な音楽を聴いてもらいたいです。その体験が新しい音楽を生み出すと思いますし、Spotifyのようにたくさんの音楽に出会う環境が今はありますから、アーティストにこそたくさんの曲を聴いてもらいたいなと思っています。

 

最初から世界を意識してほしい

野本:音楽業界の方やアーティストに限らず、日本の市場がまず大事というのは間違いないんですが、日本で実績をつくることと、世界に出ていくことをあまり分けずに考えて欲しいなと思っています。

特にSpotifyでは、日本でやったことが世界に広がる可能性もすごくありますから、最初から世界を意識してほしいですね。どこでブレイクするか分からないですから。

今となってはアーティストのほうが海外を意識していると思いますし、僕らも大きな成功というのはこれからですが、例えばThe Hotpantzはアメリカで、illionがドイツやフィンランドで、など海外での成功事例も生まれはじめていますので、そういったチャンスを是非、意識してもらいたいですね。

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