音楽の新しい楽しみ方の提案 〜 ソニーミュージック、楽曲・PV等を収録したスマートフォン端末(Android OS)向けの「アルバムアプリ」リリース

インタビュー フォーカス

ソニー・ミュージックネットワーク マーケティング部 次長 高 泰一氏
ソニー・ミュージックネットワーク マーケティング部 次長 高 泰一氏

話題の作品、アーティストを支える第一線で活躍中のスタッフやクリエーターにご登場いただき、作品の裏表両サイドから語っていただく新インタビューコーナー『FOCUS』。記念すべき第1回目はソニー・ミュージックネットワークがリリースした、スマートフォン端末(Android OS)向け「アルバムアプリ」を担当されている同社 マーケティング部 次長 高 泰一氏の登場です。「アルバムアプリ」は、今年8月にリリースしたアーティストアプリ11タイトルに続く試みとしてリリースされたもので、音楽、ビデオクリップ、歌詞、写真、アートワーク等をパッケージしたアプリ。10月中に無料体験版、有料版各6タイトルをリリース。今後も10作品ほどのリリース予定があるそうだ。CDやDVDに代表されるパッケージや、配信など従来のリリース手段に新たに加わった注目の「アルバムアプリ」についてお話を伺いました。

[2011年10月20日 / 港区赤坂 ソニー・ミュージックネットワークにて]

 

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    3. アルバムアプリ リリースタイトル

 

1.

——今回リリースされた「アルバムアプリ」の計画は、いつ頃から動き出したんですか?

高:去年の4月から考え始めまして、それから8ヶ月くらい話し合い、昨年末から具体化しました。当初は「簡単に作れるかな?」と思っていたら意外と苦労してしまって、結局リリースまでに10ヶ月かかってしまいました。

——企画当初はどのようなイメージをお持ちだったんでしょうか?

高:それまでにもアルバムが全て入ったアプリはリリースされていました。でも スマホという世界の中で「曲を飛ばして聴けます」といったような今までの使い方の延長でいいんだろうか? という話になったんですね。「他に何かあるんじゃないのか。では、何をするのか?」、その行き先の姿を話し合って見つけて、スタッフが共有するまでに時間がかかりました。

——今回のようなアプリは他のメーカーさんでは発売しているんですか?

高:他のメーカーさんも作られているという噂も聞きますが、まだ見たことはないです。

——宣材としての無料アプリはプロダクションでも出していますが、今回ソニーミュージックさんは商品として出しているわけですよね。

高:そうですね。CDやDVDといったパッケージがあり、楽曲ダウンロードがあり、携帯やスマホもどんどん進化していく中で、「新たにアーティストが表現できるものは何か?」と考えた場合、それがアプリだったということです。ですから、最初からアプリありきというよりは、スマートフォンで音楽を伝えるため表現する手段は何かというところから始まったんです。

——「アルバムアプリ」に先行して、今年8月には「アーティストアプリ」をリリースしていますね。

高:ええ。アプリを2種類作っていまして、一つはアーティストアプリです。これはホームページに代わるのもので、もう一つが今回リリースした「アルバムアプリ」になります。

——音楽の楽しみ方の一つのツールということで、今後、これをパッケージに代わる商品として考えているんですか?

高:販売している以上はもちろんたくさん買っていただきたいですが、代わるものとは考えていないです。現状、マーケットとユーザーを見ると、やはりパッケージと単曲・アルバム配信は当分続くと思います。その中で「こういう楽しみ方もあるよ」と、提案をしてみたというイメージですね。

——まだ実験的な面も強いと。

高:世にない物を形にすると言いますか。あまり前例がないですから、意識を共有することに苦労しまして、そこに一番時間がかかってしまいましたね。ある程度コンセプトが決まるとそこからはスムーズに行くんですが。

——「アルバムアプリ」はアーティストごとにコンセプトが違うんですか?

高:そうですね。例えば、UVERworldはパズルみたいな簡単な動作をしてから、楽曲などを選択するようになっています。1つ1つ手順を踏んで、ビデオが見られるといったような感じですね。Lil’Bは、背景以外のイラストをメンバー本人が書き下ろしてくれました。昼の街、夜の街を徘徊しながら楽曲やビデオなどを楽しめるようなコンセプトになっています。

——毎回そういった手順を踏まないとメニュー画面は見られないんでしょうか?

高:いえ、それだと大変なので、簡単に音楽を聴けるプレーヤーも付いていて、普通に音楽を楽しむこともできます。アルバムアプリは、音楽を楽しむだけでなく、アーティストの世界観に合わせて作っていますので、その世界観にたっぷり浸っていただくために、こういったアトラクションも取り入れました。プレーヤー主体のアプリでしたらテンプレート化できそうですし作るのも早いと思うんですが、今回は特にアーティストの世界観を大事に作成してますので時間もかかってしまいました。

——ただ、やれることが無限にあるので、やり出したらきりがないですよね。

高:そうなんですよ。色んなアイデアが出るので、それを削るほうが大変です。今回はあくまでもCDの限定盤などの延長で、雰囲気としてはデジタルブックレットという感じで制作したんです。ただ「これが次からの新しい楽しみ方だ」と偉そうに言うようなものではなくて、「こういうのはどうですか?」と提案するような気持ちで制作していました。

 また、今回のアプリを見て「こういうことができるんだったら」と新しい発想での作品ができるかもしれないですし。今回はたまたま開発期間の問題や、どういうものが出来上がるのかがわからなかったこともあったので、ちょっとしたミニベストみたいな感じになっていますが、今後は新曲に合わせて世界観を作り込んだり、表現や楽しみ方の可能性を広げるための一歩になればいいかなと思っています。

——ユーザーの反応はいかがですか?

高:無料版はたくさんの方々にダウンロードしていただきまして、良いリアクションもいただきました。Twitterなどを見ると、迷ってらっしゃるユーザーからは「¥1,260円はちょっと高い」という書き込みも見受けられますが、実際に購入していただいたユーザーからは「5曲に2クリップが入っていてこんな楽しみ方ができるのだったら安い」という反応もいただいています。

 

2.

「FOCUS」アルバムアプリ高 泰一氏

——Android用のアプリを作る場合、機種によって規格が違うので、それぞれに対応するのが大変だという話を聞きますが。

高:その通りです。Androidの場合、OSも複数ある上に、端末も1つ1つメーカーによって違うので、1つバグを直すと別の機種で不具合が出てきたりとか、そういう問題がありますね。OSが一緒でも機種によって振る舞いや画面の大きさが違いますし…、色々大変ですね。

 Androidのスマートフォンは今50機種以上あるんですが、実際アプリのプログラムが出来上がってから動作確認に2ヶ月くらいかかりました。不具合を直して確認してはまた直したりと、その繰り返しですね。たまたま窓口というか、ハブになっているのはうちの会社ですが、SMNだけで製作したのではなく協力いただいたたくさんの部署や会社があってこそ出せたという感じですね。

——これからはタイトルの数だけその作業を繰り返していくわけですよね。大変すぎますね。

高:CDでいうと文字校正をずっとやっている感じですからね。バグがないかとか、文言は合っているかなど一つ一つ確認しています。また、例えばページをめくるとき、iPhoneは実際にページをめくるようにヒラッとなるようなプログラムが既にあるんですが、Androidにはないので、同じように表示するためにはゼロからプログラムを作らないといけないんですね。画角も色々あるので、写真を見せるにしても引き伸ばし方や位置がおかしくならないように1つ1つプログラムを組まなくてはいけないですし、文字の位置を少しずらすだけでも大変です。

——その他に今後の課題はなんでしょうか?

高:アプリをダウンロードする際に、Wi-Fiでしたら5分程度なんですが、3G回線だと30分くらい時間がかかってしまうんですよ。ダウンロードを軽くするために、ファイルをアトラクションファイルと、曲やビデオが入っているコンテンツファイルの二つに分けているんです。それでも、音楽だけだとそれほどではないんですが、ある程度のクオリティのビデオだと重くなってしまうんです。ですから、途中で電波がとぎれた場合、最初からやり直しじゃなく、切れたところからダウンロードが再開できるようにプログラムを作りました。その他の使い方でも、自分がユーザーだったらと、内容以外の部分も丁寧に考えましたね。

——ソニーミュージックさんは常に新しいものに取り組んでいらっしゃる印象が強いです。

高:それはたまたまだと思います。他社さんも「どうしたらユーザーが音楽を楽しんでくれるだろう?どうしたらユーザーに届くだろう?」と常に考えていらっしゃると思います。

——今後、アルバムアプリを出すアーティストのセレクト基準はありますか? 例えばアプリを買ってくれるファンの多そうなアーティストですとか。

高:そういう面よりもアプリに対して興味を持ってくれて「こんな事をしたいんだけど」と声があがってきたら面白いと思います。アーティスト自身がよりクリエイティブな考えを持って進めてくれた方がきっと良いものができるでしょうし、今回もアーティストやレーベルをはじめ、いろいろな方々の協力があって完成できました。

——より良いものを作るためにはアーティストの協力が必要ということですね。

高:もちろんです。手探りでやるのと、理解があった上でやるのとでは全然違うと思います。表現がアプリというだけです。私たちは常にアーティストの世界観だけは失わないようにと思っています。できれば大量生産したいという気持ちもなくはないですが、今回はそれぞれのアーティストのイメージを丁寧に表現しながら作りました。

——アルバムアプリが音楽の新たな楽しみ方として定着したら可能性がどんどん広がりますね。

高:スマートフォンが普及して、手のひらや指先で手軽に楽しめるエンターテイメントが増えたと思うんですが、「音楽も楽しいんだよ」ということを常に何かしらの方法で届けられたらと思います。僕は今デジタルの部署にいますが、それがアナログLPでもライブでも、素敵なアーティストがいて、感動する音楽があって、ちゃんとユーザーに伝わって楽しんでもらえるという関係が続けばいいなと思っています。アルバムアプリはそのための1つになってくれたらいいですね。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

 

インタビューを終えて

実際にお話をうかがって、「アルバムアプリ」という商品の開発・制作には、想像以上の時間と労力が費やされていることが実感できました。また、ユーザーに受け入れられるかが未知数な中での制作は、SMEという企業のチャレンジ・スピリットがなければ到底実現しなかったのでは、とも思いました。音楽業界にとっても、あとに続く人たちにとっても、「アルバムアプリ」が新しい表現手法として成功をおさめてくれることを心から願っています。

 

アルバムアプリ リリースタイトル

アルバムアプリ JASMINE『COLORS』
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アルバムアプリ LilB『Dear My Town』
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アルバムアプリ UVERworld『Neo SOUND CUBE』
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アルバムアプリ 中島美嘉『MOVIES』
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アルバムアプリ SCANDAL『CANDY BOX』
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アルバムアプリ Zeebra『Android』

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