【全文掲載】Apple Musicはなぜ日本で強くて世界で弱いのか?【榎本編集長のMusicman大学 #1】
MC:Kenta:榎本さんはミュージックマンでビジネスニュース、毎日の音楽ニュースをいろいろ取り上げていると思うんですけど、反響が大きかったニュースって何なんですか?
榎本:「音楽サブスクの市場シェア Spotify安定の首位、AppleMusic不調、YouTubeMusic好調」という記事がバズりました(収録時)。これは世界の話で、AppleとSpotifyでシェアが結構格差があるのが日本人に意外だったみたいですね。
MC:Kenta:日本って一体どうなってるんですか?
榎本:最新のデータっていうのがなかったんですけど、それに準じるデータとしてGEM Partnersさんっていうところが調査したZ世代がどういう風に音楽を聴いてるかっていうデータがあって(「GEM Partnersがサブスク・CD・ウェブほかチャネル横断で調査、最も音楽が聴かれたチャネルはYouTube」)。
YouTubeが一番強いのは当然のことで、2番目がSpotifyで、AppleMusicはSpotifyの大体6割ぐらいの力があるんですよ。60%ぐらい、Spotifyの戦闘力が20万8000だとしたらAppleMusicの戦闘力は12万8000みたいな、そんな感じですね。とは言っても、まだ戦える範囲じゃないというか、ドラゴンボールで言うとね。
でも、グローバル世界だと、Spotifyは32%に対してAppleMusicは12%なわけですよ。3分の1ぐらいのパワーなわけですよね。この差がどうして起こっているのかっていうところで注目を引いたのかなと思って見てます。
MC:Kenta:2強だと思ってたんですけど、なんでそんな差がついてるんですか?
榎本:日本人ってiPhoneが大好きなんですね。iOSのシェアっていうのが6割ぐらいあるんですよ。対して世界ではiPhoneのシェアって3割切ってるぐらいなんですよね。日本人は6割、世界だと3割。理由は簡単でiPhoneが高いからですね。世界は新興国っていうか、日本人よりも所得の低い人が多いんで、どうしたってiPhoneのシェアが下がるんで。
僕もですけど、日本人は大体やっぱiPhone持ってるからApple Music入るわけですよ。iPhone持ってないけどApple Music入るよって、なかなかないんで。そうすると世界でApple Musicっていうのは徐々にシェアが低下してしまうっていうことが起こってるわけですね。
MC:Kenta:Spotifyってなんでそんな強いんですか?
榎本:これは皆さんも実感してると思うんですけど、まず基本無料っていうのがありますよね。基本無料っていうのはApple Musicにはない。Amazon Musicもアマプラに入ってたら使えるから、なんとなく無料っぽいけど、基本無料っていうのはないですよね。それで入りやすい、接しやすいっていうのがあります。
あともう一つはやっぱりSpotifyが最初に出てきたんですごくこなれてるというか、ノウハウがたまっているので、UIが特に使いやすいですよね。使い勝手がいいんで、そこは一日の長があるかなっていう。それが大きいんじゃないかなと思います。
MC:Kenta:このTencent Musicって何なんですか?2位にあるTencent Music、15%です。Spotifyの半分ぐらいあるけど。
榎本:これは中国の音楽サブスクです。中国限定なんで我々は知らない。中国は逆にSpotifyは使えないんですよ。GoogleとかXが中国で使えないのと一緒で、代わりにこのTencent Musicの音楽サブスクを使ってるんで。これだけで1億2000万人が使ってるんですけど、中国人の、それだけでもすごいですよね。日本の人口を超えちゃってるんで、そういうことですね。
独自の囲いみたいな感じになってるんですよね、国の中で。中国政府が自国のIT産業、あるいは音楽産業を育てるために、国産のものしか使えないようにしてるんで、そうなったってことです。
MC:Kenta:Apple Musicが不調ということなんですけど、これはまた何でなんでしょう?
榎本:まず、サブスクの市場規模がどんどん伸びてるんですね。だけど先進国ではもういい加減、そのサブスク普及が終わりまして止まってるんですよ。それが今、大きな課題になってます。日本は遅れたんで別ですけど。
「これからサブスクの時代だ」って、もう10年以上言ってて、いよいよ普及が止まったんで。それでも新興国では世界全体でサブスク増えてるんですよ。新興国の方が人口多いじゃないですか。しかもその人たちはiPhone高いから使わないんですよね。そしたら相対的に、どんどんシェア下がっていきますよね。そういうことだと思います。
MC:Kenta:Amazon Musicが10%のシェアということで低下してるってことなんですよね。Amazonはアマプラで、いろんなアニメもあるし、日本の中では増えている印象があると思うんですけど。
榎本:Amazonはどんどん使う機会も増えて、「それだったら入っちゃうかな」っていうね、有料会員に。Amazonって、さっきの話と同じで新興国には基本的にはないですよね。中国にもないし、そういう貧しい国、あんまりインフラの整ってない国ではそもそもああいう通販のビジネスできないじゃないですか。だから新興国にはないんですよ。
基本的にはAmazonは、さっきのApple Musicと一緒で、新興国のシェアが相対的に伸びていけば伸びていくほど、先進国はサブスクみんなやってて、新興国のサブスクのメンバーが増えてるので、そうすると相対的に減っていってしまうということですね。
MC:Kenta:YouTubeは好調ということなんですけど、これもちょっと説明してもらってもいいですか?
榎本:これもさっきの新興国と関わりがあって。日本だとYouTube Musicも伸びてるんですけど、例えばアメリカはYouTube Musicは伸び悩んでます。それはさっき、Spotifyもアメリカでは伸び悩んでます。それはもうサブスクの普及が終わったんで伸び悩んでるんですけど。
でもYouTubeがこの中で一番伸びてるのは、新興国の皆さんは音楽にもともとお金使ってないんですよ。無料で音楽を聴くのが基本だ。それは我々先進国でもMP3が流行った頃、あるいはサブスクが出る前、YouTubeだけがあった時は、基本音楽無料で聴く若者が多かったと思うんですけど、同じことが新興国で起こってたんですね。
音楽を無料で聴く時はYouTube使ってたんですよ、新興国の皆さん。だけどある程度所得も増えてきて、スマホも普及が始まって各自、スマホで音楽を聴くんだったら、やっぱりサブスクに入っておいた方が便利だし使いやすいし、音楽も楽しめるってことで入り出すんですけど、さっきのSpotifyと同じですね。
Spotifyは基本無料で囲い込んで、それでスマホで使うんだったら有料入った方が便利だよねっていうことで、そういうビジネスモデルを作ったんですけど、同じことがYouTubeで起きている。新興国の皆さんは基本無料で音楽を聴く、その時にYouTubeを使ってた。で、スマホ持つようになってサブスクに入った方が便利だ、じゃあYouTubeMusicに入ろうっていう、そういう流れができてるんです。
特にインドなんかYouTube大国として知られてるんですけど(「インドのジー・ミュージック、YouTubeチャンネル登録者数が1億人突破」)、そういう国が多いんで、YouTube Musicはもう伸び盛り。もしYouTube Musicっていうだけの株とかがあるんだったら、ここが一番投資したいぐらいの感じですね。
MC:Kenta:なるほど、勉強になります。先進国の売り上げって下がってるんですか?
榎本:サブスクの売上げが下がってるっていうことじゃないんですけど、今まではもううなぎ登りだったんですよ。それでそのCDが売上げ落ちてるのに、サブスクが上がることによってV字回復してたんですね。それが成長率がだんだん落ちてきて、この成長率がすごい落ちてます。アメリカでは去年、ある月によってはSpotifyの有料の加入者すら、ちょっと減ったぐらい(「Spotify、米加入者1〜2月で5%減の報道否定も詳細明かさず」)。それくらいになってます。
売上ベースで見ると、例えば音楽の売上ナンバーワンって、やっぱりアメリカなんですけどね。アメリカは先進国なんで、アメリカを例にとりますけど、大体音楽もうほとんどサブスクの売り上げです。当然ながら音楽ソフト売り上げのうち、CD売り上げとかあるいはYouTubeのような広告ストリーミングの売り上げとかあるんですけど、もうほとんどがサブスクの売り上げなんですね。
そのサブスクの売り上げが前年比で4.5%だったんですよ。4.5%だったらいいじゃんって思うでしょ。でもそれはインフレを計算してない。インフレって去年アメリカでは2.9%だったんですよ。さっきの4.5%から2.9%っていうのは1.6%しかないですよね。日本の貯金の金利ですかってくらい低いじゃないですか。もうそれくらいに落ちてるわけ。
MC:Kenta:これ世界全体でも起こってるってことですね?
榎本:世界全体でも起こってるんじゃなくて、先進国全体でも起こりつつあります。日本の場合は高価格CD、CDがすごく強かったんで、それはやっぱりCDを発明して普及させたソニーがあるんで、CD大国が続いてるんですけど、だからちょっとサブスクの普及が遅れたんです。その分サブスクはまだそれほど落ちてはないです。ただどんどんスピードは落ちていくでしょう。
MC:Kenta:日本で頭打ちになってしまったら、どうなるんです?
榎本:今まではCDがダメになったけど、これからはライブの時代だ。その後にこれからはサブスクの時代だってなったんですよ。ちょっとこれも話がまた大きくなりますけどライブも、もう大体頭打ちになってます。世界、先進国ではライブのチケットの売り上げがちょっともう限界に来てね。フェスバブルって言ってたんですけども、いっぱいフェスができて、それもフェス増えすぎて。
しょうがないんでチケットの単価を上げてきたんですね。1枚あたり3000円、5000円、1万円、これ限度がありますよ。限界が来ちゃってるんですよ。日本はベニューっていうか、ホール、会場が足りなかったんで、それを建設ようやく終わってもう一回伸びてるんで、日本はまた別なんですけど。
サブスクも先ほど言ったように、先進国では止まってる。ただ日本は例外的にちょっと遅れてる。でもいずれ来るんですよ。それが思ったより早い。日本レコード協会の月々のデータってあるんですけどね、細かく見ると長くなるんで、また別途しますけど、思ったよりもスピード落ちるのが早いわっていう僕の感覚だと1年以上、スピードが予想より早いんで、いずれ来ます。
MC:Kenta:じゃあライブの時代だと言って、ライブもどっかで止まる。サブスクの時代だと、サブスクも止まる。じゃあ次どうすれば?
榎本:世界のメジャーレーベルは「じゃあ新興国頑張っていこう」と。新興国にアーティストさんとかレーベルとか音楽カタログに投資して、新興国にライブハウスを作ってとか、そういうことに乗り切ろうとしているのが一つ。
あともう一つは、それだけだと先進国どうすんの、自分たちの本場のアメリカとか日本とかどうすんの。そこは新しいビジネスモデルを作ってます。例えばスーパーファンっていうキーワードがあるんですけど、他にも4つか5つぐらい新しいビジネスモデルを進めようとしてるし、かなり進んできたんで。これから日本の音楽業界もそういうのが目立ってきて、徐々に一般の音楽ファンの皆さんも気が付くようになっていくと思います。ちょっとここはまた次回、話せればなと思います。
MC:Kenta:安心しました。それはどうすればいいか、実はある程度答えは出てますっていうことですね?
榎本:ただ答えは出てるんだけど、こんなに盛り上がってないのはちゃんと理由があるんで、それはまた喋ろうと思います。
MC:Kenta:僕もミュージックマンの記事は日頃から読ませてもらってますけど、読んだだけじゃ結構わからないこともあるし、踏み込んでこうやって先生に教えてもらえると、非常に助かるなと思います。今日はもういろいろ勉強になりました。ありがとうございました。
榎本:どうもありがとうございました。実はこれテイク2なんですね(笑)。さっきテイク1やったら喋りすぎまして。もういっぱい喋りたいこと、喋るべきことっていうのはあるんですよ。それ喋ってたら、とんでもない時間になっちゃう。もう一回撮り直してるんですけど。
僕も13年前に言い始めて当時はオピニオンリーダーやらせてもらってましたけど、「サブスクの時代だ」っていうのずっと続いてて、サブスクの時代、一通り普及するんで終わると、じゃあどうすんの?みんなが知りたいところだと思うし、僕もいっぱい言いたいところなんで、それを喋っていきたいと思います。じゃあ次回もぜひ見ていただければと思います。よろしくお願いします。
プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)
1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載。
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