vistlip
バンドの結成記念日である7月7日に毎年ワンマンライブを開催してきたvistlip。18回目となる今年は、『vistlip 18th Anniversary LIVE[Bet On The Ouroboros]』と題してZepp DiverCity (TOKYO)で開催する。改めてファンと気持ちを確かめ合う特別な日だというこの七夕ライブへの想い、今年のライブの構想、そして会場で先行発売するニューシングル「BET」について、メンバーを代表して智(Vo)とTohya(Dr)に話を聞いた。
――毎年七夕の日、7月7日にワンマンを行っているvistlipですが、この日が結成記念日なんですよね。
智:そうです。2007年の7月7日に結成して、2年後の2009年7月7日には初ワンマンをSHIBUYA O-WESTでやったんですよ。以来、毎年7月7日は改めてファンと気持ちを確かめ合う、いわばファン感謝祭のようなスタンスで、必ずワンマンライブをやってます。せっかく七夕という特別な日に生まれたバンドですし、この日は必ず会おうねという約束をしておきたいなと。
Tohya:やっぱり結成記念日は大事にしたいって、みんな思っていたんです。
――ロマンティックですね。そもそも七夕の日に結成したのには、何か理由があるんですか?
智:いや、まったくの偶然ですね。確かモスバーガーかなんかで集まって、気づいたら日を跨いで七夕になっていたんですよ。で、そのままボーリングに行った……っていうのは、結構ファンには有名な話かもしれない(笑)。
Tohya:ただ、結成から初ライブまで半年以上かかってしまったので、それまではただみんなで集まって、ただミーティングするだけの日々が続いてましたね。
――そして2009年の初ワンマンに始まり、コロナ禍を除いて毎年7月7日にワンマンを開催されていますが、“ファン感謝祭のようなスタンス”ということで、通常のツアーやワンマンとはどんなところが違うんでしょう? たとえばシングル曲や定番曲が多くなるとか。
智:そう考えていた時期もあったんですけど、今は毎年違うテーマを決めてセットリストを組んでます。例えば去年は……。
Tohya:セミです、セミ。
――セミって昆虫の!?
智:そうです。去年は結成17周年だったんで“17年ゼミ”をテーマに、vistlipのレパートリーの中でも、結構夏らしい曲を選びましたね。その前の2023年は、独立が決まったタイミングでの7月7日だったので“独立”をテーマにして、オープニングとエンディングのSEを、その後に曲として発表したりもしました。
■今、新しい環境の中でどんどん前に進んでいっているところで、それがようやく噛み合って動き始めたような感覚がある。(智)
――では、18周年となる今年のテーマは?
智:今年はへび年ということで“ウロボロス”がテーマです。もちろん、そこにはいろんな裏テーマも絡んでいたりするんですけど。
Tohya:基本的には智が、毎年“こういうテーマはどう?”ってメンバーに提示してくれて、今年も“ウロボロス”と聞いたときに“響き、カッケぇな!”ってなりましたね。さらに、いろんな意味が付随していて絡まってくるから“さすがっすね!”としか言いようがなかったです。
――ウロボロスというのは自分の尾を噛んで環になっているヘビのことですよね。新曲「BET」の歌詞にも“ウロボロス”と出てきますし、カップリングにはズバリ「OUROBOROS」というタイトルの曲もあって、個人的には、終わることのない環――つまりルーティーンからの脱却のようなニュアンスも感じました。
智:そうですね。ライブのタイトルも『Bet On The Ouroboros』ですし、いわば“破壊と再生”というような意味合いは大きくありました。今、新しい環境の中でどんどん前に進んでいっているところで、それがようやく噛み合って動き始めたような感覚があるんですよ。なので今回の「BET」と「OUROBOROS」は、僕の中ではセットのような感覚なんです。まず、メンバーで気に入った曲を選んで、それから歌詞を書いたんですけど、僕としては2曲とも同じテーマで書きたかったんですよね。
――「BET」は《マイク捌きの上手いMC》という歌詞で始まって、この独特の言語センスが、さすが智さんだなと。
智:単純に、人を盛り上げるのが得意な先人たちを、海外含めて大勢見てきたけれど、でも、ノせられてしまったわけじゃないってことを言いたかったんですよね。そしたら、妙に長い文章になってしまった。歌詞というより、正直いつも本を書いているような感覚なんですよ。
――その続きには《僕らが決めた事だ》とありますし、おそらくは何らかの決意を表している曲でもありますよね。
智:ただ、じゃあ、どんな決意なのか?っていうのは……言えないです。バンドの中では、いろんな決意をする場面というものがあるんですけど、そこはバンドの中だけで完結させたいなと。
Tohya:メンバーからすれば“あのことだな”というのは、もちろんわかります。
――では、そこは置いておくとして。バンドとしての決意の他に、ファンに対する問いかけや想いも含まれていませんか? ウロボロスにメビウスと、終わらない“環”を示すワードもあり、そこから新しい場所へと飛び降りていくことは《正しい痛み》なんだと歌っていて、誰の心にも響く普遍的なメッセージを感じたんです。
智:そうですね。やっぱり自分のことばかりじゃなく、周りを巻き込んで作詞をすることは多いですし、特に最後の《なぁ、君は僕に賭ける?》という一文なんかは、もうダイレクトに受け取ってほしいなという気持ちがあります。その一方で、どう読み取ってもらってもいいように書くのが好きなので、もちろんラブソングとして聞いてもらっても構わない。それこそ“メビウス”という単語は、簡単に言うと変わらない日常だったり、ぬるま湯だったり、マンネリだったりを表す言葉でもあるので、いろんなことに当てはめて解釈してほしいですね。聴き手のシチュエーションとタイミングに応じて、好きなように受け取ってほしい。
――メッセージを強く感じるパートもあれば《ワケも無く傍に居たいだけ》なんていうフレーズもありますからね。
Tohya:智の歌詞って、聴き手それぞれが自分に当てはめることのできるように書かれているんですよね。だから心に染みるし、智の独特な歌詞の中でも「BET」は比較的わかりやすいほうだと思うので、よりたくさんの人に沁みるんじゃないかと。曲に関しては、結構前に智から“こういうテイストの曲が欲しい”という要望をもらって僕が作っていて、今回の3曲の中では一番早くにできているんですよ。自分的には一昨年に出した「DIGEST -Independent Blue Film-」にポジションが近くて、普通に聴くと爽やかな感じがするんだけど、その中にも切なさだったり哀愁が漂っている。それを、もう少しアップテンポでロックな感じにしたのが「BET」かなって。
――それでリード曲として選ばれて、智さんが歌詞を書いたんでしょうか?
智:いや、リードに決まったのは、全部のレコーディングが終わったあとですね。で、どれをリードにするかは、僕、あえてメンバーに委ねたんです。“君たちは、どれが一番好きなの?”って。
Tohya:でも、みんな“リードはこれじゃない?”って感じで自然に決まりましたね。夜な夜な智と電話しながら“覚えやすいメロディ”を詰めていったおかげか、サビのメロディも印象的で、スッと入ってくるんです。そこがリードっぽさに繋がったのかなとは思いますね。
智(Vo)
――では、ラストフレーズの《なぁ、君は僕に賭ける?》にちなんで、お2人が賭けたいものって何でしょう?
Tohya:それは、もちろんvistlip一択ですね。
智:今の答え聞いて“Tohyaくん、競馬じゃね?”って思ったんですけど……。
Tohya:実は最近ハマり始めたんです(笑)。
智:ちょっと遅咲きで(笑)。僕は、もちろんバンドには賭けたいですけど、もっと面白い答えを出したいんで……何だろうな。単純に、自分に賭けたいですね。自分の人生に賭けてみたいって、最近やっと思えるようにはなってきたかな。
――それはつまり、以前は思えなかったということですよね。
智:自信がなかったんですよ。でも、今回の七夕ライブや「BET」のタイミングとピッタリはまるように、ひとつ殻を破れたように感じていて。特に大きなキッカケがあったわけではないんですけど、環境が変わったおかげか、自然とそうなったんですよね。周りの人間が僕自身に興味を大きく持ってくれて、飛び込んできてくれて。なのに自分を否定し続けるのは、その人たちにすごく失礼なことじゃないですか。それもあってか、以前は自分の世界の中だけで生きてきた僕も、周りの人に興味を持つようになってきました。
――そのお話をうかがうと、カップリングの「OUROBOROS」の歌詞も腑に落ちます。《抜け殻》や《破壊》《再起》というワードも出てきますし、生まれ変わろうとしている智さんご自身の想いもが反映されているのかなと。
智:そうですね。どちらかというと苦しみが強い歌詞ではあるんですけど、それでも前向きに捉えられますし、そういった意味でも「OUROBOROS」にピッタリな歌詞が書けたかなとは思っています。とはいえ僕の歌詞なので、言葉遊びでしかない部分もありますけど(笑)。
――作曲はベースの瑠伊さんで、非常にお洒落なサウンドに仕上がっていますよね。ブラスの音色といい、ロックの一言では片付けられない。
Tohya:瑠伊のコード進行って独特なので、どストレートな僕が作った「BET」とは良い対比になっているんじゃないかと思います。ただ“こういう風にしてみない?”とかって、結構リズムパターンは提案したんですよ。例えばAエメロのハイハットの6連だったり、今まであまりやってこなかったことを取り入れてるから、そういったリズムパターンでも少しはお洒落感に貢献できたかもしれないですね。
智:最近、歌に対してもすごく楽しんでやっていて、レコーディングにもメンバーみんな来てくれるんですよ。Tohyaくんなんかはレコーディング全部見てくれて、時には“こういう感じで歌ってみて”とかってディレクションしてくれたり。そういうのも今まであんまりやってこなかったなぁと。良い時間でしたね。
Tohya:要は自信作で、すごく好きな曲だと“こう歌ってほしいな”という理想が描けてしまうんです。それで、ちょっと自分勝手な思いを智にぶつけてしまう(笑)。
智:例えば「OUROBOROS」のサビの終わりの部分だったら“もうちょっと激しく歌って”とか。そういった細かいところですね。
Tohya:あと、3曲目の「アメフラシ」のラスサビ前だったかな?
智:そう。《くすんだ空の下》の《た》。
Tohya:そこは一番のこだわりポイントで、押し切りました! なので、ぜひ聴いていただきたい!
Tohya(Dr)
――絶妙な余韻がありますよね。この曲は他2曲と違って、純然たるラブソングのように見えますが、タイトルの「アメフラシ」というのは曲の主人公のことですか?
智:そうです。僕、ものすごい雨男なんですよ。僕が外に出るときだけワーッ!と降ってきて、僕だけ濡れたりすることが、よくある。なので、それをテーマにして書きました。
Tohya:本当に雨男なんですよ。もう局所局所で雨が降る! ライブの日も大体雨ですね。
――そんな雨男な自分のことを、智さんはどう思っています?
智:え、嫌ですよ。雨、嫌いですもん。
――でも「アメフラシ」の歌詞を見ると、雨を降らせる自分を肯定しているように感じたんですが。
智:肯定してあげたいですよね……。雨が降っても、きっと良いことはあるっていう意味合いは込めているので、ポジティブになりたい人に聴いてほしいです。
Tohya:曲自体は、もう“Tohya詰め合わせ”みたいな感じですね。すぐ俺がやりがちな展開だとか、Tohya要素みたいなものが各セクションに詰め込まれているので、ファンがざわつく可能性もある(笑)。
智:ざわつく(笑)。
Tohya:なので、昔の曲から遡っていただければ“あ、これがTohya節か!”というのが、初めての方もわかってもらえるはずです(笑)。
――収録3曲の中では比較的ヘヴィな曲なのに、そこにメロウな歌詞を乗せるというギャップも印象的でした。 ずっと《この泣き顔も隠せる》と歌っていたのが、最後だけ《その泣き顔も隠せる》になるのもニクいなと。
智:重たさのある曲のほうが、気持ちを表現しやすいというか。激しい気持ちを吐き出すことができるんですよね。
――納得です。今回の3曲は、当然7月7日のライブでは披露されるんですよね?
智:はい。やるつもりです。
■“え? この曲やんの!?”みたいなものが本当に散りばめられているので、良い裏切りみたいなものはあるんじゃないかな。(Tohya)
――その他、どんな曲がセットリストに入りそうでしょうか? ライブのテーマが“ウロボロス”と言われると、なかなか想像がしにくいんですよ。
智:掘りますね(笑)。あんまりバレたくはないですけど……既成概念は破壊して、新しい自分たちを見せられるような組み方はされていると思います。
Tohya:今回は“え? この曲やんの!?”みたいなものが本当に散りばめられているので、良い裏切りみたいなものはあるんじゃないかなと。それこそ七夕に新曲披露を3曲もするのはvistlip的には大冒険なので、しっかり見せたいです。
智:ライブ会場では「BET」の先行販売もやるんですよ。七夕に来てくれたファンに、一番早く届けたいので。
――ちなみにvistlipの七夕ライブといえば、会場はZeppというイメージが強くて、2021年までは毎年Zepp Tokyo、閉館後の2022年からはZepp DiverCity(TOKYO)で行われていますよね。やはりZeppへのこだわりは強いんでしょうか?
智:そこはZeppからの愛も含めて……ですね(笑)。もう、ある意味Zeppが“聖地”みたいな感覚になってきているんですよね。やっぱり七夕は、あの場所で過ごしたい……っていう。なので今年も、ファンの皆さんにはぜひ来てほしいです。
――では、最後に7月7日を心待ちにしているファンに、特に注目してもらいたいポイントを、ぜひ。
Tohya:今年はいろんな対バンイベントを挑戦的にやってきて、どれもカッコいいバンドばかりだったから、みんな“18年目でも負けないぞ!”という気持ちが強まってきているんですよ。なので、毎年言ってはいますけど、今年も一番カッコいいvistlipが見れるんじゃないかと思います。“こんな曲やるんだ!”っていう意外性も含め、楽しんでもらいたいですね。
智:ライブっていろんな制限があるから、どうしても本当にやりたい演出が叶わないことも多いんですよ。だけど今回は、かなり要望が叶っている気がするので、それと相まって“強くなったバンド”というものも同時に見せられるんじゃないかな。
――ちょっと突っ込みますが、特に強くなったところって何でしょう?
智:やっぱりバンド力じゃないですか。メンバー間で話し合う時間も増えましたし、したほうがいいと思うことも増えたので、それが今の自分たちが持つ強さに繋がっているんじゃないかなと。
Tohya:バンド力はもちろん、個人的に言うと瑠伊くんとすごく仲良くなったのが、今年の強みじゃないですかね(笑)。
――リズム隊のコミュニケーションは当然重要だとは思いますが、どういうことですか(笑)。
Tohya:誤解のないように言っときますけど、別に嫌われていたとか、そういうわけじゃないんですよ。結成当初は結構一緒にいる時間も多くて……まぁ、もしかしたら向こうが気を遣ってくれていたのかもしれないですけどね。それが真ん中くらいの時期になると、正直バンド以外であまり関わることがなくなったんです。智とかは前からお酒を通じて一緒にいる時間が多かったりしたんですけど、瑠伊くんが一緒に飲んでくれるようになったのって本当に最近なんですよ! 楽屋でうっすら無視されことが多かったのが、最近は瑠伊くんのほうから話しかけてくれるようにもなって(笑)。それで笑ってる顔を見ても、明らかに今までとは違いますし、“あ、俺、瑠伊と仲良くなってる!”って思えてる、それが今年の僕の強みです!(笑)
――何か瑠伊さんに心境の変化があったんでしょうかね?
Tohya:あったんですかね? もしかしたら、この記事を読んで“いや、そんなことないけど”って言われるかもしれない。そうなったら、もう終わりですね(笑)。
取材・文=清水素子
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