岡村和義 撮影=Takayuki Okada
岡村靖幸と斉藤和義。説明無用の二人ががっちり手を組んだスーパーユニット、それが岡村和義。岡村のファンク、斉藤のロック、そこに二人の共通項であるクラシックロックや歌謡曲のテイストをブレンドした楽曲と、意外なほどに溶け合うハーモニーは、生まれながらに唯一無二。1月から始まった5か月連続リリースは佳境に入り、5月からは全国ツアーが始まる。奇跡の錬金術か、混ぜるな危険か、スリルたっぷりのユニットの来し方行く末について、二人の本音を聞いてみた。
――結成のきっかけはどんなふうに?
斉藤:元々飲みで、飲み屋さんで知り合って、そこから仲良くなっていって、セッションなんかもするようになってきた中で曲を作りだすようになって、ですね。
――和義さんのプライベートスタジオで、よくセッションしていたと聞いていいます。
斉藤:そうですそうです。そこでよく飲みながら、セッションしたりして遊んでるうちに、なんかちょこちょこ曲みたいなのができてきて、「これはちゃんとユニットにしようか」っていう感じですかね。ざっくり言うと。
岡村:2、3曲、曲が出来始めたら、二人ともノってきて。ただ、斉藤さんはスケジュールがタイトなんですよ。ご自身のバンドでやってるツアーがあったり、それとはまた別に弾き語りのツアーをやってたり、カーリングシトーンズっていうバンドをやってたり、MANNISH BOYSっていうユニットをやってたり、何かとスケジュールが忙しい。ライブだけでも結構忙しいんですよね。もしかしたら来年、再来年のスケジュールも決まってるみたいな感じなんですよ。そうすると、じゃあ我々のことを仕事にするっていうんだったら、早めにスタッフに言わないとと思って。「これは行けるかもな、じゃあお互いスケジューリングできるようにスタッフに話しますか」って。それまでは、なんとなく楽しく作ってればいいやって感じだったんですけど、そうはいかないでしょってタイミングがありましたね。
斉藤:うん。
岡村:あと、真面目な話、お互いの事務所がどのぐらいこのプロジェクトに乗ってくれるかわからなかったから、お互いのスタッフに曲を聴かせようみたいな感じではありました。
――最初に作っていた2、3曲は、今リリースしている中に入っていますか。
斉藤:入ってます。一番最初に二人で作ったのが「春、白濁」という曲です。それは岡村ちゃんのラジオで、2時間と決めて曲ができるか挑戦みたいな企画でできて。それがきっかけになって、もっと他にも作ってみようみたいなことになったんです。今発表してるのはどれもそんな感じです。
――セッションって、それぞれのルーツとか、好きなものが自然に出てしまう感じがあると思うんですけど、お互いの共通点というか、こういう音が好きなんだなとか、話し合うというか、わかった瞬間はありましたか。
斉藤:岡村ちゃんっていうと、すごいファンクとかね、ダンスミュージックのイメージですけど、 RCサクセションも好きだったり、ビートルズも好きだったり。
岡村:歌謡曲もね。
斉藤:そうですね。どのジャンルも好きっていう感じもあったし、その辺は意外だなと思いつつ。
岡村:年が1歳しか違わないので、多分当時聴いていたものもそんな変わらないんですよね。だから自分が表に出てるイメージや楽曲とはまた別に、好きだったものや原体験としてあるものっていうのは、ほぼ同じなんですよね。ビートルズとか、「ザ・ベストテン」に出てた歌謡曲とか、あとメタルとか、RCサクセションとか、ほぼ同じなんです。それをどの程度、どのように自分が咀嚼してるかは置いといて、吸収してるものは結構同じだったりします。
岡村和義
――やっぱりその辺が、二人で作ると自然に出てきちゃう感じはありますか。
岡村:うん、そういうのもあるでしょうし、その歌謡曲時代みたいなものを経てる世代っていうのは、やっぱり詞みたいなことは、詞でインパクトを与えるみたいなことは、かなり考えてるかもしれませんね。
斉藤:二人でなんとなく適当に言葉を出し合っていく中で、徐々に「じゃあこれはこういう話に持っていけそうだね」とかはあります。「愛スティル」なんかだと、サビは僕が最初に、英語の部分も含めてパっと浮かんだのがあって、このAメロの歌い出しは何かないかな?とか、岡村ちゃんに聞いたりして。サビに繋がるストーリーとして、設定を「じゃあモデルさんと付き合ってた男とかいいんじゃない?」とか、そんなやり取りから生まれたものですね。
――「サメと人魚」のとてもロマンチックなところとか、キュンとしました。これはどちらが出したテーマですか。
岡村:これは斉藤さんが全て詞を書きました。
斉藤:この曲だけは今んとこ、そうですかね。曲は二人で作りました。岡村ちゃんの温めてたAメロみたいな部分があって、それにサビを俺がつけて、岡村ちゃんがアレンジして結構壮大なストリングスが入ってきたりして。その中で急にあの詞ができた感じでしたね。
――岡村さんには、サウンドではどういうイメージがあったんですか。
岡村:大人の恋みたいな感じだけではない雰囲気を作ろうと思ったのと、すごくいい曲になりそうだったので、クオリティの高いアレンジをしようとは思いました。
――特にこの曲は2人の声が、掛け合いからハーモニーになっていったりするところがとってもいいなと思います。
斉藤:ありがとうございます。
斉藤和義 撮影=Kazuya Miyake
――これまで何曲も一緒に作って、二人の声を重ねた時の楽しさとか、何か発見はありましたか。
斉藤:最初は俺と岡村ちゃんは声質も歌い方も全然違うタイプだし、混ざるのかな?と思いましたけど、実際一緒にやってみて良い感じに混ざるもんだなって思いました。普段一人でやってる時だと、基本は一人で、自分の声でハモやっていたりするんです。でも自分の声をどんなに重ねてもなかなか膨らまない、曲が広がらないということが多いんですね。それでたまにゲストを呼んで歌ってもらうこととか、コーラスやってもらうことをしているんですが。岡村ちゃんとやっている時もそんな感じで、一緒にやると、急にばーって、突然曲が広がりを見せたりするんです。やっぱりその辺が面白いですね。
――面白いですね。岡村さんは、歌に限らず楽器の重ね方もそうですけど、二人でやることで、より出てくる面白みみたいなものはどの辺に感じてらっしゃいますか。
岡村:そこここに感じてます。いろんなところに。例えばある曲のデモではギターを僕が入れてても、本チャンでは全部それを斉藤さんに入れ直してもらってる曲とかもあります。そうすると、僕のギターだと僕のグルーヴにしかならないんだけど、斉藤さんのギターを入れてもらうことによって全然ムードが変わったりとかします。あと、僕がリズムマシンで打ち込んだようなデータのドラムとかも、斉藤さんの生のドラムに変えてもらうと同じように全然ムードが変わるし、そういうことの面白さみたいなものがすごいあります。今回のプロジェクトは生っていうのにこだわってるし、そこにも面白みを二人で感じてるところですね。
――はい。なるほど。
岡村:二人とも元々マルチミュージシャンで、いろんな楽器を二人ともできるので、「君、次はマンドリンね」みたいな感じで、そんなことを楽しんでたりしてます。彼は彼で、僕のベースプレイやピアノプレイを見て面白がってるでしょうし、お互いにその辺を楽しんだり面白がってる感じですね。
――和義さん側から見ると、岡村さんの面白さってどういうところにありますか。
斉藤:今の続きで言うと、二人とも同じ曲のギターやベースやキーボードを弾いても、全然プレイが違う。俺の知らないコードとか使っていたりね。そういうところで岡村ちゃんがすごい凝ったことをしてたりとか、ギターを弾いてても押さえ方がすごい独特で、たとえばAマイナーだとしたら「そうやって押さえるんだ」みたいな、俺とは違う押さえ方をしている。そうすると同じAマイナーでもちょっと響きが違って「へえー」とか思ったりします。
岡村:お互いにね。
斉藤:あと、やっぱりベースがね、あのファンキーなベースはなかなか日本人では、スタジオミュージシャンじゃこうはなんないなみたいなパターンが、もう地にある人なので。「ここは岡村ちゃんパートでお任せ」みたいなのも、普段だったら自分でそこもどうにかしなきゃってところが分担できて、その辺は結構楽ちんだったりしますね。
――そこは本当に醍醐味で、聴く方には演奏の隅々まで楽しんでほしいなと本当に思います。
岡村:そうですね。あとギターソロも。今出している全曲のギターソロを弾いているのは斉藤さんです。今の時代はギターソロうんぬんとか言う人たちがいますけど、いや、そう言わずに聴いてくれって感じですね。素晴らしいギターソロがたくさん入ってるので。
――「サメと人魚」はギターソロでフェイドアウトしますけど、あれもたぶん延々弾いていたんでしょうね。
斉藤:そうですね。でもその先はネタ切れになっていきます(笑)。
――ギターソロでフェイドアウトしていく曲ってかっこいいです。ライブでどうなるんだろうって想像が広がりました。
斉藤:うん。
――ライブで最高のバンドサウンドが聴けるんだろうなと思って期待しています。今、FM COCOLOでかかっているキャンペーンソングの「カモンベイビー」はどのような楽曲でしょうか?
斉藤:大阪のFM COCOLOの4月のキャンペーンソングとして、アップデートをテーマに書いた曲なんですけど。どっちが言う?
岡村:言っていいよ。
斉藤:これもファンキー歌謡チックという感じですかね。この間リリー(・フランキー)さんにも言われましたけど、二人でやるとマニアックにはなりすぎず、割とわかりやすいのが出てくる傾向にあるねって。「あー確かにな」と。
――それはさっき岡村さんの言われた、歌謡曲を通過した世代みたいなところもちょっと関わってくる話なんですかね。
岡村:もちろんそれもありますし、どこかでやっぱりこのプロジェクトをちゃんと成功させたいって気持ちが二人にありますね。いくらでもできるんですよ、難解なことは。いくらだってできるんですけど、多分どこかで通底してるんだと思います、「このプロジェクトを成功させよう」っていうことを。成功にはいろんな意味合いがありますけど、でも決して、難解なことをやって煙に巻いてやれみたいな気持ちは二人にはないってことですね。
岡村靖幸 撮影=Kazuya Miyake
――よくわかります。では最後にツアーの話を聞きたいのですが、和義さんはどの辺までイメージが見えてますか。どういうふうな見せ方をしたいとか。
斉藤:まだ全然リハも入ってないし、他にまだ作りかけの曲がたくさんあって、その辺もまとめないと、30分で終わっちゃうライブになっちゃうので(笑)。でもこの間の「カバ―ズフェス」でバンドと一緒に演奏して、大体こういう雰囲気なんだなってのはなんとなく見えてきたところはあって。とはいえ実際まだリハをやってないんでわかんないですけども。
岡村:あの番組に出て、初めて人前に出て演奏して、その時になんとなく見えましたね。我々はこういう感じのライブをやるんだな、二人の立ち居振舞いはこうだろうなみたいな、なんとなく雛形は見えた感じはしました。具体的には言えないですけど、なんとなく肌で、感触では掴んでます。なので、あとは構成どうしようかねとか、オリジナルもやるのかねとかいうことを揉んでいくんだと思います。
――ともかく、リリースする5曲のほかにまっさらな新曲も聴けるわけですね。
斉藤:そうです。5曲だけじゃアレなんで。
岡村 いや、何曲もあるんですよ。でも発表してないから、ライブでそれをやることが是なのか否なのかもわかんないけど、作り続けてはいます。10曲に近くなるようには今動いてます。
――楽しみにしています。あと気が早いですが、その後の活動はどうですか。続けてくれますか。今後も時々やってほしいんですけれど。
岡村:それは斉藤さんのスケジュールがありますからね。
斉藤:岡村ちゃんのスケジュールもあるからね。(笑)
岡村:俺もあるけど、俺は一人でライブやるだけなんですよ。あなたは人の4倍ぐらい、斉藤和義ソロ、弾き語りソロ、カーリングシトーンズ、MANNISH BOYS、この4つのスケジュールがあるので、そのスケジュールを縫いながら、あとは世の中との関係ですね、これがすごい盛り上がれば我々はノリノリで行くし、世の中との恋の仕方もあると思います。どのぐらい世の中と恋できるかっていうことも、我々の中では大事なことです。
斉藤:「望まれてないね」ってなったら、しょぼーんって。
――そんなことないです(笑)。絶対望まれてます。
斉藤:なにせ、他にも曲はあるし、とにかく1枚、近い将来にアルバムをね、ちゃんと形にしたいなとは思ってますけどね。本当にまだいつか全然決まってないですけど、そういうのがちゃんと出せたら、またその時はその時で、出しっぱなしもなんだよなと思うので、お披露ライブぐらいはやりたいよねとか、そういう話はしてます。
――お互いの曲とはまた違う、あるようでなかったような曲がたくさん聴けるので楽しいです。岡村和義は。
斉藤:ありがとうございます。
――最後にくだらない質問していいですか。ユニット名って、いろんな案ありました?
斉藤:そうですね、普通にバンド名を考えるように、20、30個ぐらいは出したんですけど、うちらがピンと来ててもスタッフが「うーん、それは」ってなったり。
岡村:ピンと来て「いいね」ってなっても、「もういますよ」って言われたり。
斉藤:元々、仮になんとなく「岡村和義」って呼んでたら、それが一番わかりやすいんじゃない?って話になって。これから新人ですって出ていく時に、急に「Google Meetsです」って言っても誰だかわかんないみたいなこともあるだろうし、誰それ?っていう感じにもならず、名前だけで一応わかってもらえるんじゃないかっていうところでいくと、 それでいいんじゃない?って話になりましたね。
――わかりやすいです。ていうか、全国に誰かいますよね、きっと。このお名前の人。
斉藤:なんだっけ、車のチューンナップする人で、 結構有名な人が既にいたらしく、すいませんということで(笑)。まあまあ、同性同名はたくさんいますからね。
――ちなみにですけど、ほかにどんな候補があったんですか。
斉藤:なんだっけ? 色々あったよね。ギャングルズとかギャングスとか、フェミニズムとか、クロール とか。
岡村:モーテルズとか。
斉藤:そうそう。モテモテになりたくて。なんか色々ありましたね。こっちはそういうのにしたかったんですけど、だんだんこう、最初に戻って行った感じでしたね。
――リスナーのイメージは持っていますか。大体の年齢層とか何とかみたいな。
岡村:あんまり考えてないですけど、お互いのファンが合体してくれればいいなと思います。
斉藤:その上で…もちろんまずはね、この二人のファンの方がいてくれるであろうっていう感じはあるけど、それと関係なく、二人の音楽を今まで全然通ってない人たちも、新しいものとして自然に聴いてもらえたら嬉しいですけどね。そこからそれぞれの音楽を聴いてみようってことになってくれたらさらに嬉しいし、あんまり、普段のお互いがどうっていうのを抜きに聴ける音楽になってる気がするから。元々知ってる方はね、「この部分はどっちが作ったんだろう?」的な聴き方もできるでしょうけど、そういうのが全くないまっさらな耳で聴いて、 喜んでもらえたら嬉しいですけどね。
取材・文=宮本英夫
岡村和義 撮影=Kazuya Miyake