【ライブ・エンターテイメント EXPO】本間昭光氏、蔦谷好位置氏、水野良樹氏が登壇、音楽業界の未来をヒットメーカーが語る

インタビュー スペシャルインタビュー

<パネリスト>
音楽プロデューサー:本間昭光
アゲハスプリングス音楽プロデューサー/作曲家:蔦谷好位置
ソングライター:水野良樹(いきものがかり)
<モデレーター>
音楽&エンタメエディター/ライター:田中久勝


2月21日から2月23日の3日間、千葉・幕張メッセ(3〜6ホール)にて開催された日本最大級の見本市「ライブ・エンターテイメントEXPO」。本イベントの目玉企画として、業界トップランナーによる無料セミナーが多数開講された。

2月22日の公演には音楽プロデューサー・本間 昭光氏、アゲハスプリングス音楽プロデューサー/作曲家・蔦谷 好位置氏、ソングライター・水野 良樹氏(いきものがかり)の3名が登壇。モデレーターに音楽&エンタメエディター/ライターの田中 久勝氏を迎え、「ヒットメーカーが語る、音楽シーンの未来と可能性」をテーマにグラミー賞、コライト、サブスクリプション・サービス、AIなどをキーワードに日本の音楽業界における今後の課題が語られた。

 

グラミー賞からみる日本の音楽シーンとの違い
 

「ライブ・エンターテイメント EXPO」音楽業界の未来と可能性をヒットメーカーが語る

田中:ここ最近の話題でいうと、本間さんは1月末に行われたグラミー賞を現地まで見に行っていますよね。

本間:今年で3年連続の参加になります。

田中:アメリカの音楽シーンについて、今年のグラミー賞ではどんな感想を持ちましたか?

本間:小林(武史)さんを筆頭にプロデューサーチームで参加して、終わった後のディスカッションではアメリカの音楽はどんどん進化しているな」という話になりました。逆に言うと「日本独自の音楽文化があるんだな」とも感じました。

田中:ノミネートされたアーティストについてはどうでしょうか?

本間:今年はブラックミュージックが中心ということもあって、正直な話、あまり聞き馴染みのないアーティストもたくさんいました。ですから現地で色々と質問したんですが、そこには政治性やメッセージ性が大きく関わってくる深い構造があるんだと分かりました。

それを日本に置き換えて考えてみると、政治性のあるメッセージがメディアに対してどのような影響を与えるのか、メディアに載らなくてもどのような形で浸透していくのかなど、色々と考えさせられました。

田中:蔦谷さんはこの「日本とアメリカの音楽シーンのギャップ」についてどうお考えでしょうか?

蔦谷:アメリカはショーの規模がとにかく大きくて華やかで、そういう凄さを感じつつも、世間は一体何を聴いているんだというところに注目すると、ロックとかではなくほとんどがR&B/ヒップホップなんですね。

ラッパーでいうとチャンス・ザ・ラッパーのようにグラミー賞を欲しがる人もいれば、フランク・オーシャン、ドレイクのようにグラミー賞のような権威はいらないと公言している人もいる。そんな状況ですから、グラミー賞が音楽の最先端だと言えるのかは分かりませんが、日本ではほとんどの人がグラミー賞の話題に興味がないと思うんですよ。

日本ではそういった世界の音楽シーンに関心を持つ人は一部の音楽好きで、なかなか一般的な部分まで広がらない構造になっていますよね。こんなに世界の情報がすぐ手に入る時代なのに能動的に音楽を好きで探している人じゃないと知らないというのは、音楽業界全体として改善していくべきポイントのひとつと言えると思います。

田中:水野さんは作品賞を獲ったものくらいは聴いておこうといった感じでしょうか?

水野:僕は(グラミー賞を)ツイッターのタイムラインで追っていた感じですね(笑)。本間さんを始め、周りの関係者が現地まで行っているのを見ていて「凄いな」って。

狭い中での話になりますが、ツイッターのタイムラインを見ていると蔦谷さんの言う通り話題が音楽好きのなかで止まっているんですよ。それこそ生配信などでシームレスに海外の音楽情報が発信されているのもあって、音楽好きにとって堪らない世界にはなっているんでしょうけど、それが全体に共有されていないのは確かに問題ですよね。
 

J-POPの魅力を外に向けて
 

 

田中:数多くの楽曲を手掛けるヒットメーカーのお三方ですが、J-POPにはどのような認識をお持ちでしょうか?

蔦谷:J-POPは日本が誇れる、日本だからこそ生まれたポップミュージックだと言えますが、それだけを作っていると世界から分断されてしまうといった状況はあります。

水野:あえて言うのであればJ-POPにはある種のフォーマットがあって、そこにクリエイターが甘えたという側面はあるのかもしれないですね。今のJPOPがあるのも、偉大な先輩たちが外から持ってきた音楽に日本独自の音楽を上手く合わせて形作っていってできたものだと思うんですよ。そういった和洋折衷で作られたものに誇りを持って、外に向けてブランディングしていくことが大事になってきます。

本間:都倉(俊一)先生が書かれた作品を聴くと、その時代のものすごい工夫とエッセンスがたくさん詰まっているんです。そういった音楽を聴くと、今はどこをどう見ながらJ-POPを作っていけばいいのか模索している段階と言えるかもしれません。

蔦谷:例えば、マーティ・フリードマンさんのように「日本のメロディはこんなに美しくて、こんなに展開も華やかで」と感動する人もいるわけで、世界に広めるチャンスは絶対にあるんですよ。

水野:音数の多さとかもよく言われますよね。

本間:外国の方はみんな「真似できない」って言いますね。台湾、韓国、中国もこんなに音数ないですよ。そういう音の重なりもあってか、J-POPってどこの観点をもって素晴らしいのか説明するのが難しいんですよね。

それにまとまりやすい音楽であると言えますから、水野さんの言う通りフォーマットに乗っかっている部分もあると思いますが、そこは尊重しつつ次の一手が必要になると思います。

 

コライトを根付かせる土壌に

 

 

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田中:本間さんはこれまで色々なタイプのアーティストと楽曲制作を行ってきたと思いますが、ソロアーティストの発信力が高まっている中で、バンドはどのような立ち位置になっているのでしょうか?

本間:確実に良いバンドはいるんですが、今の時代に大ヒットするには何か偶然が重ならない限り難しいと思います。これはアメリカも同じような状況じゃないですかね。ただ、音楽を始めるときはみんな真似からスタートするので、バンドの楽曲からも影響を受けて、自分なりのエッセンスを出せることが大切になってきますよね。

水野:音楽以外でもファッションとかアーティストが与える影響力は大きいですよね。既存のメディアを通さなくても自分がメディアになれる時代だからこそ、セルフプロデュースは当たり前になっていますから。

あと楽曲制作の方は世界的にコライト(共作)文化が定着していて、作曲者とアーティストとの距離感というのが大事になってきています。ただ日本ではシンガーソングライターのように自分で作って歌える人が必要以上に神格化されちゃっているというか、コライトの文化がまだまだ根付いていないですよね。

本間:コライトと言っても、やり方や進め方など、よく分からないものとして懐疑的な部分がまだまだ多いですし。

蔦谷:僕がスウェーデン人とコライトしたときに、すごく相性が良いというか、音楽に対する感覚が日本に近いと思ったんですよ。

世界でなぜABBAのようなスウェーデン出身のアーティストがヒットしているかいうと、楽曲がすごくメロディアスなんですよ。単調なリズムを好むアメリカに比べて、日本のようにメロディを大切にする文化に近いですよね。

しかもスウェーデンは国策として「ポップミュージックを広めていこう」とスタジオの無料貸し出しや、若いミュージシャンに助成金が出るなど政府のバックアップもあって、自分の国の音楽が世界に広がりやすい環境が整っています。日本では国が全面的にバックアップすることは難しいかもしれませんが、日本の音楽を世界に広げる方法として参考になる部分はたくさんありますね。

水野:スウェーデンの作家はすごくJPOPを研究されているみたいですよね。以前にコライトキャンプみたいなものに参加した知人のクリエイターに聞いたんですが、スウェーデン人の2人組がJPOPについて「このグループはこういう年齢層だから、こういうメロディにした方がいいんじゃないか?」と熱心に分析している会話を目の当たりにしたみたいで。それが果たしてクリエイティブかどうかという話とは違うんでしょうけど、職人としてはすごく正しい行為ですよね。

本間:そういったコライトキャンプに多くの日本人が参加していけば、コライトにおけるスペシャルチームというものが自然と出てくると思うんですよ。「コライトによって良い楽曲ができるんだ」っていう成功例がどんどん作られていけば、日本でもコライトの文化が広まっていくんじゃないでしょうか。

 

音楽とAIの関係性

 

 

田中:いま巷を賑わしている人工知能ですが、楽曲制作やアレンジの部分でもAIが活用されることが話題になっています。今後の音楽制作において人間とAIの関係はどうなっていくでしょうか?

水野:音楽にはある程度の法則的なメソッドがあるので、基本的なところは数学だと言えます。だからAIなどの人工知能が参画しやすい分野ですよね。

DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ではコード進行を自動で付けてくれる機能もありますし、それが複雑化してくるとAIじゃないですか。そういった面もあって、AIが進化していくと音楽に活用できる部分は増えていくでしょうね。

田中:こちらが意識してなくても、自然とAIを活用している場面はありますよね。

水野:ただ、人間って非常に偏ったランダム性というか不合理なことをやるんですよね。コンピューターしか実現できない完璧なランダムではなくて、人間ができるのは偏ったランダム。AIは非常に合理的なものだと思うので、人間がもつ非合理性や偏りがどれだけ魅力を持つことができるかが、今後の力関係になってくると予想しています。
 

「ライブ・エンターテイメント EXPO」音楽業界の未来と可能性をヒットメーカーが語る

本間:AIかぁ…(笑)。偶然性まで制御できるようになったらすごいですけど、この偶然性から良い曲が生まれることも多いんですよ。

例えば「チョウチョが飛んできてその風景が美しかった」というのを切り取って作品として落とし込むとするじゃないですか。そこで何を美しいと思うのは人間ならではの感性ですし、それぞれの人生のなかで引っかかるポイントが全然違うわけです。そこまでの偶然性をコントロールするのは、まだまだ先のことに思えて。そうならないで欲しい願望もありますが(笑)。

蔦谷:僕は新しいもの好きというのもあって、こういったテクノロジーも結構すぐに受け入れる派です。最近でいうと、ボタンを押すだけで5秒から10秒くらいで良い感じのEQを提示してくれる「Neutron(ニュートロン)」という人工知能プラグインを全チャンネルに指すくらい多用していますし(笑)。

本間:「Neutron」便利ですよね。

水野:そうなんですか!?…買おう!(笑)

蔦谷:(笑)。でもそれは作業的な部分の短縮がメインで、自分の手で拘って音作りするポイントは必ずあります。

僕が音楽を作っていてしんどいなって感じるときは、頭の中ですでに曲ができているのに、その曲を再現するためにひたすら作業しているときで、自分の頭にUSBを挿してそのまま取り出せて欲しいなって思うくらいです(笑)。ですから、作業の部分が楽になるような新しいテクノロジーはどんどん取り入れて、上手く付き合っていきたいですね。

 

音楽の新しい魅力を伝える『関ジャム』

 

 

田中:1月に放送された『関ジャム』では、蔦谷さんといしわたり(淳治)さんが2017年のベストソング10曲を紹介して大きな反響となりました。それらの楽曲はどのようにして決まったのでしょうか?

蔦谷: 1位は決まっていましたが、それ以外は「こういった音楽の聴き方も面白いよ」って視聴者が興味を持ってもらえるような楽曲を選んだ感じですね。

田中:いしわたりさんとはかぶらないように選曲を?

蔦谷:事前の打ち合わせはなかったですが、何人かかぶりましたね。ただ、淳治くんは歌詞をアナライズしていて、僕はサウンドやメロディにフィーチャーしているので違う目線での選曲になりますね。

田中:『関ジャム』ってポップでありつつ、少しマニアックなところを突いてくるのが良いですよね。
 

「ライブ・エンターテイメント EXPO」音楽業界の未来と可能性をヒットメーカーが語る

蔦谷:番組でジュリア・マイケルズ、キティー・デイジー&ルイスという、日本ではそんなに知られていないアーティストを紹介したところ、ジュリア・マイケルズはツイッターで「ありがとう」ってメッセージを送ってくれました。そして、キティー・デイジー&ルイスはiTunesのオルタナチャートで1位を獲っていますからね。テレビの力は下がったと言われていますが、まだまだ影響力はありますよ。

水野:『関ジャム』があれだけの評価を受けるのも、格好良い音楽の基準を知りたいというか、新しい音楽の聴き方を知りたいのかも知れませんね。それに世界中に音楽が溢れていて、どれを聴いて良いか分からない人も多いんじゃないですかね。

蔦谷:音楽って何もしなくても勝手に耳に入ってくるものじゃないですか。すごく身近なものであるぶん、一生懸命そこを掘ってみようってなる人は今の時代減ってきていますよね。

水野:解説の面でいうと、「M-1グランプリ」の審査員の方々が、何か良いか、何か悪いかを素人でも分かるように面白おかしく説明してくれるじゃないですか? あれって本当に素晴らしいシステムですよね。

音楽って番組とかで順位を付けたがらないし、分析しあうのもなんかなっていう空気感があるからこそ、逆に『関ジャム』のような番組が視聴者にうまく刺さったのかもしれません。

蔦谷:『関ジャム』では、音楽を解説することによって視聴者が「好きな音楽がこれと似ていたから、こっちも聴いてみよう」と、今まで自分の好きな音楽だけを聴いていた人たちが、新しい音楽を聴くきっかけのひとつになると思ってオファーを受けさせていただいたんですよ。もちろん、音楽家の仕事もちゃんとやりつつですが、同時に音楽の素晴らしさを発信していくことも大事だと思って、勝手に責任感を持ってやっています。

本間:音楽業界って上下関係みたいなのが曖昧というか、昔はスタジオで隣り合わせになったミュージシャンとか、大先輩のプロデューサーに色々教えてもらったりしていたんですが、今はプライバシー空間がしっかりしていますから、そういう交流がないんですよね。また当時、裏方は表に出るべきじゃないという考え方もありましたが、今はもうそういう時代じゃなくて、裏方である僕たちも表に出て音楽に対する思いをちゃんと伝えていかないといけないと思いますね。

 

ライブハウスがもつ今後の課題

 

 

田中:ライブハウスのブッキング担当の方から「最近ライブハウスに足を運ぶ方が非常に少なくなっています。今後ライブハウスはどうなっていくでしょうか? そして、今のライブハウスに求められていることは何でしょうか?」との質問を頂きました。

蔦谷:これからの時代、ライブにおけるパフォーマンス力というものがアーティストに求められますよね。

去年のグラミー賞で名だたるアーティストがライブパフォーマンスを行うなか、エド・シーランはルーパーを使ってひとりで「シェイプ・オブ・ユー」を披露したんですよ。それは他人と違うことやるというマーケティングだと思うんですが、一番輝いて見えました。

そういうものを見ると、ライブに関してはまだまだ希望を感じますし、時代にどう順応していくかですよね。それと音楽の幅自体は広がっているので、ライブハウス側でブッキングするときにイベントのカラーや、企画そのものの魅力がより大事になって来ると思います。

田中:さきほどの企画の話に繋がってくるかも知れませんが、今はポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)から出てきた人たちを集めてコンサートをやると、50〜60代のくらいの世代の人たちで大きいホールが満員になるそうです。そういった普段ライブハウスに来ない人がどうやったら足を運ぶのか、企画や方法を考えることも大事ですよね。

本間: 従来型のやり方だと難しいですから、SNSなどのありとあらゆるインフラを使って集客する必要もありますよね。今の若い子たちはそういったインフラに強いですし、メディアとしてYouTubeを使うとなると、そんなに初期投資もかからない時代になっていると思うんですよ。もちろん、年齢制限や著作権の問題など、法整備の必要性がでてくるのは当然だと思うんですが、改善するべきところは改善していかないといけませんね。
 

「ライブ・エンターテイメント EXPO」音楽業界の未来と可能性をヒットメーカーが語る

水野:僕らはインディーズ時代に厚木のライブハウスに大変お世話になったんですが、僕らがライブハウスに出入りしていた15年前から、一般のライブハウスに置かれてるシステムとか機材の設備ってほとんど変わってないんですよね。

いきものがかりは路上ライブでお客さんを集めてライブハウスに引っ張ってきたんですが、目の前にお客さんがあんなにいるのに、ライブハウスには一度も行ったことがない人がたくさんいたんですよ。

アーティスト、バンドを育てるのはライブハウスの役割ですが、ライブハウスに行くとその箱独自のもてなし方になってしまって、リスナーに対して開けていない状況というのも感じていて。もちろん都内のライブハウス、地方のライブハウスで置かれている状況は全然違うので一概には言えないんですが。

蔦谷:その土地ごとで根付いていく文化が違ってくるでしょうし、ライブハウスだけで完結しないで、よこの繋がりで飲食店や洋服屋など他業種に絡んで地元の人たちに開いていくことも大事ですよね。

水野:高校生の日や、昔バンドをやっていた年代の方に安く場所を提供してくれたり、色々とライブハウスの人たちは努力されているんですが、なかなか上手くいっていない部分があることも確かです。でも、音楽にとってライブハウスはある種の生命線だと思いますし、町中で大きな音を聴ける貴重なスペースということには変わりないので、今後も大切にしていくべき場所ですよね。

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